作品タイトル不明
第六百五十話 メタルで行こう
ゴーレム、それは土や石を人や獣の形へと変えて使役する術である。その応用として金属同士の接合点を魔術で繋ぎ、鎧のようなものをも操作することも可能ではあるが、通常のゴーレム魔術では金属そのものを変形させることはできない。それはゴーレム魔術の奥義であり、現在では失われた魔術のひとつであるとされている。
風音がそれを可能とすることができるようになったのは、つい最近のこと。カザネ魔法温泉街でカザネーキャッスルを造り上げたときのことである。
同じことの繰り返しである大量製造ではスキルレベルを上げる経験値はほとんど貯まらないはずだが、恐らくは累積で貯まった結果だろう。ゴーレムメーカーのスキルレベルが5に上がったのだ。それにより風音はまた新たなる力を手に入れた。
それが金属変形である。風音は普通の土や岩、またはマッスルクレイを操るのと同じように金属を操れるようになったのである。
「ふーむ」
風音が目を閉じて唸っている。その額からは汗が垂れ落ちていた。そして座禅を組んで目を閉じている風音の前では、弓花やミナカ、直樹とイリアに、ついでにジローがメタルカラーの風音の形をしたものと闘っていた。
「ぎゃー、ヌルっとしたっすー」
その、メタルカザネと風音が呼んでいるメタルなチンチクリンにイリアが紅の水晶小太刀を振るう。しかし小太刀の攻撃がヌルリと避けてしまう。
「けど、ここでっ!」
イリアは次の瞬間には『爆地』と呼ばれる当て身技をメタルカザネに放つ。
「これも駄目っすか」
イリアが呆気にとられた顔でメタルカザネを見る。接触点から内部へと衝撃を浸透させるその技のダメージは完全に通ったはずなのにビクともしない。まるで巨大な鉄の塊にぶつかったかのような感触しかなかった。
(情報連携による完全な制御。以前のタツヨシくんとは違って百パーセント私の思い通りに動くから使いやすくはあるけど、集中力が必要だねッと!)
そんなことを考えながら、接触したイリアに風音は巨大な手のひらをイメージして、それを叩き込むようにイメージした。
「っすーーーーー!?」
その風音の思念が届くと同時にイリアはメタルカザネの身体から出てきた巨大な張り手によって吹き飛ばされた。
「なんでもありかよ。止めろあいつをっ」
正面から突撃する直樹の言葉を受けて、ミナカとジローが左右に回ってメタルカザネへと突き進む。それをスキル『情報連携』でメタルカザネから風音は知覚する。
(こりゃ手数が足りないかな。なら手を増やそう)
風音がそう思考するとメタルカザネの身体からはさらに四本の腕が急に生えてきて、そのまま剣も生み出して握りしめた。同時に元々持っていたトンファーも剣へと変化した。
「うぉっ!?」
ジローがソレを見て驚き、振るわれる攻撃を小太刀で受ける。その重量感にジローがうめき声を上げた。
(さすがにジローくんじゃあ厳しいかなぁ)
風音はそう感じながらさらに剣を振るう。
「防御じゃない。避けるんだ」
「無理無理ー」
直樹の言葉にジローが叫び声を上げて小太刀の防御を崩される。そのまま、吹き飛ばされてゴロゴロと転がっていった。
「思ったよりも正道な剣筋ですね」
そのメタルカザネの攻撃にミナカが感心するが、それは風音の『六刀流』のスキルによるもの。ゴーレムそのものにスキルは使えないが、『六刀流』スキルを使える風音とリンクしているメタルカザネは風音と同様の体術を再現できる。
「ミナカさん!」
「はいっ!」
直樹の言葉にミナカが連携をとる。とはいえ、彼らも決定打を与えられない。何しろメタルカザネの材料は『アダマンチウム』なのだ。振るわれる攻撃を避けることはできても受けることはできない。攻撃をしてもたじろがせることもできない。まるで分厚いアダマンチウムの像に斬り掛かっているようであった。
もっとも風音の方も近接戦での技量はそこそこという程度。一定以上の実力者相手では攻撃を与えるのは難しい。直樹はともかくミナカ相手では力が足りないと考えていた。
(ならやはり手数を増やそう)
そう考えた風音は、今度は背中から翼を生やすとスキル『ウィングスライサー』による制御でそれを攻撃に使い始めた。
「化け物じゃねえか!?」
「人の姉貴になんてことを言うんだ、ってうわぁっ!」
倒れながらそう言うジローに抗議の声を上げた直樹が、その隙をつかれて吹き飛ばされる。
「ナオキさんっ、くぅっ!?」
そしてミナカひとりとなり、防戦一方となったところで、
「イヤァアアアアアアアア!!」
一直線に飛び込んできた弓花の槍がメタルカザネに突き刺さる。
「やった?」
「いや……これは」
ミナカの言葉に弓花がとっさに槍を戻す。ニュルリと金属の触手が槍を掴もうとしていたのだ。それに気を取られたミナカが先ほどのイリアと同様の巨大な手のひらに弾き飛ばされる。
「張り手って!?」
それはアダマンチウム製の分厚い盾をモロに食らったようなもので、さすがにミナカも避けきれなかったようだ。
(ぬう。ちょっとやり過ぎたか)
そして風音が少し眉をひそめながらメタルカザネを手足四本のノーマルチンチクリンの形に戻した。それは変形の繰り返しで元の形をイメージし辛くなった弊害である。風音はイメージを整えるために形状を変えすぎた場合には形を一度元に戻す必要があった。それを見切った弓花が槍を持たない左手を天に掲げる。
「私のヒノカグツチならぁああッ!」
その手から白炎の神刀『ヒノカグツチ』を取り出して振り下ろすが、
(危ないっと)
風音は急加速して刀を避ける。弓花は刀の扱いには手慣れていないために、その動きは風音にも読めていた。さらにメタルカザネの足は現在スプリングに変形していて、通常ではあり得ない動きを可能としている。
(よっとぉ!)
