作品タイトル不明
第七百七十話 仲直りをしよう
スタミナ丼会食パーティでの一件はビームが空を飛び交い、雲が割れ、爆発が起きていたことはゴルディオスの街からでも見えていた。だが、間に森などが挟まれていたために詳しい戦闘を見た者はおらず、状況を把握できた者は街の中にはいなかった。
そのために街中が一時騒然となっていたが、いまいち状況が判断できず、それからしばらくして冒険者ギルドマスターによる『白き一団の演習』との発表が行われたことで『またか』という反応と共に住人たちも落ち着きを取り戻していったようである。
元よりこの世界において、街の外というものは法の外という認識でもある。魔物や盗賊に襲われようとも自己責任の範疇に収められてしまうのが共通された常識であり(襲われれば軍や冒険者が動く場合は当然あるが)、そうした点から見ても今回は責任問題には発展しなかった。勿論、そこに権力という力が働いたこともまた事実ではあったが。
ともあれ弓花の日常は戻り、ゆっこ姉は心に深いトラウマを抱えて「帰る」と言いながらフラフラと街を出ていった。そして翌日、昨日の喧噪が嘘のように街は元の静けさを取り戻していたのである。
◎ゴルディオスの街 中央通り
「銀狼将軍だ」
「 血塗れの狂戦士(ブラッディベルセルク) だ」
「すげえ強そう」
ガシャンガシャンと音が聞こえてきそうだが、ほとんど音を立てずにその 全身甲冑(フルプレートメイル) を纏った者がチンチクリンと二体の魔獣と共に歩いていた。
銀色の 全身甲冑(フルプレートメイル) を来て、その上にプラチナ色をしたオーヴァーコートを羽織った狼を象った仮面を被った者。それは 血塗れの狂戦士(ブラッディベルセルク) 、或いは最近は銀狼将軍とも呼ばれるようになった弓花である。
「いや、弓花はそれでいいの?」
完全武装で歩いている弓花に対して風音が尋ねるが、弓花は「なんかこっちの方が好意的だし」と返した。
麒麟化弓花から戻った後、神狼の鎧はその装甲を増していた。名も神狼の甲冑へと変化し、同時に聖者の槍ムータンも神槍ムータンへと変わっていた。そしてムータンは放つ神聖力が神力へと変わったが特に負荷もなく、鎧も装甲が増したにも関わらず重量も可動範囲の変化もなく、使い勝手については以前となんら変わらないようだった。
まるで浮気をした亭主が「ごめんなさい。これで勘弁してください」とでも言うかのように以前通りに弓花は己の進化した装備を使えていたのである。
「もう、このままの私の誤解を解くのはあきらめたわ。普段買い物するときはバレないように変装すればいいし、ひとまずは受け入れられているこの姿で過ごした方が精神的に楽なのよ。ふふふふふ」
弓花が遠い目で笑いながらそう口にした。
実際に今の弓花の格好は、ここまでに積み上がった評判に負けぬ力強さがあったし、人々も何となくその姿には納得しているようだった。また、今の弓花に向けられている視線はアモリアの王都コーダの時のように、どことなく恐れ敬うものであるように風音にも感じられていた。
なお、お付きの召喚獣であるクロマルも以前よりも一回り大きくなっており、刀自ら具現化させたらしい鞘付き装具に収まった龍神刀『雷火』を身に付けて一緒に歩いていた。
並ぶ風音にしても鬼皇の鎧からは狂い鬼の威圧が放たれているし、その横にはユッコネエと、頭にはタツオが乗っているのだから、非常に目立つふたりではあったのだ。
「クロマル、刀重くない?」
「ウォンッ」
弓花の問いにクロマルが問題なしと力強く答える。
クロマルも龍神刀を咥えていない限りは元の狼の姿のままらしく、弓花としては毛がある今の方がいいなーと思っていた。ついでに言えば元ヒノカグツチの龍神刀『雷火』もようやく自分が扱われることに歓喜しているのか、妙に暖かい輝きを放っているようでもあった。
