軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第七十四話 帰り道を聞こう

◎王城デルグーラ

「男の子には試練が必要だと思うのよ」

「子供に自分の理想を押し付けるのはやめようよ」

女王の間に通された風音は早々にゆっこ姉の妄言を聞かされ、ツッコミを入れる。DQNネームとかそういう話題はもういいのだ。

それにゴホンと横からロジャーが咳払いをする。

「むぅ」

風音が仕方なく膝を突く。周囲には他の騎士団や何人かの文官もいる。あまり好きには話せないらしいと察した風音も空気の読めない子ではないところを見せることにした。

「それで依頼報酬のこと、お聞かせ願いたいんだけど。女王様」

改めて丁寧な物言いのつもりの口調で風音が尋ねる。

「可能性のある場所を知っているの」

風音の問いにゆっこ姉がそう答える。

「わたしは実際に見たのよ。練馬ナンバーの車を。東京タワーの姿を。携帯電話を持って歩く人たちをね」

ロジャーを始め、周囲の人間が何の話だかが分からず首を傾げた。

「それ、本当に?」

風音が信じられないという風にゆっこ姉をみる。だがゆっこ姉は首を縦に振り肯定する。

「タツヨシ王のことはわたしも知っている。千年前の統一王タロウ・ヤマダのこともね」

そんな人物もいたんだーと風音は驚く。

「ですがわたしがそれを見たことも事実。そして見た場所は『あるダンジョン』の最奥にあります」

「ッ!?」

風音の顔が引き締まる。

「そこは今はかなりの難易度のダンジョンになっていてね。今のあなたたちを送り込むのは危険だと思っています。たかだか4階層までしか潜ったことのないような初心者に教えるなんてありえないとね」

ゆっこ姉がそう告げる。その言い様は昔の、ゼクシアハーツをまだやりたてだった頃と似ていた。ゆっこ姉は普段優しいがそういう部分では厳しい。分不相応を嫌うのだ。

「自分たちがやれるということを示せと?」

風音の言葉にゆっこ姉が頷く。

「見事竜を倒した暁にはそのダンジョンの名を教えるわ」

風音はその言葉に少し考えた後、「分かりました」と頷いた。

(ゆっこ姉が嘘でこんなこというわけないし、自力で探すってのは無理だしなあ)

ならば実際に示して、きちんと教えてもらったほうが良かろうと風音は考えた。であれば、それはもういい。続けてはもう一つの難題だ。

「それではご子息を私たちに預けてっていうのがどういうことなのか知りたいんだけど」

ご子息以降からは普通のしゃべりに戻っている。これが風音の限界だった。

「最初に言ったように男の子には試練を与えようと」

「いや、さすがに危険すぎでしょ」

「まあ、やれるところまででいいわ。まだあのこは白剣を使いこなせていないから、それがある程度使えるようになるまでしてもらえれば良い」

「実戦での成長を狙ってるっていうこと?」

「あのこはわたしに似て魔力量は生まれつき高いから条件としては問題ないはずなの。でも未だに使いこなせていないのは、多分振るう機会がないからだとわたしは考えているわ」

それは間違った考えではないだろう。特にあの剣の特殊攻撃『ホワイトファング』は使い込ませないと扱いのタイミングを計るのは難しい。

「それで私らに同行?」

風音の言葉にゆっこ姉が頷いた。

「信頼できる人間にと思い、あなた方に委ねました」

とまで言われては風音も頷かないわけにもいかなかった。

「一応確認だけど、ダンジョンの同行はともかくドラゴンへの同行は必須じゃなくていいよね。さすがにムリだと思うよ?」

「ええ、依頼書には勢いで書いてしまったけれど、それで問題ありません」

ロジャーらが目を丸くする。風音たちに何かしらの依頼を出したのは彼らも会話の仲で理解していたし、ジーク王子が冒険者パーティに同行することも警護のスケジュール変更とともに聞いていた。

だが相手がドラゴンというのは聞かされてもいないし、可能なこととは思えなかった。だがそれについてはゆっこ姉も風音も何も口にはしなかった。というか勢いで書くなよ……というのは、この場にいた誰もの共通した思いだった。

