作品タイトル不明
第六百二十話 究極の弓花で挑もう
ライルがウォーレンボアと対峙している一方で、土塊の爆発を離れた場所で戦う英霊ジークも感じていた。
そもそもが英霊ジークの中身は風音であり、その知識も呼び出された段階までのものは共有している。なので起きた爆発が、風音のマオウバズーカ・ 天球爆殺(ワールドエクスプロージョン) の一撃が大地を抉った結果だろうとすぐさま思い至り、すぐさま己の戦いに集中し直す。
そう、彼の目の前には敵がいた。金色の鎧を纏った悪魔ジルベールが夜帝の剣を振るって英霊ジークと打ち合い続けていたのだ。
『ぬぅうう、さすがにやるっ』
「言うだけのことはあるが、だがッ!」
英霊ジークがとっさに金のジルベールの振り下ろした夜帝の剣を天鏡の大盾で受け、そして大翼の剣リーンを振るって鎧の胴を一気に切り裂いた。
「むっ」
『ははははは、強い。そなたは強いな』
だが斬ったはずの英霊ジークの顔が険しくなる。切り裂かれた鎧が目の前で瞬く間に修復していくのを見たのだ。
『ぬぉぉおおおっ』
さらに金のジルベールは斬られたことをまるで気にしてもいない素振りで英霊ジークへと再び夜帝の剣で斬りかかる。
「ふんっ、再生能力か」
その剣撃を大翼の剣で受け流しながら英霊ジークが呟いた。
『左様。プレイヤーの召喚する英霊は十分限りという限定な時間しか出現はできない。我が鎧はお前を制限時間まで留めるために用意されたものだ』
「なるほど。自ら飛び込んだ相手が、我に対抗するために用意された者だったとはな」
その英霊ジークの言葉に金のジルベールが『ふっ』と笑った。
『いいや、違うぞ』
その言葉と同時のどこかしらから冷気が漂ってくる。それは英霊ジークの背後、今は風音たちが戦っている方角からだった。
『『アレ』も元々はそなたを想定したものだ』
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『むぅっ!?』
マオウバズーカ・ 天球爆殺(ワールドエクスプロージョン) 。風音が繰り出した大技は見事に青のジルベールへと届いた……はずだった。
『これ、どういう事よ?』
しかし風音の顔は晴れない。風音のはなった一撃は青い鎧に直撃して大地へとめり込ませ、そのあまりの威力に巨大なクレーターが生み出されたほどである。
(感触がおかしい? 何かがせり上がってくるような、これは?)
しかし未だクレーターの中心にいる風音は違和感を感じていた。何かがおかしいと、足下からの響く振動を『直感』が危険だと訴えていた。ゾワッと風音の全身が総毛立った。
『こりゃあ間に合わないか』
続けての風音の行動は迅速だった。ロクテンくんの中で風音は緊急脱出ボタンを押したのだ。それは戦闘時に何かあったときのための備え。ロボットオーナーのたしなみである。なお自爆ボタンはない。ソレを造る勇気が風音にはなかった。或いはつい押してしまいそうな己の 業(カルマ) を把握していたのかもしれない。
ともあれボタンが押された途端にロクテンくんの首がポンッと外れ、続けて体操座りした風音がスッポーンと上空へと弾き出された。有名な黒い髭のおじさんのように風音は宙を舞った。
(来たかッ)
その風音が脱出したと同時に地面からバキバキと氷の塊が飛び出してきたのである。それは一瞬でロクテンくんの身体を覆い尽くす。ロクテンくんに装備されている紅蓮のマントの炎が発動したようだが構わず凍らされたようだった。
そして、その氷塊から無数の手が飛び出し、宙を舞う風音を狙って迫ってきた。
「ううぅぅりゃあああああ!」
風音はロクテンくんとの同期が切れて手足が動くようになったのを感じると、すぐさま迫る氷の手たちに『キリングレッグ』で纏めて粉砕し、さらにやってくる氷の手たちには『マテリアルシールド』や『ワイヤーカッター』、『炎球』などのスキルを次々と放って壊しながら、黄金の翼をはためかせて上空へと逃れていく。
(こいつ、私のお腹の卵を狙ってる!?)
