作品タイトル不明
第六百三十話 昔話をしよう
ひめ蛇子「さっちゃん。カイザーサンダーバードって聞いたことありますかぁヽ(´▽`)/」
殺魅「おや、珍しいものを知っているね」
ひめ蛇子「昔闇の森にいたって聞いてぇ、サイトにも載せようかなって思ったんですけどぉ(#^_^#)」
殺魅「そっか。けどソレは止めておいた方がいいかもしれないね」
ひめ蛇子「(・∀・)?」
殺魅「その魔物はメーカーの方でも少し揉めて削除になったらしいものらしいからね。あまり触れない方が良いんじゃないかな」
ひめ蛇子「えー、もしかして怖い話なんですか?(*゜ロ゜)」
殺魅「怖いというか……そのカイザーサンダーバードってのはサンダーバードの最上位って位置付けの魔物ではあるんだけど、同時にカイザーを冠する四聖鳥の一体でもあるんだ」
ひめ蛇子「シュ……シュゴイ(*゜д゜*)」
殺魅「けど、火の属性の魔物の名前が別の作品のパクリじゃないかで揉めたらしいんだよね」
ひめ蛇子「え(°□°;)」
殺魅「別に相手の会社の方が何か言ってきたわけじゃあないんだけど一部のSNSで荒れちゃってね。名前だけじゃなくて姿形も似てるとか。そりゃあ火の鳥だし同じなのは仕方ないんだけどさ。結局他の四聖鳥もオブジェクトの形は同じだったから三度目のヴァージョンアップでまとめて削除されちゃったんだよね。自主的に」
ひめ蛇子「火の属性の鳥(・∀・)?」
殺魅「うーん。そこらへんはほとんどの人が到達する前に消えちゃったわけだし公式もなかったことにしたんだからほじくり返しちゃダメだよ」
ひめ蛇子「はーい\(^ー^)/」
殺魅「ひめ蛇子ちゃんは素直だねえ」
ひめ蛇子「えへへヾ(≧∇≦)」
殺魅「〜⊂( ̄∇ ̄)⊃」
**********
「というわけだ。俺もネット上での知り合いから聞いただけで詳しくは知らないが、メーカーが削除した闇の森の魔物の一体がカイザーサンダーバードという名だったらしい。炎上しても困るのでサイトには上げていなかったんだがな」
三色ジルベールの事件の翌日、風音から後でカイザーサンダーバードのことを教えて欲しいと言われたオロチは白の館に来ていた。
それからオロチは客室へと案内され、風音や同じプレイヤーである弓花、直樹も交えてゼクシアハーツの知り合いからかつて聞いたカイザーサンダーバードの話を伝えたのである。
「なるほど。つまりここは闇の森のように 自然魔力(マナ) が濃い場所じゃないからカイザーサンダーバードは活動できなかったんだね。そりゃあポッポさんには悪いことをしたなあ」
風音はその話を聞いて頷いていた。カイザーサンダーバードのポッポさんが召喚体として活動を維持できなかった原因がこれで判明したのだ。
(多分、 魔力の川(ナーガライン) の 自然魔力(マナ) を流したのが原因だろうねえ。あれでその力を受けるのが前提の身体に変わっちゃったんだ)
今更ながら己のしたことによってサンダーバードが大きく変質したことを風音は理解した。竜気も与えていた影響は今のところ不明ではあるが、何かしら変化を及ぼしている可能性もあった。
「最初期に削除された魔物か。そりゃ知らないわけだな」
横にいる直樹がそう口にして弓花も頷いている。それからオロチの方が今の話の前に聞いたことを思い出して眉をひそめた。
「しかしカイザーサンダーバードを召喚獣にしたか。また随分とゲームの枠から外れたものだな。この世界をゲームと同じとは思ってはいないが、それでも法則性についてはある程度の信頼を持っていたんだが」
オロチの言葉に風音が肩をすくめる。そこら辺の差違は風音にも分からない部分でもあるので答えようがない。
また、その横で弓花が手を挙げて尋ねる。
「えーと。結局ポッポさんは普通に活動するだけで膨大な魔力が必要とするから使えないってことでいいの?」
その言葉にはオロチが考え込みながら答える。
「いや……一応、闇の森や死の山でならば使用はできると思うが……」
その言葉には風音が苦い顔をする。
「正直、あそこに挑む気はないなぁ。何しろ、オダノブナガみたいなのがウロウロしてるようなところだし」
「姉貴。俺は挑んだことなかったんだけどさ。闇の森や死の山ってそんなに厳しいところなのか?」
直樹の言葉に風音は「超厳しい」と返し、オロチも少し唸りながら口を開いた。なお、死の山とは闇の森の山版であり、大陸北の山岳地帯に多いフィールドであった。
「そうだな。ゲームでは闇の森と死の山攻略にはカンストレベルのパーティが四組か五組で組んで挑むのが基本だがそれでも全滅があり得る難易度だった」
「一応、私のジークやゆっこ姉や、後はオロチさんのひめ蛇子ちゃんクラスなら一パーティか二パーティでも行けるんだけど……敵を倒すのに時間がかかるとさらに他の魔物もやってきてボスラッシュみたいになるから、仲間もだんだん力尽きてどうにもならなくなるんだよねえ」
