作品タイトル不明
第六百六十七話 ゲーム通りに攻略しよう
「これは……」
正面に現れた四体の巨大な魔物たち。それにはジンライですら目を見開き、その姿に恐怖を感じていた。他の者たちに至っては青ざめた顔をしながら絶望をその表情を浮かべていた。
特に巨大な三体の魔獣の中心にいる大蛇の威圧感は異常であった。
その蛇の名を最古種『 人をそそのかす者(サイタン) 』ということを風音は知っていた。それは世界が生まれた時に同時に発生した、魔物の始祖にあたる種の一体であるとゲームの説明にはあったはずだと風音は己の記憶を呼び起こしていた。
(けど、ここはゲームの中じゃない。だったらコイツは何?)
そんな一瞬の疑問も目の前の相手を前には継続することはできない。余計な考えを振り払って身構えた風音を前に蛇が口を開いた。
『汝等が今回の 贄(にえ) たちか。なるほどな……』
そう口にした 人をそそのかす者(サイタン) の視線が風音と弓花、続けて直樹に向けられる。蛇は明確にプレイヤーを認識しているようであった。
『旧世界の者が三人も揃っているとは珍しいことよ。神の仕掛けに掛かったようだが、運がなかったな。我はただ与えられた役割を、そうであれと果たすだけのこと』
その 人をそそのかす者(サイタン) の言葉には、わずかばかり哀れみが混じっているように風音には感じられた。
『ともあれ、これは余興だ。ヒントはくれてやろう。我は汝らの 遊戯(ゲーム) によって定められた 律(パターン) に沿って動く。それを努々忘れぬように、そして精々我らを楽しませてみせよ』
人をそそのかす者(サイタン) がそう告げると、魔獣たちの瞳に意志が宿り、その場で叫び声を上げ始めた。その声に全身が総毛立つ思いに駆られている白き一団の中で、風音だけは唯一ひとり、かすかにではあるが安堵していた。
(ゲーム通りね。ああ、だったらイケるかもしれない)
人をそそのかす者(サイタン) の言葉を頼りに、風音は冷や汗をかきながらも頭の中で戦闘の組み立てを決めた。目の前の敵はカンスト組で勝負するような相手だが、ゲームの通りであるならばまだ勝ちの目はある。四体同時に攻められれば如何にセカンドキャラクターを召喚したとしても確実に犠牲者が出ただろう。だが、ゲーム通りならば攻撃の手順は決まっている。風音は己にそう言い聞かせて頷き、全員に声をかけた。
「みんな、あの蛇は後回し。今は目の前の配下の三体だけに集中するよ」
「カザネよ。どういうことだ?」
ジンライの問いに風音が少しばかり笑って答える。
「警戒はしておいて欲しいんだけどね。周りの魔獣三体を倒せばアレは動き出す。多分そういう相手だから動き出すまでは手を出さないで。反撃を喰らうだけ損だから」
そう言ってから風音は再度、目の前の敵を見回す。
(こちらが動き出さなければ相手も動き出さない。つまりは突然のランダムイベントの前の作戦タイムを『忠実に再現』してくれているというわけだよね。神の仕掛けってのが多分、ゲームのイベントのことなんだろうけど)
それから風音が全員に指示を与えていく。
『黒鯨リヴィアタン・ダークネス』には、 炎の王騎士(フレイムキングナイト) メフィルス、タツヨシくんケイローン、ホーリースカルレギオン、ライトニングスフィアを前衛で壁にしつつ、タツオ、レーム、エミリィ、直樹でティアラとルイーズを護りつつ後方射撃をメインに。
『古代種バハムート・シーラカンス』にはユッコネエドラゴンで組み合って動きを止めながら、ジンライとシップー、弓花とクロマル、それにジン・バハルでの攻撃をメインに。
『超獣王ベヒモス・ビースト』には風音を中心に、狂い鬼とロクテンくんにライル、それにダークオーガ軍団で挑むように振り分けてから風音たちはパーティを分けて動き出し、それに併せて魔物たちも行動を開始する。
(作戦タイムは終了か。本当にそういう条件で動いてる……普通に魔物と戦うのとは違うってことか)
