作品タイトル不明
第八百七十二話 顔を合わせよう
◎ 金翅鳥(こんじちょう) 神殿 倶利伽羅竜王の塔前 ダンジョンポータル
倶利伽羅竜王の塔の前にあるダンジョンポータル。
そこは魔物が近付かないセーフゾーンのひとつであり、周囲に動くもののいないエリアであった。
ダンジョンマスターなどといった限られた存在でしか知らぬことだが、ダンジョンによって生み出された魔物たちには、そうしたエリアへは積極的に立ち入らないように制約がされている。
故につい今まで、その場には動くもののない、静けさを保った空間であった。しかし、それは破られる。
突如としてダンジョンポータルから光が漏れ始めたのだ。やがてはポータルを中心に光の柱ができると、その中から人影がいくつも表れ、光が消えた頃には風音たち白き一団がその場に並んでいた。
「とうちゃーく」
トンッと風音がダンジョンポータルの台から降りて周囲を見回す。そこには風音たち以外の人も魔物も存在していなかった。
「んー、他のパーティはいないみたいだね」
「私たち以外はだいたい四日前にダンジョンに入ったんでしょ? だったらもうそれぞれのエリアに向かってるんじゃないの」
弓花がそう口にする。
リーダー会議が行われたのは四日前。他のパーティは会議後すぐか翌日には出発していたようだが、風音たちはライルとエミリィの帰還を待っていたので、ダンジョンに入ったのは一日前である。
「途中で追い抜いた可能性もあるがな」
横からジンライがそう口をする。
ダンジョンの第一階層から通常のポータルで移動できるのは第六十階層までだ。そこからダンジョンポータルのある第七十階層までは自力で踏破する必要があった。
そして、ダンジョン内の移動速度は白き一団に敵うパーティはいないのだから、ジンライの言葉が正解である可能性も高かった。
「ま、重ならないように分担したんだしね。どっちでもいいよ。そんじゃ、まずはとこれを確認ー」
そう言って、風音が第八十階層群の全体図が描かれた球儀をアイテムボックスから出した。球の中に入った竜の心臓には『フライ』の魔術が付与されているため、それは自然にその場に浮いた。それに風音が虹杖の先で赤く塗られている場所を差した。
「今、私たちがいるのがここね。そんで向かう先はこっちの遺跡」
その地図を見ながらジンライが尋ねる。
「確か、今回はカルラ王の要望した遺跡に向かうということだったな。信用できるのか?」
そのジンライの視線は、複座型に改良したタツヨシくんツインソードの頭部にタツオと共に乗っている幼鳥カルラ王に向けられた。ジンライの問いに後ろに座っているタツオのくわーっという鳴き声に続いて、幼鳥であるカルラ王が口を開く。
『ふん。私はスキルとして風音の召喚体となった身だ。主の命を脅かす真似をするつもりはない。まあ、仲間を裏切る気もないがな』
ハッキリというカルラ王の言葉に、ジンライも眉こそひそめるが特に反論は出なかった。
実際にカルラ王がここまでに口にした中にも特に偽りはなく、今言葉にしたようにガルーダ族のことを漏らすこともしていなかった。
そして、カルラ王がダンジョンのことで唯一口を出したのが、攻略する遺跡の指定であったのだ。
「ダンジョンの秘密に関してもなんもしゃべらないし、想像以上に役に立たないよね」
『ダンジョンの仕組みについてはプロテクトされてるのか、記憶が曖昧でな。まあ、以前も話そうとするとプロテクトがかかっていたし、記憶にもプロテクトがかかっているのだろう。場合によっては記憶自体がこの身には保持されていない可能性もある』
そう口にしたカルラ王が天を見上げながらぼやく。
『私とて不本意なのだ。できれば魔力体を維持できうる限りは、地上で温泉に浸かりながら過ごしたかった』
「こんの極楽鳥。コテージミニにも浴場はあるし、それでひとまずは我慢しなよ」
「私はシュワシュワがあるヤツが一番好きなのだ」
「我慢しなさい」
カルラ王の好きな炭酸泉は温泉珠ではなく、ゴルディオスの街で掘って出した温泉だ。だからダンジョン内へは持ち込めない。
風音もいつかは自前の温泉珠を造りだして、炭酸泉の温泉珠を持ち歩きたいと考えてはいたが、転移魔術を使いこなせているわけではないので当面は無理な話である。
「そんじゃあさっさと先に進もうか……と。ん?」
そして風音が目標も定め、目的地に向かって進もうと考えたときである。ダンジョンポータルが光り出したのは。
「誰か来るみたいだな」
