軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第六百六十三話 ウサギを飼おう

「今回の戦闘で倒した魔物から結構、魔素が漏れたからねえ。これなら問題なく造れそうだよ」

残りのストーンタイタンとジュエルラビットも倒して戦闘が終了した後、風音はストーンタイタンたちがバラバラに破壊されている通路の真ん中に立ってそう口にした。

その後ろには弓花を除いた女性陣がまだかまだかという顔で風音の様子を覗き込んでいる。その中でもっとも目が血走っているルイーズが一歩前に出て風音に尋ねる。

「カザネ、まだなの? とっとと、さっさと、迅速は金なりと言うわよ」

「せっつかないでよ、ルイーズさん。本当に 魅了(チャーム) 解けてるんだよね?」

「あったり前でしょう。それはそれ、これはこれなの」

すでに 魅了(チャーム) は解けているはずなのにルイーズの顔はまだ熱に浮かされた感じのままであった。他のメンバーもルイーズほどではないにしても同じ症状が起きている。どうやら 魅了(チャーム) は解けてもその後遺症のようなものが残っているようであった。

「ま、いいけどね。よいしょっと」

風音がパチパチパチとルイーズには見えないウィンドウのボタンを三回押すと、目の前で魔法陣がみっつ発生して青、赤、緑と色の違うジュエルラビットがその場で造られていく。その色から見てそれぞれがルビー、サファイア、エメラルドのジュエルラビットのようであった。

それから誕生したジュエルラビットは白き一団の目の前で鼻をヒクヒクとさせながら風音の前に整列した。その様子を見てルイーズやティアラたちから黄色い歓声が上がる。

「うん。上手くできた。ダイヤタイプは別枠っぽいけど、色々な種類のジュエルラビットが造れるみたいだね」

目の前の成果に風音が頷いている。そして風音が何をしたのかと言えばスキル『魔物創造』によってジュエルラビットを創造したのである。

実は戦闘終了後、見るも無惨なジュエルラビットたちの残骸を前にルイーズやティアラが泣き出してしまったのだ。そうした戦闘後の混乱状態も女性の精神に強烈に働きかけるジュエルラビットの 魅了(チャーム) の特性のひとつである。熱に浮かされたように執着し破壊されると嗚咽する。その後の精神状態のバランスを崩し、ダンジョン攻略を困難にさせるという何とも厄介な能力であった。

だが女性であるにも関わらず風音以外に 魅了(チャーム) が効いていない人物がもうひとりいた。それは弓花である。

「お前は良いのか?」

ジュエルラビットの前でキャーキャー言っている女性陣から少し離れたところにいる弓花にジンライが声をかけた。

「ええ。後でじっくり見れますし、私にはこれがありますからね」

そう言って弓花が己の槍を大事そうに握ってジンライに見せた。その槍の名は聖者の槍ムータン、見るものを魅了する聖と邪の属性を併せ持つ至高の槍である。

それを常時身に付けている弓花はジュエルラビットの 魅了(チャーム) をはねのけるほどの耐性を持っていた。

もっとも「うふふふふ」と自分の槍を頬ずりしている今の弓花を見ている限り、ジンライにしてみれば耐性ができたというよりは槍に魅入られているようにしか見えなかった。

「ふむ、そうか」

「はい」

なおも頬ずりをしている弓花から一歩引きながらジンライはひとり頷いた。戦闘終了後の弓花は時折こうした状況になるときがあり、そういうときの弟子がジンライは少し怖かった。強すぎる武器というのも考え物である。

それから風音はともかく欲しいと連呼するルイーズに青いサファイアジュエルラビット一体だけ渡し、残り二体は白の館の番犬代わりにする予定と話し、そのまま引き連れて先に進むことにした。

なお基本的にサーファことサファイアジュエルラビットは風音に従って動いているので、まだ主は風音のままである。ルイーズはこれから少しずつ世話をしながら、己を主と覚え込ませる必要があった。

そして、その日の残りは第五十五階層内を探索し、ストーンタイタンと何度か遭遇したものの撃退に成功。

隠し部屋は見つからなかったために風音たちは敵の出現しないエリアである要塞外にベースを造って夜を過ごし、翌日も第五十五階層を探索した後、 帰還の楔(リターナーズ・ステイカー) の刻印を要塞外へと刻んでから地上へと転移で戻ったのであった。

◎ゴルディオスの街 白の館 中庭

「全員、私が世話しても良いのだけれど……こっちで飼うのね?」

鼻をヒクヒクさせているサファイアジュエルラビットを抱えながらのルイーズが尋ねる。なおルビータイプはティアラが、エメラルドタイプはエミリィが抱えている。ちなみにそれぞれサーファ、ルー、エメラと名付けられた。

「うん。最近は高ランクの冒険者も多くて少し物騒だしね。白の館の護衛にしてもタツヨシくんノーマルだけじゃあ危険だとは思ってたんだよ。だからルーとエメラにはここで番犬代わりになってもらうつもり」

そういう風音の横にはタツヨシくんノーマルが立っていた。このタツヨシくんノーマルは、ドラゴンとなり身体能力が強化されたライルの戦闘力に追いつけなくなったために現在は白の館の警護に回されていたのだが、その追加の護衛としてジュエルラビットはどうかと弓花が風音に持ちかけたのがジュエルラビットを飼おうという話の発端である。

