作品タイトル不明
第六百十八話 猛反撃に出よう
◎ミンシアナ王国 王城デルグーラ 女王の寝室
パリンと音がしたのだ。
「あら、これってイリアが贈ってくれたカップだったかしら?」
続く会議も終わり、ひと休みに自身の寝室に戻ったゆっこ姉は己の私物を置いた棚の上のものがひび割れたのを見て首を傾げていた。
それは以前にイリアがゆっこ姉に贈った湯飲みだった。それはお湯を入れると女性の服が消えて裸が見えるという下品極まりないものであったが、ジャパネスでは流行のものだとイリアが真剣に話していて、それにはゆっこ姉も微妙な顔をしながらひとまずはもらっていたのである。
「あの子のくれたものがこんな真っ二つに……これは」
ゆっこ姉は考える。これはどういうことだろうかと。
「まあ、捨てる口実にはちょうど良いわね」
そう言ってゆっこ姉はゴミ箱へとそれをポイッと捨てた。さすがにこれを置いておくのはどうか……と今までも思っていたのだ。しかし、ゆっこ姉にしてみてもこの世界の住人では唯一の友人とも言えるイリアからの贈り物である。
できる限りは考慮してひとまず置いておいたのだが、やはりこんなしょーもないものを置いておくのには抵抗があったのだろう。
ゆっこ姉はどこか軽やかな気分になって自室を出て、続いての公務へと向かっていった。
それはちょうど、風音たちが悪魔と戦いを開始したときのことだった。
◎ミンシアナ王国 ゴルディオスの街 近隣街道
『厄介な問題ばかり起こしてこっちは胃がキリキリしてるっすよー。ぶっ殺してやるっすーーー!』
上空より殺意の篭もった東洋竜の声が響き渡る。そこには怒りが込められていた。良い歳して仕事ばかりの人生に 若い男(直樹) をストーキングする日々を送るイリアが吠えたのだ。
『風音、イリアさんがなんか怒ってる!?』
弓花が狼の顔で眉をひそめながら風音を見る。
『イリアさん……操られてあんなことを。でもゆっこ姉には報告しておくね。私、イリアさんの素行調査をゆっこ姉に依頼されてるし』
『血も涙もないこんの畜生がぁあああ!!』
風音の発言を受けてイリアドラゴンが怒りに任せて黒い炎を吐き出した。それは夜帝の剣によって属性を変えられ生み出された暗黒の炎。しかし風音はロクテンくんの六本の腕を広げて口を開いた。
『残念。こんなもんじゃあ今の私には効かないんだよねッ!』
そう口にする風音の周囲を魔力の風が吹き荒れる。そして迫る黒い炎が一斉に吹き飛ばされた。それは風音たちを苦しめたベヒモスの『暴風の加護』の力。それはドラゴンの炎ですら防御する恐るべき性能を持っていた。
『ちぃ、なんたるヤツ。おとなしく殺られてろっす。この胸なしがッ』
そう叫ぶイリアに風音の額に青筋が浮かんだ。操られているとはいえ、言ってはいけないこともある。それをイリアは理解していなかった。
『こんの、言ったな。狂い鬼ぶっ飛ばして!』
「グガァアアアッ!」
そして風音の意志に従って 僕(しもべ) である狂い鬼が空中に顕現する。
『アーマード化してぶっ飛ばしちゃえッ!』
続けての風音の指示に従い狂い鬼の身体がモリモリと膨れ上がり、五メートルの堅い分厚い鎧のような姿へと変わっていく。その姿はもはやロボットのようであった。
そのまま狂い鬼は翼を広げてイリアドラゴンへと激突し、 爆発反応装甲(リアクティブアーマー) を接触させたことにより空中で大爆発が起きる。イリアドラゴンが『っすーーー』と叫びながら吹き飛ばされ、白き翼のアーマード狂い鬼がそれを追いかけていく。
『クロマル、シロ、キバ。アンタたちもあのボケボケ忍者の相手をお願い』
『なんて言ったっすか。こんの駄犬がぁああ』
イリアが飛ばされながら吠えるが、
『あ、かなり痛めつけといていいから』
ニコリと笑う弓花(巨大オオカミ)の言葉に従って 三つ首の銀狼(ホーリーケロベロス) が出現し、アーマード狂い鬼と共に追撃を仕掛けていった。イリアの命運はいまや風前の灯火であったのだ。
『これで 某(それがし) たちとは二対二というわけか!』
『であるなぁあッ!』
そしてイリアドラゴンから飛び降りた金のジルベールが空から、正面からはアオのジルベールが駆け出して迫ってきている。その言葉を風音は笑う。
『えー、悪いけどさー』
それからガコンとロクテンくんの顔の仮面が外れて風音の右腕が外へと出た。
『まさか!?』
『ヤツを出すか?』
青と金のジルベールがそれぞれ声を上げる。当然、風音が出すであろう存在を彼らも知っている。それは英霊。周回プレイヤーが呼び出せる恐るべき力を秘めた戦士。
『三対二でいかせてもらうよ。出てジークッ!』
