軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第六百四十三話 トドメを刺そう

生ぐさい臭いを漂わせながら、それはやってくる。口をパクパクさせながら鳴き声も上げずにやってくる。障害となる木々を砕きやってくる。

「ひどい光景だな。これは」

直樹は正面から迫るバハムート・コロラビスサイラの姿を遠隔視で捉えながら呟いた。見た目がもうどうにもおかしい、悪夢に出てきそうな姿の魔物である。

ともあれ、そんな奇妙な魔物との距離ももう300メートルを切った。木々が障害となって直樹たちの元へはまだたどり着けていないがそれも時間の問題だ。

虚ろな瞳を向けながらパクパクパクパクと口を動かしながらソレは迫ってきている。その姿を確認しながら直樹が後ろに向かって叫んだ。

「エミリィッ、レーム!」

「了解ッ!」

「あいよッ!」

エミリィとレームが同時に返事をして、前に出てそれぞれの武器を用意する。

レームは 雷神砲(レールガン) に可変させる時間がないため、ゴレムスキャノンの 雷王砲(レールキヤノン) をそのまま構えた。

そしてエミリィの方はと言えば手にしているのは愛用している白翼の竜鋼弓ではあるのだが、十字型で四方に伸びた金属器の先にチャイルドストーンが付いたアタッチメントが設置されていた。正面から見ればアスタリスク|(*)のようにも見える弓をエミリィはゴレムスキャノンの横で構え、距離を測る。

「撃てぇええッ!」

そして150メートルを切った時点で直樹が声をかけ、レームの 雷王砲(レールキヤノン) が火を噴き、併せてエミリィの弓からも矢が放たれた。同時に四つのチャイルドストーンから一斉に『ファイア・ヴォーテックス』が矢と併走して撃たれたのである。

「連続で魔術をっ!?」

キンバリーは驚きの顔でその攻撃を見た。そして砲弾と矢と炎の弾丸は木々を越え、バハムート・コロラビスサイラへと直撃して爆発を起こし、異形の巨大サンマが跳ね上がった。

「よしっ」

エミリィがその威力に会心の笑みを浮かべた。

このエミリィの新武装の名は『四重炎の翼竜弓』という。同程度の低階層チャイルドストーンを敢えて用意し動力石同士の干渉を防いだ形、つまりは十字状のアタッチメントの先にそれぞれ離して配置することで『ファイア・ヴォーテックス』四連射を実現させている。

メフィルスやタツヨシくんケイローンの装備のように矢に『ファイアドリル』を乗せるとブレて命中精度が下がるため既存のスペルを使ったのだがその火力は高く、次射までのチャージの必要はあるがソレを補って余りある威力の兵装へとエミリィの弓は生まれ変わったのだ。

「いやー、強烈だな。それ」

ライルがヒュウッと口笛を吹きながら走り出す。

「よくやったなエミリィ」

「ふむ。ライルは先行し過ぎるなよ」

続けてイダテンの脚甲を履いた直樹とシップーに乗ったジンライ、さらには炎の翼を出したメフィルスとルイーズのライトニングスフィアが飛び出していく。

「こりゃあ、追いかけるのは無理ですか。仕方ない。私たちは散開して矢で牽制します」

一方で、白き一団の前衛組の機動力を見て近接戦の参加は逆に足を引っ張ると考えたキンバリーはすぐさま部下たちに指示をし、バハムート・コロラビスサイラの周辺へと警護団を散開させ、それにティアラたち白き一団の後衛組も続いていく。

そして前衛組はといえば、勢いよく飛び出したのは良いがバハムート・コロラビスサイラの予想以上の機動力に振り回されて苦戦しているようだった。

「チッ、速い」

三色ジルベール戦で手に入れたイダテンの脚甲で高速移動する直樹の横をバハムート・コロラビスサイラが駆け抜ける。同時に刃のごとく鋭いヒレが直樹へと迫り、直樹は握った業魔王剣と夜王の剣を重ねてそれを防御する。

「うぉおおっ」

剣とヒレが火花を散らす。しかし10メートルを超すバハムート・コロラビスサイラと直樹とでは当然重量差があり、直樹では相手の巨体には抗しきれない。

(クッ、下がらないと)

そう判断した直樹は地面を蹴って後ろへと一気に飛んだ。それを追おうとバハムート・コロラビスサイラも動いたが、そこに左右からの攻撃が迫る。

「ぬぉおおお」

「いけえーー」

シップーに乗ったジンライとジーヴェの槍で突撃するライルが同時にバハムート・コロラビスサイラへと突撃し交差する形で斬りつけた。

「こいつ、滑るぞ」

ライルが叫んだ。ジンライも舌打ちをする。体表面がヌルヌルと脂が滴っており、掠められはしたが傷を付けるまでには至らなかったのだ。

『ならば我が一撃でッ』

「私も援護をッ」

そこにドリルフレイムランスを発動させたメフィルスが突撃し、ルイーズのライトニングスフィアも続いていく。しかしバハムート・コロラビスサイラは鳴き声も出さずに口を開き喉の奥からため込んだ水を吐き出してメフィルスを覆う炎をかき消した。

