軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第九百五十一話 最奥を調べよう

◎東京ダンジョン 廃地下鉄道 第二十七階層 隠し部屋

『それでは私はこの人たちを送り届けて、クロマルとともに入り口を死守します』

タツオがくわーっと鳴き、その場に置かれた簡易ポータルが輝くと、タツオの乗るタツヨシくんケイローンと共に、クロマルと自衛隊員たちも転移して消えていく。その消える瞬間まで隊員たちは弓花へと敬礼をしていた。

「ふー、やっと落ち着いた」

光が消えると、カチャンと銀狼の仮面を外した弓花がため息をついた。

ここまでずっと仮面を被っていたので、弓花も息が詰まっていたようである。その弓花を風音がジト目で見ていた。

「ていうかさ。あの自衛隊員さんたち、目が完全に据わってて、洗脳されてるみたいに突き従ってる感じだったけど……何があったの?」

風音が見てもそれは異常な光景だった。わずかな時間に何故四人の男がああも従順になってしまったのか。さすがに彼らの前で問いつめるわけにも行かず、ふたりきりになって風音はようやく口を開いて尋ねられたのだ。

その親友の疑問に弓花は「たはは」と苦く笑う。

「いや、あっちが勘違いしてちょっと攻撃されちゃってね。それに怒ったキングとクロマルが教育的指導をしちゃったのよ。私は止めたんだけど、喋ったら私が普通の女の子ってバレちゃうし、あまり強くも出れなくて。なんだかんだで、結局ああなっちゃって……ちょっと参ったわよ」

そう言って弓花が「やれやれ」という感じで肩をすくめた。完全に自分に非はないという顔である。

「教育的指導……普通の女の子……なんだかんだ……弓花、やっぱり少しは外になじんだ方がいいかも」

一方で、弓花の言葉に風音は戦慄していた。

気が付くと配下を作ってしまう女の子を普通とは言えない。

そもそも弓花はこちらに戻ってきてもひたすら修行の日々を送り続けていて、ショッピングなどと外に遊びに出る回数はエミリィやレームに比べでも圧倒的に少ない。家に帰っている以外は山に篭もって修行の日々なのだから、それはもはやただの修行僧である。

(あっちにいたときから、おかしな兆候はあったけど……まさか、こっちに来ても変わらないとは。取りあえずは、マロンと宮迫に連絡して対処を考えよう。このままだと弓花は暴力で人を惹き付けるだけのダメな子になってしまう。もう、それはただのアウトローだよ)

自分たち以外の知り合いが突き従うおっさんたちだけというのは明らかに異常なのだ。そして諦めの境地に達した弓花はそのことを見て見ぬ振りをしている。

(いけない。いけないよ弓花。その道はいけない)

そんなことを考えながら首を横にブルブル震わせている風音を、弓花は訝しげな目で見ていた。

「何、じろじろ見てるのよ?」

「いや、なんでもないよ。ちょっと、育成の仕方を失敗したんで、建て直しを計ろうと思ってるだけだよ」

「そう? ユッコネエなら別に良い感じだし、ああ狂い鬼はネイキッドの状態がいいかもしれないわね。顔がいいわ。顔が」

違うよ。目の前のダメな子の育成のことだよ……とはさすがに風音も言い難かったので話を逸らすことにした。

「ま、まあ、ともかく、ここ第二十七階層なんだよね。ちょうど良いし、一度最深層まで下りてみようか」

そのために風音はタツオに第一階層を任せて、この場に残ったのである。その言葉に弓花も頷く。

「そうねえ。三階下りれば、もう心臓球の間だし、この階層の魔物なら特に問題なく行けると思うわ」

「うん。太田さんに連絡したら、可能ならダンジョンマスターを一度倒して欲しいって言ってたんだよね」

「ダンジョンマスターを?」

首を傾げた弓花に風音が頷く。

「そう。ダンジョンマスターを一度倒せば、心臓球が次のダンジョンマスターを生み出すまでは魔物も出現しなくなるらしいんだよ」

「へぇ。なるほど。それで……タツオたちは普通に戻れたけど、ポータルでの転移は可能なのね?」

「うん。魔素が薄いせいか、転移自体は問題ないみたいだね。私のテレポートでも移動できるし、こっちのダンジョンが特別なのか、C級ダンジョンならそういう感じになるのか分からないけど。こうなると他のダンジョンでも試してみたいかな」

その言葉に弓花が「ほーほー」と頷く。それはつまり、穴が開いてさえいれば、ポータルを設置することですぐさまあちらの世界へと行けるということでもあった。

それから風音たちは隠し部屋を抜け、さらに階層を下り、そう時間もかけずに心臓球の間へと辿り着いた。

途中で出会ったのは先ほど弓花が対峙したビッグベアーバグのみ。それを倒したことで風音は『極限耐性』というスキルを手に入れていた。

そして、心臓球の間で遭遇したダンジョンマスターは、かつて風音たちが見たことのある相手であった。

◎東京ダンジョン 廃地下鉄道 心臓球の間

『ホンノージエンジョー』

咆哮が響き渡る。

それは心臓球の間の中に入った風音と弓花の前にいる、赤い甲殻を纏った人型の虫が発したものだ。その姿を見て弓花が目を丸くする。

「虫、キング・オダノブナガ!?」

その姿には見覚えがあった。

それは、ハイヴァーン公国の浮遊島直下の闇の森から出てきた魔物と同種。キング・オダノブナガは英霊ジークとジンライが力を合わせて倒したほどの強力な魔物だ。であれば、相当の難敵。だが、対して風音は冷静に敵を見ていた。

