作品タイトル不明
【悲報】信頼して預けていた大事なあのこが見知らぬ男にNTRれた件について
◎ゴルディオスの街 バトロイ工房 来賓室
「バルカン・ソルダード王陛下。予定通りに我が軍はダンジョン入口と冒険者ギルド事務所及び倉庫街を含む街の約半分の占拠を完了いたしました。中央通りを中心としてミンシアナ王国軍とは膠着状態となっていますが、現在戦闘にまでは至っておりません」
ソルダード王国の紋章が飾られた鎧を着た兵が敬礼をして、その場に鎮座している小柄な男へと報告する。まるで子供のような小柄な身体だったが、その男の顔は成人男性のそれであった。
「ご苦労。すべて予定通りということか。領主にはもう連絡は入れたな」
「はっ。我々ソルダード王国軍は無闇に命を散らすことを由としないと。目的を果たせば早々に立ち去る旨、バルカン様の言葉通りに伝えてあります」
「というわけだ。冒険者ギルドも冒険者たちには動かぬように働きかけておいてもらいたい」
部下の指示を聞いたバルカンが目の前のソファに座っている男に声をかける。そこにいたのはミンシアナの冒険者ギルドマスターであるルネイである。
「なるほど」
ソルダード王国軍を名乗る軍隊が唐突に街に侵攻し街の五割を占拠した後、ルネイはただひとりでこの場に交渉に来ていた。そして今、首謀者である男と向かい合っていた。
「バルカン・イシュラート様。今はバルカン・ソルダードと名乗っておられるのですね」
「隣の国の辺境貴族の名などよく知っているな」
バルカンの言葉にルネイは頷く。
「イシュラート家は、王位継承権こそないものの四代前に王族が嫁いでいる家柄です。であれば王族のほとんどが抹殺された今のソルダードにおいてあなたは非常に重要な立場にいる人物です。情報こそがギルドの命綱ですからね。それぐらいは掴んでいますとも」
そのルネイの言葉にバルカンが「ふんっ」と鼻を鳴らす。
「しかしですね。働きかけと言っても冒険者ギルドは冒険者を支配しているわけではないのですよ。強制はできません」
「ふん。我らとて手荒な真似は望まん。ただ、戦闘にでもなれば兵たちの怒りは弱者である民にも向かうだろう。今は大人しくさせているが、我々も盗っ人相手との闘いに相当に気が立っているのでな。それを押さえつける保証ができん」
「まあ、呼び掛けはしましょう。ただし我々は、仲介はできても彼らを止める立場にはありません。そして冒険者ギルドはどの国とも中立を保つ義務もある」
「建前だな」
バルカンの言葉にルネイが肩をすくめる。
「だからこそ、国家を越えた組織なのですよ。我々はね」
「なるほど。だが今この街は我々ソルダードの支配下にある。冒険者はともかく、アイテムの流通に関しては国の判断を必要としているな。であれば、あのライフルやミサイルとやらを我々がいただいても問題はないな」
接収するというバルカンの言葉にルネイは目を細めてからため息をついた。
「女王陛下にはアレを流すのを禁じられているのですがね。まあ、今はソルダードの地と言うことですか。ミンシアナとの交渉はそちらでお願いしますよ」
事実上の了承の言葉にバルカンがニンマリと笑う。
「ああ、当然だ。ユウコ女王には後ほど詫びを入れておこう。今後、私が国を掌握した際には今までの遺恨を水に流し、仲良くやっていきたいのでね」
そう言ってからバルカンは立ち上がった。それから部下を伴って外へと出ようとしたとき、ルネイが声をかけた。
「ああ、バルカン様。ところで」
「なんだギルドマスター?」
「我が伴侶たちは無事でしょうか?」
その言葉にバルカンが眉をひそめた。報告には受けていたのだ。目の前の男が、そのまじめな風貌に似合わず二桁の女人を囲っているという極めて女誑しな人物であることを。
「事務所職員の女性のほとんどがおまえの妻のようだったようだが……まったく。いや、大人しく作業をさせているはずだが、それがどうした?」
「そうですか。いえ。一応の忠告です」
そう言ってルネイの目から強力な威圧が放たれ、バルカンはそれにも持ちこたえたが、控えていた兵士は「ヒッ」と声を上げてその場で転ぶ。そのことに気にもかけずにルネイは話を続ける。
「冒険者ギルドは中立とはいえ、自衛する権利を放棄してはおりません。妻や職員に手を出せば、相応の報いは受けていだたく……と、それはお忘れなきようお願いします」
「ふんっ、承知した」
そしてバルカンが、続けて起きあがった兵がバルカンを追って慌てて外に出ていき、バタンと部屋の扉が閉められたのだった。
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「エルフが。囚われの身でなんと偉そうな」
部屋を出てすぐである。後に付いている兵が口にした言葉に、バルカンが少しばかり苦笑した顔で肩をすくめる。
「言うな。それに捕らえているわけではない。大事な客人だ」