「あ、ユミカだッ。カザネもー」
それからしばらく歩いているとエミリィが声を上げながら正面からやってきた。ティアラ、レーム、それにメイド人形のノアもその後ろにいるようだった。
「やは」
「あれ、朝から出掛けてたんじゃないの?」
風音が手を挙げ、弓花が尋ねる。その弓花の言葉通り、エミリィたちは朝食後すぐに出かけていた。その際に弓花たちも誘われたのだが、今回は用事があったために断っていたのだ。
「ああ、レームのね。このメイドの服を買いに行ってただけだから、もう用事は済んだのよ」
このメイドとはレームと以前共に暮らしていたメイド人形のノアである。野良メイドであったノアは今では飼いメイドとして風音コテージの雑用を任されることとなったのだが、肝心のメイド服がボロボロであったために今日買いに行っていたのである。
そしてそのノアも仮で着ていた普通の服装から今は真っ当なメイド服へと替わっていた。
「そっちこそ、用事があるって言ってたじゃない? これからなの?」
「うん、そうだよ。ルネイさんとこに手続きとか報告とかお詫びとか色々としにいく必要があってね。これから冒険者ギルド事務所に行くところ」
「まあ、今回は私のせいで色々と迷惑かけちゃったしねえ。できることがあれば手伝わないと」
弓花が申し訳なさそうな顔をしてそう口にする。正常に目覚めてからの弓花はそうして微妙に謝る癖がついていた。
「もう、今回は別にユミカのせいじゃないでしょ。あんなのどうしようもないんだから、気にしちゃダメよ」
対してエミリィがズイッと前に出て弓花に言う。それには弓花もガシャコンとマスクを開いて素顔をさらしながら「う、うん」と言葉を返した。その表情には若干の戸惑いがあった。以前のエミリィであれば、弓花と普通に接してはいても節々で微妙な距離があったのだが、今はそれがないのだ。
「私がそうだったみたいにユミカって誤解されやすいんだから、言うときには言わないとダメだからね。もう」
「はい、ごめんなさい」
力強く言われて弓花がシュンとなっていた。その弓花の腕を手にとってエミリィが言う。
「ほら、私たちも一緒に行ってあげるから、冒険者ギルドだっけ? 行こう!」
そのまま弓花の手を引いて歩いていくエミリィを見て、タツオがくわーっと鳴いた。
『おふたり、仲良しさんですね』
「まあ、わだかまりも解けたようですしよろしいんじゃないですか?」
ティアラが苦笑して、風音は少しばかり複雑な顔をしていた。
昨日に意識を戻した弓花に対し、エミリィはここまでの非礼を詫びて弓花と友達宣言をしていた。まあ、それは良いのだ。仲良きことは美しきことだ。だが、そのきっかけが弟の失恋であることは風音にとっては悲しいことではあった。弟の未来がまた見えなくなったことにため息をつきつつ、風音は気を取り直して、弓花たちの後を追うべく歩き出そうとしたところに、その横にやってきたレームが尋ねた。
「んで。ひとまずはこれで問題解決なんだろ。となると次はそろそろダンジョンに潜る感じかカザネ?」
そのレームの問いに風音は「うん、そうだね」と頷いた。
「精神攻撃対策の紅蝶のアミュレットも手に入れたことだしね。ルネイさんところの用事を済ませたら一度打ち合わせをするつもりだよ」
そもそも風音たちがアモリアに訪れたのは、魔法具オークションだけが目的であったわけではなく、ダンジョン対策用に精神耐性の魔法具を手に入れるためでもあったのだ。
「親方にはいくつかの装備依頼をしてるし、そろそろ本格的にダンジョン探索して遅れを取り戻さないといけないからねえ」
その言葉にティアラとレーム、それにタツオとユッコネエも頷いた。
すでにダンジョン探索中断から一ヶ月以上は経っている。その間にも他のパーティはダンジョンに潜り続けていたのだ。それに追いつくためにも風音はダンジョン探索を早々に再開するつもりであったのだ。