軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第114話~グランデの扱いと今後の方針~

「約束を破るのはどうかと思うぞ、妾は」

「正直本当にすまんかった……」

「まぁ、その……少しは同情するが」

特大サイズのチーズバーガーを咀嚼しながらグランデが俺に憐れみの視線を投げかけてくる。

連日の搾取により俺の体力は風前の灯だ。具体的に言うと体力とスタミナの最大値が三割ほどまで落ちている。普段なら何でもない作業や動作が気怠くてたまらない。あと足腰が痛い。筋肉痛的な意味で。

「愛が重いぜ」

「お主はつがいのメスが多いんじゃな」

「成り行きでな」

「成り行きのう。ぼんやりしておるなぁ」

「大丈夫、養うだけの甲斐性はあるから」

「本当かのう?」

疑わしげな視線を向けてくるドラゴンってレアなんじゃないだろうか。というか、お前もまさに今俺に養われてるところだろう? いや、まぁこれは約束の分と放置したお詫びだけどさ。

「で、だ。グランデよ、お前は一体いつまでここに滞在するんだ?」

「んむ? そうじゃのう……飽きるまでじゃな」

「その間ずっとハンバーガーを食いたいわけだな?」

「うむ」

当然だ、と言わんばかりにグランデが頷く。なるほどなるほど。想定通りの返事ありがとう。

「なるほどな。だが、グランデよ。俺がいた世界には『働かざるもの食うべからず』という言葉がある」

「ほむ?」

特大サイズのハンバーガを咥えたままグランデが首を傾げる。

「つまり、食い扶持を稼がないやつにタダ飯を食わせることは出来ないということだ」

「ふむ? しかし我は誇り高き竜じゃぞ? その竜を働かせようというのか?」

特大チーズバーガーをもぐもぐとやりながらグランデが俺を見下ろしてくる。うん、口元にケチャップとチーズがついてるせいで威圧感も威厳もなんもねぇわ。

「誇り高き竜だからこそ施しを受けないものじゃないのか? ただ食っちゃ寝するだけじゃ家畜……いや、家畜は毛や肉や乳や皮を提供するからそれ以下だな。ペットじゃないか」

「ペット!? 高貴なる竜になんたる言い草!?」

グランデが手から特大チーズバーガーを取り落として愕然とした表情をする。

「つまり、働いてほしいというわけだ。なに、別に地を這う俺達人族のように朝から晩まで汗水垂らしてあくせくと働けというわけじゃない。例えば一日に一匹か二匹ワイバーンみたいな大型の魔物を狩って持ってきてもらうとか、剥がれて落ちた鱗を提供してもらうとか、ちょっと出かけるの面倒だなーって時は血をちょっぴり提供してもらうとか、そういうのでいいんだ」

「ふぅむ……」

グランデが食事台(連結した木材ブロック)の上に取り落としたチーズバーガーを拾い直し、口元に運びながら思案する。

「それに、ハンバーガー以外にも美味い食い物はたくさんあるぞ」

ピクリ、とグランデの尻尾が反応する。

「ここに滞在して働いてくれる限りは様々な美味い食い物を提供しよう。どちらか一方だけが得をするという取引じゃない。対等な取引をしようじゃないか」

「うーむ……しかしなぁ。こんな事が知られたら父様や母様になんと言われるか」

「考えようによってはお祖父さんの言っていた古き良きドラゴンの風習の復活だろう? 俺はお前に供物を捧げる、ドラゴンは供物を捧げた者に少しばかりの見返りを与える。な?」

「ふぅむ、確かに……もむもむ」

真面目な顔で特大チーズバーガーをぱくつきながら思案するドラゴン……シュール。

「うむ、良いだろう。その取引に乗ろうではないか」

「そうか、それは嬉しいな。とりあえず、三日放置してしまったからな。今日、明日、明後日はのんびり過ごしてくれ。三日後からは働いてもらうぞ?」

「うむ、良いだろう。任せておけ」

こうして、アーリヒブルグにグランドドラゴンのグランデが滞在することになった。

グランドドラゴンというのはドラゴンの一種で、特に土魔法系統の力に優れている種であるそうだ。やろうと思えば小高い丘程度なら小一時間で真っ平らに整地することが出来るらしい。整地能力だけならミスリルツールを持っている俺よりも上だな。

その他には空を飛べるのは勿論のこと、地面に潜る事もできるのだそうだ。鱗は岩石質で非常に固く、その角や爪、牙を加工した武器は土魔法を帯びた強力な魔法武器になるらしい。鱗で作った鎧や盾などは非常に丈夫で、土魔法による攻撃に耐性がつくのだとか。

え? 素材としての説明ばかりだって? 仕方ないだろう。人族にとってドラゴンっていうのは強大な魔物の一種だと思われていたし、倒した際にはその身体を色々なモノに加工して役立ててきたという歴史しかないんだから。

