軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第六百四十七話 蜘蛛と話そう

◎ゴルディオスの街 白の館 中庭

「のじゃー」

「にゃああ」

幼女姿のクロフェと猫っぽい幼竜ソルが抱き合いながらグルグルーと中庭を転がっている。

「今頃ユッコネエと風音たちは温泉三昧なのじゃー。ワシらも行けば良かったのじゃー」

「にゃぁにゃぁああ」

クロフェの言葉にソルが反応して鳴いている。何を言っているかは分からないだろうが、なんとなく同意しているようである。それを見守っているアカが少しだけイヤな顔をして口を開いた。

「おいおい、勘弁してくれよクロフェ様。そうなりゃ俺はどうすりゃいいんだ?」

「一緒に温泉に入れば良いのじゃー」

「おお。さすがクロフェ様だぜ。その手があったか」

ポンと手を打って納得するアカにクロフェがのじゃーと鳴く。

今は風音たちがカザネ魔法温泉街に行ってから四日目。白き一団は未だ帰還しておらず、一緒に住んでいるオーリングのメンバーも昨日ダンジョンに潜ってしまったので、今白の館にいるのは三体のドラゴンのみである。

「つっても、もうそろそろ帰ってくるんだろ。昨日ポッポさんが手紙持ってきたんだしよー」

アカがそう口にした通り、昨日にカイザーサンダーバードのポッポさんが落雷と共にやってきて手紙を置いてまた天へと昇っていったのだ。

その手紙に書かれた内容はといえば、今日にもゴルディオスの街に帰ってくるという内容であった。

「そうなのじゃあー。ソルー、お母さんが帰ってくるのじゃー。よろこぶのじゃー」

「にゃぁあああ」

ちなみにクロフェはお父さんである。クロフェの性別は今は女だが、ユッコネエはメスであるので、じゃあクロフェはお父さんで……となっていた。

「おっと、言っているそばから来たみたいだぜ」

わずかな魔力の揺らぎを感じたアカが視線を中庭の中央に向ける。そこは 帰還の楔(リターナーズ・ステイカー) の刻印が刻まれたところで、ユッコネエグレートキャットカテドラルの胎盤の間が出てくる場所でもあった。

「にゃぁあ、にゃぁあああ」

魔法陣が出現し、ソルが興奮して鳴いている。

「ふむ。相も変わらず複雑な術式なのじゃーな」

クロフェが若干目を細めてそう口にした。

目の前で構築されている魔術式は風音が扱う魔術『テレポート』よりも遙かに複雑な、まるで精密機械のような術式だった。それが分類上、神術と呼ばれているものであることを風音たちは知らない。

そして魔法陣から光の柱が発生し、光の中に人の影が見え始めた。

「にゃぁああ」

「にゃーー」

そしてソルの鳴き声に反応して光の中からユッコネエが飛び出し、ソルも同時に走り出して合流すると仲良くじゃれ合い始めた。

「ただいまー」

それから光が消えると風音を始め、メンバーが次々と姿を現れてクロフェたちに挨拶を交わしていった。

「お疲れなのじゃー。それでどうだったのじゃー?」

クロフェが風音に尋ねる。カザネ魔法温泉街で何をするのかはクロフェも聞いていたし、実のところ『竜と獣統べる天魔之王』の能力使用での 魔力の川(ナーガライン) の影響についてルイーズと共にクロフェは調べていた経緯もあった。

「まあ、お城はできたよ。けーどねー」

風音が直樹の方を見る。結局、直樹は己の意見を曲げ無かったため現状は風音が領主のままである。しかし普段は風音の視線を受ければ気持ち悪い反応をする直樹も今はそしらぬ顔である。

「むー、そんなにイヤなの?」

「応」

ハッキリと答える直樹を見て風音が息を吐いて肩を落とした。嫌がる弟に無理を言っても仕方がない。そう考えられる程度には風音にも分別はあった。

「そっか。じゃあしょうがないよね。けど、私も直樹のためを思って考えてたんだからね。それを分かってよね」

「ああ、それは理解しているさ。悪いな姉貴」

「ん、ならいいよ。その代わり、ちゃんと領主の仕事を手伝うんだからね。面倒いことは全部投げるからね。全部だからね。絶対だよ」

「お、おう」

すごく念を押されて直樹が少し引き気味に頷いた。それは直樹がマッカに宣言したことでもある。

これ以上、姉の機嫌を損ねるのは本意ではないとはいえ、ちょっと早まったのでは……という気持ちが直樹の顔には浮かんでいた。

「ふむ。まあ、大方は上手く行ったというわけなのじゃーな?」

「うん。そうだね」

クロフェの改めての問いに風音が頷く。

「はぁ。行ったり来たり大変みてぇだな妹よ」

続けてのアカの言葉に風音が「まあねえ」と笑う。

「けど当分はこっちにいるつもりだよ。ええと、ルイーズさん。次のオークションっていつだっけ?」

「魔道大国アモリアのオークションなら一ヶ月ちょい先ね。まあ二週間前くらいに出ればアンタのサンダーチャリオットなら十分間に合うんじゃないかしらね」

その言葉に風音が頷いてからアカの方に視線を戻した。

「というわけでお兄ちゃん、三四週間はこっちにいてダンジョン攻略予定になるよ」

風音の言葉にアカが「ダンジョンかぁ。面白そうだな」と口にした。しかしそれにはクロフェが鋭い視線を向ける。

「アカ、ならんのじゃー。分かっておるな、なのじゃー?」

「あー、へいへい。承知してるっての」

釘を刺すクロフェにアカが肩をすくめて頷いた。

「どうしたの?」

その様子に風音が首を傾げながら尋ねる。そしてクロフェはつまらなそうな顔のアカを見ながら風音の問いに答えた。

「アカは以前に強敵を求めてダンジョンを破壊し回ったことがあったのじゃー。それで近隣の国々から苦情がいっぱいきて超怒られたのじゃー。ワシがごめんなさいをしまくったのじゃー」

