軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第六十四話 腕試しをしよう

◎ウィンラードの街 宿屋リカルド

「ちょ、ちょっと、大変だよ風音」

それはちょうど昼にかかる頃、朝稽古も終え「お昼どうしようかなあ」と考えながら窓の外を見ていた弓花があるものを見て慌てて部屋の中にいる風音に叫んだ。

「むう、なによ弓花」

風音は目下タツヨシくんの改造を行なっていた。投擲用や移動用、戦闘用と変化するタツヨシくんの内部のマッスルクレイの構造をタツヨシくんの状況判断で対応できないかとルーチンの処理を考えていたのである。風音はアドバンスドモードのエディタを保存してから閉じて弓花のもとに向かう。

「まったく、なにか見えたの?」

「あれ、あれ」

弓花がどうしようという顔で外を見るよう促す。

「うわ、なにこれ?」

そこには20名ほどの騎士団が宿屋を囲んでいた。

「この宿屋ってなんか有名な人泊まってたっけ。て、ティアラを探して?」

奥でメフィルスとルイーズに召喚術の講義を受けていたティアラも、何事かと近付いてくる。

『ふむ。ミンシアナの騎士団のようだな』

「心当たりは?」

横から顔を出したメフィルスに風音が尋ねる。

『さてな。今はその資格を凍結しているとはいえ王女であるティアラのことが知れれば、王宮から使いが来ることはあるだろう。が、それにしては物々しい。ジョーンズの言っていたお前たちへの用事というやつなのではないかな』

「ああ、あれかあ」

ミンシアナのお偉いさんの誰かが風音たちを探しているらしいという話だが、風音たちにはそちらに対しても心当たりはなかった。

「それにしてもあんな武装した集団で来るかなあ」

と風音が言ったところでドンドンドンと扉が叩かれる。

宿屋の受付が血相を変えて「王宮からの使いが来てます」と伝えにきたのだ。

◎ウィンラードの街 宿屋リカルド前

「来たか」

風音たちが外に出ると騎士団と一緒にジンライがいた。

「ジンライさん、どうしたの?」

「知らんよ。ワシは呼ばれただけだ」

そう言って騎士団で一番偉そうな人間を睨みつける。

「それでそろそろ話してもらえるんだろうなロジャー?」

知り合いのようだった。

「いや。こちらも内密にと指令を受けてまして。本当に御世話になったジンライ様には申し訳なく思うのですが」

「ジンライさんの知り合い?」

「二三ヶ月に一度、連中の稽古を付けにいってる」

風音の問いにジンライはそう短く返す。

「そなたがカザネ殿とユミカ殿かな?」

ロジャーと呼ばれた男がゴホンと咳払いをして尋ねる。

「そうだけどおじさんは誰?」

「物怖じしない子のようだな。我が輩はロジャー・ルートバーグ、ミンシアナ王宮騎士団団長である」

『まあ、うちのレイゲルと同じ立場ということよの』

ルイーズに抱き抱えられながらメフィルスがそう口にする。

「なるほど」

風音はツヴァーラのハゲのおっさんを思い出す。ディアボに対しての彼の指揮は風音から見ても的確で良い戦士であると感じていた。まあその的確な指揮はアウディーンに潰されたのだが。

『彼らは国ではなく王族を護るために存在している。王族の信頼が厚い分、私用に使われることも多い苦労者の集団よ』

そうしゃべるメフィルスの存在に騎士団もざわめくが召喚体の存在を知らぬワケでもないので特にそれがなんなのかと尋ねるということはなかった。知ればもっと驚いたろうが。

「ということは王族の誰かが私たちに用があるってこと?」

『で、あろうな。のぉ、ロジャーよ?』

「む、いきなりそう呼ばれては? あ? 今の声は?」

いきなりの不躾な物言いに不快な顔をしたロジャーだったが、だが、メフィルスの声に何かしらひっかかるものを感じた。

「いや、まさか」

どうもロジャーはメフィルスの正体に気付いたようだった。

『ふむ。そなたの考えているとおりで合っているよ。もっとも何故という問いに答える気はないがの』

「は、ははあ」

突如敬礼するロジャーに周囲の騎士団は訝しげな眼差しを向けるが、ロジャーは改めて風音に向き合い、こう告げた。

「カザネ殿、ユミカ殿、またそのパーティ一行にミンシアナ王族より王都への招集がかけられている。召喚状もある。これはすぐさま我らとともに王都へ来るよう要請するものである」

ロジャーの大声に辟易としながら風音はメフィルスに尋ねる。

「断ってもいいものなの、これ?」

『無理よの。召喚状もあるのであればそれは正式な王国からの要請、拒絶するということは国に逆らうということよ』

「まあ断る理由もないし、だったら仕方ないね。お爺ちゃんたちは大丈夫なの?」

『問題ない。寧ろ余とティアラがいた方が都合が良かろう。同盟国相手に早々迂闊な真似もできまいて』

そう風音に言って笑う。

「ですが、その前に」

ロジャーが区切る。

「ここで一太刀、勝負願いたい」

「は?」

いきなりの発言である。何を言ってるんだこいつは……という顔で風音がロジャーを見る。

「むむ、我が輩も本意ではないのだ。だがそう命じられておるのだよ」

「はあ……」

ワケが分からんと言う顔で風音が言うが、弓花が裏から声をかける。

「勝負って、私と風音、どちらとするんですか?」

「それはどちらともとの指示だ。同時でも……構わんよ?」

途中で風音にジト目で見られて、ロジャーも声がうわずっている。

(言わされてるのねえ)

