作品タイトル不明
第六百五十四話 ときめきを感じよう
◎ 金翅鳥(こんじちょう) 神殿 第五十一階層 隠し部屋
「で、結局食われちゃったんだ?」
「ガカカカカカカ」
風音の目の前で、生きている魔剣が嬉しそうに笑っていた。明らかに風音の言葉に反応して頷いているようにも見える。また、その個性豊かな自分の剣を握りしめながら直樹が苦い顔をしていた。
「エクス、姉貴の前だ。静かにしてろ」
その言葉に従ってその剣は笑い声は出さなくなったが、笑みはつり上がり嬉しさを隠せない様子である。よほど嬉しいのだろうと思われた。
「つーわけでさ。悪いな姉貴。結局チャイルドストーンはほら、この通りになっちまった」
そう言って直樹が業魔王剣エクス改め、狂骨の業魔王剣エクスとなった魔剣の柄を風音に見せる。柄にチャイルドストーンが収まっていて、柄から刀身にかけて骨のような白いフレームが伸びて剣自体の印象も若干変化していた。
『チャイルドストーン、キラキラ輝いてますねえ』
「うん。完全に融合しちゃってるみたいだね」
頭の上のタツオの言葉に風音がそう答える。
エクスの柄に収まったチャイルドストーンは、ユッコネエやクロマルのチャイルドストーンと同じように淡い輝きを放っており、今やエクスのコアとして稼働しているようであった。
「まあ、剣のこともあるんだけどさ。その後、スカルスセンチピードから離れたガルーダスカルが一斉に自由に動きだしてね。バッラバラにしてたから分散して攻撃しかけてきて結構ピンチだったわ」
風音の横にいる弓花がそう口にし、ライルとエミリィもうんうんと頷いていた。
スカルスセンチピードは、狂骨の王と呼ばれるチャイルドストーン持ちの上位個体を核としたガルーダスカルの集合体であった。そして狂骨の王を倒したからと言って、ガルーダスカルまで倒せたわけではない。狂骨の王の支配が解かれたガルーダスカルは一定時間硬直した後、普通のガルーダスカルとして行動を再開することになるのだ。
そうした後始末の面倒さもあってスカルスセンチピードは厄介な魔物であるとされているのである。
「とは言えだ。第五十階層のチャイルドストーンはそのまま手に入らなかったがな。ナオキの戦力が向上したのであれば、それはそれで良しとするしかあるまいな」
ジンライの言葉に狂骨の業魔王剣エクスが再び「ガカカカ」と笑い、「お前は反省しろよ」と直樹がブン殴って笑い声を止めた。
「あーなんか、その剣……風音みたいね」
「似てねーよ」「似てないよ」
弓花の指摘に直樹と風音双方からクレームが入った。弓花としてはやらかし具合からいけば風音の方が酷いという評価なのだが、理解はしてもらえなかったようだ。
そして現在、風音たちがいるのは第五十二階で発見した隠し部屋であった。
第五十一階層もある程度進んだ風音たちは続けて第五十二階層の攻略に入り、夜になってこの場所で合流をしたのである。
「で、ナオキ。戦力アップってこたぁ、なーんか新しい力に目覚めたとかあんのか?」
そのレームの問いには直樹が頷いた。
「骸骨の……鎧って言うのか、追加装甲? みたいのを召喚できるようになったんだよな」
「鎧……?」
その言葉を聞いて風音が首を傾げながらエクスを見ると、直樹がエクスのチャイルドストーンを眺めながら口を開いた。
「ある程度輝きも戻ったし、ちょっと見せるか。姉貴、少しだけ離れてくれ」
そう言って直樹が立ち上がると、周りから人が離れたのを見計らってから狂骨の魔王剣をスッと地面に付けて自分を中心に円を描いた。
「来い、狂骨の王!」
そして直樹が叫ぶと剣で地面に刻んだ円が魔法陣となり、そこから金と宝石の装飾を散りばめた骸骨が出現したのである。
「狂骨の王……ああ」
風音がそう呟いた。その正体を風音は知っていたようである。それから狂骨の王が直樹に覆い被さったかと思えば、骨と装飾が直樹の着ている竜鱗の鎧を補強するかのように分裂して装着され、直樹の頭部には王冠をハメた頭蓋骨が兜として収まっていた。また不滅のマントに重なるように漆黒のマントも併せて出現していた。
「ってわけで、装着型の召喚体なんだよな」
直樹がドクロの面のまま風音の方を向いてそう口にした。そのドクロからは直樹の目と口元がわずかに見えており、どことなくミステリアスな雰囲気を醸し出していた。また体中に散りばめられた宝石や装飾に嫌みさはなく、その様相は黒曜石を思わせる高貴な印象を与えていた。
