軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第116話~乙女(自称)とまったり~

「こんなものかな」

「悪くないのう!」

ガオーッ、と機嫌良さそうに吼えながらグランデが尻尾でドカドカと地面を叩く。うん。うるさい。あと地面が揺れてる。体感震度二くらいで。

喜ぶグランデと俺の前に鎮座しているのはジャンボジェット機の格納庫のような大きさの……なんだろう。竜小屋? である。

壁は厚さ3mの石材。天井も厚さ2mの同じく石材製。どうせこっち方面には開発はしないというニュアンスだったので、思い切り広く作った。入り口はグランデが翼を大きく広げたままでも悠々と入れるように幅40mほど。高さも20mくらいある。内部は更に広く、横幅は60mほど。高さは35mで作った。建物外観そのものは円形のドーム状で、明かり取りのために天井の一部を薄くしてガラスブロックにしてある。

窓掃除は大変そうだけど、ハーピィの皆さんに頼むか自分で掃除させるかすればいいだろう。窓掃除をするドラゴン……ちょっと見てみたいな。

「早速中に入ってみろ」

「うむ!」

グランデが尻尾を振りながらのっしのっしと竜小屋に入っていく。尻尾を振り回すのをやめろ、危ないから。

「中も明るくて良いのう」

「ガラス部分は脆いから尻尾とかぶつけて割るなよ」

「流石にあの高さじゃとわざとやらん限りは大丈夫じゃろう」

グランデが天井のガラス部分を見上げる。俺にとっては遥か上だが、全長20mほどはあるグランデなら後ろ脚で立ってジャンプするなりすればあの凶悪な角がなんとか届くかもしれない。

「しかし殺風景じゃの」

「お前の巣穴しかないしな」

竜小屋の中にあるのは奥の方にあるグランデが掘った巣穴だけである。この中で寝れば良いんじゃ? とも思ったのだが、地面に掘った穴のほうが温かいし落ち着くらしい。

「食事場でも作るか」

「いいのう。どこに作る?」

「汚れた時に水洗い出来る方が良いよな。そうなると中じゃないほうが良いかな?」

「水洗いはいらんじゃろう。臭いがしてきたら浄化するなりブレスで焼き払うなりすれば良いし」

「ブレス……お前ブレス吐けるの?」

「何を言うとるんじゃ。これでもドラゴンじゃぞ」

「いや、吐ける素振りも見せないからてっきり吐かないのかと……というか浄化って、魔法も使えるのか」

「当たり前じゃ。魔法が使えんと空も飛べんではないか」

「なるほど……ブレス吐いてみてくれよ、ブレス。是非見てみたい」

「仕方がないのう……」

とかなんとか言いながらグランデがドームの外にのっしのっしと歩いていく。ドラゴンっぽいところを見せられるのが嬉しいのか、また尻尾の動きが機嫌が良さそうだ。あぶねっ、だから振り回すなって。

「良いか? よく見ておくのじゃぞ?」

そう言ってからグランデは息を大きく吸い込み、空に向かって激しい火炎を吹き上げた。それは正に灼熱の炎であるらしく、空に向かって吐いているというのに地面から見上げる俺のところまで熱気が伝わってくる。

「すげー! ドラゴンのブレスすげー!」

これには俺も大興奮である。あんなのを向けられたら一瞬で骨まで焼き尽くされそうだな!

うーん、俺の能力で防ぐなら壁を設置した上で地面に潜るのが一番だろうか? レンガブロックは耐熱性が高いと思うけど、あのブレスはかなり温度が高そうだから壁だけだと回り込んできた熱で大やけどしそうだな。

あ、でも地面に潜ったら蒸し焼きにされるか? やっぱり大きく厚い壁を作るのが一番か。

「はっはっは、そうじゃろうそうじゃろう! 妾は偉大なるグランドドラゴンであるからな!」

俺の反応にご満悦なグランデがビッタンビッタンと尻尾で地面を叩く。揺れる揺れる。

ちなみに護衛のブロンとフィッチは100mは離れているアーリヒブルグの城壁の上からこちらの様子を見守っている。流石にドラゴンの傍に近寄るのは怖いらしい。

「それじゃあ食事台は竜小屋の中に作るか」

「のう、コースケ。その竜小屋という名前はどうにかならんのか」

「ええ……どうにかって。どう呼べば良いんだ?」

「もっとこう、かっこいい名前をだな。まるで犬小屋の竜版みたいではないか」

俺の中では正にその通りなのだが、本人は気に入らないらしい。かと言ってあまり仰々しい名前をつけても呼びにくいしな……ドラゴンドームとか。

「そもそも小屋という規模ではないじゃろ、これは」

「確かに」

改めて見上げてみると、なかなかに巨大な構造物だ。これを小屋というのはたしかに無理があるかもしれない。

「じゃあグランデの家で」

「普通じゃな」

「普通が一番だろう」

あとで入口の上に「ぐらんで」と彫ったデカイ石板でも設置しておいてやろう。

結局、食事台はグランデの家の中、入り口の脇に作った。ちょうど良い高さを求めて何度も作り直させられたが、最終的には俺もグランデも満足な出来のものが出来たので良かった。形はあれだ、仏壇の前に置いてある供物台みたいな感じ。

