軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第七百二十一話 笑顔で誤魔化そう

◎王都コーダ キャンサー家 屋敷

「だから、なんでそういう重大ごとをポイポイやっちゃうんですか?」

キャンサー家の屋敷入り口でミサリが叫んでいた。

そこには白き一団の面々がいて、ミサリの前で風音は、

「バレちゃったんだZE!」

てへぺろしていた。スパコンと弓花が風音の頭を叩いた。

風音たちが今いるのは、キャンサー家の屋敷入り口に設置してある 記念碑(モニュメント) 型ポータルの前である。

このポータルは一見してただの 記念碑(モニュメント) にしか見えないものだが、外装はアダマンチウム製で、内部には黒岩竜の肉を加工して造り出したマッスルクレイが詰められており、動力は浄化塚で倒した 悪魔憑き(デビル) ドラゴンの『竜の心臓』が使用されていた。また、これと同じものがゴルディオスの街の白の館にも存在し、どちら側からも約二時間の充填によって転移が可能となっている。

現時点においてはゴルディオスの街と王都コーダ、それにテレポートを付与された黒ミノくんの三点が移動座標に指定され、移動が可能となっていた。

ともあれ、問題はそれがミサリにバレたことであった。

いきなり自国の、それも王都内に他国に続く裏口を勝手に造られたのである。ミサリは知らぬことだが、ミンシアナ王国には王都を壊滅できるタチの悪い 化け物(ゆっこ姉) がひとり存在している。やるかやらないかはともかくとして、王都など某女王次第で一時間後には灰塵と化すことが可能なのだ。

「一度や二度ならともかく、何度も 魔力の川(ナーガライン) の干渉があれば嫌でも気付きますよ」

そして、 記念碑(モニュメント) 型ポータルの前で年甲斐もなくプリプリと怒っているミサリの言う通り、長距離転移の魔術は基本的には魔力の消費を抑えるために 魔力の川(ナーガライン) を経由して移動するものなので、宮廷魔術師長で 魔力の川(ナーガライン) と接続する守護兵装を扱うミサリはそれを感じ取れていたようである。

そして突き止めた結果がキャンサー家の 記念碑(モニュメント) 型ポータルであり、温泉から出てきてホカホカとなり、マッサージチェアで全身をほぐされて蕩け顔になっていたルイーズであったのだ。

「バレちゃった」

白き一団を屋敷に呼び出したルイーズに最初に言った言葉がそれである。風音が「あーらーらー」と言葉を返したが、後ろにいたミサリは笑ってはくれなかった。

「ともかく、やるにしても許可は取ってください。完全に密入国で、街の検問無視の大問題じゃないですか!?」

もっともなミサリの言葉であるが、そのミサリも風音に強く出ることはできない。それは風音の立場のこともあるが、そもそも国の法律で転移魔術を前提とした移動に対する規制はないし、また風音の行動はともかく転移そのものは非常に魅力的な技術ではあるのだ。ここで下手に拒絶して、それに一枚噛めなくなることをミサリが恐れていたが、それでも今は愚痴をこぼさずにはいられなかった。

「それにしてもゴーレムに付与魔術をかける技術ですか。空間創造以外の無属性魔術に、 魔力の川(ナーガライン) を使った転移……なんで、こんなとんでもないものを次々とバラしちゃうような真似してるんですか。この間の神獣事件といい、カザネ様漏れ過ぎですよ。大洪水じゃないですか」

「はっはっは、よしておくれよ。私はもう結構前から漏らしっ娘は卒業しているのだよ」

「完全にダダ漏れですよッ」

クワッとミサリがキレた。そして、そこまで言われた風音が少しばかり心配になって自分の下半身を見たが大丈夫だった。知らぬ間に漏れてはいない。

「まあ、最近の姉貴は妙にそこら辺、緩いからな」

「あー、確かに」

直樹とライルが後ろでそう言い合っている。

闇の森で討伐したこともあっさり話しているし、色々と風音のガードが甘くなっていたのは事実である。そしてミサリと弟たちの言葉が前後からグサリと風音を刺し、それから少しだけ唸りながら口を開く。

「うーん、最近は色々と立場も大きくなったからさ。ちょっとしたことぐらいなら、もう隠さずにしててもいいかなーなんて、思ったり思わなかったり?」

その言葉にミサリが頭を抱えながら、言葉を返す。

「あのですね。立場が大きくなったということは、尚更周囲への影響が強まりますし、少しのことで足をすくわれますよ。だから自重してくれないと……こんなこと、私が言っていいことではないですけど、せめてバレないように努力とかしておかないとつけ込まれますよ」

国を護る役目のあるミサリであれば目の前のポータルは当然看過すべきではないものだが、魔術師としての己で考えた場合に風音の漏らしたようなことは絶対に秘匿するべきものである。目の前のチンチクリンのあまりの漏らしっぷりにミサリも心配になっていた。

「もう、ともかく……この件については、他に知っている人はいますか?」

風音とルイーズが首を横に振る。

「であれば、ひとまずはこの件は内密に。王には報告しますが、決して他には知られないようにしてください。特に賢人都市ヴァエルにいる魔導の使徒たちにでもバレれば、どんな強硬手段に出て来るか分かりませんから」

