軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第九百四十一話 戦力をバラそう

「ダンジョンマスターか。そっちのお兄さんがねえ」

カルラ王のただ者ではない雰囲気を察していた扇も、そのカミングアウトにはさすがに眉をひそめた。

扇も、とある事情によりダンジョンやダンジョンマスターという存在についてはそれなりに知識があった。

そして目の前にいるのは、事実であるならばA級ダンジョンのダンジョンマスターとのこと。扇はその相手に自分が勝てるか否かと考えたとき、無理だろうと即座に判断してから風音を見た。

「で、そっちのお兄さんと風音はどういう関係なんだ? 仲間という感じではないようだが」

その言葉に風音がカルラ王をチラ見して、少し考えてから口を開く。

「んー。私の 僕(しもべ) になったっぽい。テイム……って分かるかな。まあ、そんな感じなんじゃないかと?」

その簡単だが疑問系な風音の説明に、扇は続けて太田へと視線を向けると、その意図を察して太田が頷きながら口を開く。

「名はカルラ王。テイムの印もある。レベルは268……高いな。能力からすれば本物かと。ただ、基本テイムは主の方が強くなければ成立は……」

「間抜け。あの戦いを見ていたならば分かるだろう?」

太田に対してカルラ王が笑う。

「私と我が主の一戦、アレは主の勝利であった」

「あ、バラしちゃった」

カルラ王の横で風音がムスッとした顔をして頭をかいている。

風音は、秋葉原での一件をすべて明かすかどうかをまだ決めかねていたのだが、カルラ王はそれをあっさりと口にしてしまった。

そして、そのやり取りで扇たちも秋葉原に出現した黒い巨人とドラゴンの正体を理解した。それから扇が深いため息をついてから風音に尋ねる。

「なるほどな。今回の帰還組は、今までとは随分と勝手が違うらしいな。風音、お前があのドラゴンだったのか?」

「うーん。まあ、そうだよ。あの形態は条件が色々あるから今は無理だけど、ドラゴンってだけならすぐになれるし」

カルラ・カザネリアン戦以降にレベルは上がっていないので、今は『見習い解除』が使えない。従って 魔力の川(ナーガライン) と繋がる必要のある龍神化はできないが、ドラゴンとなるだけならば『竜体化』で普通に可能だ。そこにカルラ王がさらに口を挟んだ。

「ちなみに私の鎧であるカルラ・カザネリアンも、修復が済めば、また使用が可能になる。お前たちの貧弱な武力で止めることは無理だろうな」

「いや、挑発しないでよ。話がこんがらがるから」

風音が抗議するが、カルラ王は涼しい顔をしている。

対して扇がカルラ王を睨みつけた。長年の勘が危険だと訴えているが、ここで退くこともまた組織の長としてはできない。そして彼の組織の本来の目的は、異世界から国を護る盾なのであった。

「意図が読めんな。カルラ王といったか。何が言いたい?」

扇の言葉に対してカルラ王がスッと手を掲げると、テーブルの上に魔法陣が出現して、ライフルやミサイルランチャー、レーザーガトリング砲、手榴弾などといったものが次々と出てきて山を作った。

「あ、アンタもそんなもん持ってたんだ」

「ダンジョンマスターだったからな。珍しいものは一通り収集している」

風音とカルラ王が言葉を交わし合う前で、小林や太田、扇が目を見開いて積まれた物体を見ていた。

「なんだ、こりゃ? 銃?」

「あっちのガトリングみたいなのには見覚えがある。まさかフューチャーズウォーの武器か?」

小林と太田の言葉にカルラ王が頷く。

「そうだ。そういうゲームの武器だったらしいな。まあ、お前たちの持つ武具に近いもの方が分かりやすいだろう。主たちはな。これらで武装した機械兵を数多く葬ってきた。その数は千を越えるぞ」

