軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第六百二十三話 アレを握らせよう

大翼の剣リーンが七色の魔力光を帯びながら振るわれる。だが目の前の鎧を斬り裂いても途端にそれは金色の霧となって、すぐさま元の形へと戻ってしまう。それを見ながら英霊ジークは眉をひそめて舌打ちをした。

『まったく恐ろしい太刀筋だ』

「涼しげな顔をして良く言う。有り余る魔力をすべて再生に向けているか貴様は」

英霊ジークの苦々しげな言葉に金のジルベールが笑う。英霊ジークと金のジルベールの戦いは先ほどからこの繰り返しであった。

どれだけ切り刻んでも金の鎧が修復されるのだ。ここまで延々と攻撃を繰り返しているが、もちろん英霊ジークも馬鹿のひとつ覚えというわけではなく、様々な技を習得している。だが、実のところ英霊ジークの斬撃は中途半端に技を放つよりも一撃一撃の威力が高く、結果として溜めなどを必要とする大技を放つよりも連続で斬りつける方がトータルダメージが大きかった。今も小技を織り交ぜながらのコンボを繰り返している状況である。地味で玄人好みではあるがそれが英霊ジークの戦い方である。

そのまま削りきるか、相手が崩れ出すのを見計らって攻め込むか。この英霊は時間さえかければあらゆる敵を踏破しうる力を持っている。しかし、目の前の相手のように斬ったところからオートで完全治癒魔術がかけ続けてくるような相手とは相性が悪い。

体力を削りきるよりも回復速度の方が上で一撃で削りきる手段がない以上、今のジークに連続回復を可能としている膨大な魔力がひたすらに削っていくしかなかった。

「しかも焦りもないと来ている。面倒なことこの上ない」

『消極的にならざるを得ないのは残念だがな。しかし実力差を考えればやむを得ない』

金のジルベールが悪びれずにそう返す。一旦崩してしまえばゼクシア・レイを連発して仕留めることもできようが、目の前の金の鎧はひたすらに防御と回避に終始していてそれもできない。

それはまさしく英霊ジークの火力不足という弱点を露呈する結果となっているが、金のジルベールの英霊ジークを足止めするという目的はそれで達している。

何しろ英霊の出現時間は十分。そこまで耐え切れれば金のジルベールの勝ちだ。

「あー苦戦してるねえ」

そんな両者に、横から言葉がかけられる。

「なんだ、笑いにきたのか」

「あっはは」

剣を振りながら胡乱な目を向ける英霊ジークの視線の先には、のんびりと歩いてくるぽっこりお腹の風音がいた。

「あー最強の戦士というキャッチフレーズとは一体なんだったんだろうね」

風音に呟きに英霊ジークの額に青筋が浮かぶ。

「元はといえば汝の選択であろう。そもそも短期決戦用の装備でいればこんなことには」

苛立たしげな英霊ジークの言葉に風音が肩をすくめる。英霊ジークの中身も風音なのだから、それはつまり自分の選択である。責任転嫁も甚だしいと風音本人は思ったが、それもまたややこしい話だった。

ともあれ現時点でのジークの装備は通常移動用のものであり、十分制限に合わせた装備ではないのも事実。そもそも周回プレイヤーにとって英霊召喚の指輪など本来ただのオマケでしかない。

初周で手に入らないユニークな能力を持つアーティファクトならともかく、喚び出すのに十日制限があり使用時間も十分という使い辛すぎる仕様な上に、そもそも高レベルの召喚キャラなどを喚ぶことを前提の俺TUEEE周回プレイなんぞしても普通は飽きるのだ。

「いやージークって基本タンクだし、普通に戦ってれば勝てるんだけどねえ。時間制限付きの英霊としてはチョイ残念ってだけで」

「残念ではない」

そのやり取りに金のジルベールが苦笑しながら呟く。

『一体どういう関係なんだ?』

「自己嫌悪?」

『意味が違う気がするが』

首を傾げながらの風音の返しに金のジルベールが呆れた声で返す。とはいえ、この場に風音が現れたという事は金のジルベールにとっては予想外のことだった。それは風音達が対峙していた青のジルベールが倒されたという事なのだから。