「あー、遊ぶにゃあちょうど良い場所だったんだがなぁ」

アカがそう言って頭をかいた。反省しているかは分からないが、クロフェの言うことを破るつもりはないようである。

「ま、しゃーねえ。ジンライ、俺のストレス発散のためにもテメエぐらいは付き合えよ」

「承知した。こちらこそ望むところだ」

ニヤリと笑って快諾するジンライだが、その顔にはむき出しの闘志があった。

最近のジンライはアカと模擬仕合を組むことが多くなっていた。勝率は、人としての勝負ならばジンライの三割勝利というところである。もっともジンライの槍の一撃でアカが沈むということは恐らくはないのだから寸止めの勝負ではジンライも勝ったという気はしなかった。

なお、他にアカの相手になるのはロクテンくん阿修羅王モードの風音と完全神狼化した弓花だけであり、 解放神狼(リバティフェンリル) 化については抑えが効かず殺し合いになりかねないから……とクロフェに止められていた。

「早くライノクスとか言う小僧も連れてこいよ」

「今、連絡中だ。本人もやる気のようだが公務があるようでな」

カイザーサンダーバード大活躍により、メールなしでもライノクスと一日程度で連絡ができるようになっていた。ライノクスも色々とバレてまたネギを尻に刺されたようだが、今では公務に復帰して休みを取るために溜まった仕事を片付けているようである。

「はー、また師匠が遠くなるなぁ」

そのアカとジンライのやり取りを見ていた弓花がため息をついた。弓花は完全神狼化になってもジンライには勝てないし、最近では風音のロクテンくん阿修羅王モードでも体力がある場合はジンライの勝ちが揺らがなくなってきていた。

それはジンライの力量が上がったことと、若返った影響か魔力総量が上がったこと(なお上がったといってもようやく人並み程度に……である)もあるのだが、一番の原因はジンライが風音に慣れたということにあった。

人よりも恵まれぬ身体能力しか持たぬジンライがここまで強くなれた理由はひたすらに考え抜き、思考し続けることで得た学習能力の高さだ。その上に近接戦闘経験の浅い風音ではスペックに任せて攻撃を繰り出すだけなので、ここまでのトライアンドエラーの繰り返しによりいつの間にやら攻略されてしまったようである。もちろん、近接戦に限定しなければまた結果は別になるのだろうが。

そしてそんな風に久方ぶりの再会に一同が沸いている中、直樹は一人その場を離れた。直樹には報告するべき相手がいた。そして目的地は館の屋上ラウンジであった。

◎ゴルディオスの街 白の館 屋上ラウンジ

『お帰りっすナオキっち』

直樹がひとり屋上のラウンジにやってくると天井からスーッと糸を垂れ下げながら一匹の蜘蛛が降りてきて、声を出した。

「イリア師匠。ただいま」

その蜘蛛に対して直樹が挨拶をする。その蜘蛛はイリアの式神であった。直樹が報告をするべき相手とはイリアであったのだ。

『うむうむ。いつものナオキっちっす。無事に戻ってきたみたいっすけど、首尾はどうだったっすか?」

「はい。イリア師匠の予想通りでした。姉貴は俺を領主に据え置こうとしていました」

イリアの問いに直樹が素直に答える。そう、直樹は事前に風音が自分に街を渡そうとしていることをイリアから聞かされていたのである。

『それで結果は?』

「もちろん、断りましたよ。俺が受け取るには俺は何もして無さ過ぎますしね」

その答えはカザネ魔法温泉街で直樹が口にした返答と同じ。対してイリアの蜘蛛がクイクイと足を動かしていた。その動きはヨシヨシという感じである。

「それに俺は姉貴と離れるつもりもありませんしね」

『そうっすね。あのお姉さんはちょっと抜けてるっすから、ナオキっちがまだ付いててあげなきゃダメっす。それにナオキっちはまだ若いっすからまだそーいうことで悩むのは早いっすよ』

「ですかねえ」

師匠のアドバイスに直樹も頷く。実際にこの世界で直樹の年頃であれば、立派にひとり立ちしていてもおかしくはないのだが、イリアの巧みな話術によってその疑問は回避されていた。

ともあれ確かなことは、イリアは直樹がエミリィと身を固めるフラグをひとつ破壊することに成功し、直樹も姉との別離フラグを回避できたということであった。

『では、また何か悩みがあったら相談に乗るっすよ』

「ありがとうございますイリア師匠」

そして直樹の返答を聞いて満足したイリア蜘蛛がまた天へと昇っていった。

なお、ミンシアナ王国ではなくゆっこ姉個人に仕えているイリアはゆっこ姉が引退後にはカザネ魔法温泉街を拠点とするのだからよく考えてみれば直樹が領主の方が良かったんじゃね?……と後に悩むことになるのだが、それはまた別の話である。