軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第七百三十一話 飛び入りゲストを迎えよう

◎王都コーダ 迎賓館

『母上。口の中がシュワシュワーってします』

「ゲップ、なんだか変な感じだぜ。これ、美味い……のか?」

タツオとレームがそう言い合いながら飲み終えたコップを置いた。

それは、風音がオークションで手に入れた魔導炭酸水発生装置を使い、果汁水を炭酸水化させたものであった。

「なんでも、北大陸で作られた魔法具らしいよ」

「あー、そういえば北にはコーラがあるって言ってたわね。それにこっちで炭酸系頼むと結構高いし」

風音の言葉に弓花がそう返しながら、一緒にゴクゴクと炭酸ジュースを飲んでいる。

このゴルディオスの街で湧き出ている炭酸泉とは違い、魔導炭酸水発生装置から出る炭酸水は相当な強炭酸である。少し薄めて飲むくらいがちょうど良かったが、ジンライはそれを一気に飲み干してむせていた。

なお、ミンシアナやハイヴァーンなどでも炭酸系の飲料を手に入ることはできるのだが、すべて北大陸からの輸入物でそれなりの酒などよりも値段が高かったりもしていた。

その魔導炭酸水発生装置の他にも、テーブルの上には風音がオークションで手に入れた魔導ゆで卵製造機、魔導歯ブラシ、魔導ジャグジー、魔導電子レンジなど様々なものが置いてあった。戦闘系のものは今回ひとつも手に入れていないが日常生活は潤いそうなラインナップである。

「あの貴重な 極めたる栄光の手(ハンズオブグローリーオーバー) がこんなガラクタに化けるだなんて」

一方で今日も風音の監視兼警護に来ていたミサリは、目の前の(ミサリから見て)あまり価値のない魔法具の数々を見て信じられないという顔をしていた。

また、昨日のオークションでは「変装して目立たないようにとしましょうか」と言ったミサリの言葉に従って、風音は久方ぶりの謎の仮面商人カザーネサマーに変装してオークションに挑んだのだが、その効果があったかは微妙であった。

猿の手無双のカザーネサマーさんという奇っ怪な人物が世に現れることになった上に、現在のミサリが誰と共にいるかなど国の上層部は大体知っているので、その正体もすぐにバレていたのである。

ともあれ、オークションはすでに終わった話。今のミサリには、もっと大きな頭痛の種も存在していた。

「もう少しフレーバーを考えれば、なかなかイケるんじゃないかしら?」

「ふうむ。これは初めて知る味だな」

今、迎賓館には、風音たち白き一団のメンバー以外にも一組の男女が増えていた。それこそが、今のミサリにとって最大の悩みの種であった。

それは以前に助っ人としてやってきたこともある仮面の槍使いライノーと、新助っ人の仮面の女王ユーコーである。そもそも仮面の女王は隠す気があるのかが謎であった。

「なんで、こうなるんですか?」

「ふたりとも来たいって言うんだもの」

涙目のミサリに風音がそう告げる。

なお、仮面の女王ユーコーは直樹がテレポート持ちの黒ミノくんと共に 帰還の楔(リターナーズ・ステイカー) の長距離転移で迎えに行って、黒ミノくんの長距離転移でここまで連れてきていた。

ライノーも最初にカイザーサンダーバードのぽっぽさんで一度 帰還の楔(リターナーズ・ステイカー) の刻印入り風音ちゃん人形を送って直樹を送り込んだ以外は同じ経路である。そして謎の仮面ふたり組は昨日今日とで、それぞれにやってきていたのだ。

「で、いつお帰りになるんですかライノクス大公陛下にユウコ女王陛下」

「誰だ、それは?」

「美人で有能で最強で美人で美しい女王様と私は別人よ」

本人の言葉通り、両者がいったいどのような素性の人物なのかは残念ながら不明なのだ。

ミサリが畜生と心の中でつぶやくが、もちろん女王様は 真実の目の額飾り(ホルスアイ・サークレット) によって、その心の声もまるっとお見通しであった。そしてニンマリと笑った仮面の女王の顔を見て、ミサリはなぜか背筋が凍り付く思いがした。