「千……だと?」

さすがにフカシかと扇は思ったが、風音たちの表情は冗談を言われたような顔ではなかった。むしろ、またバラしたよこのハゲ……という顔である。それから風音が眉間にしわを寄せながらカルラ王に詰め寄る。

「ちょっとカルラ王、どういうつもりなのさ?」

「ふん。私はお前の配下にはなったが、目の前の連中に仕える気はないと言うことだ」

カルラ王の言葉に扇が眉をひそめる。その様子をカルラ王は鼻で笑いながら、口を開く。

「オウギよ。一応言っておくぞ。主たちを組み込もうとすれば、喰われて終わるぞ。意識せずとも主は組織を変えてしまうし、私も迎合する気はない。よく考えて物事を選択することだな」

そのカルラ王の言葉に、扇の額からはツーッと冷たい汗が流れ出た。

扇もここに来て、自分が連れてきた相手への認識が大きく間違っていたことに気が付いていた。目の前にいる男は名に王を冠する通り、その振る舞いには上に立つ者の風格があった。そして、ただのチンチクリンに見えるチンチクリンはそのカルラ王の主なのである。明らかに荷が重いと扇は感じていた。

「太田。お前さっき、銃が何丁とか言ってたよな?」

「ええ。あれがロボットとともに使用されれば……想像はしたくないですね」

「なんか、頭痛くなってきた」

扇たち全員がそれぞれに口にしながら視線を風音へと向けられた。

ちなみに扇たちは当然知らないことだが、十騎士ローランは移動要塞ビットプレンを介してマシンナーズソルジャーたちの操作や生産も可能であった。そんな、恐るべき武装勢力を保有しているチンチクリンはその場にチョコンと座っており、ニコリと顔をひきつらせながら作り笑いを浮かべた。

「い、いや、喧嘩売る気は別にないよ?」

その言葉に扇が唸る。売る気がない……それは非常に危険な言葉だ。つまり売れるのだ。その気になれば。

「こりゃあ、色々と考え直す必要があるわけか。太田、小林。このことは伏せとけ。場合によってはこっちの立場が危ういぞ。クーデターなんぞの疑惑を向けられたら多分反論できない」

その言葉に太田と小林がブンブンと首を縦に振って頷く。

それから扇が風音を再度見ると、今度は風音の方から口を開いて問いかけてきた。

「ええと。あの、ちょっと良い?」

「うん? まあ、こっちも聞きたいこと聞いているしな。言ってみろ」

「こっちからも聞きたいことがあるんだけどさ。さっきから口にしているアナザーワールドってのは、私たちが昨日までいた世界のことだよね」

「ああ、そうだな」

「じゃあ、私たちが発見されたってのって、そういう人たちの力によるものってこと?」

その問いに扇は「いいや」と返す。

「そいつはこっちの世界の科学の力だ。秋葉原の戦いはしっかりと映像に残っているし、お前たちの顔も記録されている。それと周辺の監視カメラの映像とを照会させて、お前たちが上野に移動したのは確認が取れた」

風音たちは『インビジブルナイツ』によって自衛隊の包囲網を颯爽と抜けていたが、監視カメラの記録までは消せてはいなかった。だから、それは調べればいずれ分かることではあった。

「後はお前たちと接触した男女、お前の両親が駅で使用したカードを調べてだな。まあ、今朝方には居場所が分かって、こうして他に先を越されないように会いにきたってわけだ」

その言葉に風音が目を細める。

「うーん。プライバシーもあったものじゃないね」

「そう言うな。国家の危機の管理をしてるんだ。綺麗事だけじゃあ、やっていられんよ。それにそうしたものを使うにも色々と手順や手続きが必要だったから半日以上もかかってしまったということもある。もっとも、ワシらがそういう権限のある組織なんだってのは理解できたんじゃないか?」