「風音、この鎧は内包した魔力量を再生能力に注ぎ込み我を足止めするために用意されたモノらしい」

「うん。見てれば分かる。やっぱり自力では勝てそうもない?」

風音の問いに英霊ジークはやはり手を休めずに剣を振りながら「さてな」と呟いた。

「難しいが……時間制限ギリギリと言うところだろう」

その言葉に金のジルベールが内心ではギクリとする。保つか否かが微妙なのは金のジルベールも感じていたところだ。だがそれでも金のジルベールの『目的』は達成できる。

「嫌らしいことに剣技もそこそこで、隙らしい隙もない」

「ソルダード流王剣術だねえ。王家の剣らしく護りを優先させた剣術らしいよ」

『そなた、どこでそれを?』

その風音の言葉には金のジルベールが驚きの声を上げるが、風音はそれに答えない。それよりもじっと金のジルベールを観察しながら呟いた。

「そんでこっちもか。どうやって悪魔はこんな強力なリビングアーマーを用意できたんだろうね」

『なんだと?』

その何もかも見通すかのような視線と言葉に金のジルベールの動きが止まる。

「さっきの青いのはジルベールを名乗ってたけど、アレもあんたもウーミンの街にいたのとは別人だよね」

『何を言うか。 某(それがし) は』

「ま、本物でも偽物でも関係ないけどね」

反論しようとする金のジルベールの言葉を遮るように風音はそう告げる。それから風音は英霊ジークを見る。

「そんじゃあジーク、これが本当の実戦第一弾ってことで」

「承知した」

風音の言葉に英霊ジークが頷き、一気に風音のいるところまで地面を蹴って跳んだ。

『待てッ』

「はい。駄目だよ。あんたはここでストップ!」

風音はそう言ってアイテムボックスから、来る途中に拾った六本のアダマンチウムソードを取り出すとそのままスキル『ソードレイン』で金のジルベールに放った。

『その程度ッ』

それを金のジルベールは夜帝の剣で払う。金のジルベールは英霊ジークと打ち合えるほどの腕前ではあるのだ。たかだか六本の『ソードレイン』程度は、当然撃ち落とすことも容易い。だが、風音にとって重要だったのは打ち落とさせる時間と、アダマンチウムソードと共にアイテムボックスから落とした武器にあった。

『クッ、なんだそれは!?』

そして金のジルベールは地面に落ちた銀色の質素な剣を見た。途端に眩暈がしたのだ。底なしの井戸を見ているような錯覚を金のジルベールはその刃から感じた。

「そんじゃあ、ジーク。受け取って」

「応ッ」

そして強い危機感が金のジルベールを支配する。

『それを取らせるわけにはッ』

使われればすべてが終わるような予感がした。だから金のジルベールは特攻する。迫るアダマンチウムソードが突き刺さったが完全に無視し、風音にも見向きもせずに剣を取ろうとする英霊ジークへと走る。

「スキル・ゴーレムメーカー・ヌリカベくん」

そこに風音がゴーレムメーカーで土の壁を造る。スキルレベルが4まで上がっているその壁は非常に強固でありそう易々とは破壊はできない。

『無駄だぁああ!』

だが金のジルベールは黄金の肩を前に出して破壊しようと飛び込んだ。その速度とパワーは確かにヌリカベくんを破壊するだけの威力を持っていた。だが、単純な力だけではこの場を抜けることはできない。同時に風音がもうひとつスキルを発動させたのだ。

「スキル・弾力」

そのスキルの発動により土の壁が突然ブルルンと震えた。同時に金のジルベールが思いっきり弾かれて元いた場所へと吹き飛んだ。

『なっ!?』

宙を舞っている自分に愕然としながら、金のジルベールは声を上げる。空中でコンニャクのようにブルンブルンと震える土壁を見る。そのスキルのことを当然金のジルベールは知らなかった。

それは風音がダンジョンの魔物バストァープリンを倒して得たもの。指定したモノをゴムのようにしてしまうスキル『弾力』によりヌリカベくんはまさしく弾力的な壁となり、迂闊にも突撃した金のジルベールを見事に弾き飛ばしたのだ。

『馬鹿なッ!?』

金のジルベールが吹き飛びながら叫んでいるがもう遅い。英霊ジークはすでに滅びの神剣『アースブレイカー』を握っていた。その途端に剣へと英霊ジークの魔力と体力を合わせた生命力が流れ始めるのを金のジルベールも目撃する。

『これは……なんという力の奔流』

金のジルベールが驚愕する。

しかしだ。実はこのままでは英霊ジークはその剣を使いこなせない。英霊ジークが『アースブレイカー』を使用するにはもう一段階の準備が必要だ。そしてジークと、期待に満ちた目をした風音が同時に力強く叫んだ。

「「 着脱(キャストオフ) !」」