軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第六百四十二話 生臭いヤツと会おう

◎アルゴ山脈 上空

「うう、ちょっと寒いねえ」

アルゴ山脈を並行するように飛ぶユッコネエの背の上で風音がブルッと震えながらそう口にした。その言葉に後ろに乗っている弓花も頷いて同意する。

「風がないのはありがたいけど、この空気まではどうしようもないね。鎧が守ってくれてるからそこまで気にはならないけどさ」

その弓花の言う通り、風音の竜喰らいし鬼軍の鎧も弓花の神狼の鎧にもそれなりの気候耐性がある。今も弓花の神狼の鎧は銀色の、風音の鎧からは赤黒いオーラが若干現れてふたりを護っているようであった。さらにユッコネエドラゴンが発する『風の加護』にも守られているため、人が乗っていても問題のない最低ラインの環境は整えられている。なお、タツオはそもそも耐性があるので暑かったり寒かったりで音を上げることもなかった。

『うーん、高いです。私も早くこのように飛べるようにならねば』

「飛べるようになっても迂闊に高度を上げちゃ駄目だからね。場合によっては 飛竜(ワイバーン) とかにパックンチョされちゃうんだから」

頭の上で意気込むタツオに風音がそう注意をする。今のタツオならば 飛竜(ワイバーン) に喰われる前に抵抗ぐらいはできるだろうが、単独で、それも空中戦で勝つことはまだ難しい。そう風音は考えているのだが、対してタツオがくわーっと鳴いた。

『 飛竜(ワイバーン) 程度ならば造作もありません』

どうやら風音の言葉が竜族の頂点である神竜帝ナーガの息子としての矜持に触れたようである。若干ムスッとしたタツオに風音が苦笑してから口を開く。

「そう言うからには空中でちゃんとメガビームを撃てるようにならないとねえ」

その言葉にタツオがくわーっと鳴いた。一本取られたという感じである。残念ながらタツオは飛び上がった程度ならともかく、通常飛行中にメガビームを放つことがまだできないでいた。撃った時点で身体と魔力のバランスを崩し落下してしまうのだ。その上に命中精度もよろしくはないのでとても実戦では使えない。

『むむむ、精進します』

そう言って若干気落ちしたタツオに風音は空中戦の武器も用意してあげようかとも思ったりもしたのだが、今のタツオでは空中で狙い撃ちにされた場合の防御に難がある。クリスタルドラゴンゴーレムで地上を戦っていた方が対空砲台としても優秀ではあるし、あえてリスクの高いスタイルにするのも危険ではあった。

そんなことを検討し始めた風音の後ろでは弓花が目の前の光景に「おー」とか「絶景ねー」とか感動していたのだが、アルゴ山脈の頂上付近を見てから少しばかり残念そうな顔をした。

「うーん。雲さえなければコーラル神殿見えてたのになぁ」

弓花がアルゴ山脈の山頂を見ながらそう呟く。

「多分あれは晴れないと思うよ。ゲーム中でも固定だったし、アレ自体が結界になってるんだと思う。近付くとユッコネエがダメージ受けちゃうはず」

『にゃー』

ユッコネエドラゴンが鳴いた。それはヤだなーという感じである。

『ユッコネエも嫌がってますね』

「まあ、ちょっと気になっただけよ。ユッコネエに特攻してもらおうなんて思ってないから」

あははと笑いながら弓花がそう返す。それから眼下を見回してから口を開く。

「それで風音。グリグリを探すって言っても、ここら辺って広いしどこから探す予定なの?」

「んー、探すって言うかこの辺りをしばらく飛び回る予定だよ」

「どゆこと?」

『でしょうか?』

弓花とタツオの質問の声が響く。

「一応『犬の嗅覚』で探してはいるけどさ。こうやって飛んでればあちらの方が気付けば近付いてくれると思うし、それを待ってるところ」

「ああ、なるほど」

風音の言葉に弓花が頷く。高い場所で同類が飛んでいれば確かに気付く可能性は高い。

「問題なのはもう一体の方がこちらを先に見つけると厄介かもしれないってところかなあ」

『銀腹のヤツのことですか?』

タツオの問いに風音が頷く。

「あれか。そういえばキンバリーさんや師匠には話してたみたいだけど、風音はそのドラゴンに心当たりがあるんだよね?」

分かれる前に風音はキンバリーから銀色をした『巨大な魚の』鱗を見せてもらい、その正体に気付いたようであった。

「んー、そうだね。間違いないと思うんだけどさ。ドラゴンじゃあないんだよ。多分、あれは」

それから続いた言葉に弓花の目が丸くなった。風音から聞かされた銀腹の魔物の正体は……

◎アルゴ山脈 麓の森

「バハムート?」

森の中にその声が響いた。それは直樹の声であった。

「これ、大声を出すでないわ」

周囲が声を上げた直樹に視線を集中させている。

現在、白き一団とカザネ温泉街の警護団は共同で銀腹の魔物の探索中である。その途中でいきなり声を上げられては当然周囲の魔物に警戒を与えることにもなるし、ジンライが怒るのも無理はなかった。