「とはいえ、今の風音たちならば入り口付近でヒットアンドアウェイをすればなんとかは……いや、それでも命がけか」
風音とオロチの言葉に弓花と直樹が「うわぁ」という顔をするが、風音は構わず話を続ける。
「つっても行けるメンバーなら私、弓花、ジンライさんぐらいだよ。直樹たちじゃあ確実に死ぬし。そんで私らも多分保って五戦行くかどうかって程度だから。ジンライさんはともかく私も弓花も全力戦闘だと継戦能力がそれほど高いわけでもないし、キング・オダノブナガクラスが出たなら一発でアウトって感じ。まあ無理だよね。はい」
そう締めた風音に、弓花が尋ねる。闇の森の怖さは十分に分かったが、当初の弓花の問いの答えがまだ確定していない。
「えーと、それじゃあカイザーサンダーバードはやっぱり使えないってこと?」
「いや、魔力があればいいんだから、なんとかは……なるかも」
少し考え込みながら風音がそう返した。何か考えがあるようである。
「うん。多分いけると思う。これでようやくポッポさんの目処は立ったかな」
ひとり納得した風音がオロチの方を向いた。
「オロチさんもわざわざご足労してもらってありがとうね。なんとかなりそうな気がしてきた」
「いや、同じプレイヤーのよしみということもある。それに 金翅鳥(こんじちょう) 神殿の攻略を協力しあう間柄でもあるのだから、気にするな」
そう言うオロチに風音が目を輝かせて身を乗り出した。
「えーと、じゃあ同じプレイヤーのよしみでちょっと腕触って良いですか? その頬摺りするだけでも構わないので」
風音はチャンスを逃さない子であった。だが弓花が肘でつついてそれを制止する。
「止めときなさいっての。直樹が酷い顔で見てるから」
ギリギリと歯軋りの音が横から聞こえ始めていて、オロチが引いていた。風音は客の前で直樹を咎めるわけにもいかず「チッ」と舌打ちをして筋肉隆々の腕から視線を逸らした。別の機会を伺おうとひとまずは諦めたのである。
「むう。仕方がないね。ところでオロチさんにはお礼の意味も込めてこれを進呈したいんだけど、受け取ってもらえるかな?」
風音はそう言って銀色の竜の顔を模した銀のネックレスをテーブルの上に置いた。
「これは?」
オロチがそのネックレスを見る。竜の顔が妙にリアルだが、これはカザネドラゴンの頭部をゴーレムメーカーで再現させたものである。サイズも親指ふたつ分ほどもあり、それなりに大きいものだった。
「これは 神聖物質(ホーリークレイ) でできた浄化のネックレス。昨日にサンプル用を親方に頼んで造ってもらったもののひとつだけどオロチさんに使ってもらいたいんだよね」
事情が飲み込めないオロチが首を傾げるが、風音はそのまま説明を続けた。
「昨日の騒動の元だったブラックポーションを無効化するもので効果も実証済み。首にかければ食事に混ざったブラックポーションや呪術のかかった物質の効果を浄化できるし、このサイズだとご飯の上にかざしただけでも浄化ができるよ」
そこまで言われればオロチとしても目の前のペンダントの価値が分かった。
「しかしこれは相当に高いものだろう?」
そのオロチの驚きはもっともなものである。 神聖物質(ホーリークレイ) は風音のスキル『偽銀生成』で造れるから用意できるのであって、ゼクシアハーツでも 神聖物質(ホーリークレイ) を持っているコボルトの乱獲が発生してコボルト保護の会が誕生したぐらいのレア素材だったのだ。しかし風音もオロチの驚きは承知の上で話を続ける。
「まあこっちの打算もあるから気にしないで使ってよ。レイブンソウルはこの街でも上位パーティでしょ。それに 制約の黄金鎖(ギアス・ゴルディチェーン) を持ってるオロチさんが敵に操られるとシャレにならないから早急に対応しておいてもらいたいってのもあるんだよね」
実際に風音の言う通りレイブンソウルのメンバーが操られて、仮に前日の戦いに参加していたとすればジンライひとりに任せることはできなかった。何しろオロチは一対一ならばほぼ無敵とも言えるアーティファクトを持っている。敵に回すのだけは絶対に避けたい相手であった。そして、その風音の考えについてはオロチとしても納得はできた。
「なるほどな。昨日の騒動はミンシアナ王国の重要なものを狙ったものだったとのことだしな。確かに俺自身が……というよりは 制約の黄金鎖(ギアス・ゴルディチェーン) が危険であるというのはそうかもしれない」
オロチも今回の件での正確な情報は得られてはいない。しかし情報屋としての顔も持つオロチはぼんやりとではあるが事件の輪郭だけは掴んでいた。
「そういうこと。パーティの仲間の分まではちょっと回せないけど、優先的には渡せるようには話しておくつもりだよ」
その言葉にはオロチも頷き、目の前のネックレスを受け取り、仲間の分については適正価格で購入することを告げた。
竜の頭部が象られた『浄化のネックレス』。それはこうして上位ランクパーティから次第に街全体へと浸透していくこととなるのであった。