「カッコいいわ、ナオキ」
それをエミリィがうっとりして見ている。また風音も、
(か、カッコいい)
不覚にも直樹にときめいていた。ダークヒーローさながらの姿が風音のツボを大いに突いていたのである。
「姉貴?」
対して普段とは違う姉の反応を見て直樹が戸惑っていると、風音はハッとなってから叫んだ。
「か、勘違いしないででよね。別に骸骨騎士様のことなんてカッコいいって思ってないんだからね」
「ああ、分かった」
プイッと顔を横に向けた姉に対し、弟は言葉のままに受け取って頷いた。姉から好感的な反応を持たれることの少ない直樹はこうして潜在的なチャンスを逃したのである。
「まあ、見た目はちょっと怖いんだけどさ。これ、俺の動きに合わせて身体能力を強化してくれるみたいなんだよ。まあ一種のパワーアシストスーツってところだな」
「ふ、ふーん。制限とかはあるの……かな?」
チラッチラと風音が直樹の格好を見ながら尋ねる。そんな風音の様子を直樹は訝しがりながら「ああ、あるぜ」と答える。
「チャイルドストーンの魔力で動いてるから、出せるのは二十分ぐらいだな。その後はまた魔力溜めないと呼び出せないっぽい」
「ほーほー」
ついには風音がジロジロと鎧を見始めた。自重するのを止めたようである。
「けどさ、チャイルドストーン召喚にしても何で強化装甲なんだろうな? 普通に召喚体として出てきてもいいと思うんだけどさ」
そう疑問を口にしながら直樹が用は済んだとばかりに召喚を解除すると、骸骨の強化装甲が魔力光となってスーッと消えていった。そして残されたのは素の直樹である。
「うわっ」
元の直樹に戻った途端に、風音の顔が渋くなった。それを見て直樹が少しだけ悲しそうな顔をするが、風音は気にせずため息をついた。
「あーあ。普通の直樹か。はー。えーと、強化装甲の理由だっけ?」
見るからにやる気をなくした風音がエクスと直樹を交互に見ながら、少しだけ考えてから口を開く。
「んーもしかして魔王剣だし、直樹を魔王に近づけさせようとしてるんじゃあない?」
「え、マジで?」
目を丸くする直樹に、風音は「まあ、推測だけどね」と言いながらエクスを見ると「ガカカカカカカ」とエクスも妙に喜んでいるようである。その姿を見ながら風音が直樹に言う。
「一応、あとで精神汚染の可能性を調べてもらったほうが良いかもね。今のところ状態異常も出ていないし大丈夫だとは思うけどさ」
風音の魔王ボディでもあるロクテンくんも普通の人が乗ると気が狂ってしまう仕様である。直樹の魔王化っぽいのも何かしらのリスクがあるかもしれないと風音は考えたようだが、ともあれ今どうにかできることもない。それから風音は直樹と、続けて弓花に視線を移した。
「しっかしさー。弓花は狼の仮面で直樹はドクロかぁ。なんか悪役っぽいよね、ふたりとも」
「あんたが言うか」「姉貴が言うなよ」
風音の言葉に弓花と直樹の両方が反応し、そのシンクロ具合に後ろにいたエミリィの頬がプゥと膨らんでいた。そしてふたりの反応を見ながら「はいはい」と肩をすくめるという謎の余裕を見せながら、風音は話を進めていく。
「それで直樹のエクスが進化したのは分かったけど、他の収穫はなかったの?」
「ああ、すでに開けられてた隠し部屋がいくつかあっただけで何もなかったな」
直樹の言葉に、風音の頭の上に乗っているタツオが「そちらもですか」と口にした。風音も若干残念そうな顔で「こっちもなんだよねえ」と直樹に言った。
「見つけた隠し部屋は全部中身取られた後で空振りだったんだよ。この隠し部屋もそうなんだけどさ」
今風音たちのいる隠し部屋も、実は別の誰かに発見された後のものであった。そのことに風音や直樹、ジンライたちがうーんと難しい顔をしながら唸った。
「もしかすると……よほど隠し部屋を発見するのが上手い人がいるのかも。明日はレアアイテムゲットできるといいんだけどねえ」
風音のその言葉には全員が頷いた。この階層にメインで出るガルーダスカルからは高値で売れる素材は取れないし、このままではくたびれ損の状態なのだ。
だが、その翌日も風音たちは何も見つけることはできなかった。正確には、風音組、弓花組で三つほどは隠し部屋を発見したのだが、それらはすべて宝を取られた後だったのだ。
そして、ひとまず第五十二階層も探索を終えた風音たちは直樹のパワーアップ以外の成果が無いまま地上に戻ることとなったのである。