作品タイトル不明
第九百九話 手を握ろう
◎ 金翅鳥(こんじちょう) 神殿 第八十階層群 第十遺跡近辺
「うーん、両方攻略済みか。急いできたけど出遅れたね」
最後の攻略ポイントである第八十階層群の第十遺跡。
その少し手前にある『緑色の』瓦礫の中で白き一団は待機していて、風音は遠隔視や小型ゴレムくんを放って周辺の調査をしていた。
そして、その途中で風音が先ほど届いたメールの中身を見てぼやいた。それはクラン青の明星とクラン黒き牙がそれぞれ担当の遺跡を攻略したという内容だった。
「ま、どっちも頑張ったってことかな。負けてらんないや」
実のところ、風音たちはロクテンくんの修復を待っていたために、青の明星と黒き牙よりもダンジョン入りが二日遅れていた。
修復完了後、急いで風音たちはダンジョンへと入り、第七十階層まで辿り着くとダンジョンポータル経由で移動して、目標の手前に辿り着いたのが一時間前のことであった。
ちなみに風音が他のクランの攻略速度の予測を外したのは、両クランが協力して戦闘車両で移動していたためであった。風音たちの移動アドバンテージは以前よりも少なくなっていたのである。
「というか魔力の再分配って、別に翌日じゃあなきゃ問題ないんでしょ。十分間に合ってるわよ」
横にいた弓花の言葉に風音が「まーね」と返す。
各階層エリアへの魔力の再分配は翌朝だ。そのために青の明星と黒き牙は同日に攻略していた。寧ろ、白き一団が到着するのはもう一日二日は遅くなると思っていた彼らの方が今の状況に驚いているはずだった。
「ともかく、私たちは私たちの仕事をしよう。敵の警戒も激しいしね。警備ドローンが多いし、すでに機動状態のバスターウォーカーもいる」
『まあ、アレは己が最後の砦だともう知っておるのだろうよ。知恵が回るヤツだからな』
「アレって、またあんたの奥さんじゃないよね?」
頭の上に乗っているカルラ王に対し、風音が訝しがった視線を向ける。だが幼鳥は首を横に振った。
『私の参謀だった男だ。頭が良いヤツでな。実際にここを任されたとき、あいつは己の強化をダンジョンの魔力に頼らない方法で行おうとしていた。この世界のものではない兵器を積極的に取り入れ、戦力の増強に励んでいたのだ』
「それが第八十階層群にもフューチャーズウォーの武器が流れている原因ってことだね。なるほど」
そう言いながら、風音が第十遺跡エリアを監察し続ける。遠目からは気付かなかったが、このエリア内の遺跡周辺は植物が生えていなかった。風音たちが森だと思っていたものは屋根などを緑に塗るなどして偽装した工場だったのだ。
「それにしても武器や車両も大量にあるね。こりゃあ捗るなあ」
ラスボスでも回復薬は温存してしまう派のコレクター風音としては、それら工場に置かれている兵器はすべて二度と入手できない可能性の高いシロモノだ。そのため回収するつもりであった。だが今は敵の掃討の方が先だ。
すでに敵の集団は遺跡前に集結していた。
ガルーダ族だけではなく、機械兵マシンナーズソルジャーや移動砲台バスターウォーカーの姿も見えている。それらを眺めながら、風音はサポートスパイダーに乗って待機しているティアラへと声をかける。
「それじゃあ予定通りに。ティアラはルビーグリフォンの準備を。工場はなるべく避けて遺跡前辺りの集まりに滅の炎を出す感じで」
「任せてくださいカザネ」
ティアラが強い意志を持った瞳で頷く。数では劣る風音たちにとって、ルビーグリフォンの広域攻撃の成否が戦いの難易度を大きく分けることとなる。
「で、その前に今稼働状態になってるバスターウォーカーは危ないから、シップーとレームの 雷神砲(レールガン) で処理をしてもらうよ。そんで、エミリィとタツオは周囲を警戒しながらひとまずはスナイパーを優先的に仕留めて」
その指示にそれぞれが頷く。
現在、後衛組は全員アダミノくんの背に設置された台座に乗っていて、もはや移動砲台と化していた。
それに並ぶ形で義手シンディを背に付けたシップーが待機し、タツヨシくんケイローンとホーリースカルレギオンが彼らの護衛として立っていた。
「それから前衛組」
