軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第七百四十八話 何かに目覚めよう

「ほお、久しぶりなのじゃーミサリ」

「はい。お久しぶりですクロフェ様。十八年前の戴冠式以来ですね」

ユッコネエとソルが戯れている横で、ミサリがクロフェの一歩前に出て挨拶をしていた。魔道大国アモリアは西の竜の里ラグナとの親交が深く、ドーマ王の戴冠式の際にはクロフェも王都コーダへと訪れており、ミサリはその折りにクロフェとも交流があったのだ。

「確かお主は今ではアモリアの重鎮であったと記憶しておるが、何故にここにいるのじゃー?」

「ああ、ミサリさんは温泉に入りに来ただけだから」

後ろからの入った風音のツッコミに、ミサリは頭をかきながら「いや転移とか体験したかったってのもあるんですが」と笑って返した。

実際のところは、長距離転移用ポータルを利用した各国の連絡係のひとりにミサリが撰ばれたため、こうして挨拶にきた……というのが事実である。決して温泉に入りたくてきたわけではないのだ。

その後ろからルイーズが声をかける。

「ほら、さっさと温泉行くわよ。温泉。あたし、チャッチャと入って早く戻らないといけないんだから」

「あ、はい。それではクロフェ様。またご挨拶に伺いますので」

そう言って大浴場へと去っていくルイーズとミサリにクロフェは「のじゃー」と言いながら手を振っていた。

ちなみにではあるが、ルイーズは長距離ポータルを通って毎日温泉に通っているのでクロフェとも頻繁に会っているし、周囲の人間からは「ああ、ひとりだけ先に帰ってきたんだな」と思われていた。

「さて、ソルとユッコネエも遊びに行ってしまったようじゃし、ルイーズからはある程度は聞いておるのじゃが、お前たち随分と暴れたそうなのじゃーな?」

「いや、それほどでも」

「褒めておらんのじゃー」

クロフェが両腕を振り上げて吠えた。元ジジイと思わなければそれは間違いなく可愛かった。

「黒竜ハガスとも対峙したと聞くのじゃー。それに龍神様とも出会ったそうなのじゃーな?」

「うん。アレはヤバかったね」

風音は素直にそう返した。龍神とは闇の森の主である五十メートル級の巨大ドラゴンのことである。それはゲーム内ですら見たこともないような強大な力の持ち主であった。

『凄く大きかったです。それにあの方からはドラゴンの力を感じませんでした』

「ああ、恐かったよなあ。山みてえに大きかったし。ホント、ちょっとチビッ……いや、なんでもねえ」

レームの頭の上のタツオがくわーっと鳴き、レームが何かを言い掛けて止めた。人には忘れ去りたい思い出もあるのだ。

「まあ龍神様は竜気をすべて神力へと変換した神的存在なのじゃから当然なのじゃー。もはや我らドラゴンとは別種なのじゃからなーなのじゃー」

「ふぅむ。そういうものなの?」

「うむなのじゃー。噐がドラゴンなだけで、実質的に神そのものなのじゃー。聞いた荒ぶり様からすれば闇の森で育った方なのじゃーな。その闘争本能はワシ等であっても太刀打ちできぬものだろうなのじゃー」

風音は(のじゃーのじゃーうるさいなぁ)という思いを飲み込みながら「そうなんだ」と頷いた。

「それで、ルイーズの話によれば、鱗を授かったと聞いておるのじゃーが?」

「ええとね。今出すよ」

クロフェの問いに対して、風音はアイテムボックスから龍神の鱗の一枚を取り出して見せた。その鱗は大盾ぐらいのサイズはあり、誰もが見てわかるくらいに攻撃的な神力を放ち続けていた。

「むむっ」

鱗を持っていた風音が軽く呻いた。手に取った鱗から直に神力が伝わり、次第に腕が痺れ始めていたのだ。それからすぐさま風音は鱗を地面に下ろして、クロフェに「これだよ」と指差した。