『ですね。けど、魔物の可能性もあるんじゃないですか』
『ないとは思うが確証はないな』
カルラ王の返答を聞きながら、レームもタツオも少し緊張した顔で、己の得物に意識を向ける。だが、ダンジョンポータルの前に転移してきたのはレイブンソウルとドッグソルジャーのクラン『黒き牙』だった。当然、敵ではない。
「おやおや風音さん」
「風音か」
そして、各パーティのリーダーであるトールとオロチが風音たちの前へと近付いてきた。それにミナカも弓花に手を振って、弓花も振り返していた。ミナカは弓花の数少ない普通のお友達のひとりなのだ。
「オロチさんたちも今来たんだ」
「そちらも同じ様だな。とはいえ、ここで分かれることになるが」
「だね。分担が別だからね」
両者はちょうどこの場から右と左に分かれての移動である。道中が重なっていないので、このままここでお別れであった。
「ジンライ師匠」
「うむ、カールか。元気そうだな」
「はい。また稽古を付けていただきたく」
ジンライは弟子にこそしていないが、同郷でよくなついているカールに対しては非常に好感を持っていた。まるで孫のようにも思えているほどである。
「ふむ。面白いものが手には入ったのだ。お前とユミカ、ふたりと相手をするのも面白いかもしれん」
その会話を後ろで聞いていた弓花は(あ、メカジンライを自慢したいんだろうなぁ)と思ったが、口には出さなかった。そんなジンライや弓花が知己と話している間に、風音もトール、オロチと会話を交わしていた。
「ところでカザネさん。あの話し合いでは聞きそびれたのですが、指定した遺跡には何があるので?」
「さあ? 私もよくは知らないんだよね」
その返答は事実である。風音はカルラ王の言葉を聞いて、決めただけなのだ。
「トール、行くぞ。風音たちもどうやらすぐに出る予定だったみたいだからな」
「さいですな。ほいやっと」
トールがアイテムボックスから戦闘車両が二台を出してきたのを見てジンライたちは驚いた。だが、それがアイテムボックスのプラススキルによるものであることを風音は理解していたため、目を細める程度であった。戦闘職ではない、 探知者(レーダー) の職種であるトールはダンジョン探索に於いて便利なスキルを多数持っているのである。
「永久バッテリーもありますし、足には困りませんね。ははは、これを手に入れられただけでも来た甲斐ありましたよ」
トールはそう言って戦闘車両に乗り込み、続けて他の『黒き牙』の面々も次々と車両の中や荷台に乗り込むと、風音たちへと別れの挨拶をして去っていってしまった。
「さっさと行ったな」
直樹の言葉に風音が「うん」と頷いた。
「けど、意外かも。トールさんはみんなに好かれてるんだね」
風音の言葉にジンライが眉をひそめたが、実際にクランを率いているのはトールのようだった。オロチはどちらかと言えば参謀に近い立ち位置で、特にミナカがトールにべったりと依存しているように見えていた。
「ミナカも故郷から離れて久しいからね。お父さんみたいな人が近くに欲しいのかもね」
「ああ。あの人も、悪い人じゃあないと思うぜ」
弓花の言葉に直樹が頷きながら、そう言った。
直樹は以前に命を救われているため、トールへの印象は非常に良いようだった。その言葉にジンライは「ならば良いのだがな」とだけ呟く。その表情からは、ジンライが何を考えているかは読み取れない。
「そんじゃあこっちも行こうか、ユッコネエ!」
「にゃー!」
そして風音が自分の手とユッコネエの前足の肉球をパンッと叩き合わせると、その場に合体したサンダーチャリオットトレインが出現した。
「前回と違って、今回は隠れてはいかないってわけ?」
弓花の問いに風音が頷く。
「まーある程度は敵の底も見れたし、偵察ももう必要ないからね。だから今回からは積極的に戦っていこうと思う。それにこのトレインならミサイルの直撃でも耐えきれるし。隠れて進むよりは安全だと思う」
サンダーチャリオットトレインの周囲には紫電結界という防御フィールドが張られている。銃弾やミサイルもそらせるし、たとえ喰らってもトレインの装甲ならば耐えきれるのはすでにテスト済みであった。不意を打たれて致命傷を負うよりは確かに安全ではあるが、エンカウント率がどの程度上がるのかは不明であった。
そして、一行は先へと進んでいく。その先は第五遺跡と便宜的に付けられた大型遺跡。そこはカルラ王が何かしらの意図を持って指定した遺跡だった。