「早速おやつでも食うか?」

「おやつとな?」

「アーリヒブルグの屋台で色々買ってきたんだよ。俺の作るハンバーガーはそりゃ美味いだろうが、それ以外の人族の料理ってのもなかなか美味しいものが多いと思うぞ」

「ふむ、それは少し興味があるの」

「供物台の上に俺を上げてくれ」

「うむ」

グランデの手によって供物台の上に運んでもらう。むんずと掴むんじゃない。もっと優しく掴め。

「まずは木の実入りのパンだな」

「ほう」

供物台の上にあぐらをかき、買い込んできたクルミのような木の実が入ったパンをぽんぽんと目の前に積み上げる。グランデが顔を寄せてきてフンフンと匂いを嗅いでいる。あんまり強く吸うと鼻の穴の中にパンが入るぞ。

「食ってみろ」

「うむ……ふむ、仄かに甘いの。あと、これは木の実かの? 少し香ばしい感じがするの」

「それだけじゃ物足りないだろう。そこでこいつだ」

次に取り出したのはじっくりと焼かれた何かの肉である。何の肉かは聞いてこなかったが、美味しそうな匂いだったし、食ってみたら美味かったのでまるごと買ってきた。店頭では肉の塊を削ぎ切りにして、希望があればパンと一緒に販売していたのだが、肉だけをまるまる売ってきてもらったのである。

「おお、肉か。ううむ、うまそうな匂いじゃのう」

「食え食え。他にも色々あるぞ」

取り出した肉の塊に手を伸ばし、まるごとむしゃむしゃやり始めるグランデを見ながら次々と買ってきた物をインベントリから取り出していく。大鍋のスープもグランデにとってはカップスープみたいなもんだな。

「どうだった?」

「うむ! 美味かった! なかなかどうして人族の料理というのも侮れんな。だが妾はコースケの作るハンバーガーが一番美味いと思う」

「ははこやつめ」

グランデ用に作ってある特大ハンバーガーを出してやる。高さ的な意味じゃなくて横幅的な意味で大きいやつだ。

グランデは特大ハンバーガーの出現に目を輝かせ、片手で持ってもぐもぐと食べ始めた。うーん、なんかこう、ペットに餌とかおやつを与えている感覚だ。ペットというにはちょっとデカすぎるか。

「ところで、グランデはドラゴンだよな? ドラゴンってどれくらいの頻度で飯を食うものなんだ?」

「そうじゃのう……かなりいいかげんじゃな。食おうと思えばいくらでも食えるし、食わないでいようと思えばかなり長く食わないでもいられる」

「なるほど……? ということは、毎日たらふく食っていると太ったりするのか?」

俺の言葉にハンバーガーに食らいつこうとしていたグランデ大口を開けたままギクリと身を震わせた。やがて落ち着きを取り戻したのか、今までよりもかなり遅いペースでちまちまとハンバーガーを食べ始める。