そして高速で弓花の背後へと回った風音が攻撃を仕掛けようとして、
「速いッ、けど!」
弓花が右手に持っていた槍でその攻撃を受けて攻撃を防ぐ。そのままメタルカザネの攻撃の勢いを利用して後ろへと飛び下がった。
(ふふふふ、さすが弓花だね)
その機敏さには風音も舌を巻く。さらに、すでにジロー以外は立ち上がって構えていた。
「ジロー、狸寝入りしてるとケツにブッ刺すっすよ」
イリアの言葉に「おお、ようやくダメージが抜けてきたぁあ」と叫んでジローが立ち上がった。
そして全員が一斉にメタルカザネに飛びかかるが、同時にメタルカザネは先ほどよりも多い八本腕の翼持ちの姿へと変わって突撃した。
「やっぱり化けもんじゃねえか!」
「うるさいっ。黙って手を動かせ」
ジローの言葉に直樹が叫ぶ。
それはスキル『ウィングスライサー』と『六刀流』に加えて、防御を得意とする『ソルダード流王剣術』が加わった姿である。さながら小型のロクテン阿修羅王モードのような剣戟のラッシュに加えて追加の二本の腕により防御も一層厚くなっているのだ。五対一でも抗しきれない。すぐさま戦列が瓦解し、後退しながらの防戦一方へと変わっていく。もっともその時間もそうは続かなかった。
「お、動きが……」
ヒューヒューと息を吐きながら疲れ切った顔をしたジローが呟く。
「あー、ようやく終わった」
「これで終了ですか……ハァ」
五人の前でメタルカザネの動きが次第にゆっくりとなり、そのまま攻撃を止めて姿を丸い球体に変えていった。
「よーし、五分十二秒ってところだね。みんな、お手伝いありがとー」
そしてアダマンチウムの球体が地面に転がった次点で離れた位置で座禅を組んでいた風音が、立ち上がってそう言った。
その言葉にその場の全員が一息付いてから一斉に座り込み、ジローや直樹などは大の字になって倒れていた。
その様子を見ながら風音はトテトテと歩いて球体の前まで来ると、そこに再び魔力をそそぎ込みだした。
「おい、まだやるのかよ!?」
ジローが思わず叫んだが、風音は「違う違う」と言いながら首を横に振る。
「こいつはね。こうやって」
続けて風音がフゥッと息を吹きかけるとパキパキと周囲が水晶によって覆われて、アダマンチウムの球体を包み込んだ。それを見て弓花が首を傾げた。
「それ、最初に出したときの状態だよね。何してるわけ?」
弓花の問いに風音は「保存だよ」と答える。
「『ゴーレムメーカー』と同様に『水晶化』のレベルも上がってね。クリスタルブレスを吐けるようになったんだよね。で、こうやって魔力を注いで水晶の中に封印しとけば、解いたときにまたすぐに使えるってわけ。魔力を900も使って五分しか使えないんじゃあ、こうでもしないととてもとても実戦じゃあ使えないよ」
風音はそう言ってアイテムボックスへとそれを収納した。必要とする魔力量が多すぎてチャイルドストーンで常時機動もできない。
「そもそも五分逃げ切られれば負けだし、その間は私も動けないし……魔力値900分のコストパフォーマンスはないんだよね」
その言葉に、それだけやれりゃあ十分だろ……と寝転がったジローは思ったが、魔力値900と言えば並の魔術師六人分、並の冒険者二十人分ほどの魔力である。五分だけの無敵のゴーレムも近接オンリーであるため、種が割れれば対処もしやすい。
「まあ、雑魚戦オンリーで考えれば使えるけど……うーん」
そして考えることはひとつではない。金属類を変形できるということは金属加工が可能となったということでもあった。それにより何ができるのか……ということも含めて風音は今後のことを考えざるを得なかった。