続く風音の視線の先には弓花、ジンライとメカジンライ。それに直樹とライルにジン・バハル、クロマル、メフィルス、ユッコネエがいる。
「 雷神砲(レールガン) とティアラの攻撃が終わったら全員で一気に突入。私と弓花が遺跡内部に入るからみんなは周囲の敵の掃討をお願いね。そんでライルはギリギリまでドラゴンにはならないように。的になるだけだから」
その言葉にライルが少しだけムッという顔をした。
だが竜体化は強力ではあるが図体が大きくなる分、攻撃も受けやすい。それにジーヴェの系譜であるライルドラゴンは防御力こそ高いが、矢除けの『風の加護』を持っていない。銃器類の攻撃だけではなく、場合によってはバスターウォーカーの一撃によって大ダメージを受けかねない。そのことを理解しているライルが渋々頷く。
「んー了解。なかなか活躍できないよな」
「私だって竜体化はあんま使ってないんだけどね。アレ、結構痛いし」
避けるのが基本の風音にとって攻撃して攻撃されるプロレス状態になるドラゴンでの戦闘は苦手であった。チクチクチクチクと攻撃を喰らい続けるぐらいなら、元の姿で攻撃を回避し続ける方が楽なのだ。
そして、そう話している間にスーッと赤い光が伸びて近付いてくるのが風音の目に入った。
「スナイパーのレーザーサイトだ。タツオ」
「はい。撃ちました」
ほぼ同時に気付いていたタツオが、風音の指示と同時にトリガーを引いて敵を倒していた。サプレッサー付きなのでほぼ無音での狙撃であり、こちらの位置も気付かれてはいないはずだ。
「さすがタツオ。やっぱり私の子だね」
風音の言葉にタツオがくわーっと鳴く。
だが突如として遺跡から赤い煙が上がった。それを見ながら風音が眉をひそめる。
「けど、倒されたのは気付いたか。タツオとエミリィは周辺にスナイパーがいないか警戒して。そんでレームにシップー、ジンライさんは起動しているバスターウォーカーに 雷神砲(レールガン) で破壊。急いで」
「はいよっと」
「うむ。狙うぞシップー」『うむ。狙うぞシップー』
「なー」
その返事とともにすでにバスターウォーカーへと砲身を向けていた 雷神砲(レールガン) の火が噴き、直撃したバスターウォーカーが倒れて爆発を起こしていく。
その状況に敵が次々と散開していくが、図体のでかいバスターウォーカーは逃げきれず、さらなる砲撃に敵が大混乱へと陥る。
「良し。上手くいったみたいだね」
それらの様子を見ながら風音はティアラの元へと歩いていく。
「そんじゃティアラ。友情タッグで一気に行こう」
「はい」
それから差し出された風音の手をティアラはひどく大事そうに握った。その様子に風音が首を傾げる。
「ティアラ?」
「カザネ、わたくし……最初はカザネのことを王子様だって思っていたんですのよ」
「?」
唐突な言葉にさらに首を傾げる風音を見て、ティアラが少しだけ泣きそうな顔で微笑んでから口を開いた。
「でも、今はちゃんと手を取り合って……こうして並んでいる。多分、あの時見た夢は……わたくしの望みはひとまずは叶ったのでしょうね」
最初に惹かれたのは、森の中でその手を掴んだとき。かつて見た夢は今はこうして現実となっていた。そして、彼女の瞳にはその先に続く未来が見えていた。だからこそ、ティアラは迷いなく風音に向き合える。
「カザネ、このダンジョンを攻略し終えたら話したいことがありますわ。聞いていただけます?」
「うん。聞くよ。親友の言葉だからね」
ティアラが何を話そうとしているのかを風音も分かっていた。ここまでともに過ごした仲間なのだ。風音はティアラが何を考えているのかをすでに察していた。
それから心の内からにじみ出てくる寂しさを振り切って風音は強く頷くと、正面の遺跡へと視線を向ける。
「けど、今は戦闘に集中。やろうティアラ」
「ええ、カザネ。来なさいルビー」
その言葉とともにティアラの指輪から炎が噴き上がり、それが獣の形へと変わっていく。そして風音のスキル『友情タッグ』で増幅されたティアラと大型蓄魔器の魔力を吸いとって、彼女らの前に黒と赤の縞模様の炎のグリフォンが現れた。
それこそが殲滅魔獣とも呼ばれるツヴァーラ王国の守護獣ルビーグリフォンであった。
「さあ、ルビー。眼前にありしすべてを滅せよ。滅の炎を今ここに!」