作品タイトル不明
第六百五十五話 噂の男と遭遇しよう
◎ゴルディオスの街 冒険者ギルド隣接酒場
くわーっと鳴きながらタツオが風音の投げた肉団子をパクついた。
「へっ、上手く食うもんだなタツオ」
『ええ、美味しいですよギャオ』
テーブルを挟んで座っているギャオに対してタツオがくわーっと鳴きながら返事をする。それからくわっくわっと口の中の肉団子を咀嚼してから飲み込んだ。続けて風音が肉団子をまた投げるとタツオが再びパクッと食べてモグモグとしてから飲み込んだ。
「黒竜ってのは凶暴な個体が多いって聞くがタツオはすげぇ育ちが良さそうだな。カザネお母さんよ」
ギャオの感心した言葉に風音がブイッとサインをする。なお、タツオの格好は『武具創造:黒炎』によっていつも通りに見た目を黒竜の姿としている。
そして現在は、ほとんど収穫ないままに 金翅鳥(こんじちょう) 神殿を出た日から翌日。風音は冒険者ギルドの隣接酒場でギャオ、ジロー、カンナ、オロチと情報交換に行っていた。
「けど、そっちもいよいよ五十階層に入ってるわけか。そろそろ追いつかれちまうなぁ。クソッ、悔しいぜ」
ギャオが自分の肉団子をムシャムシャと食べながらそう口にした。
「そっちは今五十七階層だったっけ?」
風音の問いにギャオが頷く。それからギャオの横にいるジローが口を開いた。
「こっちはそろそろシンドいんだよな。最近ますますオーガじみてきたガーラさんが頑張ってくれてようやくってところだぜ」
「何を情けねえこと言ってんだ。おれっちが新装備を使いこなせるようになりゃ、まだまだ行けるはずだぜ」
そう言ってギャオがジローの背中をバンバン叩いてジローがむせた。
「新装備ってそのガントレットのこと?」
風音の視線がギャオの腕に向けられる。そこには金色の獅子を象った、重量感がありそうなガントレットが装着されていた。その風音の問いにギャオが頬を綻ばせて頷いた。
「応よ。めざといなカザネ。こいつは第五十五階層の隠し部屋で発見したもんでよ。商人に鑑定してもらったんだが、金獅子の牙っつーヤツらしいぜ。見た目よりも軽いし、闘気が通りやすくてよ。こうして」
そう言ってギャオがグッと拳を握るとガチャンと音がして牙の部分が伸びて 爪(クロー) 状になった。
「こいつを魔物に串刺して直接闘気を送り込んで内部から破壊することも可能って寸法よ」
それを見て風音が「ほー」と声を上げた。それからギャオは 爪(クロー) を仕舞うと嬉しそうにそのガントレットを撫でた。
「最近はジローとおっさんには戦闘で持ってかれてることも多いからな。コイツが生意気に強くなってやがってよー」
「小突くなっての」
コツンと頭を叩かれたジローが口を尖らせる。それを「ワリィ、ワリィ」と言いながらもギャオは笑っている。
「だから、おれっちもパワーアップしてこうバカバカ魔物をブン殴ってやんのよ。五十七階層辺りはジュエルラビットも出るからな。正直、おれっちら、今かなり金持ちよ」
そう言って親指で自分を指しながらギャオが「ふふーん」とドヤ顔をした。それを聞いて風音が「いいなぁ」と呟く。現在の風音たちの攻略階層は洞窟のようなフィールドで、出てくるのは素材の取れないガルーダスカルメインである。迷宮タイプと違って普通の宝箱も見つけ辛いし、隠し部屋の宝箱が取れず、成果らしい成果は直樹の狂骨の業魔王剣のみである。
「私らもあの金策できない階層をさっさと抜けちゃいたいんだけど、洞窟の階層はどこまで続いてるんだっけ?」
その問いにはカンナが答えた。
「ジュエルラビットがいるのは五十五階層からだよ風音。そこからのエリアは要塞だから迷宮系のダンジョンになってるんだ。あまり急ぐと危ないけど、確かに実力的にはそこまでさっさと進んだ方がいいかも知れないね。洞窟のエリアは隠し部屋も分かり辛いし、私らもあまり美味しくはなかったよ」
トップパーティとして現在第六十三階層を進んでいる、オーリングのメンバーであり情報屋でもあるカンナは 金翅鳥(こんじちょう) 神殿の情報をもっとも多く握っている冒険者のひとりであった。そのカンナも風音たちが攻略中のエリアは旨みが薄いと思っているようである。
「あー隠し部屋か。前回は不作だったなぁ」
「いや、いっつも思うんだけどよ。お前らは取りすぎだから」
ジト目になったギャオの言葉に風音は「あははは」と笑って返す。実際に風音たち白き一団の隠し部屋発見率は他の冒険者に比べて群を抜いている。風音たちにとっての不作は他のパーティの不作とはまた別のものであるのだ。
