軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第八百九十三話 戦いを始めよう

◎ゴルディオスの街 冒険者ギルド事務所 支部長室

「いきなりなんです? 乱暴はしないようにと伝えたはずですが」

部屋の中でアンネが険しい顔をして声を上げていた。

そのネイの秘書にして妻のひとりでもある彼女の前にいるのはソルダード王国軍の兵たちだ。先ほどまで大人しく事務所内で監視をしていた彼らは今、アンネを呼び出して取り囲んでいた。

「おっと、失礼。けれど旦那さん、もういないって話だぜ」

「魔物にさらわれたんだとよ」

「何を馬鹿なことを。バトロイ工房は街の中よ。魔物が出るもはずもないでしょ」

憤るアンネの反論にも、兵たちはニヤニヤとするばかりであった。

「そうかもしれない。だが俺らはそう知らされているし、それこそが俺たちにとっては正しい情報だ」

兵たちとてアンネと同じ考えだ。

森やダンジョンの中の話ではないのだ。街中で、しかも厳重に警備された建物の中で魔物に襲われてさらわれるなど、、基本起こり得る話ではない。

であればルネイがいなくなったのは『別の原因』だと考えるのが自然な流れだ。兵たちはそれを、何かしらの不都合が起きてバルカンに殺されたのだと推測していた。

だからこそ彼らはバルカンが方針を変えたのだと思い、こうして行動に出たのだ。

「なあ、あんたも分かってるだろう? お優しいバルカン様はもう痺れを切らしたのさ。だったらアンタも俺たちと仲良くしておいた方が得なんじゃないのか?」

アンネが睨むが男たちは動じない。彼らは彼女の弱みを握っている。

「なぁ。分かってるだろ? ここにいる女どもはアンタにとっちゃ、みんな妹みたいなものなんだろ。だったらアンタは俺らに逆らえない。違うか?」

そう口にする男の目の色に情欲が混じっていた。

だがアンネにはどうすることもできない。人質が多すぎるのだ。

ルネイが本当に死んだのであればもう何もかもがどうでも良いという気持ちもあるが、さらわれたのであればまだ希望はある。ルネイに顔向けできないような状況をアンネは許せない。

だから覚悟を決めた目で兵たちを見て、

「他の子には手は出さな……」

そう口にしようとしたところで、兵たちが一斉に固まった。そして、悲鳴すら上げるまもなく全員の身体に雷が走り、煙を上げてその場に崩れ落ちたのである。

「例え、勘違いでもお前の口からその言葉は聞きたくないな」

「る、ルネイ!?」

アンネが声を上げる。倒れた兵たちの後ろにいるのは彼女にとっての最愛の人物だ。

スキル『インビジブルナイツ』を解いて姿を現したルネイが少しばかり申し訳なさそうな顔をしてそこに立っていた。

「まあ、私がふがいないのが悪いのだけれども。ともあれ、間にあって良かったアンネ」

「もう、心配かけさせないでよ。ホントにもう」

そう言って抱きつくアンネをルネイも抱きしめながら「すまない」と一言呟く。

最愛の人にそのような思いをさせたことはルネイにとっては痛恨の極みであった。だが、そんな場面に野暮天の声が響く。

「ルネイさん。おかわり持ってきたよ」

それはドアを開けた風音の声で、廊下からはルネイの嫁たちが顔を出して部屋の中を覗いていた。

それからルネイの頷きを合図に全員が部屋になだれ込んでいく様を風音が「凄いなぁ」と呟きながら見ていると、横にいた男性職員が「ハァ」とため息をついていた。

「ええと、大変ですね?」

「いえ、慣れてますから。私は妻がいるのでまだいいんですけどね。やはり、独身組には堪えているみたいですよ」

職員の遠い目に風音も同情せざるを得ない。なにしろルネイがこの街に来てからというもの事務所内カップルはすべて女性側の自主性によって解体され、女性職員はみなルネイの元へと流れているのだ。

顔、家柄、金、地位。さらには性格と包容力。ルネイは、あらゆるすべてを持つ男である上に兎も角マメな男でもあった。

「まあ、あっちはあっちでいいとして、状況はどうなの?」

風音にはハーレム男のプライベートよりももっと重要な案件がある。バトロイ工房を出て隠れてしばらくした後、風音はルネイとともに冒険者ギルド事務所へと向かっていた。そしてナビの操作するジュエルカザネとタツヨシくんツインソード、さらにはケイローンより分離させたタツヨシくんドラグーンにユッコネエとともに周囲の兵を各個撃破し、冒険者ギルド事務所を解放していたのである。

