軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第108話~逃げられない~

『こちらアーリヒブルグのシルフィだ。コースケ、聞こえていたら応答してくれ』

予備の筐体や増設用の外部アンテナなんかを作りながら待つこと二日。ついに据え置き型ゴーレム通信機がアーリヒブルグからの通信を受信した。外部アンテナは昨日の時点で設置を終えていたので、恐らく向こうの魔力波の強度が上がったのだろう。

ちなみに、この魔力波というのは電波と違って地面や石の壁を通しても殆ど減衰しない。魔力的な障壁には弱いので、魔力を遮断する性質のある魔法障壁や一部の魔法金属、鉛などの壁はダメみたいだが。放射線じみた特性でも持っているのだろうか。

「こちらメリネスブルグのコースケ。シルフィ、やっと話せたな」

『ああ……ふぐっ……やっと話せたぁ……こーすけぇ……』

スピーカー越しにシルフィの泣き声が聞こえてくる。ああ、物凄く胸が締め付けられる。今すぐに抱き締めてやりたいが、シルフィとの間に広がる物理的な距離の壁は如何ともし難い。

「前にも話したと思うが、メルティとは無事に合流している。今はメリネスブルグの下水道に潜伏中だ。ライム、ベス、ポイゾに助けられてな」

そして俺はメルティに話したのと同じように、キュービに拉致されてから何があったのかを事細かに話して聞かせた。途中、シルフィやアイラ、ダナンやレオナール卿から質問されたので、それにも答えていく。

『やはりキュービか……奴は聖王国の手の者だったと』

『次にあったらころす』

「アイラ?」

『ぜったいにころす』

『殺すのでは生ぬるい。全身の毛を剃り上げて晒し者にしてやる』

『コースケ……二人が怖いので早く帰ってくるのである。全身の毛を剃るとか、耳と尻尾を切り落とすとか怖いことばかり言うのである。あとコースケの料理が食いたいのであるな』

「あんたは本当に欲望に素直なおっさんだよな」

ちなみにザミル女史は俺が攫われてからというものの、何かに取り憑かれたかのように南部に残っている聖王国軍の残党を駆逐し続けているらしい。聞いたところによると俺の護衛の任を果たせなかったことの責任を取って腹を切ろうとしたとか。責任を取って切腹とかサムライかよ……。

一応それに関してはシルフィが止めたそうなのだが、それからというもののロクに休みも取らずに戦闘に明け暮れているそうだ。早く戻ってやらないとザミル女史がヤバいことになりそうだな。

「それで、今後の俺の行動方針についてなんだが」

『かえってきて』

『かえってきて』

『戻ってきてくれ。出来るだけ早く』

『戻ってくるのである。可及的速やかに』

「あっハイ」

満場一致で戻ってこいと言われた。ですよね。ここにいても俺がやることないものね。

「こーすけ、かえっちゃうの?」

「行っちゃうのね……」

「しかたないのです」

スライム娘達は残念そうだ。うん、ライム達にはとても助けられたし、彼女たちは実に俺に良くしてくれた。この地下での生活は太陽を浴びられないところ以外は実に快適だったし、正直言って結構寂しい。

「でもやっぱり、俺がいるべき場所はシルフィの居るところだからな」

『コースケ……』

スピーカーの向こうからシルフィの感極まったような声が聞こえてくる。

『コースケ、待ってる』

「ああ、待っててくれ。準備を整えたら明日にでも出発するよ。それじゃあ、通信終わり」

アイラにそう答え、通信を終える。

さて、準備だが……革鎧をメルティに破壊されちゃったからなぁ。

その他にも十分に旅の準備をしてから出発しないといけない。食料は十分にあるな。水も大丈夫。粘土からレンガブロックは作ってあるので、シェルターの設置も大丈夫。

あれ? 革鎧だけ作れば出発できちゃうな?

「防具だけ作ればいいか。他になにか必要なものはあるかな?」

「ああ、それなら作ってもらいたい物があるんです」

「いいぞ、なんだ?」

俺の返事にメルティがにっこりと笑みを浮かべた。あ、これアカンやつ。

「首輪を作ってください」

「ほわい?」

「奴隷の首輪と同じデザインのものを」

「……なんで?」

「聖王国の支配地域を二人で歩くなら、私はコースケさんの奴隷ってことにしておくのが一番安全ですから。角を切り落とされた亜人の女奴隷と、人間男性の傭兵という組み合わせなら不審に思われる可能性は限りなくゼロに近いです。傭兵なら『戦利品』として亜人の女奴隷を連れていても不自然ではないですし」

「ぬぬ……」

反論の余地が見当たらない。確かに、傭兵なら戦場で捉えた亜人を奴隷として侍らせていても不自然ではなさそうだ。戦奴ということであれば、武装させても問題ないだろう。

「じゃあ、戦奴ってことにして武器と防具も作るか。それなら簡単に武装もできるし」

「いえ、それはいいです。私はコースケさんの性奴隷ということにしましょう」

「せっ……!?」

「武装なんかしていたら余計に調べられますよ。そうした方が良いですよ」

「そ、そう……か?」

なんだか丸め込まれているような……いや、メルティの言うことは的を射ている。確かにフードを被って顔や頭を隠している人物をコソコソと連れ歩くよりも、奴隷の首輪(のように見えるただの首輪)を首に嵌めて堂々と連れ回したほうが注目を浴びないかも知れない。

