軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第七百四十七話 そこに戻ろう

◎王都コーダ サグー魔具工房

「まったく。完成してすぐに改修の依頼と……まあ、文句の付けようのないものに仕上がってはいるけどね」

工房の中でサグーが呆れたような声を出しながら目の前にいる風音に杖という名の鈍器を手渡した。そのズッシリとした杖を風音は受け取ると「うん、良い出来だね」と言いながらブンブンと振り回す。

そして発生する暴力的な風の音を聞きながらサグーは肩をすくめる。

「しかも 金剛石(マナダイヤ) まで大きくなってるんだよね。どうやって増量したのやら」

サグーがそうぼやくのも無理はない。

そのサグーの言葉通り、風音の振り回している杖の先にある 魔金剛石(マナダイヤ) の塊は以前に比べてさらに一回り大きくなっていた。

それはガーメ・スッポーンマザーの体内へと『滅の雷』を浸透させるためにメタルカザネJが避雷針へと変化したことにより起きた現象であった。『滅の雷』の熱量によりアダマンチウム部分が蒸発し、再び 魔金剛石(マナダイヤ) の結晶体が増えたのである。

その結果として今や『風音の杖』改め『風音の 虹杖(こうじょう) 』は、スキル『猿の剛腕』持ちの風音でもなければまともに扱えないほどに極端に重量のある鈍器と化していた。

「うん。レインボーハートもそんなには目立ってはいないね」

風音が杖を見ながらそう言うが、サグーは思わず「えっ?」と声を上げる。

この風音の杖に何を仕込んだのかといえば、ゲハーノから報酬としてもらったレインボーハートであった。そのレインボーハートは杖の先にあるドラゴン頭部の装飾内の、脳味噌の部分に収まっており、その姿は穴となっている竜の瞳からのみ見える形となっていた。

そしてその瞳の部分からは虹色の光が漏れていて、それが 魔金剛石(マナダイヤ) 内を屈折し、 魔金剛石(マナダイヤ) 全体に絶妙な虹色の輝きを放たせていたのだから明らかに目立っているようにサグーには見えていたのだ。確かにレインボーハート単品としては目立っていないかもしれないが、サグーはそれで良いのかと頭を抱えざるを得なかった。

ともあれ、用件はもう一つある。サグーは頭を切り替えて、不思議なリュックから以前に制作したものと同じ装備品を取り出して風音の前へと置いた。

「後は、 極めたる栄光の手(ハンズオブグローリーオーバー) だよ。まーた、交換用に使うのかい?」

「まあ、うちのパーティには使えるのがいないわけし、だからって素材を寝かせておくのもなぁって感じだからね。だからってこのクラスのものをテキトーなところに制作をお願いするわけにも行かないし」

二度目の闇の森探索で手に入れた素材の中で、風音はカツラ以外にはデュアルモーターマシラオー素材の 極めたる栄光の手(ハンズオブグローリーオーバー) の作成も依頼していた。

前回のオークションの件で需要がある程度見込めると判断した風音は、それをどうするかはともかくとして、ひとまずは 極めたる栄光の手(ハンズオブグローリーオーバー) を所持しておくことにしたのである。

「一応言っておくと、オークションの件はカザネ様経由だって完全にバレてるからね。 極めたる栄光の手(ハンズオブグローリーオーバー) を持って何人かがウチに尋ねてるし」

そもそもサグー魔具工房製であることは 極めたる栄光の手(ハンズオブグローリーオーバー) に普通に刻まれているので出元を洗うことは普通にできるのである。その上にデュアルモーターマシラオーの腕を用意できる者など限られているのだから、白き一団にまで辿り着くことはまったく難しい話ではなかった。

「こっちも依頼人の名前を出すような間抜けはしてないし、素材も残ってないとは言ってあるけどさ。今のコーダでこの素材を用意できる者なんて……ねえ?」

その言葉に風音が「むぅ」という顔をする。

先日に王都を震撼させた神獣事件については、弓花経由で白き一団が中心人物たちであることはすでに知れ渡っていた。その上に諸々の経由からカザネたちが闇の森を探索したことも知られていたのである。

