軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第六百四十九話 メタルになろう

ジンライに対してカールが駆けていく。

その手に持っているのは弓花との闘いでより凶悪な形状に進化したベヒモスホーンの槍である。

「ォォオオオオオオッ!」

そして、駆けた勢いをそのままにカールは裂帛の気合いを込めて槍を突き出した。

「ふむ」

対してジンライはそれを大した脅威と感じ取ってもいないのか、一旦立ち止まって軽く左の槍でその攻撃を流すと、同時に右の槍の柄の先でカールの鳩尾を突いた。

「ガッ……ハァ」

深い衝撃がカールを襲い、その口から苦痛の声が漏れる。さらにジンライはすぐさま左の槍の、やはり柄の部分で横殴りに叩いてカールの身体を真横に弾き飛ばした。

「カールが一瞬で」

「これだから師匠は怖いんだよね」

その様子をミナカが目を丸くして、弓花が「あーあ」という顔で見ていた。ジンライは槍をふたつ持っている。右も左も同レベルで相手の攻撃を弾けるし、同時のタイミングで突き入れることも当然のように可能だ。『牙の槍兵』の異名も伊達ではない。力なきジンライがカウンターを極めた結果が二槍という結論なのである。

「グッ、いきなりかよ」

カールが地面をゴロゴロと転がりながら、すぐさま態勢を立て直して立ち上がって構えたが、ジンライは追撃には出なかった。

それどころか、ジンライはどこか冷めた視線でカールを眺めていた。

「その選択は愚かだな、若いの」

それから続くジンライの言葉にカールの顔がピクリと動いた。

「ワシを相手に様子見などと考えているのならば早々に終わらせるぞ。最近のワシは上質な相手との戦いに恵まれすぎておるのでな。その腕でこちらの様子をうかがおうなどとノンビリ構えられてはアクビが出てしまうわ」

ちなみにジンライの日常は竜の勇者アカ、魔王アスラ・カザネリアン、 神狼(フェンリル) と化した 血塗れの狂戦士(ブラッディベルセルク) にユッコネエドラゴン、

アーマード狂い鬼などと順番にバトルというヘビーローテーションで回っている。毎日ボスラッシュ漬けといっても良い。強くなるはずである。

「ああ、そうですね。俺は馬鹿か。クソッ」

ジンライの言葉にカールが下を向き、大きく息を吐くと途端に気配が変わった。

ジンライが興味深そうに眺めている前で、カールの身から紅蓮の炎のような闘気のオーラが吹き上げ、全身を赤く染め上げていく。

「ほぉ。それが灼体化か」

ジンライの目が細まる。それは風音のスキル『赤体化』の上位版。大量の魔力を闘気に変換して消費しながら戦う技である。

「いざッ!」

そしてカールが再びジンライに向かって駆け出した。それは先ほどとはまるで違う本気の速度。その剥き出しの闘気に覆われたカールの姿にはジンライも感嘆の声を上げたほど。何しろ若返りの影響で若干魔力量が増えたとはいえ、ジンライの肉体そのものは未だ常人の域を出ない。対してカールの魔力量は相当なもので、それはジンライがどれだけ望んでも得られなかったものだった。

もっともすぐさまジンライの顔には笑みが戻っていた。そうしたものをねじ伏せてきたからこそ、今のジンライがある。

「これならば楽しめる」

赤い火の玉のような突撃にジンライの槍が激突し、闘気がバチバチと飛び散った。

「私の時よりも強くなってる?」

その闘いから少し離れた場所で、カールの動きを見ていた弓花がそう呟いた。それは弓花の勘違いなどではなく、確かにカールは弓花と闘ったときよりも強くなっていた。

「んー、なんで?」

前回の闘いからそれほど経っているわけではない。訝しげな

表情でカールを見る弓花だが、カール強化の理由はベヒモスホーンの槍の進化にあった。カールの灼体化にベヒモスホーンの槍が呼応し、槍がカールの身体の生命力を活性化させているのだ。そのためカールは灼体化による負荷を抑えることに成功しており、十全に灼体化を維持し続けられる状態だった。

「これでも流されるのかよ」

もっともそれでようやくカールはスタートラインに立てたようなものだ。やはり最初と同じように攻撃を受け流されたカールは続くジンライのカウンターを今度は避け、後ろに飛び下がった。

「これならどうだッ!」

そのままカールは離れた間合いから連続での突きをジンライに浴びせる。それはハイヴァーン流槍術『雨』といい、槍の刃先より闘気の刃を無数に放つ技であった。

「なるほど。荒削りではあるがハイヴァーン槍術の正統派か」

こともなげにそのすべての攻撃を避けながらジンライは呟いた。ハイヴァーン流槍術『雨』は元々バハル流槍術『彗』を元に生み出された技で、魔力量の少ないジンライでは使用できぬものであった。

さらにはジンライがお返しとばかりに二槍での突きのラッシュを浴びせていく。それをどうにかカールは避けているが、それもジンライが加減をしている結果であるのはカール自身が一番よく分かっていた。