「そうだな、わかったよ」

インベントリに入っている革素材とメルティに引き切られた革鎧の残骸、それに多少の鉄などを利用して俺の革鎧とメルティ用の奴隷の首輪(見た目だけ)を作ることにする。

なんかベスとポイゾから生暖かい視線を送られているような気がするが、きっと気のせいだろう。そうだと思いたい。

作業量自体は大したものではないので、革鎧と首輪はすぐに出来上がった。改良型作業台で作り上げた革鎧と首輪をインベントリに入れ、それから首輪だけを取り出す。

「出来たよ」

「早いですね。じゃあ、私につけてください」

「え? 俺がつけるの?」

「勿論です。その方が雰囲気が出るじゃないですか」

「何の雰囲気だよ……」

メルティが首輪を受け取ろうとせず「んっ」と言って顎を上げ、首を露わにするので、仕方なく俺の手でメルティの首に形だけの奴隷の首輪を嵌めてやる。

丈夫な革の首輪を苦しくないように、でもぴっちりと隙間のないように首に装着してやるとメルティはぶるりと身体を震わせ、ほう……と妙に色っぽい溜息を吐いた。

「うふふ……私、コースケさんの性奴隷にされちゃいました」

「いや、形だけだから」

頬を赤くして熱っぽい表情を浮かべるメルティに内心少し動揺しながらもしっかりと首を振って否定しておく。

「形だけでも、そうと信じさせるためにそれらしい振る舞いは必要ですよね」

「そう……か?」

メルティの言葉に首を傾げる。そう言われると、そうかもしれない。それらしい振る舞いをしていなければ聖王国の兵に怪しまれて職務質問とかされてしまうか? いや、その時は全力で逃げて……大騒ぎになるか。

「練習、しましょうか」

「はい?」

メルティの突拍子もない提案に思わず素で問い返す。

「ライムさん達も手伝ってくれますか? 明日には出ることになりますし、最後にパーっとやりましょう」

「やるー」

「そうね、パーっとやりましょうか」

「やりすぎないように注意なのですよ。動けなくしてしまったら大変なのです」

「いやいやいや、待たれよ。明日から長旅ぞ? 英気を養わなければ死ぞ? 体力を消耗するのはよろしくな――た、食べないでくださーい!」

俺は声を上げて逃げ出そうとした。踵を返した俺の背にメルティの声が投げかけられる。

「知っていますか? コースケさん」

メルティ達に背を向けて走り出したはずなのに、何故か目の前にメルティの姿があった。何を言っているかわからないと思うが、俺自身も何が起こったのかわからない。突風などの物理現象はなかったし、超スピードで動いたとかそういうチャチなものじゃ断じて無いと思う。

「魔神種からは逃げられません」

「アイエッ!? 魔神!? 魔神ナンデ!? 羊じゃないのナンデ!?」

「うふふ……さぁ、大人しくしましょうねー。怖くないですよー」

「イヤアァァァ!? やめて!? 私に酷いことするつもりでしょう!?」

「てんじょうのしみをかぞえているあいだにおわるー?」

「大丈夫よ、痛いことはしないから」

「何かあっても私達なら何度でも癒せるのです。安心すると良いのですよ」

「安心できる要素がどこにもねぇ!? ウワーッ!」

何事も程々が肝心だと思います。心の底から。行き過ぎはよくない。何事も。

☆★☆

「ううーん……はっ!?」

俺は一体……昨日、シルフィとの通信を終えてからの記憶が……うっ、思い出そうとすると頭が。

「こーすけ、おきたー?」

全身を程よい弾力で包んでいる物体から可愛らしい声が聞こえてくる。ライムの声だ。どうやら俺はライム特製のスライムベッドで寝ているらしい。隣に俺以外の温もりを感じたのでそちらに目を向けてみると、何故か奴隷の首輪を首に嵌めたメルティが満足そうな顔でスヤスヤと寝息を立てていた。

ライムはベッドになる際に服を着たままというのを嫌がる。なので、俺もメルティも全裸だ。それはいい。まぁ、うん、許容すると言うか、今更だし。

問題は、昨日の昼以降の記憶が俺にないことだ。何故メルティは奴隷の首輪を首に嵌めているのか、これがわからない。思い出そうとすると頭が痛む。

「ちょっとポイゾ、大丈夫なんでしょうね?」

「施術は完璧なのです。無理に思い出そうとすると頭が痛むかもしれないのです」

「おい、なんだその物騒な会話は」

「なんでもないわよ?」

「ぴゅ~、ひゅひゅ~」

ベスがしらばっくれて、ポイゾは下手くそな口笛を吹いて誤魔化そうとする。

「こーすけー」

「なんだ?」

「思い出さないほうが良いこともあるよ?」

「お、おう……」

いつもぽやーんとした口調のライムが淀みなく言葉を発した。それだけでももう驚きなのだが、その口調にはどこか真剣な響きがあった。うん、忠告には従っておこう。なんか怖いし。

とりあえず、ライムのベッドから抜け出して身体の調子を確かめる。なんか身体の奥にズンと重い疲労を感じるような気がするか、きっと気のせいだろう。あとなんか妙に腰回りが軽いような気がする。ついでに言えば頬が微妙にこけているような……気のせい、気のせいだろう。

気のせいだと思うけど朝ごはんはしっかり食べようと思う。

なお、俺に遅れること数分でメルティも起き出してきた。俺とは打って変わってメルティの肌が妙にツヤツヤしているように見えるが……きっと気のせいだ。そういうことにしておこう。

よく見ればライム達もいつもと比べると体積が少し大きいような、ツヤが違うような気がするが、きっと気のせいだ。光の加減か何かでそう見えるだけだろう。ハハハ。

もしかしたら違うかもしれないけど、思い出せないしな。思い出そうとしたら頭が痛むし、気にしないようにしよう。これは決して現実逃避ではない。決して。そう、未来に目を向けているだけだ。

自分にそう言い聞かせ、俺は朝食の準備をするのであった。