軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第六十一話 調整をしよう

◎ウィンラードの街近辺 岩場

ウィンラードに戻ってきてから二日目。風音は街の近隣の岩場でタツヨシくんの調整を行なっていた。

「必要なのはリストと関節部分、腰と背筋かな。足の親指あたりも」

現状で風音が行なっているのはマッスルクレイのマッスルシミュレーションである。マッスルクレイはタツヨシくんの中でただ動いているわけではなく、部位単位で強度を変化させ筋力のシミュレーションを行なって動かしている。

またマッスルシミュレーションは合成魔獣のキメラ使いやマッスルクレイを使うゴーレム使い、人形遣い用等としてDLCで販売されたクリエイターモードのアドバンスドモードの一つ。あまりにもマニアックな内容に「誰が使うんだろう?」と危ぶむ声もあったが千人単位での大規模戦闘が実装され、実働人数内でのひとり頭の総合戦闘力が求められたことで、召喚、ゴーレム、人形遣いなどの職業が見直され始めていた頃である。結果上位ランカーと呼ばれるプレイヤーの中でパートナーキャラを使うプレイヤーの大概が使用、或いは使用データのコピーを使うこととなった。ちなみにこのシミュレーター自体はフリーの3Dアニメーションサンプリングデータの流用で開発費などはあまりかかっていないらしい。

「何がなにやらさっぱりですわ」

ティアラは風音の横でそれを見ていたが風音のウィンドウは風音以外では弓花にしか見えないしブツブツ呟く風音の言葉は難解な魔術の用語のようで召喚術の一通りの学問は修得しているハズのティアラでもまったく理解できなかった。

今回は実際に稼働しながらの調整のため、ずっと抱きついてるわけにもいかず、ティアラも召喚術の訓練を行なっている。

「よし、タツヨシくん。動けー」

風音が杖を突き立てタツヨシくんを再起動する。ちなみにこのネーミングには弓花が大層渋い顔をしたが無視した。

ガシャコンと立ち上がるタツヨシくん。フォルムが昨日と違い、腕周りが大きくなり、短足で腹が出ていた。いわゆるドワーフ体型でパワー重視を追究した結果こうなったわけで達良くんの体型を意識したものではない。顔には弓花作のタツヨシ似顔絵が描かれており吹き出しで「ブー」と書かれていた。本当に達良くん嫌いだな、弓花は。まあ愛嬌は出たし結構似ていたので風音は良しとした。

「この岩を持つんだよタツヨシくん」

風音の言葉にタツヨシくんは頷き、2メートルはあろう巨岩を持ち、ぐいっと持ち上げた。風音はそれをウィンドウに映るマッスルクレイの負荷領域を確認しながら調整していく。

『すごいものよのぉ』

「ええ」

さきほどから動き出しては恐ろしい性能を発揮するタツヨシくんにティアラと召喚術のレクチャーをしているメフィルスは驚きを隠せない。

『これを兵士として転用できるとすれば恐ろしいことよ。あるいはかのトゥーレ王国はこれを持っているというのか?』

トゥーレ王国とはこの大陸において唯一のゴーレムの技術を残している国家である。この大陸内ではこの国から出てきた一部の人間しかゴーレムを操れない。風音のようにフリーのゴーレム使いというのはかなり希少な存在なのである。

「ですが、親方様もあのマッスルクレイというのは知らなかったのでしょう。あの国がそれを持っているのであれば言いようも変わったとは思いますが」

『かもしれぬがな。まあ、我が国と隣接しているわけでもない。そう気にするほどでもないかもしれぬな』

そう言うメフィルスは風音のタツヨシくんを見ながら「しかし凄いのぉ」と再度感心する。

『名前が我が国の英雄王と同じなのも良いな。体型までそっくりよ』

「わたくしはあまり好きではありませんわ」

ティアラには不評のようだった。理由は叔父にもそっくりだからである。

『しかし、その紅玉獣の指輪も彼がもたらしたものよ。当時のミンティア王女が自身が即位せず異邦人であるタツヨシ王に王位を譲ったこと、それを受けた王への敬意を我らは忘れてはならんぞ』