「ま、仕方ないね。何か話が来たらその時に対応するよ。そんでこれがお代。ありがとねサグーさん」

「あいよ毎度」

そして風音に手渡された紙幣をサグーが受け取りながら、ペラペラとそれを確認していく。

「そんでさ。ルイーズが言ってたけど、あんたら今日帰るんだって?」

そのサグーの問いに風音は素直に頷いた。

「そうだけど……まあ、またちょくちょくは来ると思うよ。サグーさんの腕は確かだし」

「嬉しいこと言ってくれるねぇ、カザネ様は。つってもゴルディオスの街からここまでは片道1ヶ月以上はかかるんだ。あんま無茶はしないでおくれよ」

サグーは風音の「ちょくちょく」という言葉を真に受けていないようだったが、長距離ポータルがあるため 帰還の楔(リターナーズ・ステイカー) を使わずとも今では一瞬で移動が可能であった。

なお一ヶ月というのは、通常の馬車を経由した旅での日数であり、タツヨシくんケイローンの移動速度でもなければ一週間かからずに到着することなど不可能なことであった。

「そんじゃあサグーさん。またね」

それから受け取った品をアイテムボックスに仕舞った風音は帰り支度を始め、サグーもそれに手を振って見送った。

そして風音はサグー魔具工房を出て、集合場所であるキャンサー家の屋敷へと向かうと、待っていた仲間たちと共にすぐさま遠く離れたゴルディオスの街へと飛んでいったのである。こうして風音たちは実に呆気なくゴルディオスの街へと帰還を果たしたのであった。

◎ゴルディオスの街 白の館

「とうちゃーく!」

風音が 記念碑(モニュメント) 型ポータルの台座をスタンと飛び降りる。その後ろではミサリが惚けた顔をして、周囲を見回していた。

「本当に転移されるんですねえ」

「何よ。今更じゃない」

転移初体験のミサリの言葉に、横にいたルイーズが可笑しそうに言う。もっともその言葉にもミサリは上の空で、 記念碑(モニュメント) 型ポータル、屋敷に温泉施設、それから壁の外の街並みに、妙な中庭、最後に中庭の端にある水晶の森を順番に見回していった。

「あー、まるで夢の世界的な……」

特にミサリの目を引いたのは宝石の実がなっている水晶の森だった。それを見ながらミサリはため息をつく。

「さすがカザネ様、とんでもないところに住んでますね。え?」

それからミサリは水晶の森の中から自分たちの元へと駆けてくる物体を見て目を丸くした。

「じゅ、ジュエルラビット!? なんで?」

ジュエルラビットはダンジョンでも五十階層クラスに出没する危険な魔物だ。いきなりの危険な状況にミサリが目を丸くして杖を構えようとする。そのミサリの判断はとっさにしては早かったが、

「くっ!?」

次の瞬間には後ろに回り込んだ何かに刃を突きつけられ、その攻撃を止められていた。その何かを見ながらミサリが驚きの顔で呟く。

「これは……タツヨシくんですか?」

そのミサリの言葉通り、ミサリの背後にいたのは 古き蛇の剣(サイタンソード) をふたつ装備したタツヨシくんノーマルであった。

ノーマルは以前にトゥーレ王国で戦った二刀流人形のパターンが入ったメダルをその身に装備しており、名実ともに人形と呼べる存在になっていた。そして名もタツヨシくんノーマルからタツヨシくんツインソードへと変えていたのである。

その驚きの顔をしているミサリの横で、風音が「ツインソード、止めたげて」と命じると、タツヨシくんツインソードはスッと刃を退いて下がった。

「そいつはこの館の護衛用に設定しているタツヨシくんなんだよ。まだ制作途中ではあるんだけど」

「はぁ……で、こっちは?」

ミサリの指差す先にはジュエルラビットたちがいた。もっともミサリは後ろにいるルイーズがジュエルラビットのサーファを連れているのを知っているのだから、それは問うまでもない話ではあった。

「ペットかな?」

「凶暴すぎるでしょう」

ジュエルラビットが数匹いればオーガの群れ相手でも相手取れるのだから、ミサリの嘆きはもっともではある。

とはいえ、風音のスキル『魔物創造』によって造られたジュエルラビットたちは従順な存在であり、侵入者を撃退する以外には特に人を傷つけることもない。

「まあ、番犬代わりだよ。それでひとまずはミサリさんにはここの住人の紹介を……」

「お帰りなのじゃー」

「にゃー」

そして風音の言葉を遮るように、館の扉から幼女と幼竜が声を上げて飛び出してきた。それはもちろん金翼竜妃クロフェと太陽竜ソルである。

その後ろから護衛であるアカもゆっくりとやってきて「よっ」と手を挙げて挨拶をしてきた。

そして三人に対して風音が「ただいまー」と言葉を返すと、ユッコネエが飛び出してソルとクロフェと戯れ始め、その光景を見ながら風音はようやく戻ってきたのだなぁと実感したのであった。