作品タイトル不明
第六百三十九話 盛大な歓迎を受けよう
「というわけでちょっと出掛けてくるんで戸締まりはよろしくっ」
風音の言葉と共に白の館の中庭に光の柱が出現し、白き一団は光の中に消えていった。 帰還の楔(リターナーズ・ステイカー) による長距離転移の輝きである。
それを見送っているのは白の館の右館を間借りしているオーリングのメンバーのオーリとカンナであった。
トゥーレ王国からこちらに戻って以降、彼らはもっとも精力的にダンジョン探索に力を入れていて現在六十階層に到達している唯一のパーティであった。そのため色々と動き回っている風音たちとあまり出会うことも少なかったのだが、本日は彼らも休日のようでありオーリたちも見送りをしていたというわけである。
「相変わらず忙しいみたいだな」
白き一団が過ぎ去ったのを見てからオーリがそう口にする。
なんだかいつもどこかに行っているしオーリとしてはとっととダンジョン潜らんのかいという気もしていたが、なんだかんだと風音たちも現時点で五十階層までは潜っている上位パーティである。
「カザネ魔法温泉かぁ」
オーリの横でカンナが呟いた。それは風音たちが向かった先の場所の名称である。
「なんだ? 知っているのか?」
オーリが尋ねる。風音たちが温泉街に行くのはオーリも聞いていたのだがその場所も知らないし目的までは聞いてはいない。しかし同じ仲間のカンナは知っているようであった。
「風音が領主の新しい街だよ。ま、私も少し滞在してたけどまだ造ってる途中のところでね」
その言葉にオーリがギョッとする。オーリはプレイヤーがどういう存在なのかを知っていて、風音がプレイヤーだとも認識している。その上でトゥーレ王国の騒動時に風音がミンシアナ王国の王族となっていることも聞いていた。その他にもトゥーレ王国のゴーレムメーカー協会のトップであることもその場に居合わせていたので知ってもいるが、街の領主にまでなっているとは知らなかった。
「いや、本当に色々としてるんだな。あの子は」
「あはははは」
オーリの何とも言えない返答にカンナが乾いた笑いを返す。
元々カンナはリンドー王国の商人であるアングレー・メッシの協力者であり、風音たちにプレイヤーとして接触するためにカザネ魔法温泉街に滞在したのだが会う機会がなかったために続けてゴルディオスの街にきた経緯がある。オーリングのメンバーに入ったのも風音たちと知り合いだったからだ。今でこそオーリングのメンバーとして馴染んでもいるが当然アングレーとの縁が切れたわけではなく、時折連絡も入れているのでオーリよりも当然事情には明るかった。
「今もお金や人の流れが激しいみたいでね。結構注目されてるところなんだけど、まあここからは離れてるし天使教ぐらいしか繋がりはないけどね」
「天使教か。アレも不可解なものだけどな」
天使教とはなぜか風音を崇めることを目的とした、この街に急速に広まっていった宗教である。オーリたちも風音たちの客人扱いとして親切にはしてもらっているので不可解とは思っても特に悪印象はないのだが。
「まあ、あいつらに追いつかれる前にダンジョンをもっと先に進めておきたいものだな」
「けどリーダー、今日はお休みだかんね。どうせユズもオルトヴァも研究で篭もっちゃってるんだし」
カンナの言葉にオーリも「分かっているさ」と返す。
オーリングの他のメンバーは普通に休息をとっているがゴーレム使いのユズは風音のゴーレムの解析を、魔術師のオルトヴァはテレポートの魔術の解析をそれぞれ行っている。
プレイヤーの魔術を解析して普及させることの意義は風音と接することの多いカンナにもオーリにも分かっている。
またオーリは、そんな仲間たちのことを見ているとそう遠くない内にふたりは冒険者ではなくなるかもしれないと感じていた。そして、オーリにとっても……
(ダンジョンの先、父さんの世界にたどり着いたなら俺は)
プレイヤーであった父親に代わり、ダンジョンの先にある世界に向かう。その先のことをオーリは考えていた。
◎ミンシアナ王国 カザネ魔法温泉街