「で、このメンバーで闇の森に挑もうと思うんだよ」

「止めて下さい。この方々の御身に万が一があったらこの地域一帯が戦乱の渦に飲み込まれます」

「私は止めたんだよ」

風音は風音で遠い目をしている。

もちろん風音は止めたのだ。だが仮面の女王ユーコーは冒険者時代は同レベルで戦える仲間がいなかったため闇の森には挑めなかったし、仮面の槍使いライノーも立場があって、さすがに闇の森に向かうことは今までできなかったらしいのである。そして、今回訪れた機会をふたりとも逃す気がないようだった。

仕事しろよ……とミサリは思ったが、ハイヴァーン大公はすでに公務をあらかた終え、今は保養地で休息をとっていることになっており、ミンシアナ女王は影武者を代わりに置いてきていた。

両国のトップは、ふたりとも極めて優秀であり、己の職務へのフォローも万全であったのだ。

もちろんその話と仮面のふたりとの関連性は不明だが、ミサリはさらに己の国の王が「ならば、私も……」と言い出したのを止めるのにも注力せねばならなかった。あの王も魔術師としては一角ならぬ者であったのだ。

今晩にひっそり行われる予定の三国会談が周辺国に知られただけでも様々な勘ぐりがされる可能性がある。あらゆる事情により、ミサリは細心の注意を以て動かざるを得なかった。

「まあ、私は時々闇の森から出た魔物の討伐には出ているしね」

「こちらもその系統のどうしようもないのを相手にするときには、赴いていたがな」

張り合うように言うふたりだが、風音はそれをジト目で見ながら口を開く。

「ゆっこね……ユーコーは知ってると思うけど、単体で飛び出した闇の森の魔物の難易度は、実際にはそこまでのものではないんだからね」

確かに外に出てきた闇の森の魔物は強力だ。

しかし、大抵はそうした魔物が暴れているところに、万全の準備で以て相手取るのだ。それが闇の森では、そんな相手がこちらの準備も待たずに五月雨式に襲ってくるのだ。その難易度の高さにはかなりの開きがあった。

「分かってるわよ。それに多分、今の闇の森って私たちの知っている森よりもバージョンが上がってるっぽいしね」

ユーコーは以前からその疑いを持っていたそうだが、龍神の存在が確認されたことでそれを確信したとのことであった。

現在の闇の森は、恐らくレベル300台のレベルキャップを外したヴァージョンの、風音たちの知らない難易度のフィールドなのだ。

「俺も侮るつもりはないさ」

「ふん。後悔するなよ」

ジンライが悪態づき、ライノーがニヤリと笑う。

「それにしても見違えたな」

それからそう言ってライノーが見たのは、そばで倒れているライル……ではなく、 竜骨騎士(ドラゴンスカルナイト) のジン・バハルであった。

『ハハッ』

「そう畏まるな。今の俺はただの槍使いよ。そういうのはそこに転がってるヤツにしてやってくれ」

『そうですな』

「うぐぐ、ジンさん。なんかすごく厳しくなってるし」

すでに死に体に等しいライルがそう言って、ジン・バハルを見る。早朝の訓練によりライルは心身ともに疲れ切っているようだった。そのライルにジン・バハルは骸骨の顔でニコリと笑って口を開く。

『ライル様。実は主従の契約を結んだことで私はあることが分かるようになったのですよ』

「な、なんだよ。それは?」

『ドラゴンの身となったあなたは普段の訓練ではまだ力を出しきれていません』

「手を抜いておったということか?」

ギロリと睨んだジンライにライルが慌てて手を振る。

「いやいやいや。俺、超頑張ってるんですけど。見てよ。もうボロボロ」

『でしょうな。それが今のライル様の限界です。ですがそれは人としての限界なのです。訓練を厳しくすれば、それを封じている蓋も外れるかと思ったのですが、どうにもイマイチ。それを脱するためには……』

『実践ですね』

タツオがくわーっと鳴いて言った。ドラゴンとして先輩であるタツオにはそれが分かっている。それには『そうだな』とジーヴェの槍も同意の声を上げた。その言葉に意味するものが一体何であるかは明らかであった。

「いや、力不足を痛感したので今回は……」

一方で肝心のライルの心は、突然厳しさを増した訓練によって折れていた。しかし一度吐いたツバを飲み込むことは許されない。ライルの闇の森探索参加はすでに確定しているのであった。