軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第七百五十話 宣告をされよう

◎ゴルディオスの街 ボルネオファミリーの屋敷

(白の館を出てからは……確かムータンのたまり場だった酒場に行ったんだっけか。それから、どうしたっけ?)

弓花は己の記憶を思い起こす。風音からの報告を受け、結局は直接話してみようと言う結論となったのだ。そして弓花はムータンメンバーのたまり場である酒場へと赴き、それからドドリアンと熊殺し団のリーダーであるメーデスとジーゴのふたりに詰め寄った……ところまでは覚えていた。

そこで「自分の知らぬ間に何をしたのか!」と、強く問うたのだ。それからの記憶がひどく曖昧だが、ふたりがボルネオファミリーのムータンへの吸収を認める発言をして、そこで弓花はついカッとなってしまったのは覚えていた。ただ、それから先の記憶が滲んでいるのだ。

まったく覚えていないわけではない。泣き叫ぶムータンメンバーと、半壊する酒場、それからやってきた警護団を全員薙ぎ倒し、咎めた冒険者をはり倒し、風音に近寄る悪い虫であるギャオを見つけたので念入りにボコにして、ようやく意識の戻った今、弓花の前ではボルネオファミリー総土下座で並んでいた。

弓花が手放したメーデスとジーゴも共にDOGEZAスタイルである。戦慄する光景だった。何故こうなってしまったのか。弓花の瞳には涙が溜まっていた。

さらによく見れば、門の外では警護団が勢ぞろいで並んでもいた。ビクビクと怯えながらも職務を果たそうと必死で構えていたのだあ。

その様子に弓花が「やっちゃってるぅぅう」という顔をしていると、ジジルが頭を下げながらも声を張り上げた。

「そのふたりは悪くないんです。ここ最近の冒険者の流入で、俺らだけじゃあ身を守れなくて……それでムータンにご助力を乞うたんです」

「俺らが弱いばかりに……この人たちに頼るしかなくて」

「すん……ません、姐さん」

「次からはちゃんと……言ってから……にしますんで」

全員が「すいませんでしたーー」と頭を地面にすり付けて続けていた。

「ええと、つまり……外から来たガラの悪い冒険者対策に用心棒になったってこと?」

そして弓花が今までの聞いた情報を整理して尋ねると、メーデスがそれには首を横に振った。

「いえ、姐さんのための集まりを誰かの下につけるなんてこたぁできやせんし、そこら辺はじっくりとジジルさんと話をしまして、対等な関係を結ばせていただきやした」

「俺らも今じゃあムータンってわけです」

ジジルがキラリと光る狼の姿が刻まれたメダルを見せた。それは紛れもなくムータンメンバーの証のメダルであったのだ。

「ああ、そうなの……」

それを見て弓花はガックリとうなだれた。

ボルネオファミリーが自主的にムータンに入った……となれば、弓花にはもう何も言えない。弓花を 信奉(チヤホヤ) していれば誰しもがムータンなのである。そして、ボルネオファミリーの動機も弓花は理解した。

街の中では自衛以外の暴力は極力振るわず、またそうした行いをする者がいれば咎めるようにと話をしていた弓花としては、メーデスたちの行いを非難できるわけもない。

それから弓花は後ろを振り向いた。そこに立っているのは警護団の団長だ。少し涙目になりながらも己が職務を全うしようと、賢明に弓花を睨みつけている。

「姐さん、ここは俺らが……」

「元はと言えば俺らのせいです。姐さんに泥を被せるわけには」

その様子にメーデスとジーゴが顔を上げてそう言うが、弓花は首を横に振って言葉を返した。

「いや、いいよ。ケジメぐらいは……自分で取るから」

そして弓花はふたりに振り返らず、団長へと両手を差し出して「世話かけます」と言って、そのまま警護団の詰め所へと連れて行かれたのであった。

こうして重軽傷者七十八名と酒場一棟を半壊させた通称『ユミカデスパレード』と呼ばれる事件は幕を閉じた。

街の人々は 血塗れの狂戦士(ブラッディベルセルク) の理不尽なる暴力性を改めて認識し、弓花に対して微妙に親しみやすくなっていた街の空気は一気に吹き飛んでいった。

なお、事件の翌日には弓花は釈放されたのだが、それは風音のコネと多額の保釈金、それに弓花が率いている後援組織ムータンの街への貢献度の高さを考慮してのものであった。弓花自身が付けられたケジメは非常に少なかったのである。

