軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第七百五十三話 協力を取り付けよう

思わず 舌鼓(したつづみ) を打ってしまったダハスを見て、風音がニヤリと笑った。もはやダハスは風音の術中にドップリと浸かってしまった。風音という天災軍師の盤上へと上がってしまったのだ。

そして風音が用意した肉が何かといえば、以前にツヴァーラで倒したニセンマンバッファローの 最高級部位(エンジェルラダー) であった。

それを風音はスキル『食材の目利き』を使って味の活性化を行い、さらには神々の炎を使って焼き上げていた。また焼き加減については、風音はスキル『直感』によりノーミスで上手に焼くことが可能であり、完璧な仕上がりとなっていた。

それから風音はできあがった焼けた肉にスキル『水晶化』をかけて水晶保存を行い、アイテムボックスに入れてここまで持ってきたのである。スキル『水晶化』は炎をも水晶に閉じこめることができるスキルで、焼けた状態の肉を水晶化して封じることも当然できたのだ。

そして水晶化も解けた肉へ最後にかけられたのは至高のスタミナ丼用に用意したタレの試作品。まだ未完成で大味ではあるが、コクの強さだけはすでに完成に近付いている。であればダハスが落ちるのも当然というもの。

そして、ダハスはニセンマンバッファローであるという風音の言葉に驚きながら「おいしゅうございました」と言ってフォークを置いた。それからダハスは後ろに控えているマッチョメンたちに指示を飛ばしたのだ。

「お前、すぐにルネア・シャドーの548年ものを。至急!」

「ハッ」

マッチョメンのひとりがサッと部屋から出て行き、すぐさまワインボトルを持ってきてグラスも用意して注ぐと、ダハスはそれを手にとって口へと流し込んだ。

「ふぅ。やはり、この味わいにはこの年のものですわね」

用意されたワインを飲み干したダハスがそう言って落ち着いた後、風音の方へと視線を向けた。

「しかし、これがニセンマンバッファローなのですか。信じられませんわ」

ダハスは純粋な驚きのままに、風音に尋ねる。

「調理法にコツがあるんだけどね」

コツとは風音のスキル発動である。その言葉にダハスが神妙な顔をしながら尋ねた。

「しかし、今のが見返り……ですか?」

確かに今の肉の味は格別であった。しかし、だからといってイチオクマンバッファローを譲る域には達していない。そのダハスの伺うような言葉に対して風音は首を横に振った。

「まあ、こちらがこういうことをできるってことは覚えていて欲しかっただけだよ。そして私はそれをイチオクマンバッファローにも行うことができる」

その風音の言葉に思わずダハスの瞳孔が開き、口元からジュワッとヨダレが垂れて、マッチョメンのひとりがスッとナプキンでダハスの口元を拭いた。

「今のをイチオクマン……で?」

その言葉にダハスがクラッときた。それはダハスの心を振り向かせるには十分な誘惑であった。それからダハスは目を細めて風音を見て「良いでしょう」と口にした。

「 最高級部位(エンジェルラダー) をお譲りする件はそちらの望むとおりに」

直樹が「よっしゃ」という顔をしたが、その前でダハスが「ただし」と声を上げた。

「完成した料理をわたくしも食べさせていただきたい。それが条件ですわ」

ブルンッと身体を震わせたダハスの言葉に風音は頷く。この時点で風音はすでに当初の目的を果たしていた。後は、さらに追加ボーナスを狙うのみである。

「良いけどね。それにはこっちも条件があるんだよ」

その風音の言葉には、ダハスが眉をひそめた。いったい何を言われるのかと構えるダハスが先に風音に問いかける。

「それは、なんでしょうか?」

「今回、私が造るのはスタミナ丼なんだよ」

その言葉にダハスが眉をひそめた。丼、つまりはどんぶり飯。東洋より伝わったとされる庶民的な食べ物のひとつではあるが、ダハスはそこに限りないポテンシャルがあることを知っていた。

「丼ですか……東方系統の料理ですわね。ミンシアナの親子丼を食べたことがありますが、アレは味わい深いものでした」

その経験がダハスに素直に丼という選択を賞賛させたのだ。美食家であるダハスは、あらゆる食に対して貪欲だ。お上品なものばかりを食べているわけではないのだ。

一方で風音は親子丼の言葉に若干顔を歪める。ミンシアナの親子丼といえば十中八九アレである。弓花が悲鳴を上げて倒れた過去を思い出しながら、風音は話を続ける。

「ご飯の上に肉を並べて食べるものでね。イチオクマンバッファローの 最高級部位(エンジェルラダー) はそこに乗せるサブミートとして必要だったんだよ」

「サブ? サブですって? つまりは添え物。メインがあると?」

ダハスが驚きの顔をする。ダハスとてイチオクマンバッファローの 最高級部位(エンジェルラダー) 以上のクォリティの肉を知らないわけではない。

しかし、比較してサブと言い切ってしまうにはイチオクマンバッファローの肉は力のない肉ではないはずだ。しかし風音はそれをサブに使うという。であれば……とダハスが詰め寄った。