「ふぅ。その龍神様ってのはこれを飛ばして、ギル・ガーメっていうオリハルコンの甲羅を持つ亀を粉砕してたんだよね」

「なるほどなのじゃー。攻撃用に使われたからこそ、ここまで他者を拒絶する気配があるのじゃーなー」

そう言ってクロフェがトコトコと鱗の前へと近寄ると、その鱗へと小さな手の平を当てた。それから少しだけ掌から魔力光を放つと、風音と同じように「ムムッ」という顔をしてからその手を離した。

「どうしたクロフェ様?」

その様子に護衛にアカが前に出て尋ねる。

「いや、大丈夫なのじゃー。ちょっと失敗しただけなのじゃー」

クロフェが手をプラプラしながら、アカの問いにそう答える。

「神力を繋げて情報を抜き出そうとしたのじゃが、拒まれたのじゃー。やはり相当の上位の方のようなのじゃー」

「へえ、どれどれ?」

そう言ってクロフェの横にいた弓花が興味本位で鱗へと手を当てた。するとバチンッと音がして手が弾かれ、弓花が「うわっ」と声を上げた。

「おおう。強烈な反応なのじゃー。む、ユミカの竜気がおかしいのじゃー」

腕をさする弓花を見ながらクロフェが目を丸くしていた。以前にドラゴンステーキを食べた弓花は少量ではあるが自ら竜気を生成できるようになってはいた。しかし、今の弓花からはその竜気の質と量が変化したようにクロフェには感じられていた。

「どうやら感応したようじゃが、何か変化はあるのかーなのじゃー?」

その言葉に対して「さあ?」と弓花が首を傾げる。

「特には何ともないみたいだし。ええと先に進めて。どうぞ」

クロフェと風音は慎重に弓花を観察したが、実際に弓花の言うとおりに特に何か変化は見当たらなかった。そして問題なしという弓花の言葉に従って、風音は話を続けることにしたのである。

「うん。えーとね。この龍神の鱗だけど一枚目の鱗は森を出た直後に放たれたヤツで着弾地点が近かったからそのまま拾えたんだけど、二枚目は魔物が体内に吸収していて凶暴化してたんだよね。そんで三枚目に至っては力に耐えきれなかったらしくて、手に入れた魔物が腐り落ちて死んでたんだよ」

その言葉にクロフェが唸りながら、頷く。

「まあ、当然なのじゃー。上澄みだけを利用するのであれば木っ端の魔物でも力を得ることができようが、その内にある凶暴な神力に蝕まれれば、命を落とすのは当たり前なのじゃー」

クロフェはそう言ってから風音を見た。

「で、これをお前はどうするのじゃーカザネ?」

「うーん。どうも直接持つのは難しそうだしロクテンくんの武器にしようと思ってるよ」

その言葉にクロフェは目を細めて「なるほどなのじゃー」と口を開いた。

「あのゴーレムであれば、確かに運用には問題なさそうなのじゃー」

「相変わらずのじゃーのじゃーうるせえなクロフェ様は」

そしてついにレームが思ったことを口にしてしまう。それは誰しもが思っていたことであった。必ず語尾にのじゃーを付け続ければ鬱陶しいのは当然ではあるのだが、

「うるさいのじゃー田舎娘には分からんのじゃー」

「んだと。うっせ」

物怖じしないレームだからこそできた心からの忠告ではあったのだが、それでもクロフェのアオに対する信頼を突き破ることはできなかった。疑念を持たせるには至らなかったのである。

それからクロフェは少し冷静になり、周りを見回してから口を開いた。

「ま、ここで話し続けるのもちとあれなのじゃー。ひとまずは中に入って休むといいのじゃー。といっても戻りの情緒もないくらいに簡単に戻ってきたようなのじゃーがな」

その言葉には全員が笑うしかない。

王都コーダの迎賓館を出てからまだ二時間経っていない。彼らは徒歩で王都コーダの外に出るよりも簡単にゴルディアスの街に辿り着いていた。

もっとも風音たちも久方ぶりに白の館の中へと入ったのだが、彼等が休憩するのは中央館内部に設置した風音コテージ内であり、闇の森でもさんざん泊まっていたのだから当然懐かしさのカケラもなかった。一方で風音たちが部屋で一休みしている間に、温泉珠で出した温泉をクロフェは嬉しそうに浸かっていたりもした。

