作品タイトル不明
第九百四十六話 三騎士で行こう
◎東京ダンジョン 廃棄地下鉄道 近辺
暗闇の中をマズルフラッシュの光が無数に輝き、銃声が響き続けていた。だが闇の先から続く咆哮は止まず、それらと対峙している自衛隊の面々も乗っている車両を移動させながら撃ち続けるしかなかった。
「隊長。やっぱり効果ありませんね」
「無理は承知だ。隙間を狙え。一応、やられているのもいるだろう」
自衛隊の車両の中から声が響き渡る。
追ってくる敵は素早く、また多少銃弾を浴びたところでその速度を緩めることもない。
ここまで相手をしてきた巨大生物とは違う、銃に対しての耐性のある甲殻型のネズミが彼らの敵だった。さらに、それには闇の中を縦横無尽に駆け回る空間的な機動性があり、今も彼らを追い詰めていた。
「クソッ、谷中班の車が取り憑かれる!?」
「俺に続いて撃て。よし、車を出せ。もう一本道だ」
部下に近付く敵に銃弾を浴びせた部隊の隊長が、再度指示を出して車両の速度を上げさせる。このすでに使われない地下鉄はこうした状況を踏まえて、今現在彼らが向かっている出口以外に外に抜け出すルートはない。
「もうすぐ入り口です。けど、あれが突撃してきたら出入り口も抑えられるとは思えませんよ」
「爆破して塞ぐか。だが、それで封じられるのか?」
隊長が追ってきている敵にライトを浴びせる。ソレはわずかばかりたじろいだが、ほとんど速度を変えずにやはり追ってきている。
「巨大な鎧を纏ったネズミ……コンクリの壁なんぞで抑えきれるとは思えん」
「でも、じゃあどうすれば……」
「俺は知らんよ。ひとまずは、あの探索課とかいうところのがなんとかするらしいがな」
その言葉に部下が「えーっ」という声を上げた。
探索課は彼らと共同でこの奇怪な場所を管理している組織の名ではあったが、今この場にいるのは自衛隊である彼らだけだ。
「あのサーカス連中ですか。やられて先に撤退したじゃないっすか」
「やられたっていっても俺らの代わりに前に立った結果だからな」
「そりゃあ、そうですけどね」
そもそも自分たちが何で、化け物相手に戦闘しているのか……と思う部下に隊長は苦笑しながら口を開く。
「あの嬢ちゃん、無事ならいいだけどな。ともかく、なんでも連中の秘密兵器が来るらしい」
「つか。あのジジイ自らくるんじゃないっすか、それ」
迷宮探索課の長を務めている男は彼らの中でも有名な老人だった。立場的にいえばまったく口も聞ける相手ではないほどの。
「有り得るが、あまり余計なことを言うなよ。首が飛ぶぞ」
「ラジャーっす」
「と、ようやく出口か。迎え撃つ準備は……なんだ?」
走る車両の正面の入り口、そこでは彼らが引き連れた巨大生物を迎撃すべく準備が整えられていたはずだったが、その場にいたのは三人の全身甲冑の者たちであった。
「なんだ。あれは?」
「騎士様……ですか?」
自衛隊の隊長と部下が目を丸くしている前で、それは動き出した。
一体はふた振りの剣を握った頭部の大きな黒い騎士。
一体は黒い鎖を絡めた槍を持ち、狼の仮面を被った銀の騎士。
一体は細身の剣を持ち、竜の仮面を被った黄金の騎士。
それらが一斉に走り出し、隊員たちの乗る車両をあっという間に追い越すと、追ってきていた巨大ネズミたちを振るう刃で次々と仕留めていく。
「今のが秘密兵器?」
「二刀流に槍に、ありゃレイピアっすか? なんでアレで倒せるんだ?」
自分たちの持つ火器ですらそれほどの効果を与えられなかった相手である。自衛隊員たちが呆気にとられて見ている前で、三体の騎士たちは三十体ほどの甲殻を纏った巨大ネズミを切り裂くと、そのまま振り向くこともなく闇の中へと消えていった。
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「なんか、殺気立ってたねあの魔物」
三人で併走しながら風音が口を開いた。
その身は今、黄金の騎士と化していた。
『この洞窟の先にダンジョンがあるんですか母上?』
黒い騎士からタツオの声が放たれる。
「うん。廃棄された地下鉄がダンジョン化されたんだってね。今じゃあダンジョンから外に出さないようにさっきの入り口以外は全部塞いだって話だけど」
「あのネズミ。随分と頑丈そうな前歯持ってたし、コンクリ程度じゃ抜けられそうだけどね」
銀の騎士の中からは弓花の声が響いてくる。
この銀の騎士は言うまでもなく神狼の甲冑を纏った弓花であり、黒い騎士はタツオが頭部に収まった状態のタツヨシくんツインソード(黒炎装備偽装状態)であった。