ベヒモス・ビーストに向かいながら風音がそう考える。シグナ遺跡のクエスト、コーラル神殿、ウィンドウ、それにダンジョン。そうしたものと同じ部類の造られたイベント。今はそのルールを信じて動くしかないと風音は敵を睨みつけた。
「敵も三体が分かれて動いていく?」
ライルの言葉に風音が「ま、そういうことだね」と返す。
「それぞれで相手をしてくれるってんだからそれに従うのが一番確実。まあ、動きもゲームに合わせてくれてるみたいだから助かるよ。普通に四体で攻められたら絶対にやばかったよっと」
そう言いながら風音が後ろから胸部ハッチを開けながら突進してくるロクテンくんにジャンプして乗り込む。そして風音の魔力が通ることでロクテンくんの表面は黒から金色へと変わり、六本の腕に赤い炎のマント、黄金の翼を生やし、地面に置いたドラグホーントンファーを足裏にはめ込んで魔王アスラ・カザネリアンとも呼ばれるロクテンくん阿修羅王モードへと変わっていく。
『狂い鬼はダークオーガ軍団を引き連れて暴れ回って』
「グォオオオオオンッ!!」
風音の言葉に呼応して、すでにアーマード形態となった狂い鬼と23体の黒いオーガがベヒモス・ビーストの周囲に一斉に召還されて突撃していく。
「で、俺も狂い鬼と同じように戦えばいいのかよ?」
ロクテンくん阿修羅王モードに併走しているライルの問いにロクテンくん阿修羅王モードが頷いた。
『どうせあいつも『暴風の加護』を持ってるから遠距離攻撃は効かないからね。全力で暴れ回って」
「あの蛇相手に温存はしとかなくていいのか?」
ライルの問いに風音がベヒモス・ビーストを見ながら口を開く。
『そんな余裕かけられる相手じゃないし……そっちはなんとかするよ』
言い切る風音にライルが「へっ」と笑いながらジーヴェの槍を構える。
「そうかい。そんじゃあ全力でやらせてもらうぜ」
『我よ。エミリィへの供給分の竜気の確保だけは忘れるなよ』
「わーってるっての」
ジーヴェの槍からの言葉にライルが口をへの字にして返す。すでにエミリィがライル供給の竜気で竜人化して戦闘に入っていた。そして風音が少しだけ黒鯨リヴィアタン・ダークネスを見てから口を開いた。
『ジンライさんと弓花のところはそこまで心配ではないけど、黒鯨の方は結構厳しめだからね。英霊フーネを召喚できる直樹を配置したけどこっちをさっさと終えて助けに行かないと』
「簡単に勝たせてくれる相手には見えねえけどな」
ライルが苦笑しながら返事をする。その相手、ベヒモス・ビーストへとの戦闘領域までもう一歩……というところで風音が叫んだ。
『む、来るよ。ライルは私の後ろに』
「おっと」
風音の言葉にライルがステップを踏みながらロクテンくん阿修羅王モードの背後に回る。その次の瞬間にベヒモス・ビーストの金のたてがみから大量の毛が針のようになって一斉に飛んできた。ベヒモス・ビーストは狂い鬼たちを蹴散らすべくすでに前足を振り回していたが、近付いてくる風音たちへの攻撃も忘れてはいないようだった。だがロクテンくん阿修羅王モードは避けようとはしない。
『効かないよッ』
すべての金毛のニードルを風音のスキル『暴風の加護』が自動発生し弾いていく。その様子にベヒモス・ビーストの目が見開かれた。そして己の種族と同じ力を持つ、黄金巨人への警戒のうなり声を上げた。対して風音は不敵に笑う。
『さーてと、三体の中じゃあ単純バカのアンタが一番攻略しやすいからね』
そう言いながら風音はロクテンくん阿修羅王モードが浮かび上がらせた。それは黄金翼による飛翔ではなく、スペル『フライ』による空中浮遊。ここに至っては翼は空を飛ぶためのものではなかった。
『一気に潰させてもらう。容赦なく!』
そしてロクテンくんが加速していく。
スキル『六刀流』制御による六本腕の六つの刃、ドラグホーントンファーを装着させた強力無比な蹴り、スキル『ウィングスライサー』による翼の斬撃。そこにさらにスキル『ソードレイン』制御による宙に浮かんだアダマンチウムソード二本の自動攻撃が加わった一斉攻撃『天翼剣身十二斬』がベヒモス・ビーストへと繰り出された。