「様子見するなっていいながら自分はするのか!?」

カールが叫んでさらに槍を繰り出す。

「腐るでない。焦りは戦いにおいては最大の敵よ」

そう言いながらジンライがさらに一歩前へと出ていく。

「重いなっ」

ジンライの一歩一歩がカールには巨大で分厚い壁が迫ってきているように見えていた。先ほどからカールは一歩も前に進めていない。

「埒が開かない……なら開けてやるっ!」

次第に後退しつつある状況にカールの忍耐はついに限界に達し、次の瞬間に起死回生の一撃を繰り出した。

「ツェエイッ!」

それは赤い残像が残るほどに瞬間的に加速したカールの槍術『閃』。それを見てジンライの目が細まる。

「ふむ。ここまでか」

ジンライの黒の竜牙槍が迫る赤い閃光を真下から突いて弾く。

「グッ」

カールが呻きながらジンライに視線を向ける。そこでカールは見た。ジンライの闘気が渦巻く白の竜牙槍がカールのわき腹へ向けて放たれるのを。そしてその次の瞬間、カールの意識は刈り取られ、視界が真っ暗になった。

**********

「ハッ」

カールの主観時間にして一瞬の後のこと。カールは目を見開いて一瞬で起き上がり、己の槍をとって再度構えようとした。闘いはまだ終わっていない。幸いなことにどうにか意識はつなぎ止めた。ならば次の手を……と、認識したところでカールは気付いた。その手に槍はなくジンライも目の前にはいないことを。

「これは一体?」

カールが不思議に思ったが、周囲を見回してすでに直樹たちの訓練が再開されていることに気付いた。そこにミナカが混ざっている様子を見て、カールは己の闘いがすでに終わっていることを知ったのである。

「ぎゃー」「止めろあいつをっ」「防御じゃない。避けるんだ」「無理無理ー」

そしてカールの視線の先には奇妙な光景が映っていた。訓練だと思っていたのだが、実際にはミナカたちがメタルカラーのチンチクリンに追い回されているのである。

「私のヒノカグツチならぁああッ!」

弓花がその手から白い炎の刀を取り出して斬りかかるが

そのメタルなチンチクリンは凄まじい勢いで攻撃を避けて弓花の背後に回り込んだ。しかし、弓花もそれには片方の手で持っていた槍で受け、相手の攻撃を防ぐ。

「やはり上手いな」

カールは弓花がとっさに視界外の攻撃を防いだことに感心したが、やはりメタルチンチクリンの正体は分からない。白き一団のリーダーにも似ているが、明らかに人間ではない。

それからしばらくして追いかけ回していたメタルチンチクリンの動きが緩やかになっていくとその姿がやがてまん丸い球体へと変わったのである。その周囲では弓花やミナカを始め、参加していたメンバーが息が荒げながらその場に膝を突いた。

「……しかし、なんなんだ。あれは?」

カールにはそのメタルチンチクリンがなんなのかがサッパリ分からない。弓花やミナカが防戦一方だったことから相当な強さであるのは分かるが、あんな奇妙なものをカールは見たことがなかった。

「メタルゴーレムだ。金属を魔術で変形させ続けながら動かすゴーレムの奥義のひとつだそうだ。本来は膨大な魔力を使うために守護兵装などに使われるものらしいがな。ユミカたちはアレの動作チェックに参加しているそうだぞ」

その声にカールが思わず後ろを向いた。そして、その場にいたのはジンライである。

「ジンライ……さん? あの俺は……」

「ふむ。その様子では身体に支障はないようだな?」

カールの上から下までを一度見てからジンライが尋ねる。

「はい。特には……まあ、呆気なく負けてしまいましたが」

「言うほど呆気ないわけでもないのだがな。まあ、良かろう」

そう言ってジンライが笑う。対してカールも笑いながら口を開いた。

「しかし、二槍による攻守一体の槍の使い、見事でした。あれこそが『牙の槍兵』というものなのですね」

「今回に関してはそちらを名乗るべきであったかもしれんな。あるいはこれからでも今のふたつ名に相応しい闘いを改めて見せてやった方が良いか」

その言葉にカールがゾクッと震えた。今のジンライのふたつ名は『猫騎士』。それは相棒の巨猫であるシップーと組んでのものである。

機動力をすべてシップーに委ね、先ほどの攻撃を超高速で繰り出す姿をカールの仲間たちはベヒモス戦で目撃している。すでにグッズ展開も開始されている『猫おじさん』の愛称で親しまれているコンビというだけ聞いたのでは決して測れない強さがあるのだ。

(俺もタケチカに乗って戦えば……いや、そう簡単なものではないな)

カールがそう考えて苦笑する。とはいえ、シップーとのコンビの闘いにはカールも興味があった。

「是非、次にはそれも見せていただきたいですね」

「うむ。それではこれを持て」

ジンライはカールにベヒモスホーンの槍を持たせる。

「これは?」

カールが戸惑いながらジンライに視線を向けると、ジンライの後ろに黒と銀の縞の巨猫シップーがいつの間にやら存在していた。

「なー」

なにやら不機嫌そうにシップーが鳴いている。若干焦げ臭い。しかも背の毛が子供の猫だか何かに近い形で焦げていた。そのシップーを見ながらジンライが口を開く。

「シップーが子守で少しばかり気が立っておるのでな。そのストレス解消を行ってやらねばならんのだ。なぁに、先ほどよりも少々本気という程度だ。さあ、第二戦と行こうではないか」

「なーーーーーごっ!」

たった今意識が目覚めたばかりのカールに対してまるで気遣う素振りもないジンライと、「殺るぜー俺は殺るぜー」と言いたげに荒ぶっているシップーの声にさしものカールも口元をひきつらせたが、それでもすぐに「応ッ!」と返せたのはやはり血のなせるものであったのかもしれない。

とはいえ無茶は無茶だ。戦闘開始から一分も経たずにカールの意識は再び闇に包まれて再度病院送りになったのはもはや必然であるとしか言いようがなかった。