軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第六百五十六話 噂の男と会話をしよう

「知り合いかよカザネ?」

この場で状況が理解できていないひとりであるギャオがそう尋ねた。

「知り合いって言うか……」

風音がどう答えて良いかと言い淀んでいると、トールの方が先にギャオに口を開いた。

「いえ。知り合いというよりは同郷の者というところですね。『鉄甲拳』のギャオ、『勇者』ジロー、あなた方のご武名もよく存じておりますよ」

その言葉にギャオが笑みを浮かべ、ジローが渋い顔をした。ジローは勇者と呼ばれる度に胃が痛くなるのである。

「もっとも」

くすりとトールが笑ってギャオの腕を指さした。

「その腕ではもう鉄甲拳とは呼べないかもしれませんがね」

「なんだって。どういう意味だ、こらぁ」

一秒前の笑顔が嘘のように怒りを顔に出したギャオが立ち上がって怒鳴ったが、それを呆れた顔のジローが止めた。

「ギャオ、悪く言われてるんじゃねえよ。自分の手を見てみろっての」

「お、おお? 金色?」

ギャオがガントレット『金獅子の牙』を見て呟き、その言葉にトールが頷く。

「そういうことです。これからギャオさんのふたつ名は黄金拳、あるいは獅子の名を冠したものに変わるのかもしれませんね」

「なるほどなぁ。だったらカッチョエエ名にしないとな」

ギャオがフンフンと頷きながら席に着いた。単純な男であった。その様子を見ながら風音が首を傾げて隣にいるカンナに尋ねる。

「ねえねえ。ふたつ名って自分で付けるもんなの?」

風音の『鬼殺し姫』や、弓花の『 血塗れの狂戦士(ブラッディベルセルク) 』、それにジンライの『猫騎士』など白き一団のメンバーに付けられたふたつ名はここまでの道中で気が付けば名付けられていたものである。自分で付ける……という選択肢を風音は考えたことがなかった。

その風音の問いにカンナは少しだけ困った顔をしながら答える。

「いや、基本的には勝手に付いてくもんだけどね。私の『フライングパンサー』なんてのもそうだしさ」

カンナの言葉に風音が「へぇ」と頷いた。ちなみにそのふたつ名を風音は初めて聞いたのだが、それはカンナが情報屋として目立たぬように動く前の、普通の冒険者の頃のふたつ名であって、最近ではその名もなりを潜めている。またカンナの横ではオロチが少しだけ憮然とした顔をしていたのだが、それには誰も気付いてはいなかった。

ちなみにオロチのふたつ名は『チェインマン』。オロチ自身は正直それを格好良くないと思っていて別の名を広めようとオリジナルふたつ名を自称したこともあったのだが厨二過ぎて広まらなかった……という黒歴史を持っていた。

「まあ、力がなければふたつ名を自分で口にしても相手にしてもらえないからな。ギャオならば、それを為せるだけの実力があるのは確かだろう」

オロチがそう口にするとギャオが「応よっ」と力強く頷いた。それからそこで話が区切られると、風音は改めてトールを見てから尋ねた。

「それでトールさんだったっけ? はじめまして……だよね?」

「はい。そのはずです。一応、私も英霊は持っていまして、フォックスアイアンというのですが聞いたことはないですよね?」

そういうトールの右手の人差し指には、風音やオロチと同じデザインのシンプルな指輪がはめられていた。

「うーん、ごめん。知らないや」

風音だけでなくオロチもカンナも知らないようであったが、対してトールも「いえ、それも無理はありません」と返した。

「私は元々オフ専だったんですよ。基本キャンペーンモードでプレイをしていてオンラインでの協力プレイや対戦、それにアペンドのMMO版もリア友に付き合ったぐらいでロクにやったこともありませんでしたから。そもそも攻略サイトも見ていなかったので、コーラル神殿も英霊召喚の指輪を取るだけだと思っていてアーティファクトを手に入れそびれてしまいましたし」

その言葉を聞いて風音とオロチが同情の視線をトールに向けた。コーラル神殿は一度入って出てしまうともう二度とは入れない場所だ。知らずに出たとしてもアーティファクトは二度と入手できないのである。