『しまっ』

メフィルスが声を上げるがもう遅い。次の瞬間にはバハムート・コロラビスサイラの尾が振るわれて、メフィルスとライトニングスフィアが森の中に吹き飛ばされた。

「メフィルス様!? くっ、脂が乗っていて斬り辛い。ジンよっ、お前も力を貸さんかい」

ジンライがそう叫んで槍を掲げると、空中に魔法陣が出現し、そこから骸骨竜騎士ジン・バハルが召喚される。

『応よっ、バハル流槍術『彗』!』

そしてジン・バハルが落下しながら槍術のひとつを放った。それは連続で突いた先から無数の闘気の弾を射出する技で、槍術『雷走り』とは違い威力を犠牲にして数を重視したものだ。

『むっ?』

しかし無数の闘気弾もバハムート・コロラビスサイラの表面には直撃せず、ヌルリと避けて地面へとぶつかっていった。それを見てジンライが眉をひそめる。

「ふむ。直接攻撃は難しいか」

「サンマというかウナギみたいなヤツだなあ」

直樹が呆れ顔でそう口にする目の前で、ジン・バハルがヒレを横から当てられて吹き飛ばされていた。

『くっ、うぉ』

空中で態勢を立て直し着地したジン・バハルが構えながら口を開く。

『駄目だな。攻撃はほとんど無効化されるようだ』

「効いていないわけではないようだがな」

ジンライがそう言って目の前のバハムート・コロラビスサイラを睨みつける。ジンライとライルの一撃でわずかではあるが傷が付いている。

「強力な一撃ならダメージもあるんでしょうが、ふたりの攻撃であれだけじゃあ厳しいですね」

直樹がそう言いながら、バハムート・コロラビスサイラに視線を移す。また改めて見てみるとレームの 雷王砲(レールキャノン) もほとんどダメージがないようだが、エミリィの初撃は効いているようだった。矢も焼け焦げた場所には突き刺さっている。

「そうか。炎で脂を落としたか」

直樹がそれに気付き、ジンライも「なるほどな」と頷いた。そして直樹がエミリィに声をかける。

「エミリィ、ファイア・ヴォーテックスを分けて撃ってくれ。少し間隔をあけるように……で、できるか?」

「分けて? 分かった。やってみる」

直樹の言葉にエミリィが頷き、直樹も前回のジルベール戦で進化をした業魔王剣を握り、アイテムボックスから竜炎の魔剣を出して宙へと投げた。それから直樹は魔剣を飛竜にはせずそのままの形でバハムート・コロラビスサイラへと向かわせ、対するバハムート・コロラビスサイラも口をパクパクさせながら魔剣に向かって駆けていく。

「今だッ」

「いっけえええ」

そして直樹の合図と共にエミリィがトトトトンと矢を四つ、さらにはそれに付き添うように四つのファイア・ヴォーテックスも放ち、バハムート・コロラビスサイラのそれぞれの部位へと当て爆発を起こさせる。

「うぉぉおおおおおおおおおおおおお」

同時に直樹が叫び声を上げてスキルを発動させた。そのスキル『 限界突破:魔剣(オーバーリミット) 』に呼応してバハムート・コロラビスサイラの上空にあった竜炎の魔剣『牙炎』が回転しながら炎を噴き出す。

「炎が舞い上がる!?」

キンバリーが声を上げた。バハムート・コロラビスサイラの周囲に炎の柱が生み出されていくのが見えたのだ。その中でバハムート・コロラビスサイラは口をパクパクとさせながら悶えている。先ほどのように口から水のようなものを吐いてもいたが接触した炎だけが消えて、またすぐに炎の柱は元に戻った。

「その脂、落とさせてもらうぞッ」

直樹が己の全魔力をそそぎ込んで叫ぶ。実のところ、魔物を覆う炎は範囲が広い分威力自体はそれほど強力なものではない。しかし、エミリィによって傷つけられて弱った表面から一気に脂が燃え広がり、燃焼されていくのが直樹たちには見えていた。

「ライル、ジンライ師匠ッ」

そして直樹の合図と共に炎の柱が消え、

「生焼けか」

「匂いは悪くないな」

再びジンライとライルが突撃し繰り出した攻撃が交差し、今度はバハムート・コロラビスサイラをきっちりと抉った。そして、

「真上からドーーーーーーーーーンッ!」

上空から巨大な鳥に似たドラゴンが落下してその爪でバハムート・コロラビスサイラを切り裂き、そのまま大地へと激突させ、衝撃で大地が揺れた。

そのいきなりの状況に一同は呆気にとられるが、目の前にいる鷲獅子竜は悠然と構え、さらにその背の上では風音がVサインをしながらこう言ったのだ。

「勝った」

風音たちの勝利である。