軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第六百四十四話 ご飯を食べよう

「あ、姉貴ぃ!?」

余りにも唐突に横やりを入れて、さらには仕留めてしまった姉に直樹が声を上げる。だが風音はVっとサインをして返した。ドッキリ成功的なドヤ顔をしている。

また風音を乗せている鷲獅子竜グリグリはその場でペチペチとバハムート・コロラビスサイラを叩いて死んでいるのを確認しているようで、風音の後ろからは申し訳なさそうな顔の弓花とくわーっと鳴いて興奮しているタツオがヒョッコリと顔を出してきた。

「えーと師匠。すみません、いきなりで」

「気にしては……おらん」

ムスッとした顔で言うジンライに弓花があわわとなっているが、他の大半のメンバーは呆れ半分安堵半分というところである。

バハムート・コロラビスサイラも脂が落ちたとはいえまだまだ健在ではあったし、ドラゴン同様に体力のある魔物なのでその後の戦闘の被害を考えれば早々に片付いてくれたことで彼らが助かったというのも事実ではある。

「ともかく姉貴たちも降りてきてくれ。それで、まずは話を聞かせてくれよ。グリグリとも合流できたみたいだしな」

直樹の言葉に風音もVサインを解き、せいやっと地面に降りてきた。それに弓花とタツオも続き、その場に全員が集まってくる。

そして風音は、直樹の問いに答えるべくここまでの経緯を話し始めたのである。

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『つまりはこのお魚はグリグリのご飯だったのです』

途中から風音に変わって熱弁し始めたタツオがくわーっと鳴いていた。タツオを頭に乗せている風音がウンウンと頷いている。

その後ろでは鷲獅子竜グリグリがクチバシでつつきながらバハムート・コロラビスサイラを食べ、ユッコネエとシップーもご相伴に預かって「にゃーにゃー」「なーなー」とバハムート・コロラビスサイラの白身を頬張っていた。

そして風音たちがグリグリを発見した経緯はといえば、大したものではない。風音がユッコネエドラゴンをアルゴ山脈の周囲を飛び続けさせて、風音の目論見通りにグリグリがそれを発見して合流しただけである。

それから今に至るまでの経緯についてはグルルゥとしか話さないグリグリの通訳としてタツオが説明を行っていた。

『グリグリは昨日の朝食としてそこのお魚を捕獲したらしいのですが、予想以上にヌメって途中で取り逃してしまったそうなのです』

鷲獅子竜であってもあのヌメりは大変だったらしい。グリグリがバハムート・コロラビスサイラを食べながら頷いている。

「それで追いかけてはみたものの捕まえられず」

「人里近いこの場所に逃げられたので放置したというわけですか」

ジンライとキンバリーの言葉にタツオとグリグリがくわーっとグルルゥと鳴きながら頷いた。

『そうなのです。グリグリは母上と接触するまでは必要以上に人間に接触しないようにと言われておりましたので、それを守るために炎を吐くのも禁じていましたし、ご飯も断腸の思いで見逃したそうです』

「グルゥゥウウ」

タツオの言葉にガツガツと食べているグリグリが唸って頷いた。辛い決断だったようである。

「まあ、この付近で大暴れされて火事になっても困りますしねえ」

キンバリーは冷や汗をかきながら一定の理解を持って頷く。その様子は己を納得させようとしているようにも見えた。

「まあ、そんでさっき私に会ってご飯を回収する許可も与えたことでこうしてバハムート・コロラビスサイラを倒しに来たってわけだね。けどジンライさんたちがすでに接触しているとは思わなかったよ」

風音の言葉に、自分たちだけで殺る気だったジンライやライルはブスッとしていた。

「もう少し来るのが遅けりゃ俺たちだけで仕留められたってのにさ」

「確かにそれは心残りではあるな」

「はいはい。あーいうのはとったモン勝ちだからね。それができなかったジンライ君たちの負け……でしょ?」

いじけ気味のふたりにルイーズがそう声をかける。ジンライもライルもそれを分かっているから直接風音に何も言わないのである。もっとも態度に出ていれば、口に出したも同然であり、ジンライもライルも肩を落としてため息をついた。

ともあれバハムート・コロラビスサイラの討伐は完了し、これでひとまずの問題は去ったわけである。そして続けての問題である目の前のグリグリを見ながら、キンバリーが風音に尋ねた。

「それで……この巨大なドラゴン……」

「グリグリだよ」

「ぐ、グリグリのことをお聞きしてもよろしいのでしょうか?」

キンバリーもグリグリが風音に関連してこの場に来ているのはすでに聞いているので理解している。しかし問題なのは何故グリグリがここに来たのかである。そのキンバリーの問いに風音が頷いた。