「では、いったい何をメインになさるおつもりですか?」

「ガーメ・スッポーンマザーの 最高級部位(エンジェルラダー) 。在庫は十分にあるからね。惜しみなく使うよ」

その言葉にダハスは目を見開き、立ち上がった。マッチョメンたちが驚きの顔で主を見たが、ダハスはそのことに気を配る余裕もないほどに風音の言葉に衝撃を受けていた。

「まさか、闇の森の伝説の食材……?」

その呟かれた言葉には周囲のマッチョメンたちも驚きの顔をした。そして風音が「うん、それだよ」と返すことで彼女らの動揺は最高潮へと高まったのだ。

実はガーメ・スッポーンマザーの 最高級部位(エンジェルラダー) 。それこそが至高のスタミナ丼の中心にあるものであった。

対極となるもうひとつのスタミナ丼も存在するが、風音が至高のスナミナ丼を選んだのは単純に材料のひとつが持っている素材であったからである。

「そうですか。兄が頼んだのはそういうことなのですね。闇の森の食材……やはり兄は美食の上でも私の上を行っていたと」

ダハスが恐れおののいているが、ゲハーノが欲しかったのはカツラであり、そもそもガーメ・スッポーンマザーと風音たちが戦ったことも知らないので勘違いである。それからダハスは風音に尋ねる。

「で、それでわたくしは何をすればよろしいのですか? それをいただけるのであればわたくしは一族すらもカザネ様に捧げましょう!」

「いや、そういうのは重いのでいらない」

風音が嫌そうな顔で首を横に振った。これ以上、しがらみが増えても困るのだ。それからコホンと咳払いをして気を取り直した風音が口を開く。

「ともかくこっちが望むのは、至高のスタミナ丼の残りの材料なんだよ。こちらでカバーできない食材や、その在処をダハスさんの情報網から探って教えて欲しいんだ」

その風音の言葉にはダハスも「是非に協力させてください」と言って風音から至高のスタミナ丼のレシピを受け取った。その素材を見たダハスは「これっを、わたくしっが……食べれるッ!? 死、死ぬ。こんなものを食べたらッ、しょ、昇天して……」と口走りながら前後不覚になり、マッチョメンに運ばれていき、その日は解散となった。そして食に人生を魅了された女は、風音という悪魔の誘惑に今日堕ちたのである。

◎ゴルディオスの街 白の館 右館大部屋

「というわけでダハスさんも協力者になってもらったので、素材集めが捗るよ」

ダハス・カピルーツの元から戻ってきた風音の言葉に、待っていた一同が「ぉぉおおおっ」という声を上げた。

「なるほど、餅は餅屋。確かにその選択は正しい。さすがです」

「いやーそれほどでも」

アオの賞賛に風音が「あっはっはっは」と笑う。そして、順調すぎて自分の才能が恐い……などと心の中で自画自賛している風音の耳元に、

『まーた調子に乗って』

誰かの声が聞こえた気がした。

「え?」

風音が振り向くと、背後には誰もいなかった。聞こえたのはただの幻聴で、そのことにガックリきた風音を見てアオが首を傾げる。

「どうかなさいましたか?」

「ううん。なんでもないよ」

弓花の声が聞こえた気がした。だがそれは気のせいだった。今も弓花は庭で動物と槍と戯れているのだ。それを見ながら、風音は改めて決意する。

(弓花……待っててよ。私は絶対に弓花を救ってみせるよ)

そう思い、風音はグッと拳に力を込めてひとり頷いた。

また、その様子を直樹はいつも通りに(はぁ、やっぱりかわいいなあ)と相変わらずの視線で見ていたのだが、その直樹の様子を別の人物が目撃していたことには気付いていなかった。そして……

「ナオ……キ……?」

その視線の主はエミリィだった。直樹が戻ってきたと聞いて、この部屋までやってきたエミリィであったが、そこで彼女は見てしまった。

直樹が今まで自分に見せてくれたこともない笑顔を姉に見せていることに。そう、彼女はついに真実に到達したのだ。実に呆気なく……