◎ゴルディオスの街 白の館 屋上ラウンジ

「すみませんでした」

ズドーンと床が震えた。

それは弓花が謝罪のために己の頭を床に叩きつけた為に起きた音であった。もし弓花が五体投地を知っていれば迷わず実行したであろうぐらいの勢いがあった。

「ゴメン弓花。床が崩れるかもしれないから止めて」

それを風音が嫌そうな顔をして見ていた。

「ともかく酒場については私が直しておいたし、傷付いた人も回復させておいたから……まあ大丈夫だと思うけど、後でお詫びはしにいってよね」

「風音……ありがとう。私は今ほどアンタが親友で良かったと思ったことはないよ」

なお、ムータンたちのたまり場であった酒場はムータンメンバーの要望に従い、 解放神狼(リバティフェンリル) 化弓花(翼付き)象を酒場の中心に、完全神狼化弓花とフルフェイスのプラチナオーヴァーコート付きの通称『銀狼将軍』の石像に囲まれた神殿の姿に変えられており、その惨状を後に見た弓花が愕然とすることとなるのだが、それはまた別の話である。

「さて、ユミカよ。ワシも状況が分からぬのだがな。いったい何がどうなってこのようなことになってしまったのだ?」

そしてジンライが尋ねた。今、風音コテージの屋上にいるのは弓花と風音とジンライ、それに何か思うところのあって参加を希望したクロフェの四人であった。

その目的は弓花がなぜ今回の凶行に及んでしまったかの詰問である。

「いや、それが私にもサッパリでして。今思えば記憶は少し残ってるんですが……記憶が薄れたというよりは、興奮して前後不覚になってたような、妙な感じで」

ジンライの問いに弓花が必死な顔でそう答える。

実際のところ、弓花としてはそう言うことしかできなかった。何が起きているのかは弓花こそが知りたいことであったのだ。

その言葉にジンライが顎をさすりながら「ふむ」と口にする。ジンライももう一年以上も弓花と共にいる。こんな下手な言い訳をするような弟子ではないことは理解もしている。

であればどうしたことだろう……とジンライはクロフェを見た。今この場にクロフェがいることもジンライには、よく分からないことだった。だからこそ、クロフェは弓花の状況について何か知っているのではと思ったのだ。

「クロフェ様。なにかしら心当たりはありますかな?」

「そうなのじゃーな。ユミカ、その記憶がない間にお前は不可思議な状態にあったと聞くが確かなのじゃー?」

そのクロフェの問いに弓花は頷く。

「えーと、はい。そうですね。見た目だけで言うと微妙に竜人化していたらしいです。髪と目が金色になって、牙が生えてて放電もしてたらしいんで」

「それって、怒ってそうなったの?」

続けての風音の問いにユミカは「そうっぽい」と返す。状況から判断すれば、怒りによって弓花の何かが発動したとしか思えなかった。

「怒りに目覚めて、髪が逆立ったんだっよね?」

「そうだけど?」

「ふーむ。つまり、あれかな……」

風音はなにか心当たりがあるようだったが、残念ながらそれは口にしてはいけないことだった。その風音の残念思考をなんとなく察した弓花は、風音を無視して話を進めていく。

「で、雷というと私が微量に発生している竜気が雷の属性ですし、それがなんらしかの効果を及ぼしたような」

「なるほどなのじゃー」

「何かお分かりで?」

ジンライの問いにクロフェは「のじゃー」と返す。

「では、いったい何が起きたのかをお教えいただけますか?」

ジンライとしても弟子に何か問題が起きているのだとすれば、捨て置くことはできない。その問いにクロフェは目を細めながら風音を見た。

「その前にまずはカザネ、先日に見せた龍神の鱗を出すのじゃー」

「え、うん? いいけど」

突然の言葉に風音が首を傾げながらウィンドウを開いてアイテムリストを確認する。それから龍神の鱗を選択しようとして眉をひそめた。

「あれ? 龍神の鱗と龍神の鱗(空)ってのがある」

「その空のほうなのじゃー。出してみるのじゃー」

そして言われるがままに風音が龍神の鱗(空)を取り出すと、その鱗は以前と同じではなかった。

「おや、ピリピリしない」

「やはり……なのじゃー」

「えーと、どういうことです?」

何が起きているか分からない弓花がクロフェに尋ねる。

「実はユミカが逮捕された日、ワシは街の中に急激な神力の高まりを感じたのじゃー」

「神力? それは神の力ですな。クロフェ様やタツオなども持っておるという……まさか!?」

ジンライが弓花を見て、クロフェが頷く。

「恐らくなのじゃが、ユミカから発生したと思うのじゃー」

そのクロフェの言葉に風音が首を傾げながら、尋ねる。

「でも何で急に弓花が?」

「多分なのじゃーが、弓花が以前に鱗を触ったときに中身の神力が移ったのじゃーな。その鱗も表面の圧力自体は残っておるから気付かなんだが、今鱗の本来の神力はユミカの中にあるようなのじゃー」

「それって、弓花がパワーアップしたってこと?」

風音の言葉にジンライが「なんと!?」と驚きの顔をする……が、クロフェは微妙な顔をしながら、弓花に対して口を開いた。

「まあ、そうとも言えるのじゃーが……ユミカ、心して聞くのじゃーぞ」

「え、はい?」

クロフェの真剣な表情に、弓花は戸惑いながらも頷いた。そしてクロフェが口を開く。

「お前さん、このままだともうすぐ死ぬのじゃー」