「ええとね。このグリグリは神竜帝ナーガ様より承った、カザネ魔法温泉街の守護竜なんだよ」

警護団のメンバーがオオッと声を上げる。

神竜帝ナーガ、それに金翼竜妃クロフェという二体のドラゴンの権威はこの近隣の国々でも非常に高いものがある。特に竜騎士が乗る騎竜という存在は竜の里なしにはほとんど成立しないし、魔物に対しての航空偵察などで重宝される竜騎士はこの世界ではなくてはならないものだった。

そして目的を果たした白き一団と警護団、それに鷲獅子竜グリグリはカザネ魔法温泉街へと戻ることになったのである。

◎カザネ魔法温泉街 領主の館

「どうやら無事に捜索を終えたようですわね」

マッカがそう口にする。その視線は領主の館であるこの建物の窓の外、カザネ水晶大浴場の前の広場に向けられている。

そこにはバハムート・コロラビスサイラを持ち込んだグリグリと巨猫たちがバクバクと再びお食事中であった。

それを街の住人が恐ろしげに、物珍しげに、或いは畏敬の念を持って眺めているのがマッカには見えていた。この世界の人間にとってドラゴンとは恐ろしい魔物であると同時に、力の象徴であり、人々にもっとも近しき友でもある。

街の住人には混乱を抑えるために神竜帝ナーガから天使カザネ様へと贈られた神竜であるとすでに知らされていて、その場で拝んでいる天使教の教徒たちも多数いた。

それらをマッカが複雑そうな顔で見ているが、今この場にいるのは風音とサキューレとの三人のみである。

警護団は街の警護に戻り、他の白き一団は解散してそれぞれに動いている。今頃は街で買い物をしているか、温泉に入っているか、修行をしているかであるはずであった。

昨日の続きはミンシアナの国家機密に値する内容であるため、他のメンバーの同席は断っていたのである。

「それで整理はついたかな?」

風音の問いにマッカが頷く。ユウコ女王の隠居地とそのための居城の建造、さらには守護竜の配置。風音が具体的に述べたのはそうした内容である。

すでにミンシアナ王国主導での街造りに移り始めている状況からマッカも何かあるとは予想していたが、完全に予想以上の内容であった。

「まあ、言いたいことは色々とございますが不敬に値しかねませんのでなんとも……街の発展のためと言われれば何も言い返せませんし。けどまさか女王陛下を顎で使っていたとは……」

頭を抱えるマッカにサキューレが口を開く。

「勇気のある人だなあって思ってました」

「教えてくださいよ。そんな配慮のなさが左遷の原因にもなったのではないですか?」

サキューレの言葉にマッカが涙目だった。隠居計画自体はその準備のために派遣されたサキューレは当然知っていたもので、着任後に次々とゆっこ姉への要求をエスカレートさせていくマッカにサキューレはスゲーッと思っていたようである。

「いえ、左遷で飛ばされたんじゃないんです。女王陛下の信頼があるから私が選ばれただけなんです。マジなんです」

これは嘘である。まあ、息子の件がなければ信頼しているのは間違いではないが。その必死の弁明のサキューレを無視しつつ、マッカがため息混じりに口を開く。

「しかし、女王陛下のための居城に守護竜ですか。デミクリスタルドラゴンだけでもこの付近では敵無しだというのに一国の王都ですわね。これでは」

そのマッカの言葉に風音も困った顔をする。そこまで大げさにするつもりもなかったのだが、やれることをやっていたら自然とそうなっていたのである。

「一応、ゼニス商会側にもこのことは伏せておいてって女王陛下も言ってたけど」

「ええ、ええ。言いませんとも。首がサーッと飛びますものね。下手すれば商会ごと首がすげ変わりかねませんしね。ふ、ふふふふ」

もはや諦めた顔で笑うマッカの横で、サキューレが風音に尋ねる。

「しかし、城を造るにしてもさすがに現状で割り当てられた予算でどうにかなるものとは思えません。人も資金も資材の問題もあるでしょう。カザネ様はその点で何か女王陛下からお聞きになってはいないのでしょうか?」

そのサキューレの問いは当然といえば当然のものである。風音がこの場で話に出したのは、ゆっこ姉の隠居とそのための城の建造である。

そしてマッカも気になって風音の方を向いた。

マッカも風音がゴーレム魔術で家を次々と造り出したのは見ているが女王が住まう城となれば話は別だ。或いは区画ごとに造っていけば可能か……ともマッカは推測していたが、風音は特にその手段を口にすることなくサキューレの問いに力強く頷いた。

「うん、だからね。今回私はソレを造るために来たんだよ」