また一緒に席に座っているカンナとオロチも少しばかり苦笑いをしていた。プレイヤーであるふたりもマップウィンドウや探知能力をそれぞれ有しているため、 無限の鍵(インフィニティ・キー) を持つ風音ほどではないにしても隠し部屋を他よりも多く発見してレアアイテムを入手し続けているのである。
「けど今回は未発見のはずの隠し部屋を五ヶ所もやられてたんだよねえ。五十階層越えたパーティなんてそんなにいないはずなんだけど、その中に隠し部屋を見つける名人がいる気がする」
「確か、風音たちは今五十二階層にいるんだったか?」
オロチの言葉に風音は「そうだよ」と返す。
「だとすれば、あいつらのルートと重なってたのかもしれないな」
「あいつら?」
その場にいる全員の視線がオロチに集まる。
「ああ、ドッグソルジャーというパーティがいるんだが……あの奥の男たちだ」
オロチがチラリと奥のテーブルで食事をしている男たちへと視線を送り、風音たちも合わせてわずかにそちらに視線を向けてその姿を確認した。またそのパーティの名に覚えがある風音がオロチに尋ねる。
「ドッグソルジャー? 確かトールって人がリーダーだっていう?」
それは前回の 金翅鳥(こんじちょう) 神殿に入る前にダンジョン管理官であるシーザーから聞かされていた名である。ジンライと因縁があり、黒い噂も多く流れている人物であると風音は聞いていた。
「知っていたか?」
「うん。何をするか分からない相手だって忠告を受けてた」
風音が素直にそう告げた。ドッグソルジャーの件については後にでもこの場で共有しておこうと風音は考えていたのである。その風音の言葉にオロチが少しだけ考えてから慎重そうな顔で話を続ける。
「まあ、そうした噂もあるが……ここ最近では特におかしなことはしていないようなんだがな」
「そうなの?」
首を傾げた風音にオロチが頷く。
「確かに未だに悪い噂は聞くが、その大本はかなり前の話を元にしたもので……十年ほど前からは真っ当な冒険者として生きているようだ。ギルドは過去の件の尻尾を掴もうと未だにマークを続けているようなのだが」
「オロチさん、詳しいね」
風音の言葉にオロチが苦笑する。
「一応は情報屋の端くれだからな。要注意と言われているパーティの情報は集めてある」
ちなみに要注意パーティのトップは白き一団である。毎回騒動を起こしながらも複数の国家に護られて情報隠蔽も繰り返している大問題児たちなので当然ではあるが。
「それと少し気になることもある」
オロチの次の言葉に風音が「何が?」と問うと、そこにカンナが口を挟んできた。どうやら思い当たることがあるようである。
「オロチさんもやっぱり気になる?」
「君もか。まあ、名を見ればそうなるだろうが」
ふたりして頷き合うオロチとカンナに風音やギャオたちが首を傾げていると、カンナが少しだけ笑って風音に告げる。
「ドッグソルジャーのリーダーの名前、トール・ミハラーって言うのは知ってる?」
「知ってるけど?」
やはり疑問の顔をしたままの風音にカンナが「まだ分からないかなぁ」と言いながら、その答えを口にした。
「その名前をね。『みはら とおる』って言い直してみれば日本人っぽい名前に聞こえないかな?」
そこまで言われて風音もようやく「おお」と声を上げて頷いた。
「確かに……そう言われてみれば」
それは風音も弓花も直樹も気付いていなかったことである。
「俺はプレイヤーではないかと思っているのだが」
「私も。ただね」
カンナの視線がチロリとドッグソルジャーに向けられた。
「トールさんって髪の色が白いんだよね。まあ、色なんて染めればいいだけなんだけどさ」
その言葉に「へぇ」と風音が振り向くと、座っていたトールがスッと顔を上げて風音と視線を合わせてきた。それにドッグソルジャーの他のメンバーも気付いて風音たちの席を見る。
「おっと」
それには風音も少しだけ驚いたが、目を逸らすのもどうかと思ったので会釈だけをした。
それからトールも風音に会釈をすると、他のメンバーに手振りで行ってくるというジェスチャーをして立ち上がった。そのままトールは風音たちのテーブルの前へと歩いてくると頭を下げた。
「こんにちは、白き一団、レイブンソウル、オーリングにブレイブの皆様方」
「う、うん。どうも。ええと。トールさん?」
風音を含む全員が軽く会釈をしてから風音が尋ねるとトールは薄く笑って頷いた。
「はい。私はトールと申します」
そう言ってトールは風音、カンナ、オロチを順に見た後に、続けてこう告げた。
「本名は、数字の3に草原のげん、それと徹底的のてつで徹、三原徹と言います。あなた方とご同類ですよ」
トール・ミハラー。本名を三原徹と名乗るジンライと因縁のあるその人物は、白髪で細身、細目の見た目三十代くらいの、どことなく癖のある薄い笑みを浮かべた男であった。