軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

嵐の予感

◎ 金翅鳥(こんじちょう) 神殿 第六十三階層

「ブモォォオオオオオオオッ!!」

巨大な豚が黄金の鎖に絡め捕られながら悲鳴を上げている。その豚が動くたびにジャラジャラと鎖が揺れるが、それが外れることはない。

その鎖の名は 制約の黄金鎖(ギアス・ゴルディチェーン) 。世界に八つしかないアーティファクトのひとつであり、チェーンマスターのふたつ名を持つオロチの所有する強力な拘束具だ。

「ゼロドライブピッグの動きは止めたぞ。やれぇえっ!」

そして 制約の黄金鎖(ギアス・ゴルディチェーン) を操っているオロチの周囲にいる仲間たちが一斉に攻撃を仕掛けていく。

最初に刀士のミナカと槍使いのカールが飛び出し、その後ろから魔術師のオーボエが遠距離魔術を放っていく。また、彼らと共にパーティ『ドッグソルジャー』たちもゼロドライブピッグに向かって攻撃を開始していた。中でもパーティリーダーのトールの戦力は他を大きく上回っている。

(あの動き。もはや人間ではないな)

戦いを見ていたオロチがそう考える。

トールがプレイヤーのひとりであることはオロチもすでに知っている。そのトールは己のキメラ種としての特性を生かし、今は四肢を変形させて戦っていた。

その足はバッタのような形になっていて自在に跳び回り、両腕はそれぞれ鋭い刃のような形となってゼロドライブピッグを切り刻んでいる。

その一方でミナカも『雷纏い』という部分的な雷神化によって、トールの動きを追いながら攻撃を仕掛けていき、カールもゼロドライブピッグが動けないのを良いことに大技を繰り出していた。そして……

「てやぁあああああッ!」

「トドメだっ!」

天井を蹴って降下したミナカの斬撃ライドウ家刀術『雷落とし』と、トールの腕を肥大化させて杭を放つ『百足破壊槌』の同時攻撃によって呆気なくゼロドライブピッグはその動きを止めたのであった。

「さすがチェーンマスター。こいつは楽な戦いだったな」

制約の黄金鎖(ギアス・ゴルディチェーン) を戻したオロチにドッグソルジャーのひとりがそう言って声をかけてくる。対してオロチも無愛想ながら返事をする。

「まあ、敵が一体なら任せてもらっていいさ。とはいえ、そちらも相当な腕のようじゃないか。特にあのトールの実力はウチでも相手になるか分からない」

オロチの言葉にドッグソルジャーのメンバーが「だろ?」と笑う。

そのドッグソルジャーたちだが、実は現在オロチ率いるレイブンソウルはトール率いるドッグファイターと共同でのダンジョン探索に当たっていた。

A級ダンジョンである 金翅鳥(こんじちょう) 神殿の階層もすでに折り返しを越えておりレイブンソウルだけの探索では攻略が難しくなってきたためであった。

トップパーティであるオーリングはすでにブレイブとクランを組んで探索に入っており、レイブンソウルと同格のパーティとなるとそう多くはなかったのだ。

「さすがですねオロチさん。そのアーティファクトも羨ましい限りです」

「そちらこそ……だな。まったく、カザネと良いイレギュラーな戦い方をする」

近付いてきたトールにオロチはそう返す。

トールは戦闘職ではない 探知者(レーダー) と呼ばれる職種ではあるが、それをスペリオル化によって変異した種族の特性によって補っていた。

風音に忠告された相手ではあるが、オロチは己の判断でトールと共に戦うことを選択していたのである。

「あの娘とはさすがに違いますよ」

トールがそう言って笑う。確かに風音の規格外の能力はトールのものとは違うが、キメラ種であるトールは肉体を変異させることで魔物のスキルを発動させることができる。プレイヤーとして風音に一番近い存在は間違いなくトールであるとオロチは考えていた。