そして、その日の夜は親方やバトロイ工房の面々を招いての帰還パーティが開かれたのである。

そこで振る舞われたのはフォレストロブスターやガーメ・スッポーンマザーの肉などであった。また試しに風音が置いてみた知恵の実を巡って殺し合いになりかかり、風音は久々に土下座を披露する羽目もなっていた。ジンライと親方のダブル説教によって風音は久方ぶりに大粒の涙を流していたのである。

こうして白き一団帰還初日は過ぎていった。

だが、平和な日々はそう続きはしないものだ。その翌日には、とある人物によってとある集団が凶事に見舞われることとなる。

白き一団の帰還と共に街の平穏なる時間は1日と保たずに崩れさることとなったのである。そして、白き一団が帰還した翌日に起きた嵐の中心はアウターファミリー『ボルネオ』の長であるジジルの住まう屋敷であったのだ。

◎ゴルディオスの街 ジジルの屋敷

「今日も綺麗にドア磨くぞオラー」

「磨くぞオラー」

アウターファミリーの下っ端たちの朝は早い。すでにミンシアナ王国内では毎日のドア磨きが下っ端の仕事として定着しつつあった。

ドアとはすなわちファミリーの顔。それを汚したまま客を通すのは礼儀に欠く行為である……と、ファミリーのボスから強く通達があったためだが、それが本来誰を恐れての行動なのかは分かる人には分かるものである。

もっとも「手を抜けば、お前の手も抜けるぞ。物理的にな」等と脅されれば、下っ端のチンピラは真剣に磨かざるを得ない。

一見して彼等は自由奔放のアウトローのように振る舞ってはいるが、実際には世間からはみ出された狭い世界でしか生きられない半端者の集団だ。

だからこそ彼等は己の居場所である組織に対しての帰属意識が高く、上と下の立場については外の人間が思っているよりも厳格なものがあった。

「よし、今日も綺麗に磨けたな」

ボルネオファミリーの下っ端であるジャックは今日も指示されたドア磨きを終え、満足げな顔をしていた。

嫌々やっていたものではあったが、その鏡のような光沢を見れば己のやった仕事に対しての充実感も湧いてくるものだ。

そしてやり遂げた男の顔をしていたジャックはふと、視線を屋敷の外へと向けた。何かを彼は感じたのだ。それは己の中にある本能が危険信号を発したのかもしれない。

「あ?」

そこにはひとりの少女が立っていた。顔立ちこそ地味ではあるが、それなりに整っていた少女が屋敷のもんの外にいたのである。

「あ、ああ……」

だが、その少女を見たジャックの表情は次第に恐怖で歪んでいった。

ジャックの視線の先にいるのはひとりの少女だが、荒事にも何度か立ち会ったことのあるジャックは不幸なことにその相手の本質に気付いてしまった。

「すいま……せん。姐さん……俺らが」

「も、もう……勝手なことは」

そしてジャックは気付いた。少女の両手にある大きなゴミに見えていたもの、それはよくよく見れば人であったのだ。ズダボロになった人間を少女は持っていたのである。

そしてその少女は金色の髪を逆立たせて、全身から雷を放ちながら屋敷の門の中へと一歩足を踏み入れた。

「ひっひぇええええええ」

同時にジャックの口から悲鳴が上がる。生物的な本能が仲間に危険を知らせるべく、助けを求めるべく、その声を上げさせたのだ。

そして屋敷の中にいた人間は一斉に外へと出て、それからたったひとりでアウターの根城にやってきた少女を目撃したのだ。

「ありゃあ、ユミカ……さんじゃねえか」

その中で、ファミリーのボスであるジジルが冷や汗をかきながら口を開いた。

髪は金色に染まり、全身から放電を起こしてこそいるが、その顔にジジルは覚えがあったのだ。

そこにいたのは森の魔物を皆殺しにして全身を血に染めた姿から『 血塗れの狂戦士(ブラッディベルセルク) 』と呼ばれることとなった……とある有名な冒険者であったのだ。

つまりは弓花さんがプリプリ怒りながらそこに立っていたのである。