バルカンの言葉に兵が「は、はい」と顔を落とし、頷いた。
「ヤツがこの場にいればギルドも手は出してこないだろう。逆に我々も監視されているわけだがな」
「あの場にいて……ですか?」
「ルネイ・キャンサー、アレは元ランクAの冒険者だ。まともに戦えばこちらにも多大な被害を出しかねん。それにギルドマスターを殺せば冒険者ギルドを敵にも回しかねない。特にこの街でそれは不味い。ヤツはすべて承知なのだろうよ」
この街にあるのはA級ダンジョンだ。その中に潜る冒険者たちの中には恐ろしく強力な個人も多数存在している。冒険者ギルドが焚きつければ、ソルダードの兵たちとてかなりの損害を被るだろうことは間違いなかった。
「兵たちにも迂闊な真似をせぬように徹底させておけ。奴らもここまでの進軍で気が立っているはずだが、この街は火薬庫みたいなものだぞ。特にアレとかな」
窓の外をバルカンが見る。その視線の先にあるのは白の館と呼ばれている、とあるミンシアナの王族の館であった。
白亜の建造物の庭には奇妙なモニュメントが立っており、今も湯気が出ている温泉の施設があり、また水晶でできた林も存在していて、その幹には宝石の実がなっているという。またそこにはダンジョンの深層に生息しているジュエルラビットが放し飼いにもなっているともバルカンは聞いていた。
「よほど金のあり余っているふざけた道楽者が造ったようだな。まったく馬鹿げている。こちらにも分けて欲しいぐらいだが、それを護っているものが厄介すぎる」
一番の問題は門の前に立っている赤髪の大男であった。あれには現在のバルカンの指揮する全軍を当たっても勝敗が見える気がしなかった。
バルカンに続いて目で追って見てしまった兵がブルッと肩を震わせた。その赤い髪の男の本性がドラゴンであることを彼も知っていた。
「大丈夫でしょうか。あの館には西の竜の里ラグナの長も在住していると聞きますが」
「だからこそ、手を出させぬように徹底させておけ。面会こそできなかったが、あのトカゲどもは国同士の争いには首を出してはこないはずだ。こちらから手を出さない限りは恐れることはない」
「ハッ」
副官が神妙な顔で頷く。ソルダードの騎竜の多くは東の竜の里より預けられたものだが、東と西の竜の里は同盟関係にもある。ソルダードの王を名乗る以上は、バルカンも貴重な航空戦力を失う真似をするわけには行かなかった。
「我々の目的はA級ダンジョンより出てきた強力な武器防具とポータルと呼ばれる魔法具だ。ソレらとバロームより奪い取ったブラックポーションを使い、あの簒奪者から国を取り戻すのだ。それがかなうまで背中を刺される真似は避けるのだ」
そこまで言ってから、含みを持った顔でバルカンが笑う。
「無論、国を取り戻すまでだが……な」
その言葉には兵も笑う。どちらもミンシアナ王国など所詮は田舎の小国である……という非常にソルダードらしい認識の持ち主であったのだ。
それからふたりは衛兵が護っていた、とある部屋に入っていく。そこは厳重に封印された部屋であったが、すでに宮廷魔術師たちによって封印は解かれて開かれている。
「そして、これか」
「はい。ミンシアナのゴーレム兵だそうです」
そこにあったのは三メートルはある、黒光りした巨大な甲冑だった。
「外に置かれていた、命じて操作するタイプのゴーレム兵ではなく、ゴーレムの鎧なのだとか」
「使い方は?」
「工房の人間のほとんどはすでに逃げ出していましたので、残った職人からはあまり話も聞けませんでしたが……これを」
そう言って兵が取り出したのは一冊の本だ。
「ジョーンズ・バトライにモンドリーか。我が軍に欲しかったな」
そう言いながら、バルカンが本を受け取る。
「探させてはおりますが」
「これ以上、連中を刺激するわけにもいかん。現物で我慢するしかあるまいな。それでその本は?」
「ゴーレム魔術のグリモアです。魔術に素養高いバルカン様であれば、使用するには問題ないかと」
「なるほど。これはゴーレム魔術で操作するのであったな。であれば」
そう言ってバルカンが目の前のゴーレム兵、記述に寄ればロクテンくんと書かれているものを見上げた。
「私がこれを纏い、反撃の狼煙を上げようではないか。あの国を奪ったバロームなる簒奪者を殺し、ミリエール王女をお救いする私の英雄譚の幕上げとなるのだ」
そう言ってバルカンが高笑いをする。
それに呼応するかのようにロクテンくんのバイザーの中にある仮面が輝き出していた。その仮面の名は『覇王の仮面』。同様にロクテンくんの外殻である『第六天魔王の鎧』、さらには『第六天魔王の大太刀』までもが共鳴し始めてもいた。それらは名の通り『王のための装備』だ。
それは自らを王と望むバルカンに感応し、今まさに不気味な胎動を始めていた。
そして、それらが置かれた台座の奥にある『龍神の大剣』までもが……