「それはご愁傷様だねえ」

「ああ、そうだな」

ふたりの慰めの言葉にトールが肩をすくめて苦笑する。

「とはいえ、戦闘職ではない私にとって英霊の力は非常に強力なものですからね。アーティファクトはありませんが、ここまでコイツには随分と助けられてきましたよ」

そのトールの言葉に風音が首を傾げた。

「あれ、戦闘職ではないんだ? キメラ種って聞いてたんだけど?」

その問いにはトールが頷いた。

「ええ、まあ。キメラ種は種族ですしね。年老いると制御が効かなくなって普通は気が狂って早死にする種族らしいのですが、ゼクシアハーツもどきの機能が私を救っているようです。お陰様で髪の色こそ白くなりましたが、今も若いままの姿でいられています。本来であればもう五十近いんですけどね」

そう言って笑うトールの姿は外見上まだ三十代半ばというところである。またゼクシアハーツもどきとはウィンドウのことだろうと風音が察すると、であればその職業はなんだろうという疑問に突き当たった。

「えーと。じゃあ、職業ってなんなの?」

「私の職業は、 探知者(レーダー) です。 地図制作者(マッパー) からの上位職ですね」

「 探知者(レーダー) ってことはもしかして……」

探知者(レーダー) 。その職業は名の通り探知をメインとしたもので、戦闘能力こそ高くはないが様々な情報を入手できるパーティにひとりは欲しい職種であった。そしてそのことを聞いた風音はあることに思い当たったようで、トールがまたくすりと笑った。

「どうやら、気付いたようですね」

トールの反応に風音が頷く。

「お察しの通りです。先ほどのあなた方の会話も私はリアルタイムチャットとして見れていましたし、 探知者(レーダー) は他のプレイヤーよりも広域で詳細な地図を入手でき、魔物や通常の宝箱の位置まで分かります。まあ隠し部屋までは分かりませんが、他よりも推測しやすい情報は得ていると思いますよ。つまり風音さんたちよりも先に隠し部屋を見つけたのは私たちでしょう」

「……ズルい」

「いや、お前が言うなよ」

ぐぬぬ顔の風音をギャオがジト目で見ていた。理屈こそ分かってはいないが、ギャオは聞こえた単語をつなぎ合わせて会話の内容をある程度把握していた。そしてギャオにしてみれば風音もトールと同類にしか見えなかったのである。

「ズルいと言えばズルいでしょうが……人は多かれ少なかれ、得ている力が違いますからね。そして、この力のおかげで私は探索者としてはそこそこ成功しております。ありがたいことにね」

どうやらトールはこの酒場で情報収集を行っていたようである。それを風音は卑怯とは思わなかったが、あんま同席はしたくないなとは感じていた。そんな思いから眉をひそめた風音はトールを見て言葉を返す。

「むぅ。まあ、隠し部屋は早い者勝ちだからね。ズルいとは言わないよ」

「いや、言ってたじゃん。さっき言ってたじゃん」

ギャオのツッコミを風音は無視する。風音は過去を振り返らない女なのだ。

「で、お話はそれで終わり?」

「いえ。ここからが本題なのですが、今回のダンジョン探索では私も色々と珍しいものも手に入りました。例えば、この温泉の水珠など」

そう言ってトールがアイテムボックスから水晶球を取り出した。それに風音の視線が釘付けとなる。

「温泉珠ッ!?」

そのアイテムは風音が憧れ求めていたものである。ツヴァーラの海で実物を見て以来、いつかは手に入れようと思っていて、魔道大国アモリアのオークションにもそれ目当てで行く予定であったのだ。

「自慢なの? 本題って自慢なの?」

再び風音がぐぬぬ顔でトールを睨むと、トールは少し慌てたように「いえいえ」と言ってから、こう口にしたのである。

「これ、お譲りしましょうか? もちろん 無料(タダ) で!」

「 無料(タダ) !?」

そして、風音がそう口にした瞬間、風音はすでに温泉珠を受け取っていた。それはトールですら目を丸くした一瞬の早業であった。