「キターー」「バンザーーイ」「天使様がいるーーー!」
爆発したような歓声が響き渡った。それは光の柱の中から出現した白き一団の耳に唐突に入ってきた音であった。
「え……なに?これ?」
『人がいっぱいいますよ母上!』
それに風音が目を丸くしている。頭の上のタツオもくわーと鳴いている。一体ここで何が起きているのか。目の前の大勢の人は何なのか。風音は状況が掴めず驚きの顔をして周囲を見回した。
現在風音たちがいるのはカザネ魔法温泉街であるはずだった。
そもそもはマッカに直接話さなければならない事案もいくつか出たことで風音がカザネ魔法温泉街に行くことを決めたことが発端である。それに白き一団も付き合う形で同行したのだ。正確に言えば他のメンバーは温泉旅行をしにきたのである。
そして風音はマッカにウィンドウの機能を使って連絡をして、全員が出てこれるような広い場所に刻印入りのクリスタル風音ちゃん人形に置くように指示してから、直樹の 帰還の楔(リターナーズ・ステイカー) で長距離転移を行ったのだ。その結果が今の状況だ。何が何やら分からないのも仕方のないことだろう。
「ふむ。何やら熱烈な歓迎のようだな」
「熱狂的というべきかしらね」
風音の後ろでは、困惑しながらも周囲の様子を観察しているジンライとルイーズがそれぞれ話し合っていて、それは他のメンバーも同様であった。
もっとも目の前の集団の正体については彼ら全員が身に付けている『天使の翼を象ったブレスレット』を見れば一目瞭然ではある。それは天使教の一団であるという証のアイテムだ。
(一体どういうことなんだろうね、これ?)
風音はそう思いながらも周りを見てみると、この場はカザネ水晶大浴場の前の街の広場であるようだった。そこに恐らくは千人ぐらいの、つまりは街の住人の半分近くが集まっていた。
風音の知る限り、こんな状況を用意できる人物と言えばひとりしかいない。
「ええと。マッカさんの仕業だろうけど……どういうこと?」
そう、この状況を作り出せる人物はカザネ魔法温泉街で領主代行を任されたマッカ以外にいるはずがない。そう推測した風音がマッカの姿を探そうとしたとき、人々の間からオオオッという声を上がった。
同時に風音もマッカの匂いを感じ、上空を見上げた。そしてカザネ水晶大浴場の屋上から巨大な水晶のドラゴンが飛び出してきたのである。
「あれはデミゴンくん!?」
それは風音が以前に、マッカに対して贈ったゴーレムのデミクリスタルドラゴン『デミゴンくん』であった。八十階層クラスのチャイルドストーンを動力とし、付与魔術はフライを使用して短期間ならば飛行も可能なデミゴンくんが飛んできて風音たちの後ろに降り立ったのである。同時に再びドッと歓声が湧いた。
「マッカ様だー」「教祖様ー」
そんな声が響く中、デミゴンくんの背にはマッカがいて両手を広げていた。しかも全身を異様に煌びやかな衣装を纏い、妙にゴテゴテとした旗のようなものを背から出したりしていた。その昔、年末に毎回出没していたラスボスのような大仰な格好である。或いは孔雀、そう煌びやかな黄金の色の孔雀が羽を広げているような、そんな姿のマッカが白き一団を見下ろす形で口を開いた。
「ようこそカザネ様と白き一団のご一行様。ずっとずっとずっとお待ちしておりました。ええ、まったく以て心待ちにしておりましたわ」
そう言いながらもマッカの笑顔は固まっていた。怖い。
風音が若干冷や汗をかきながら(ちょっと放置しすぎたかなぁ)と思っていると、マッカは続けて風音たちから広場にいる千人の教徒たちに視線を向け声を上げた。
「みなさま、ここに天使様がご光臨なされました。感謝の拍手をぉぉお!」
オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!
一斉に拍手と叫び声が轟いた。それはまるで大地が震撼するかのようであった。一体自分のいない間にカザネ魔法温泉街はどうなってしまったのか。風音は目をグルグルとさせながら、事態のワケの分からなさに困惑していた。