「ガウッ」

そして思案するオロチの前で、ハイプラズマパンサーのタケチカが鳴く。その相棒の視線の先をオロチが追うと、通路の先から何かしらの振動が響いてきた。

「ふむ。何か来ますね」

横でトールも眉をひそめながらそう口にし、それから目を変化させて眼球を黒く染めて、その先を見ると眉をひそめた。

「あれは……イチオクマンバッファローにイッセンマンバッファローの群れだと? あんなのに巻き込まれたら死にますよ」

その言葉に一斉に全員が駆け出した。そしてトールの言葉通りに通路の先からは巨大な牛の魔物とその周囲を囲んだ牛たちがやってきたのだ。

「退却。退却だぁああああ!!」

それを見ながらオロチが声を張り上げ、その場から全員が一斉に逃げ出したのである。

◎ゴルディオスの街 ロコールの酒場

「はぁあああ」

オロチがため息をつきながら酒を一気に飲み干した。

今は 金翅鳥(こんじちょう) 神殿から帰還した夜、そこでオロチはゴルディオスの街の端にある酒場でひとり酒を飲んでいたのである。

イチオクマンバッファローはどうやらゼロドライブピッグを狙ってやってきたようで、オロチたちが逃げ出すことには関心を示さなかった。しかし、同時に倒した獲物は横取りされた形でもある。結局、ゼロドライブピッグの素材を得ることはできなかったのだ。

「よぉ、しけた顔してるなオロチ」

「あ? お前、ブリックか?」

ひとり酒を飲んでいたオロチが目の前の人物を見て、少しだけ疎ましげな顔をする。それはオロチの見知った情報屋であった。

「なんでお前がここにいる?」

オロチの記憶が正しければ、ブリックはハイヴァーンを拠点とした情報屋であったはずだった。

「チョイと野暮用でね。それよりもアンタの方はどうよ。随分と不景気そうな顔をしてないか?」

「少々失敗してな。せっかく倒した魔物を別の魔物に奪われたんだ」

オロチがそう説明する。

ダンジョンでイチオクマンバッファローと遭遇したオロチたちはすぐさまその場から逃げ出していた。幸いなことではあるが、彼らは自分たちが倒した獲物をイチオクマンバッファローの群れに奪われたのだ。

「ま、アンタが逃げたってことは、相当な相手だったんだろう。命あってのものだねじゃあねえか」

「だとしてもだ。完全に無駄骨だ。チャイルドストーンはあの場で喰われてしまっただろうしな。まったくついてない。それでもポータルのおかげで帰りは早かったのは幸いだ。こうしてひとり酒を飲んで誤魔化せるんだからな」

「ああ、それだ。それ」

ブリックの言葉にオロチが「それ?」と訝しげな視線を向ける。

「ポータルとかそういうのがあるから、俺が駆り出されたわけよ。ギルドの連中も人使いの荒いこってな」

その言葉にはオロチが目を細める。それからオロチがひとり納得した顔をして口を開く。

「情報屋ギルドからの指示か。まあ、不思議ではないか」

「だろう? それだけ、ここが話題の中心になってるってこった。ま、街というか中心にいるのはあの連中なんだろうけどな」

「白き一団か」

オロチの言葉にブリックが頷く。

「つっても、今はここにはいないんだってな」

「ああ、今は魔道大国アモリアにいるらしい。その途中で闇の森探索を成功させたというのも少し前には騒ぎになったものだ」

それにはオロチも驚いたものだが、アーティファクト 帰還の楔(リターナーズ・ステイカー) があれば確かにそれは可能なことである。

そもそも死が終わりではなかったゲーム中であるならば、低レベルで 帰還の楔(リターナーズ・ステイカー) なしでもトライアンドエラーの繰り返しでの探索は可能ではあった。大抵は魔物を倒しきれずに倒されることの多さに辟易して、適正レベルまでは諦めることになるのだが。

「まったく、あの嬢ちゃんらもすげー連中になっちまったよ」

ブリックがそう口にするのを聞いてオロチは首を傾げた。

「ブリック。お前、カザネたちと知り合いなのか?」

「へっへ、そういうことだ。だから俺が呼ばれたってわけだ」

ブリックはそう言ってから、そのニヤケ笑いを止め、真剣な顔をしてオロチを見た。

「で、だ。お前を捜してたのにも理由がある」

その言葉にオロチが眉をひそめるが、ブリックは気にせず話を続けた。

「竜朱山の竜狩りの街レガリアが動いたらしい」

オロチの目が細まる。

「レガリアが? まさかエンロ爺か?」

「いいや、竜排斥派、竜牙衆の連中だ。お前とも因縁浅からぬ相手だろう? そして狙いは出自不明のクリスタルドラゴンの子供だ」

「まさかッ!?」

オロチが立ち上がり、声を上げた。対してブリックは落ち着いた様子で座りながらオロチを見上げる。

「ハイヴァーンが俺をよこした理由が分かるだろう? 連中が真に何を望んでいるのかもな。つーわけでだ。少々、話を聞かせてもらうぜ」

そう言われてオロチは唸りながら席へと再び座る。どうやらまた、一波乱ありそうだとオロチは今この場で知ったのであった。