ついでに、肉は非常に美味で血や臓物は非常に効果の高い薬の素材になるのだそうだ。例えば、欠損した部位を治す再生薬の材料とかな。

「じー……」

実は、さっきからアイラが俺の後ろからそっとグランデを観察し続けているんだよな。グランデの言葉は俺にしかわからないから会話には参加してないけど。

「のう、コースケよ。その単眼族の娘が妾を見る目が怖いんじゃが」

「大丈夫だ、多分」

グランデからそっと目を逸らす。流石に襲いかかって血肉を採取するようなことはないと思うから。きっと。

☆★☆

今日で俺が帰ってきて五日目。特大チーズバーガーを食うグランデと協力の約束を取り付けた俺はグランデに熱視線を送るアイラを引っ張って作戦会議室を訪れた。

「グランデはこっちの条件を飲んでくれたぞ」

「本当か? 前代未聞だな」

「ん。ドラゴンを餌付けして手懐けた人なんてコースケが初めて」

「ドラゴンスレイヤーならぬドラゴンテイマーであるか。流石はコースケなのであるな」

シルフィやアイラ、レオナール卿がこぞって俺を称賛する。ふふ、もっと褒めて良いんだぞ。

「しかし……大丈夫なのか? もし暴れられでもしたら大事だぞ」

「何らかの安全対策は必要ではないでしょうか」

ダナンとザミル女史は懸念を抱いているようだ。確かに彼らの心配はもっともだろう。もし、グランデが突如殺意を持って暴れだしでもしたらアーリヒブルグは大被害を被ることになるのは確実だ。

全長20mくらいはあるグランデの巨体から繰り出される攻撃は石造りの家屋くらいは簡単に倒壊させるだろうし、あの太くて固くて強そうな尻尾に薙ぎ払われでもしたら一撃でミンチ確定だ。

それにあの凶悪な角。あれを突き出して突進でもしようものなら、木製の城門などは一撃で木っ端微塵になりそうである。

「それならアーリヒブルグの外にグランデ用の竜舎でも作るか」

「竜舎?」

「デカイ犬小屋みたいな」

「竜に犬小屋……?」

シルフィが微妙な顔をする横でアイラがコクリと頷く。

「コースケの中におけるグランデの地位が如実に現れている」

「ソンナコトナイヨー」

古き良きドラゴンの風習云々と言いくるめたが、結局は飯を出す代わりに働かせるというわけで……まぁうん、ペットとか家畜と変わらないよねって話だ。

本人(本竜?)は美味しいものをたらふく食べられて幸せ。俺達はグランデに働いてもらえて幸せ。双方幸せなんだから問題は何もない。いいね?

「まぁ、グランデ関連はコースケに任せるとして……問題は聖王国関連だな」

「でありますな。アドル教が一枚岩ではないという話でありましたが……」

「実際のところ、奴らと共存できるのかというところだな。私は無理だと思いますが」

レオナール卿とダナンはアドル教を奉じる連中と理解し合うのは無理、というスタンスであるようだ。彼らはアドル教を奉じる聖王国の連中に家族を殺されているからな。それも、愛する妻や子供たちを。他の面子も似たり寄ったりだ。

「ですが、現実問題としてアドル教を奉じる人間を一人残らず根絶やしにするというのは不可能でしょう」

「ん、私もそう思う。それならアドル教を私達に都合の良いように変えてしまったほうがよほど楽。流れる血も少ない」

メルティとアイラはエレンとエレンの所属する懐古派を通じてアドル教の分断工作をする方が得策だと考えているようだ。これはアドル教を奉じる人達と融和するというよりも、アドル教の信者同士で争い合わせて勢力を削いだほうが俺達に利があるという観点からの発言のように思えるな。

「私もメルティやアイラの意見に賛成だ。手を取り合えるかどうかはまた別の問題として、アドル教の連中が一枚岩ではないというのであれば、奴らの争いを利用するというのは一つの手として有効だろう。私達が達するべき目標はメリナード王国の奪還だ。その目的を達するためであれば、懐古派との共闘、協力はしても良いと私は思う」

「しかし、姫殿下……」

「最初から頑なに拒絶をし続けては手に入れられる機会を逃しかねん。私達がコースケを受け容れられたように、もしかしたらアドル教の懐古派、そして懐古派が探求しているというアドル教の原初の教えとやらは我々にも受け容れることができるものかもしれないだろう」

シルフィが俺を引き合いに出してダナンとレオナール卿を説得する。

確かに、最初はメリナード王国の皆さんに寄って集ってリンチされかけたからね、俺。あの恐怖は今でも覚えている。今でこそ親しく付き合い、言葉を交わす仲ではあるが、俺とこの世界の住人との出会いは決して穏やかなものではなかったのだ。

「むぅ……そう言われると何も言えませんな」

「今回の話もコースケ殿が持ってきた話であるしな……」

「何も聖王国と戦うのを今後一切取りやめるという話ではない。私達の目標がメリナード王国の奪還であるということは変わらないし、そこを譲るつもりもない。メリナード王国を奪還した後は聖王国の本国との戦いもあるだろう。私も聖王国への恨みや憎しみを完全に捨て去ることなどは不可能だ」

シルフィが厳しい表情でそう言う。

「だが、永遠に戦い続けることなどできはしない。どこかで線を引かねばならない。そういう時はいつか必ず来る。その時のためにアドル教の……聖王国の連中と接触し、対話するための窓口を持つことは必要だと思う」

シルフィの主張にダナンとレオナール卿はしばし考えこみ、そして頷いた。

「姫殿下がそう仰るのあれば」

「ならば我輩達は万が一の事態に備えるのみなのである」

「よし、では我々はアドル教の懐古派と接触し、聖王国との交渉をしていく。同時に、防備を整えて占領地の維持と発展に力を注ぐ。領地の拡大は暫くしない。敵が攻め寄せてくればこれは撃滅する。こういう方針で今後は動くぞ」

「「「御意」」」

会議室に集まっていた解放軍の上層部全員がシルフィの言葉に頷いた。さぁ、これからまた忙しくなるぞ。