「はい。カザネさんの力で近辺の兵を捕らえることには成功しましたし、事務所内の安全も確保ができました。ミンシアナ軍もまもなく到着し、ここの防御も固められるはずです」

「了解。うん、街の周囲の敵の姿はなし。ミンシアナの兵隊さんが近付いてるのも見える。ギルドの倉庫が押さえられているのは痛いけど、こればかりは仕方ないね」

すでに賽は投げられている。風音は敵の感知も気にせず、知恵の実を食して知力を増大させながら遠隔視で街全体の様子を眺めていた。

「それで、どうしますかカザネ」

妻全員との抱擁を終えたルネイが近付いてきて、風音に尋ねる。キリッと真面目な顔をしているものの、女性十数人が並び立っている様子はただのハーレム野郎である。

それに風音が顔をひきつらせながらも「そうだねぇ」と返す。

「相手が大きく集中しているのは四カ所だね。倉庫街と街の正門前。それに 金翅鳥(こんじちょう) 神殿前とバトロイ工房前」

その数は総勢で二千近い。現在の街に駐留しているミンシアナ王国軍の三倍ほどだ。その上に、敵もここまでを生き抜いた精鋭揃いである。

「正門前はミンシアナ王国軍に任せるとして、他はこっちで手配してケリを付けるよ。そんで私たちは見回ってるのを個別に撃破しよう。場所は私が転移させるから」

「転移で奇襲ですか。けれども、向かった先は敵陣の真っ只中ということですよね?」

「ああ、それも私が誘導するから大丈夫。何かあったら増援させるし」

風音の想定は『テレポート』と遠隔視、それに『情報連携』の合わせ技である。今の風音であれば『情報連携』で街半分をカバーするぐらいのことは可能なのだ。

「なんでもありですね」

呆れ顔のルネイに対して風音が笑み返し、それからすぐに事務所の入口にミンシアナ王国軍の兵たちが入ってきた。合流は成功。であれば、後は行動あるのみ。

風音は直樹と弓花にすぐさまメールを送信し、それからコマンドゴーグルを介して白の館にも連絡を送った。

そして今回の直接戦闘の一番槍はあの男であった。文字通り弾丸のように真っ先に飛び出していた。

◎ゴルディオスの街 バトロイ工房前

「な、なんだ、あいつは?」「おい。ふざけるなよ」「刃が通らん」「どういう連中なんだ!?」

そして、いくつもの悲鳴がバトロイ工房の前で木霊していた。魔物の出現により警戒態勢に入っていたバトロイ工房前にいる兵士たちは今、たったふたりと一匹の襲撃を受けて大混乱の極みにあった。

「温いな」

『こんなものか、ソルダードとは』

「なー」

その襲撃者の正体はジンライとメカジンライとシップーである。風音の合図とともに彼らは真っ先に白の館を飛び出てバトロイ工房の兵たちへと特攻を駆けたのだ。

敵の大将を捕らえて比較的穏便にことを運ぶ予定だと思っていたジンライは、己の出番が回ってきたことに歓喜していた。

『ぬわっははっはははははははは』

「くっ、それいいなワシ」

『記憶を共有すればそっちでも味わえるわい。だが後でな』

メカジンライがそう言いながら、敵の攻撃を除けもせずに突進して力で押していく。元よりメカジンライはアダマンチウム製のボディであったが、その上に今はダンジョン内で発見したオリハルコンの鎧を着込んでいた。メカボディの出力があれば重装備になっても機動性は損なわれない。まるで砂をかき分けるように兵たちを吹き飛ばしながらメカジンライが進み、シップーに乗ったジンライもまた敵を蹂躙していく。

「隊長。駄目です。まるで歯が立ちません」

「狼狽えるな。戦え、馬鹿者が」

兵たちの泣き言に怒鳴った隊長からも冷や汗が流れていた。敵はあまりにも強い。この工に五百は兵がいるはずだが、それをすべてぶつけても勝てる気がしなかった。

「ええい。工房内の兵たちもすべて呼べ。バルカン様の元に行かせるな。あれにこの陣を抜けられたらことだぞ!」

だが隊長もそう叫ぶしかない。ここまでが上手く行きすぎていたが故に、忘れていた事実を彼らは再び認識し始めていた。

ここはA級ダンジョンのある街なのだと。凶悪な魔物を凌駕する化け物たちの住まう地なのだと。

そして彼らの前にいるジンライこそ軍隊に匹敵すると言われているランクSを超える、ランクSSの冒険者なのだ。

この街でもっとも敵対してはいけない相手を前に、彼らは勝ち目のない戦いを続けるしかなかったのである。