風音の声と共にその指から光が発せられ、その中から英霊ジークが飛び出してくる。それは豪奢な鎧を纏い、白銀の長髪を靡かせた恐ろしく顔立ちの整ったカンストレベルの最強戦士。
風音が対悪魔用として温存していた切り札が、その役割を果たすべく金のジルベールへと特攻する。
『英霊ジークか。できる男だと聞いているぞ!』
「さあて、久方ぶりの戦場だ。楽しませてもらおうかッ!!」
空中で最強の戦士の剣と悪魔の戦士の剣がぶつかり合った。
『ぬぅぅうっ!?』
「はははははっ、悪魔風情が我に勝てると思うなよッ!」
英霊ジークが気合いと共に一閃し、金色の鎧が吹き飛ばされる。
さらには地上においては青のジルベールへと完全神狼化した弓花が飛びかかった。
『うぉっりゃあぁあ!』
『なるほど。強いが……まだ、 某(それがし) には届かぬな』
弓花が聖者の槍ムータンを用いて放った槍術『風神槍』。銀色の神聖力によって生み出された風属性の範囲攻撃が、青のジルベールの持つ青く輝く大剣によって遮られていた。それどころか攻撃を仕掛けた側の弓花がわずかばかりではあるが圧されている。
『ウォオンッ!』
『無駄だ。遠吠えなど 某(それがし) には通用せん』
弓花が犬歯を剥き出しにして吠えるが、青のジルベールはまったく微動だにしない。そこには地力の違いが如実に現れていた。それを理解し、弓花が唸りながら口を開く。
『クゥッ、確かに力比べじゃあアンタの方が上だろうけどさ』
もっとも今は一対一の勝負ではないのだ。彼女には信頼できる相棒がいる。
『下がって。弓花!』
『了解っ!』
その相棒の指示を聞いて、弓花が一気に後ろへと飛び下がった。対して青のジルベールが物足りなさげに弓花を見た。
『力比べはお終……いか?』
青のジルベールの言葉が途中で掠れた。弓花との力比べに勝った……などという気分は一瞬で吹き飛んだ。なぜならば青のジルベールは見たのだ。弓花の後ろに広がる、空一面に翼のように浮かぶ剣の群れを。それは百本のアダマンチウムソードたち。さらには黄金翼をはためかせる六本腕の黄金巨人、神託により魔王アスラ・カザネリアンと告げられた風音の戦闘形態がその中心にはいた。
『むぅ』
それにはさすがの青のジルベールも焦りを覚える。青のジルベールは金のジルベールから風音が十本の剣を操っているとは聞いていた。だが、ここまでの規模で操れるとは聞かされてもいないし推測もできていなかった。しかし、新たなる魔王は容赦なく死の宣告を放つ。
『貫けスキル・ソードレイン!』
そして一斉に剣たちが放たれ、百の刃が青のジルベール一点へと突撃していった。
『オォォオオオオオオオオオオッ!』
その事態に青のジルベールは迷わず己の手札を切った。大剣をふたつに分裂させ、本来の双剣の構えで以て降り注ぐ剣を弾き飛ばしていく。その斬撃の嵐に凄まじい量の火花が散り続ける。
『貫けぇええっ!』
『高々、剣の雨程度がぁあああッ!!』
風音と青のジルベールの叫びが重なる。風音とて今までを漫然として過ごしてきたわけではない。ソードレインの精度を上げ、ただ直線に飛ばすのではなく、変則的な軌道で操作し、嫌らしいまでに様々な角度からアダマンチウムソードを放つように訓練を続けてきていた。
しかし風音が苦心し操作する剣の雨を、青のジルベールの剣撃は凌駕する。迫るすべての剣を打ち払い、或いはぶつけ合って弾き飛ばし、逸らしてかわしていく。
『クッ、まだ来るかぁあッ!?』
そして百本すべてを防ぎきった青のジルベールが続けて叫んだ。その実力は確かに圧巻ではあったが、彼女らの攻撃のすべてを乗り切ったわけではなかった。彼の相手はひとりではないのだ。
『イイケエエエエエエエッ!』
狼の叫びが響き渡り、続けてひときわ激しい金属音と共にアダマンチウム製の槍が放電しながらその場で宙を舞った。
『チィッ、なんということをッ』
青のジルベールが舌打ちをする。それは離れた位置から放たれた弓花の『雷神槍』であり、青のジルベールはそれを弾き飛ばせはしたが、同時に双剣の片方も破壊されていた。百本のアダマンチウムソードの猛攻の後の不意の一撃にさしもの名剣も耐えきれなかったのだ。
『しかし、これで』
青のジルベールはここまでの攻撃をすべて防ぎきった。それは恐るべき実力だった。だがその青のジルベールに対して、さらに上空から迫るものがあった。
『どれだけの手札を持っているというのだ。貴様らはぁああッ!?』
青のジルベールが叫び、上空から迫る巨大な炎の竜巻を睨みつける。それはカザネバズーカのロクテンくん阿修羅王モード版。
『マオウバズーカ・ 天球爆殺(ワールドエクスプロージョン) ッ!』
魔王アスラ・カザネリアン最大火力の超必殺技が一直線に青のジルベールへと突撃し、そして大地を震撼させた。