アモリア王国は魔道大国と呼ばれているが、その名は基本的にはこの王都コーダより離れた場所にある賢人都市ヴァエルで魔術の研究が盛んであるために付けられたものである。

知識欲のためならば、権力をも無視して行動する研究馬鹿が多く存在し、当然ポータルも転移魔術も彼らにとっては非常に気になるものとなるはずだった。

そして彼らが強引に迫った結果、風音たちとの仲が悪化することはミサリにとっては避けたい事態だった。

なお、ミサリはミサリで研究する気は満々であった。それほどまでに転移魔術は魔術師にとっては重大な一種の到達点であり、それを掴めばパラダイムシフトを引き起こす要因となり得るとも言われていた。

その様子にルイーズが挙手して尋ねる。

「えーと、ひとまずあたし個人が使う分には良いわよね?」

「カザネ様がそのために用意したのでしたら仕方ありませんね。ただ使用目的については知らせていただきますよ」

ギロリと睨むミサリにルイーズは「了ー解」と返す。

以前に転移魔術を調べるのに匙を投げているルイーズとしては現時点においては温泉に入れればそれで良いし、ミサリはミサリで下手に反発してポータルが撤去されるのもよろしくはない。主に自分のため、続いて国のためにも、リスクはあっても転移魔術を身近に置いておきたかったのである。

そして、その風音たちのやりとりの横で弓花が不安げな顔でミサリに尋ねた。

「あの、ミサリさん。神獣事件って……もう、その名前で広まってるんですか?」

神獣事件。それは王都コーダ上空で行われた巨大な黒いドラゴンと、それを対峙した巨大な獣たちの戦いを指した呼称である。

もっとも黒竜ハガス、紅玉獣ルビーグリフォン、黄金竜ユッコネエ、カイザーサンダーバードポッポさんは神獣ではなく、該当するのは 解放神狼(リバティフェンリル) 化した弓花だけであったりする。

その唯一該当する弓花の問いに、ミサリが「はい」と答える。

「やっぱり……」

当事者のひとりである弓花が肩を落とした。

「一般的には、 血塗れの狂戦士(ブラッディベルセルク) が飼っているペットの一体が逃げたので処刑した……というような噂になっているようですね」

だが、続けてのミサリの言葉を聞いて、弓花の顔がガバッとミサリの方へと向けられた。

「え、なんで?」

弓花にとってその報告はまさしく寝耳に水であった。

その弓花にミサリが頭をかきながら言葉を続ける。

「あの中で唯一、身バレしてるのがアナタだからですよ」

「なぜ、そのようなことに? まさか、風音バレを防ぐために私を使ったの!?」

弓花が激昂する。様々な面で立場ある風音を庇うために、或いは自分がスケープゴートにされたのか……とも思ったのだが、ミサリは首を横に振った。

「槍を持った巨大な銀の狼なんて普通いるわけないですし、あなたがここに滞在していることは別に秘密でも何でもないじゃないですか。そりゃあ普通にバレますよ」

そういうことである。

外から流れてきた 血塗れの狂戦士(ブラッディベルセルク) の噂と現実に出現した槍を持つ巨大な銀狼が一致しただけのことであった。その他の獣やドラゴンたちの正体は特に知られていないため、すべてが 血塗れの狂戦士(ブラッディベルセルク) と結びつけられた結果として、ミサリの言ったような噂に変化したのである。

ここ数日は、その後始末に守護兵装を使ったのか……とミサリの元にお叱りの言葉が多数届き、ミサリはミサリで頭の痛い状況となっていた。

「い、隠蔽とかしてくれないの?」

「外部からの噂に何を隠蔽しろと?」

ミサリのもっともな言葉に弓花は、さらに重い空気を纏って再び肩を落とした。

「最近、街でまた露骨に避けられてるなーと思ったら……」

それは問題が拡大したために、弓花接近禁止令が街にまで浸透した結果であった。その弓花の落ち込みを見て、ミサリは自分が怒っているのが馬鹿らしくなってきていた。

「ハァ、まあいいです。カザネ様、ひとまずはこの用件はこれで終わりにします。それと別の件もありますので、ここでお話ししてしまいましょうか?」

「まだ、お叱りの件があると?」

また怒られるのか? ……そう考えて身構えた風音に、ミサリはやはりため息をついてから首を横に振った。

「違いますよ。オークションの再開日と、それにレインボーハートを持つ商人ゲハーノ・カピルーツと会う日取りが決まったので、その連絡です」

「ああ、良かった。どちらも決まったんだね」

そう言って風音は安堵のため息を漏らす。

実のところ、神獣事件等の煽りを受けて商人たちが王都へ来るのを見合わせていたため、本来であれば昨日に開催されるはずだったオークションは延期となっていたのだ。

「はい。オークションは一週間延びまして五日後に、ゲハーノとの会合は明後日となりましたが……何か問題ございますか?」

「ないよっ!」

そう力強く答えたことで、風音の明後日と五日後の予定が決まった。明日はサグー魔具工房に完成した魔法具を取りに行く予定であったので、風音にとってはむしろ都合が良い日程であったのだ。