作品タイトル不明
第六百六十二話 悲鳴を上げよう
「うおっりゃぁあっと!」
風音がドラグホーントンファーに装填したファイアブーストを用いて突撃し崩れかかったストーンタイタンへ攻撃を仕掛ける。それはメガビームを浴びたストーンタイタンには強すぎる一撃だ。そして攻撃を受けた石の身体の半分があっけなく吹き飛んだ。
「駄目押しッ」
続けて風音はスキル『空中跳び』で一気に飛び上がってからのキリングレッグかかと落としを食らわせて、完全にストーンタイタンにトドメを刺した。
(うーん。やっぱりひび割れてるかぁ)
風音が破壊したストーンタイタンの中から出てきたコアストーンシグマを見て眉をひそめた。今の攻撃によるダメージもあるが、メガビームの負荷によりすでに脆くなってもいるようだった。
(これだと他のもコアストーンシグマは諦めるしかないかな)
そんなことを考えている風音に声がかかる。
「カザネ、左右から来てんぞ」
レームの言葉は正しく左右からストーンタイタンが風音に迫っている。だが風音に焦りはない。
「んー、問題なし」
それから、そう答える風音の鎧の中から狂い鬼が飛び出し、左から迫るストーンタイタンをベヒモスホーンクラブの一撃で粉砕した。また右からきたストーンタイタンには別のところで戦っていたユッコネエが飛びかかって炎の爪で切り裂き破壊した。そして、それを見ながら風音が二体の 僕(しもべ) にさらに指示を出す。
「そんじゃあ狂い鬼もユッコネエも暴れちゃって。とっと片付けて、安全ラインを確保しないと」
その言葉に狂い鬼とユッコネエが「グォオオ」「にゃーー」と鳴いて応え、他のストーンタイタンたちへと向かっていく。対してストーンタイタンたちは風音のメガビームでダメージを受けているために動きも鈍くなっており、為すすべもなく倒されていく。
また他のメンバーにしても苦戦には至っていないようで、退路についてはひとまず問題のない状況のようであった。
「ふーむ」
それから風音が前方で戦っているメンツを見る。
「おや、苦戦してる?」
ジンライとシップー、それに弓花と直樹が戦っているのだから問題ないだろうと風音は考えていたのだが予想外に圧されているようであった。もっともその原因はストーンタイタンだけではないようだった。
「あれは?」
風音がスキル『イーグルアイ』で強化した眼を凝らして見てみると、小さなキラキラした何かが直樹たちを襲っていた。
「もしかして、あれがジュエルラビット?」
赤と緑のウサギの形をした宝石の塊が数体飛び跳ねて直樹や弓花を攻撃しているのが風音には見えた。
またジュエルラビットは高速移動をしているジンライへも向かっているのだが、ジンライはストーンタイタンへと攻撃を仕掛けつつ迫るジェルラビットを次々と打ち落としていた。そしてジュエルラビットが地面に叩きつけられるたびに身体の宝石が散っているようであった。
「ああ、勿体ない」
いつの間にやら前衛組を見ていたルイーズがそう言って身悶えしている。ティアラやエミリィ、レームですらも同じように目の色が変わっている。
(……これが 魅了(チャーム) の力?)
それはカンナから聞いていたジュエルラビットが放つ女性限定の『 魅了(チャーム) 』の効果のようだった。精神防御のスキルを持っている風音には効力がないが、他の女性メンバーには効果覿面のようで明らかにとろけた瞳をしている。ダブルピースでもされればモザイクをかけるしかない光景だ。
(ということは最前線で戦っている弓花も危ないんじゃあ)
風音がハッとした顔で戦っている弓花を見た。
「ほら直樹。もっと回りをよく見て」
「くっそ。全然当たらねえ」
しかし、戦闘中の弓花には特に変化はないようだった。モザイクで修正を入れる必要もなさそうである。
「どゆこと?」
それを見て風音が拍子抜けした声を上げる。どうも弓花にも 魅了(チャーム) の効果はないようである。親友の痴態を見れるのでは……という謎の期待感を見事に打ち砕かれたことに風音が微妙にガッカリしていると背後から声がかかった。
「カザネ。こっちは片付いたわ。さっさとジュエルラビットを捕まえましょう!」
「カザネ。あれを、あれを捕まえてくださいッ!」
風音が後ろを見ると鼻息荒くしているティアラとルイーズがいた。ライトニング・スフィアと 炎の騎士団(フレイムナイツ) とで一気にストーンタイタンを潰したようである。ペース配分を考えれば、後衛組には力を温存しておいて欲しいのだが後の祭りだ。
またエミリィとレームはそれほどの興奮状態ではないようで、このジュエルラビットの 魅了(チャーム) には個人差があるようだった。
「いや、捕まえろって言ってもなあ」
風音がそう口にしながら再び前衛組の方を見る。
現状はジンライがストーンタイタンを倒しつつ、弓花が直樹をフォローしてジュエルラビットと戦っている状況である。
どうやら直樹がジュエルラビットにかなり苦戦しているようだが、その原因は単純な本人の力不足……というだけではないようだった。