第五十〜六十階層内に生息する魔物であるので強さも十分だし、見るだけでも楽しめるのだから非常に良いと風音も了承したのである。

「そんじゃあ、これで一気にこの子らの住む場所を造るよ」

それから風音は杖『白炎』を大地に付けてゴーレムメーカーを発動させると、その場にある土を盛り上げて形を整えていき、同時に水晶化も行って、その場に水晶の林を造り上げた。一緒にウサギ小屋っぽいのもできている。

「まあ、綺麗」

「これってあのカザネーキャッスルの中庭のものと同じですわよね?」

その輝きにウットリとした顔で見ているルイーズやティアラたちの前で風音がさらに木々に実った風に造られている水晶の実に手を当てて、

「スキル・宝石化」

と言って水晶の実をルビーやエメラルドなどに変えていった。それから十数個ほどの小さな実を宝石に変化させると疲れた顔をしながらその作業を終えた。

「ついに宝石も造れるようになっちゃったのね。もう、風音はお金に困ることはなさそうねえ」

半分呆れた顔のルイーズに風音は「でも魔力を相当食うんだよね」と返す。

「ぶっちゃけ水晶化に比べて燃費悪すぎ。まあその分硬度はあるんだけどさ」

風音はそう言って自ら造った宝石の実を見る。

「それにこれは元々そいつらのスキルだよ。餌を宝石にしてから食べるらしいから、その食べ残しだけで大金持ちになれるって話だってことだけど?」

「まさに金を生むペットね」

風音の言葉にルイーズが嬉しそうにサーファの頭を撫でた。

実のところ、このジュエルラビットと言うのは言ってみればクリスタルドラゴンの親戚のよう生物である。それも 石英(クリスタル) に比べて上位の 宝石(ジュエル) の名を冠しているため、そのスキルも上位のものであった。 そして風音たちがジュエルラビットを水晶の森に放つと、ジュエルラビットはヒクヒクと鼻を動かせながら元気よく走り回り始めた。

「一応こっからは出ないように、侵入者も殺さないようにってのは指示してあるから大丈夫だとは思うけど、餌の用意はノーマル、お前に任せたからね」

風音の言葉にタツヨシくんノーマルが頷く。それから風音たちがジュエルラビットを愛でていると、玄関の方から声が上がった。

「なんだ。これは!?」

「うん?」

風音が声の方に視線を向けるとそこにいたのはオーリたち、オーリングのメンバーであった。

「あ、おかえり。そっちもダンジョンから戻ってきたの?」

「ああ、そうだけど。それよりもそれはジュエルラビットじゃないか。まさかテイムしたのか?」

驚いているオーリの言葉に風音が頷く。

「ダンジョンの魔物は懐かないはずなのに……」

「企業秘密だよ」

驚きのオルトヴァの言葉に風音がそう返す。ちなみにダンジョン内ではテイムができないが正解であり、実は生け捕りにして外で育てて野生に戻らせることでテイムも可能であったりする。

「キギョウ秘密か。キギョウとは何か恐ろしいものなのか。強力な契約だろうか?」

そう呟いているオルトヴァの動揺をよそに 他のメンバーは水晶の森とそこで遊んでいるジュエルラビットを見ている。そしてオーリングのメンバーのひとりのカンナが口を開いた。

「いやー。なんかメルヘン系の3D映画みたいだねー」

「まあ異世界来たら普通じゃできないこともやりたいしねえ」

そういう風音にカンナが「いやー、やりたいって早々できることじゃあないけどね」と苦笑した。

「普通はね。生活するのだけでも結構大変なもんなんだよ」

「そういうもんかな?」

風音は首を傾げたが、商人アングレーに雇われている身でもあるカンナはこの世界にいる他のプレイヤーの状況もある程度知っていた。

実際に冒険者となるプレイヤーというのは思いの外少なく、大概は普通に暮らしているのが現実であるということを彼女はここまでの旅の中で聞いたり調べたりして把握していたのだ。

また生活の中で目覚めたスキルによってそれなりの生活を送っている者もいれば、疎まれて街を追いやられたり、国王となり大成功を収めた者たちがいることも彼女は知っていた。

そんな中でもカンナのように冒険者として名を知られるようになる者は稀であり、さらに風音たちほどに様々なことを為せた者はとても少ない。それを為せる能力を持たされても普通の人間は安定を求めるものなのだ。

「ま、誰も彼もが戦えるってわけじゃあないしね」

風音の問いにカンナは肩をすくめながら言葉を返す。

それからカンナは自分の前にジュエルラビットがやってきたので座ってジュエルラビットを抱き上げて撫でた。毛が生えているわけではないから柔らかくはないのだが不思議と暖かかった。

「ダンジョンの中じゃあ怖い相手だったけど、こうしている分には可愛いね」

「いや、怖かったのはブッチャケそのウサギって言うか目を血走らせたおめーらだったんだけどな」

カンナの言葉にバックスがウンザリした顔でそう口にした。それにはカンナだけではなく、他のメンバーであるユズやナイラも「アハハハ」と乾いた笑いを返す。どうやらオーリングも 魅了(チャーム) の効力にはかなり手痛い目を見ていたようだった。