「赤いキング……キング・オダノブナガ・レッカだね」

「レッカ?」

風音の口にした名は、弓花が以前に聞いた魔物のものとは違っていた。だが、相手の赤い甲殻を見て、その意味を弓花は察した。

「なるほど…… 烈火(れっか) 。以前よりも強いのね。それとも炎を使うの?」

「いや? パワーは低いし、特殊能力も特にないよ?」

「え、そうなの?」

いや、察していなかった。

「うん。クィーンと一緒じゃないと魔力供給もおぼつかないし、硬いけど他の能力も微妙だからね。まあ、デザイン同じなだけの劣化版だからアレ」

「ああ、だからレッカなんだ。烈火じゃなくて劣化なんだ」

どうやら弓花の予測はまったく外れていたようである。それから弓花も改めてキング・オダノブナガ・レッカを見て、確かに以前に出会った魔物に比べて気配が弱いように感じた。

「ああ、闇の森の魔物にしては……中から下位種に近い強さか。けど、強いには違いないわよ。C級ダンジョンとしては結構難しい相手だと思うけど」

「だねえ。まあ一体だったら、人数揃えればやり様はあるし、死なない限りは再戦も可能だしね。と、来るよ」

その風音の言葉とほぼ同時にキング・オダノブナガ・レッカが駆けだした。腕より伸びた刀のような赤い爪を振り上げて、弾丸の如く突撃して風音と弓花を真横に切り裂こうとするが、ふたりとも後方へと跳んで離れ、なんなく攻撃を回避する。

そして、宙を舞いながら弓花が風音に尋ねる。

「パワーとスピードはある。組み合ったら厄介か。で、どうする?」

「私が動きを止める。弓花が仕留めて」

そう言って風音がスキル『空中跳び』で空間を蹴って迫ってくるキング・オダノブナガ・レッカに突撃する。

『サルゥゥウワラジナマイィィイイイ』

「スキル・テレポートッ」

カウンター気味に放たれた魔物の剛刀は凄まじい速度で黄金騎士の肩から胴へと振り下ろされ、 魔金剛石(マナダイヤ) の装甲が切り裂かれた。

『アケチ?』

だが、その中に風音はいない。転移魔術によってすでに後方に離れていたのだ。

「ナビ。ローパーモードで絡めて」

『了解ですマスター』

『ハカッタナアケチィィイ!?』

ナビの操作によってジュエルカザネがリーヴレントの姿を解き、触手となってキング・オダノブナガ・レッカの身体を絡めていく。そこに弓花が突撃していく。

「これで仕留める!」

そして、弓花の神槍ムータンが煌めき、槍術『七閃』がキング・オダノブナガ・レッカへと放たれる。それは七つの突きに己が全力を注ぐバーンズ流槍術の奥義。

『エンジョォォオ!?』

それがキング・オダノブナガ・レッカの装甲を貫くが、浅い。そのまま弾き飛ばされたキング・オダノブナガ・レッカは壁にめり込むほどのダメージを受けたが、まだ死んではいなかった。それを見て弓花が舌打ちしながら膝を突く。

「想像以上に硬い。風音、ごめん。トドメお願い!」

「うん。スペル・テレポート及びスキル・キリングレッグカカト落とし。神の雷乗せッ!」

そして風音が転移で飛び、上空からキング・オダノブナガ・レッカへとカカト落としを放つ。それは解放された竜爪に『神の雷』の白き輝きを乗せた渾身の『キリングレッグ』のカカト落としだ。

竜爪によって右腕が斬り裂かれたキング・オダノブナガ・レッカが悲鳴を上げるが、風音は続けて蹴りや久々に出したドラグホーントンファーを使って次々とコンボを決めていく。

『ティーエスハイヤダァアアアアア!』

「虫よりはマシ、スキル・爆神掌!」

そして風音は闘気を収束したスキル『爆神掌』を放って、キング・オダノブナガ・レッカにトドメを刺した。その様子に風音が少しだけ眉をひそめる。

「む、スキルは手に入らなかったか。ま、劣化版だし仕方ないね。けど装甲の方はロクテンくんと遜色ないし、何かに使えるかも」

魔力を注いで黄金表皮となったロクテンくんと同程度の硬度を持っているのだ。魔法耐性などは劣るモノの、装甲強度だけでいえば遜色ないものである。

「そういえば今はスキルのリビングアーマーは使ってないし、これを回収して操ってみてもいいかも」

風音はそう口にしながら周囲を見回す。戦闘は終了した。だから、ここに来た目的のものがないかを調べ始めたのだ。それから、同じように弓花も回りを確認しながら、風音に尋ねる。

「うーん。あっちへの穴は見たところないみたいね」

「まあ、言われた通りだね。メールも送れないし、転移もやっぱり無理。ここは繋がってないよ」

ウィンドウを開いて、各種の項目を確認しながら風音がそう告げる。直樹たちとの繋がりは圏外のままである。

心臓球の間にあるのは、ダンジョンマスターがその場に巣くっていたらしき痕跡と、壁に護られるように飾られている心臓球のみ。それは普通のダンジョンの最深層そのものであった。

そして、ダンジョン最深層に来た風音たちが得られたものは、あちらとは繋がっていないということを自ら確認できた……という事実だけだったのである。