「そういうことも、ない、とは言えなくもない、かも、しれんの?」

目を逸らしながらボソボソとそんなことを言うグランデを見ながら想像する。ブクブクに太ったグランデの姿を。

「ぶふっ」

「笑ったな!? お主、今笑ったな!? 何を想像したのじゃ!?」

「いやぁ、ブクブクに太ったグランデを想像するとな?」

「そ、そのようなことにはならぬ! 妾は自己管理の出来る乙女竜じゃからな!」

ガオーッ、と吼えながらグランデが尻尾で地面をベシベシと叩く。今度は機嫌が悪いジャスチャーであるらしい。

「そこはグランデを信用するとしようじゃないか。で、実際のところどれくらいの頻度で食う? その感じだと一日三食は食い過ぎなんだろう?」

「う、うむ、そうじゃの……一日に二度……?」

「二度?」

「い、いや、一度でも大丈夫じゃが……」

グランデが心なしかしょんぼりとした雰囲気を醸し出す。

「じゃあ、とりあえず朝晩の二度でどうだ? 一度に食う量を減らせば大丈夫だろ」

「そ、そうじゃな! 一度に食う量を減らせば問題あるまい!」

「特大ハンバーガー二個……いや、三個くらいか?」

「そうじゃの、それくらいでまずは、じゃな」

「参考までに、今まではどれくらい食ってたんだ?」

「……」

俺の質問にグランデがツイっと顔を逸らす。そのままジトーっと見ていると、根負けしたのかグランデがボソリとつぶやいた。

「だいたい一週間に一回、これくらいのイノシシとかを焼いて食っておった」

これくらい、と言って馬くらいの大きさを自分の手で示す。

うん、その量だと一日二回特大ハンバーガーを三個ずつ、計六個も食ってたら確実に太りそうだね。

「大丈夫じゃから。妾運動するから」

「飯を狩りに行く必要もなくなったら余計運動しなくなるんじゃないのか?」

「……」

俺の言葉にグランデが沈黙する。いや、俺は良いんだけどさ。太ったグランデが飛べなくなったりしたら一番困るのはグランデだろうし。

実のところ、あわよくば聖王国との戦いで戦略爆撃機とか空中空母的な働きをしてもらおうかなと少しだけ思っている。

グランデに攻略目標の上空を旋回してもらって、そこをハーピィさん達の弾薬補給地点にしたら滅茶苦茶有利そうだよね? グランデの翼なら数時間でアーリヒブルグとメリネスブルグにまで飛べそうだし。ドラゴンの戦略航空母艦とか胸が熱くなるな。

とはいえ、グランデはドラゴンだ。俺との友誼……というか俺の出す餌で餌付けされているだけで、別に俺に対して恩があるわけでもなければ人族同士の争いに関わる理由もない。無理強いはできないなとも思っている。

「俺としてはその分働けばいいんじゃないかと思うが」

「働く? 妾がか?」

「俺と他に何人か乗せて、南のオミット大荒野とか、その更に南の黒き森とかに飛んでもらえれば助かるな。あっちの方にも生産拠点とか、色々あるんだよ」

「ぐぬ、黒き森か……まぁ、いいじゃろう」

グランデが黒き森という言葉を聞いて若干嫌そうな顔をする。そういえば、奥地にはドラゴンが住んでるって話だっけ? 知り合いでもいるのかね。

「そりゃ助かる」

オミット大荒野のど真ん中には食糧生産の拠点があるからな。あそこから大量の食料を運べるようになれば非常に助かる。ついでに黒き森のエルフの里と産物のやり取りができればなおよしだ。

グランデは単純に戦力としての価値以上に俺の移動手段としての戦略的価値のほうが高いかもしれないな。俺の輸送能力とグランデの高速移動能力。この二つが合わさるとそれだけで聖王国は涙目になるんじゃないだろうか。

「なにか企んでおるな?」

「企んでいるぞ。ハンバーガーを餌にどうやってグランデを利用してやろうかってな」

「稀人とはいえ、矮小な人の身で妾を利用しようなどとは片腹痛いわ。あまり生意気なことを言うと一噛みにしてやるぞ」

「その矮小な人間に餌付けされてるグランデがそう言うのはどうなんだ……? というか、俺を噛み殺したらハンバーガーが食えなくなるぞ」

「むぅ……それはこまる」

「そうだろう。だから、俺はグランデに美味いものを提供する。グランデはその対価に少しだけ力を貸す。そういう関係でいようぜ。何も俺だって食い物を盾にお前の嫌がることを無理強いしようとは思ってないから」

「本当じゃろうな……?」

グランデがじとりとした視線を向けてくる。いやだなぁ、本当ですよハハハ。無理強いはしないさ。粘り強い説得はするかもしれないけど。

「少なくとも、グランデを人族同士の争いの矢面に立たせて利用しようとは思ってないよ。それだけは約束する」

これは本当だ。グランデを直接聖王国の連中と戦わせるつもりは俺にはない。俺や少人数の輸送くらいには協力してもらうつもりだが、直接聖王国の軍隊に突っ込ませて暴れ回らせたり、ブレスを吐かせるつもりはないのだ。空中空母はちょっとやってみてほしかったりするけど。

「ふむ……その約束、違えるなよ。その時はハンバーガーを食えなくなったとしてもコースケを噛み殺してやるからな」

「ああ、約束だ。ほら、蜜酒も飲めよ。気に入ってたろ?」

「いただこう。ううむ、甘露」

俺も蜜酒の瓶を取り出してグランデと同じように蜜酒を飲む。この甘ったるい酒も飲み慣れるとなかなか美味しいもんだ。

さて、明日は何をしようか? 目の前で美味そうに樽を傾けるグランデを見ながら俺は明日の予定をあれこれと考えるのであった。