と、横で見ているルイーズが思った。

鬼殺し姫とその相棒相手にひとりで挑むのはさすがに無謀だとはロジャーも分かってるようだった。

「ならとりあえず私がやる。いいよね風音?」

「お好きにどうぞっと」

弓花が前に出て風音が下がる。

「いいのか?」

ロジャーが尋ねる。どうにも自分の要請が理不尽であろうと理解して申し訳なく思っているようだった。

「今さらでしょう。手加減無用で願います」

弓花が背に背負っていた槍を構える。親方に頼んで兎の装飾を付けた槍が日の光に照らされて光り、その輝きに周囲は魅せられる。騎士団の誰もがその槍が相当な一品であることを認識する。

ロジャーは改めて弓花を見て、真剣な顔で槍を構える。

「で、大丈夫なの?」

「問題ない」

ジンライの横にまで戻った風音の問いにジンライがそっけなく返す。

「あるとすれば命のやり取りではないということだけだな。あれでは双方、本来の力は出せん」

もっとも……と、ジンライが続ける。

「技量だけならば同程度だが」

騎士団の一員が「はじめっ」と合図する。

弓花は構え、ロジャーは間髪入れずに突進する。

そして勝負は一瞬。

「ワシの鍛えているユミカがロジャー程度に負けるわけがないよ」

ロジャーの視線が回る。

「グアッ!?」

と叫んで、そして前を見たときには弓花の槍が倒れ込んだロジャーの喉元に突き立てられていた。

(な、何が起こった?)

ロジャーは呆然と目の前の少女を見ていた。

「うわー、合気道みたい」

間近で食らったロジャーには分からなかっただろうが離れた位置にいる風音にはそのからくりがよく見えていた。

「『柳』の応用の『転』だな。まったく覚えが良すぎるな、あいつは」

ジンライがそうぼやいた。最小の動きで見切って敵の攻撃をかわすのが『柳』。そのかわすタイミングで槍の柄の先で足払いをかけ、転ばせるのが『転』である。まるで回転するかのようにロジャーが舞い、そのまま地面に叩きつけられていた。

「むむむ、凄まじい技量ですな」

弓花の伸ばした手をつかみ、立ち上がるロジャーに

「ロジャーさんの突きがそれだけ強かったということですね。それを利用させてもらったまでです」

と弓花は返す。

そして、立ち上がったロジャーに風音が進んでいく。

「じゃあやるよー」

弓花とタッチして交代を告げる。

「う、む」

対するロジャーは弓花に負けはしたものの、まったく疲れても怪我をしてもいない。勝負をするには十分。

「あれ、剣を持った?」

弓花が若干首を傾げて風音をみる。

「ふむ」

とジンライは口にして真剣にそれを見た。

再度団員が始めっと手を挙げる。

「むぬぬぬ」

ロジャーは今度は突進せずに構えて風音に向かい合う。

(カウンターでやられたから警戒してるのかなあ)

と風音が思うが、あいにく風音にはあんな芸当はできない。

「さてっとスキル・突進」

風音はスキルを発動させて、一歩を踏みだした。

「ぬうっ?」

わずか一瞬で間合いに入り込む風音に驚愕しつつもロジャーは風音の攻撃を受け止める。

(さすがに出来る人だね)

と、風音は舌を巻く。魔物相手ならここで終了のハズなのだが腕の立つ相手だとそうもいかない。

「ていっ、やあ」

風音は直感の赴くままに剣を振るう。確かに剣術としては素人だが、明らかに相手の死角を意識した攻撃にロジャーは驚きを隠せぬままに槍を突き出す。

「ふっ」

それを風音は剣で受けてから流し、再度間合いに入り込む。ロジャーも槍とガントレットでもって風音の攻撃を防ぐ。

「とっ、ととと」

防がれた衝撃でよろける風音にロジャーは槍の柄を打ち下ろす。

「おっと」

それを風音はわずかに体を捻りよけ、ロジャーの背後に回ろうと走り出した。

「甘いわっ」

風音の動きを察したロジャーは『見ず』に横にひと薙にする。姿が見えずとも動きを予測できていれば当てることは容易い。が、それが風音に当たることはなかった。

(なにっ!?)

そう驚くロジャーの後ろに風音が降り立つ。背後に回ったのではなく空中跳びで宙に舞い、頭上という死角を越えて振り向いたロジャーの背後に降りたった結果である。いつもよりも素早く気付かれずに行えたのは恐らく『身軽』のスキルのおかげだろう。そして風音は両手剣の黒牙をロジャーの背中に突きつけた。

「よし、私の勝ちっ!」

ロジャーは呆然と背後を向いて風音を見た。何故後ろにいるのか分からなかった。そのロジャーに風音はブイサインをした。二戦ともロジャーの完全敗北であった。