「あ、ああ。すみませんジンライ師匠。けど……追っているドラゴンってバハムートなんですよね。それって」

謝りはするものの直樹としては追っているものの正体の方が重要だった。何しろ直樹が知っているバハムートという魔物は巨大なドラゴンの王様みたいなやつである。

バハムートがドラゴンであるというのはとあるTRPGより広まったものなのだが、以降の大半のゲームでバハムートという存在は強いドラゴン、ドラゴンの王様のような位置づけとなってしまった。

そのイメージから直樹としては今のメンバーでバハムートなどという大物に挑むというのは無謀すぎるのではないかと思ったのだが、対してジンライは少しだけ考えてから直樹に口を開いた。

「いや、バハムートはドラゴンではないぞ」

その言葉に直樹が首を傾げる。

「バハムートがドラゴンじゃない?」

「うむ。確かにサイズが近いし、手足があって翼も生えている。なので空中を飛んでいると姿を把握できずにドラゴンと誤解しやすい魔物ではあるのだが、あれは……」

話を続けてようとしたジンライの視線が不意に森の奥に向けられた。

「なんだ?」

同時に直樹のスキル『察知』も反応していた。強力な気配がその先にあるとスキルが告げている。この付近に生息しているモーターマシラやランドオクトパスよりも遙かに強力な魔物の気配に直樹の眉がひそまった。

「キンバリー、止まれ。ビンゴだ」

静かだが重い響きのジンライの言葉にキンバリーが少しだけギョッとした顔をしてから頷き、手振りで後ろを歩いていた警護団のメンバーをその場で立ち止まらせた。

「ナオキ、何かいるの?」

その様子に後ろにいたエミリィが尋ねてくる。それには直樹も視線を正面に向けたまま頷いた。

「ああ。多分、目的のヤツだ。エミリィ、弓の準備しとけ。新しくなったんだろ?」

直樹がそう返す。エミリィの現在の弓は風音考案第二弾となるチャイルドストーンを搭載した新武器である。今回できあがったのは元々エミリィが持っていた白翼の竜鋼弓にアタッチメントとして装着するタイプのもので若干外見がゴツくなっていた。

「ん、問題はないよ。使い方は今までと大して変わらないしね」

エミリィがそう言って弓を握る。その後ろでライルや 炎の王騎士(フレイムキングナイト) 姿のメフィルスも身構えている。さらにその後ろにいるティアラが何かを感じて眉間にしわを寄せた。

「なんですの。何か……生臭い?」

「あら……これってまさか」

ティアラが妙な臭いに気付き、併せてルイーズが同じように臭いを感じて慌てて声を上げた。

「いけない。バハムートが活性化している。こちらに気付いてるわよッ」

ルイーズの言葉に全員の視線が正面に集中し、それとほぼ同時にバキバキと木々の折れる音が響いてきた。

「近付いておるな」

「な、なんだよ。あれは!?」

身構えたジンライの横で直樹が叫んだ。

直樹の目に映った魔物の姿は明らかに異常だった。

そして直樹は知らぬがその魔物の名はバハムート・コロラビスサイラと言った。

バハムート。それは伝承に曰く大地を支える巨獣であると言い、伝えられている本来の姿にわずかにドラゴンの特色を混じり合わせたような形状の魔物である。

それは主に海域に生息しており、特にバハムート・コロラビスサイラは秋頃には脂の乗った状態になると人々には知られていて、地元の漁師の間でも一度食べてしまえば二度と忘れられなくなるほど美味だとして恐れられてもいた。

その姿を言うならば、人のような手足を持ちて大地を徘徊し、ドラゴンの翼を生やして空を飛び、エラを使って海を泳ぐ、銀腹の巨大な……

「サンマじゃねえかッ」

サンマであった。

そしてバハムート・コロラビスサイラが牙付きの口をパクパクさせながら生臭い臭いを放ちつつ無言で直樹たちに迫ってきたのである。