「では、ジークよ。ここに参れ」

「はっ」

ゆっこ姉の後ろに控えていたジークが前に出る。

「これよりお前にはこの風音の下で白剣の習得を目的とした修行の旅を課す。我がミンシアナ王家の名に恥じぬ振る舞いをし、見事結果を手に入れてまいれ」

「はい、ユウコ女王陛下。見事陛下のご期待に添える結果を手に入れ、戻ってきましょう」

ジークが母に対し、そう宣言する。それを見て風音は

(なかなか堂に入ったお子さんだなあ。装備も使い込まれたもので、いかにもボンボンていう風でもないし。まあゆっこ姉もそこらへんは分かってることだもんな)

などと思っていた。

◎王都シュバイン近郊

「てぇええええいい!!!」

銀髪の犬顔になった弓花が怒濤の勢いで攻め立てる。白銀の槍に白銀で固めたシルバープロテクターが感応し光っている。属性共鳴により神狼化の効果をさらに高めているらしかった。

「フンッぬぉおお」

対するは竜骨槍を振るうジンライ。高速化され目で追えない弓花の攻撃をそれ以前の動作からの読みと直感で打ち返し、除け、捌きっている。

「弓花が凄くなったのは分かるんだけどジンライくんも凄いわねえ?」

それを少し離れた場所にいるルイーズが驚きの顔で見ている。この試合形式の稽古は弓花が神狼化できることになった三日後から今日まで行われていた。その間、ジンライは神狼化弓花相手に負けなしであった。

『ふむ。風音の言っていたことも間違いではなかったということかの』

風音曰く、

「気力の充実に魔力が活性化して肉体自体が『若返ってる』。その上でジンライさん自体が多分まともにやり合える相手と出会えて開花し始めてるんだと思うんだ」

とのことである。風音の直感を元にした推測で、それはある程度の的を射ていた。なお魔力の活性化とともに肉体がよみがえる……というのはこの世界ではわりかしポピュラーな話であったりする。この世界の達人は、エルフほどではないがそうした事情で長寿な場合が多い。

『余のパーティの時も相当な腕前だったが、さらにここで伸びよるか』

「元気なお爺ちゃんだことねえ」

ちなみにその横ではティアラが騎士を8体並べてすべてを制御する特訓を行なっていた。メフィルスとルイーズの教えもなかなかにスパルタである。

「ツェエエエエイイ!!!」

弓花がジンライに対し、渾身の突きを見舞う。

「ふんっ」

それをジンライは『柳』で避け、

(ここだっ!)

『転』でもって弓花を地面に叩きつけた。

「ガッ」

そして衝撃に目を見開く弓花の前にジンライの槍が突き立てられる。

「うわぁ、参りました」

そう言って弓花が槍を手から離し、両手をあげた。

「ふぅ……ワシの勝ちか。しんどいな」

そう言いながらジンライは満足そうに槍を杖代わりに持って地面に座り込んだ。

「強すぎますね師匠。というかまた強くなりました?」

負けはしたが、神狼化の影響で疲れがあまりない弓花が尋ねる。

「ここ10年は魔物相手の戦いに……はぁ、特化してた影響かもしれん。ようやく対人戦とその速度にも慣れてきた」

息を切らしながら呟くジンライにそういうもんでカタ付く話なのかなあと弓花が思う。

「やってるねー」

ジンライと弓花の決着が付いた頃合いを見計らったかのように(というか見計らっていた)、風音がその場に歩いてきた。

「ん、風音か。どうだったー?」

そう言う弓花だが裏に付いてきた人物を見て「あっ」と口にした。

「うん、まあ依頼はそのまま受けることになったよ。ほら、挨拶しよっか」

風音が裏から来た人物ジークの肩を抱いて、そのまま前に出した。

「は、はい」

いきなり風音に肩を抱かれてドギマギするジークであった。

「ジーク・ワイティ・シュバイナーです。皆様方、これからお世話になります」

その言葉にそれぞれが挨拶を返す。その後風音がジンライに相談する。

「一応、そのまま王子ですーってんじゃさすがにマズいだろうってんで、ジンライさんの孫ってことでとりあえずは誤魔化すつもりなんだけど、いいかな」

若い女の子だらけのパーティに入り、温泉旅行に明け暮れ、かつての女とともに妻の知らぬ孫と一緒に旅をしている……などという噂話が流れ流れてハイヴァーンの奥様の下に届くことになるという残酷な未来を知らぬジンライはそれを気軽に「問題ない」と返した。

問題はあったのだ。それをジンライはのちほど知ることとなる。