また黄金の騎士の中身は風音だが、今の風音はジェエルカザネを全身に纏わせて十騎士リーヴレントの体型を再現した状態である。それは単純な防御力だけで言えばロクテンくんをもしのぐため、即死トラップですらもものともしない強固な形態でもあった。さらに風音は頭部の鳥頭を隠すために覇王竜の仮面を被ってもいた。
なお、ボディが黄金なのは銀、黒と続いたのでなんとなく対抗して金メッキのコーティングをしただけである。特に意味はない。
「全身が甲殻に包まれたシールドラット。第一階層に出るような魔物じゃないはずだけど、ダンジョンの内部はやっぱり、かなり荒れてるみたいだね」
「資料によると、ダンジョン内部で捕食しあって、進化が連鎖してる可能性があるって言ってたわよね」
いわば蟲毒の状態となっているのではないかとの推測がここに来るまでに報告として上がっていた。そのことに風音は眉をひそめながら口を開く。
「うん。けど他は持ちこたえているらしいし、ここが突破されたのは、シールドラットが銃に相性良かったからだろうね。まあ、仕方ない。情報連携はこのまま維持しておくから弓花はまっすぐダンジョンの入り口で待機して、敵が出てくるのを防いで。私とタツオは分散して臭いを辿りながら散らばったシールドラットを倒そう。あの腹ぺこ状態で外にでも出られたらすごく危ないからね」
「分かったわ。任せて」
『了解です。母上』
頷くふたりの顔を見ながら、風音がさらに注意を促す。
「それと、さっきも説明したけどあまり派手にやりすぎないようにね。特に弓花」
「なぜ、特に私?」
不満げな弓花の言葉に、風音が肩をすくめる。
「ダンジョン内も含めてそこらかしこに監視カメラが付いてるみたいだからね。扇のお爺ちゃんが言ってたでしょ。人間にできる範囲で倒せって。どうもこっちの情報はお爺ちゃんところである程度、留めてくれてるらしいから目立つ行動は禁止で。特に弓花」
「むー。特にはいらないわよ。分かったわよ。問題ないわよ」
『お任せください母上』
ふたりが再度頷くのを見て、風音がウィンドウのマップを開く。周辺の地図やダンジョン内部の構造はすでに記録済みである。そして、それは今では離れていても『情報連携』を通してタツオも確認することが可能であった。
「まあ、自分の命優先ではあるけどね。できる限りってことで」
「うん。そうね。けど、アンタの方は大丈夫なの? その形態は最近使ってなかったでしょ?」
その弓花の問いに風音が「問題なし」と返す。
『最近はロクテンくんばっかだったけど、リーヴレント化はずっと使用してたしね。むしろ動きやすいよ。それじゃあ次の十字路で分かれるよ。ゴーッ!』
そう言って弓花は正面を、風音とタツオは左右に分かれて動き始めた。
(ま、せっかくダンジョンに入れるチャンスを得たんだ。このまま一気に最深層まで行きたいんだけどね)
そう考えながら風音が先へと進んでいく。
風音たちが今回の件を請け負ったのは、つい一時間前の、早朝訓練も終わって朝食をとり終わった後のことであった。小林からダンジョンが突破された知らせを受けた扇が、直接風音たちにダンジョン外に出た魔物と内部の掃討の要請をしてきたのだ。
とはいえ、そこには条件も付けられていた。風音たちの正体を隠すことと『こちらの世界』の常識から外れない行動を取ることだ。
それは風音たちの身の安全と、過度な戦力保持を外に知らされないためのものであり、風音はそれを近接戦縛りと捉えてオーケーを出して現在に至っている。
なお、エミリィとレームは今回お留守番となっていた。エミリィはともかく、レームはゴレムスキャノンで出たそうにしていたが、今のゴレムスキャノンは、レーザーバルカン砲とオリハルコンの大剣をそれぞれの腕に持ち、肩部には追加ミサイルランチャー、頭部にはコマンドゴーグルと多目的レーダー角 、背には 雷王砲(レールキヤノン) 二門にブースターバックパック装備という魔改造状態のため、却下されていた。それは、誰がどう見てもゴーレムというよりは未来のパワードアーマーであったのだ。
「と、やっぱり……危なかったか」
風音が袋小路に入ってそう呟いた。コンクリートを砕きながら穴を掘るシールドラットの群れが見えたのだ。
「悪いけど、東京の下水道を危険なダンジョンにする気はないんだよね。だから、ここで仕留めさせてもらうよ」
そして、黄金の騎士が細い刃を構えて突撃する。その先は神聖銀の刃が伸びている。
襲撃者に気付いたシールドラットたちが一斉に飛びかかるが、カルラ王に仕えし十騎士リーヴレントの剣技を再現できる風音にとって、それは大した相手ではなかった。
まさしく黄金の閃光の如き軌跡を描いて魔物のコアを貫いた風音は、すぐさま他の場所へと移動を開始したのである。