風音は迫る氷の手の動きを見ながら目を細める。今の動きが何を狙ったものであるのかを風音は正しく理解する。だが、その認識も一瞬のこと。氷の手を振り切った風音ではあったが、続く状況には目を丸くせざるを得なかった。
「うわぁ、でっけえ」
風音が空から見下ろしている前で、クレーターの中心が割れてそこから10メートルはある巨大な氷の巨人が現れたのだ。それは青のジルベールをそのまま氷像にしたような姿であった。
『ぬぅぅううおぉぉおおおおおっ!!』
氷の巨人が叫ぶとその巨体の回りに青い光球が無数に発生し、次の瞬間には先ほどの冷凍光線がすべての光球から一斉に周囲に放たれた。
『ああもう、いきなり過ぎるッ』
突然の攻撃だったが野生の勘で弓花は巧みに避け続ける。また上空の風音は『暴風の加護』の力で冷凍光線を防ぎ続けていた。そして光線が止み、周囲が一面氷漬けとなったが風音と弓花はダメージを喰らった様子もなくその場に立っていた。
『やはり効かぬか』
「ははははは」
青のジルベールの言葉に風音が若干冷や汗混じりに笑ってそして返す。正確に言えば『暴風の加護』は逸らすスキルなので回避率は100パーセントではなく、また喰らい過ぎればオーバーフローを起こして一時消滅もするものなのでギリギリのラインではあった。もっとも風音も『暴風の加護』以外にもスキル『イージスシールド』などの防御スキルもあるので対処のしようはあるが、早朝訓練から始まった闘いにいささか魔力の消費が激しい。
『まったくやってくれる。今のは危なかったぞ。地下水道から水を汲み上げるのが遅れていれば手遅れだったな』
巨大な氷の巨人からそんな言葉が漏れる。その巨人の胸部の中心にはほぼ半壊している青のジルベールが入っていた。それが全身へと黒い血管のようなものを張り巡らせて、氷の巨体を操作しているのが風音には分かった。そして氷の巨人は両手の先から氷の剣を発生させ、双剣の構えでその場で仁王立ちをする。
「パワーアップに巨大化。お約束過ぎるんじゃないかなー」
風音が呆れて言うが状況は変わらない。そこに弓花が声をかける。
『カザネ。ロクテンくんは?』
「凍っちった」
風音が地面へと着地しながら即答する。すでに氷の巨人の一部としてロクテンくんはその巨体の中に埋まっていた。タツヨシくんケイローンのようにロックされているので操られることはないはずだが、再度風音が乗り込めないように完全に封じられていたのだ。
「あれは私以外には使えないにしても……しまったねえ」
風音が少し冷や汗をかきながら言う。
『風音、いっそ卵を離して竜体化で』
弓花の言葉に風音は首を横に振る。すでに連中が卵を狙っているのは先ほどの氷の手の動きから風音の中では確定している。
(サンダーバードの卵ってのはクロフェさんとイリアさん、仲間しか知らないはず。ってーと、狙いはやっぱりユッコネエとクロフェさんの子供の繭って事だよね)
それをどう使うつもりなのかは分からないが、悪魔たちがこうして強襲を仕掛けてきただけの価値があるはずであり、風音の行動が囮として成功しているとすれば出来うる限り、その状態を崩したくはない。
「連中がこれを狙ってる以上は隙を見せたくないんだよねえ」
風音はハガスの心臓の件を思い出しながらそう口にした。
「卵を奪われれば目的達成でそのまま逃げられるかもしれない。偽物だってバレてユッコネエたちの繭を狙われるのも困るよ」
ボソボソと弓花に言いながら風音はどうするかと悩む。だが目の前の巨人がにじり寄ってくるのを見ながら、状況が予断を許さないことを理解し奥の手を使うことを決断した。
「しゃーない。こうなりゃ弓花にオンブさせてもらうよ」
『は?』
その唐突な言葉に弓花が声をあげるのと同時に風音がスキル『スパイダーウェブ』を発生させる。そして蜘蛛の糸を器用に使って風音は弓花に背中合わせで張り付いたのだ。それには弓花が慌てる。
『ちょ、何をするのよ』
「よーし、合体完了。そんでもって『友情タッグ』パワーアップで援護するからよろしく」
そう言われて弓花が風音の行動の意味に気付いた。風音を通じて自身の内側から力が湧いてくるのが分かったのだ。
『あぁ、力が湧き上がってくる』
ギチギチと弓花が牙を歯軋りさせて悶えていく。そして完全神狼化した弓花の巨体の筋肉がさらに盛り上がり、四メートルを超える化け物のような狼へと変わっていった。
『これやると……ちと、キツいんだけどなぁ』
「ガンバ弓花ッ」
そう言い合うふたりに対し、青のジルベールが飛びかかって氷の双剣を一気に振り下ろした。
『ウォォオオオッ』
『あーもう、忙しい』
そして次の瞬間には土塊が飛び、氷の巨大剣に振り下ろされた地面が抉れる。が、そこに風音と弓花の姿はなかった。
『相談は済んだか。鬼殺し姫に 血塗れの狂戦士(ブラッディベルセルク) ?』
氷の巨人は抉った地面より先に視線を向けながら言葉を発する。視線の先にいるのは子供を背負い、槍を構えた巨大な銀狼だった。
『それ、剣を下ろす前に聞いてくれない?』
「女の子同士の会話に割り込む男子ってデリカシーに欠けるよねえ」
そう言い合う風音と弓花に氷の巨人が笑う。
『余裕があって何より。では殺り合おう』
そして氷の巨人と神狼の槍使いが同時に駆け出した。