「ちょっとピンチかな。ありゃ、なんか食らってるっぽいし」
風音の言葉通り、直樹と弓花は見えない攻撃を食らっていた。周囲の空間が微妙に歪んでいるのだ。それはストーンタイタンのスキル『タイタンウェーブ』の効力であった。
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「クソッ、足場が揺れてる」
直樹が苛立った声を上げる。ストーンタイタンが発動させている『タイタンウェーブ』により、直樹たちの足下は常に揺れている状態となっていた。それは空間干渉による擬似地震であるために、実際に床が揺れているわけではないが直樹にとっては同じことである。
「直樹、動いて」
「分かってる。けどっ……うぉっ」
光り輝く緑のジュエルラビットが直樹に向かって飛び込んでくる。それを直樹は両腕にある狂骨の業魔王剣『エクス』と夜王の剣を振るって弾く。
「くっ、足場が安定しない!?」
しかし揺れにより身体がふらつくために踏ん張りが利かない。そのため突進のダメージを受け流しきれずに直樹の身体は崩れ落ちそうになる。
「くそっ。出ろよ『狂骨の王衣』!」
そして直樹はその場でエクスの刃で地面に円を描き、そこから『狂骨の王』を出現させた。直樹はそれを『狂骨の王衣』と呼ばれる形態へと変えさせて身に纏い、豪奢な骸骨騎士へと変じた。もはや力の温存など考えている余裕はないと悟ったのだ。
「要は地面に足が着かなきゃいいんだろ」
そう言って直樹は背の黒いマントへと魔力を送るとマントが一瞬で蝙蝠の翼へと変わった。
『狂骨の王衣』は簡単な身体能力の強化だけではなく、マントを変化させ空を飛ぶことも可能であったが、それには弓花からの注意が飛んだ。
「直樹、それは迂闊っ」
「くっ!?」
宙に浮いているというのはただ有利だというわけではない。足場がなければ力を込められぬし、何よりも全方位から的にされやすい。そして案の定というべきか突進してきたストーンタイタンの拳が降り注ぎ、直樹はその場から弾き飛ばされた。
「あーもうっ!」
そこに弓花が飛び込み、直樹を抱き留める。
「まったく、よく考えて動いてよね」
そして弓花はシルフィンブーツの付与効果である『空中跳び』を使い、空中の何もない空間を踏んで勢いを殺すとそのまま直樹と共に地面に降りた。
「ワリィ」
「反省は後。あの子が来たわよ」
「あの子?」
直樹が疑問の声と同時にふたりの頭上を風音が飛び越えていった。それから空中で一回転してから地面へと降下し、
「どっこいせーー! スキル・タイタンウェーブ!!」
スキルを発動させながら風音が地面をドスンと踏みつけると、そこから波紋のようなものが出てきてストーンタイタンの発していた『タイタンウェーブ』の影響が収まる。
「おっと、揺れが収まった?」
その状況に直樹が目を丸くしていると、風音が足下から魔力の波紋を出し続けながら直樹に声をかける。
「直樹。お姉ちゃんが揺れは中和しとくからやっちゃいな」
「お、おう。なんだか知らないが」
直樹はエクスを神速の鞘へと仕舞うとイダテンの脚甲に魔力をそそぎ込んでいく。
ジュエルラビットもストーンタイタンもジンライと弓花が相手にしていて直樹にまでは届かない。
「姉貴の応援があるなら俺は無敵だッ」
そして緑の輝きが迸り、直樹が走り出して加速する。豪奢な骸骨の騎士が緑光の 道(ロード) を作りながら、飛びかかったジュエルラビットを一体切り裂き、続いてストーンタイタンの頭も切り裂いた。それから直樹は風音の方を見ると、ジュエルラビットが風音に飛びかかっていく姿が見えた。
「姉貴ッ、前!」
グリーンのジュエルラビットが特攻している。だがそれを見ても風音は特に慌てた様子もなく黄金翼を広げる。
「うりゃっ」
そしてスキル『ウィングスライサー』によって刃と化した黄金の翼がジュエルラビットを切り裂いた。
「駄目だ。それぐらいじゃあ止まらない」
直樹が叫ぶが、対する風音に焦りはない。黄金翼による攻撃はジュエルラビットを倒すためのものではないのだ。風音にとってはジュエルラビットの動きが鈍れば十分だった。なぜならば、
「狂い鬼ッ!」
「うがっ」
風音は鬼を飼っている。鎧の中から狂い鬼が出て飛び込んできたジュエルラビットを両腕で掴み上げる。そのままの突進ならば受け止められなかったかもしれないが、風音の攻撃によりジュエルラビットは減速していたのだ。
その直後に後ろから「きゃーーー」という声が挙がった。それはルイーズの声であった。続けてジェルラビットの捕獲成功に他の女性陣も歓喜の声を上げていた。
「デカしたわ狂い鬼。さあ、ジュエルラビットを私たちにッ」
ルイーズが歓喜の声を上げて走ってくる。しかし狂い鬼が捕まえた獲物をそのまま捕獲しておくわけがないということにまでルイーズは頭が回っていなかった。
そして、次の瞬間には狂い鬼が興奮してジュエルラビットをまっぷたつに引き裂いたことで、その悲鳴は別の意味に変わったのである。