「それはしかと」

一般的にタツヨシ王は温泉街を作った後に王女に見初められたと伝えられている。そして紅玉獣はタツヨシによってもたらされたとも。しかし、歴史資料によれば紅玉獣そのものはその前の国家解放戦線において使用されている。この矛盾点を歴史家は途中でねじ曲がって伝わったのだろうと口にしているが王家にはソレとは別に口伝としてある事実が未だに伝えられていた。

それは奴隷に落とされた王女と、ただ王女の為だけに生きたひとりの男の物語。王女が奪われた国を取り戻した力のすべてがひとりの男によってもたらされたものであるという事実、奴隷であった過去を自分とともに捨てさせて去った男の真実を忘れさせぬようミンティア王妃が伝えた物語だ。

「結局ミンティア王妃は、自分で旦那様を取り戻したのですわね。その情熱、このわたくしティアラもしかと受け止めていますわ」

『ほどほどにな』

「よーし、走れーーーってうわぁああ」

話す2人の横でタツヨシくんがダッシュで去っていく。

「ちょ、待ってよぉおお」

それを風音が猛スピードで追いかけていく。その一時間後に風音はタツヨシくん(収納版)を持ってティアラたちのもとに戻ってきた。岩に激突してめりこみながらも走っていたらしい。そして風音は休憩と言ってグッタリ倒れた。

その一時間後に風音は再びむっくりと起き上がり、再度調整をして動かしてみる。それを日が沈むまで繰り返し、ナイトーさんの他の行動パターンもそれらの結果を反映させ最適化を行う。翌日もそれを繰り返し、その夕方には風音の満足のいくものに仕上がった。

◎ウィンラードの街 宿屋リカルド 夜

「もうちょっとかかるものと思ってたけど『直感』のおかげかな。ある程度の目安がすんなり決められるんだよね」

「便利ねえ」

夕食時。風音の言葉に弓花がハンバーグを頬張りながらそう返した。

「そういやツヴァーラのことがちょっと話題になってたわよ。ジンロさんが話してた」

「あたしも聞いたわよ。なんでもカザネ、守護獣を素手でぶっ飛ばしたんだって?」

「してないよッ」

風音が悲鳴のような声を上げた。事実無根である。

「じゃあ蹴りか。やっぱりパンチじゃあムリよねえ」

ルイーズは風音の言葉から噂の内容を修正する。それも間違いではあるが。

「あーでももう、ギルドでみんなに伝わってるみたいだから訂正するのも大変かも」

さらにありがたくない情報も教えられた。

「もう今さらだけどさあ」

「ホント、今さらよね」

風音の言葉に弓花が頷く。自分の噂があまりないことはあまり気にならない、というか安堵していた。

「もういいよ。それよりジンライさんは明日辺りとか大丈夫かなあ?」

「問題ないと思うけど? なにかするの?」

その言葉に風音が頷く。

「やっぱりティアラもランクCにしておきたいしコアストーン集めをしようかと思って。なんか指名依頼も来てたみたいだし」

「よろしいんですの?」

「うん。もう私も結構魔力あるしね。かなり狩れると思うんだ」

実際には金儲けの面もある。今はまだ必要ないがタツヨシくんの資金集めも考慮に入れている。実戦での稼働実験の意味もあった。

「了解。まあ明日聞いてみましょ。ダメだったらこのメンツでもなんとかなるっしょ」

「うーん、一緒に行ってもらった方がいいんだけど。確かジンライさんがコンラッドからちょい離れた場所に温泉が湧いてる場所があるっていってたんだよね」

それには元より温泉好きのルイーズと温泉好きに目覚めたティアラが反応する。

「え、あるんですの?」

「ジンライさんが場所を知ってるわけでもないらしいんだけど、あの人あそこらへんの地理も詳しいらしいし、捜すのならいっしょのほうがいいかなーと」

「ま、だったらムリにでも連れてっちゃいましょう」

と、こともなげにルイーズが口にする。しかしその目は本気だった。

翌日、ルイーズから「まさか来ないとか言わないわよね」と脅されたジンライが「いや、別に構わんのだが」と冷や汗をかきながら返事を返す場面があったが、問題なく全員参加が決まる。

そして一行は昼前に街を出て、夜になる頃にはコンラッドについていた。改良されてできたヒッポーくん早馬モードは速かったが乗り心地は多少悪くなり、風音たちは若干お尻が痛くなった。