「そもそも、出会い頭に金品で釣ろうとしたヤツには言われたくない」

「なん……だと!?」

ボソリと呟いた太田の言葉に風音は衝撃を受けているが、正しい反論であった。

「で、どういうことなんだ?」

「よく分からないけど、バレてたってことみたい」

その風音たちの後ろでレームとエミリィがボソボソと話し合っていた。

ここまでの会話はスキル『情報連携』を通してオーリやエミリィ、レームも聞いている。だが、その内容までは理解できていない。その意味を把握するための知識が彼女らにはないのだ。

また風音の両親のときとは違い『情報連携』を扇に繋げていないため、双方向の会話が彼女たちにはできない状態でもあった。だからこそ扇もエミリィたちの話している内容が分からずに少しだけ眉をひそめたのだが、あちらの言葉が分かる小林と太田の反応がないことから気にせぬことにしていた。

それから風音がガーンという顔をしている横で、弓花が挙手をして口を挟む。

「あの……こっちもいいですか」

「ん? 確か、弓花と言ったな。なんだ?」

「プレイヤーが過去の世界に辿り着いたっていう話なんですけど……結局プレイヤーが過去に飛ばされた原因ってなんなんですか? 随分前から存在していたんならもう何か分かっているんじゃないですか?」

その弓花の問いに扇は「いいや」と返す。

「あちらからこちらに通じる穴はすぐに閉じるし、戻る手段も乏しいから調べるのも容易じゃない。こちらも話の内容を総合してそうであろうと判断しているだけだからな。こいつらがアナザーワールドに飛ばされた日にとある事件が起きて、それが起点じゃないかって話もあるんだが……そもそも被害者ではないのもいるしな」

そう言って扇が太田を見た。

「ええ。俺は、両親ともうひとりの俺自身も健在ですからね。今は兄弟みたいな感じで仲良くやらせてもらってますよ」

太田がそう言い、一方で小林は「俺の方は死んじまったんだよなあ」と口にする。

「まあ……三年前には俺もこっちにいたんだけどな。あの事件の後、妙な光を吸収してこっちの世界の記憶が蘇ったんだよ。レベルも上がったし」

その言葉に弓花が「……私たちと同じ」と呟いた。

小林の話は弓花たちに起きた現象と同じもののようだった。一方で風音にとっては、その現象を誰がどうやって起こしたものなのかは分かっていたために、反応は薄かった。

それよりも風音には、扇が先ほど口にした言葉の方が気にかかっていた。

「ええと、戻る手段が乏しいって……戻れるの?」

風音が期待の視線を向けて尋ねると、それには扇も頷いた。だが、その表情は浮かなかった。

「ああ。あちらに戻る手段はある。いや、あったというべきか」

「どういうこと?」

「迷宮探索課って名の通りな。実は、こっちにもダンジョンが出現することがある」

「マジで?」

その話にはさすがの風音たちも驚きを露わにした。

「どうもあちらから持ってきたチャイルドストーンが引き金になってできたらしいんだが、まあそれはいい。ともかく、それが成長すると繋がることがあるのさ。あちらとな」

「つまり、お爺ちゃんたちはアナザーワールドと往き来が可能なの?」

その風音の問いに、扇は少しばかり難しい顔をした。

「文化交流とまでは行かない。そもそも繋がった先は化け物の生息する場所ばかりで人間と出会える地点に広がっているのは、ワシらが確保しているダンジョンの中ではひとつしかない。それにあちらの住民との接触は基本厳禁になっているからな」

「厳禁? なんで?」

風音の問いに扇は「上からの指示だ」と答える。

「魔素が薄いんでな。お前たちの基準でいうところのC級以上のダンジョンは育たないんだが、こちらはダンジョンを4つ所持している。安定したルートを確保できない上に、あちらとどう対応するかの用意もできていない。あちらは個人が強すぎるという問題もあるから、対処にも困るんだ。うちの組織だって過剰な戦力として疎まれてるぐらいだからな。それに……」

扇が苦い顔で続きを話す。

「先ほども言ったように今は無理だ。昨日を境にして繋がりが一斉に途絶えた。原因は分からんが、あの秋葉原の戦いの後にそうなったらしい」