軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第五十九話 親方に会おう

◎ウィンラードの街 宿屋リカルド 夜

「ふう、戻ってきたぁ」

ポスンっと風音がベッドに寝転がる。

「にゃあ」

その横には巨大な猫がくつろいでいる。

「うふふふふ」

その猫に抱きついて幸せそうな顔をしている弓花がいた。寝て回復できるくらいに魔力が余っていたので弓花のリクエストでエルダーキャットのユッコネエを風音が召喚したのである。ちなみにオルドロックの洞窟では汚い茶色だった毛色が今は白と黒の混合の長毛で、外見上はサイベリアンに近くなっている。ただしデカい。ベッドに丸ごと寝そべってギリギリという感じである。戦闘を行わなければそこそこ長時間維持し続けられるので、風音は疲れたら帰っていいよーと指示してある。返事は「にゃぉん」であった。

「うう、ちょっと怖いですわね」

「そんなことないってー。ふかふかだよー」

弓花がダメな人になっている。ちなみにそのフカフカに思いっきり槍をぶっ刺したのもまた弓花である。戦闘中は考えないようにしてたらしい。

ルイーズは特に気にした様子はなかったが試しに寄っ掛かってみたらふわふわで気持ちよかったのでちょっとご満悦になっていた。

『ふむ。そういえばカルティの召喚獣はこんな柔らかいものではなかったな』

「そうねえ。あのこのはトカゲだったものねえ」

相変わらずメフィルスの定位置はルイーズの腕の中である。まあ、愛人関係なので別に良いのだが、見た目はグリフォンヌイグルミを抱きしめてるお姉さんである。なおカルティとはこの2人とジンライと一緒にパーティを組んでいた斥候の女性のこと。彼女も風音同様にチャイルドストーンによる召喚を行えたがそれはスライグリードと呼ばれるトカゲであった。

「明日は久しぶりに親方に会えるなあ」

「親方ね。あたしもジョーンズに会うのは久しぶりねえ」

「知り合いなんだっけ?」

ルイーズは「まあね」と頷く。

『余も会ったことはある。なかなかに気概の良い人物だったと記憶している』

「えへへ」

メフィルスの言葉に風音が微笑む。知り合いがほめられるのは嬉しいものである。

ちなみにジンライは道場に戻っているのでここにはいない。元々この街に居を構えていたので宿屋に泊まる必要がなかった。

◎ウィンラードの街 バトロア工房 朝

「たのもー」

風音が受付に対しそう口にした。

「あらカザネちゃんじゃない、お久しぶり。親方に会いに来たの?」

すでに何度か会話のある受付嬢がそう応対する。さすがに風音も顔見知りではない人間にまであんなざっくばらんな挨拶はしない。

「うん。今いるかな?」

「問題ないと思うわよ。応接室に通すからちょっと待っててね」

そう言われて風音たちは奥にある応接室にまで通される。途中、

『なかなか儲かってるようだの』

とメフィルスが口にして

「この周辺の街の武器防具の多くはここで造ったり卸されていたりするからねえ」

とルイーズが返す。

「はぁ、そうなんですの」

とはティアラ。よくは分かっていないようだった。

要するに武器の製造と流通をこのバトロア工房は行なっているのだ。鍛冶師同士のホットラインを設け、戦争があればまとめて購入し卸すし、不足している場所に武器を流し、必要ならば買い取る。それがゼニス商会の武器部門バトロア工房の実態である。

「おう、風音。久しぶりじゃねえか」

扉を開けて応接室に入ってきた親方に風音は「おひさー」と返す。それを親方はうんうんと頷いて笑う。

「元気そうで何より。なんでもすげえ美人を連れてきたってえ話じゃねえか」

そう言って親方は風音と一緒の客人を見る。

「うん。親方も知ってる人だよ」

風音の言葉にあわせてルイーズがテヘッと親方に微笑んだ。

「来ちゃった!」

「は?」

対照として親方の顔が固まる。

「あの、ルイーズ様?」

「うん、来ちゃった!」

呆然とする親方を見ながらルイーズは「来ちゃった」と繰り返した。

「来ちゃいましたか。風音……おめぇ、この人を連れてきたのか?」

「今一緒にパーティ組んでるんだ」

と、風音が言う。親方は「そっか。そりゃあ良かったなあ」と諦めたような声で返答した。

「ジョーンズくん、冷たいー」

「どの口が言いますかね。まったく俺が青い頃から変わらんお人だな」

親方は苦笑する。

「ツヴァーラから出てくるのはともかくあなたが誰かと組むってのは珍しいですね。と、ああ、ジンライがいたか」

「そゆこと。後こっちの娘もいるし」

「おはようございますわ、親方さん」

ティアラの挨拶に「こりゃどうも」と頭を下げる親方。

「風音、こちらの方はどなたで? 顔立ちからツヴァーラの方みてえだが」

「ティアラもパーティメンバーだね。一応今はフリー的な立場らしいよ」

フリー?……と親方は不思議な顔をしたが風音のパーティメンバーということで「まあ、よろしくな」と返した。ちなみに親方がティアラを顔立ちでツヴァーラ出身と判断したのは、過去に幼いティアラ自身とあったことがあり特徴が一致したためである。まさか本人とは気付かなかったようだが。

「それで親方はルイーズさんとどういうお知り合いなの?」

「どういうって、まあ俺は元々はコンラッドの鍛冶師でな。ツヴァーラとは交易があった関係で温泉街にも足を運ぶ機会が多くてな。そこでルイーズ様に目にかけてもらって色々と融通してもらったんだよ」

と親方が説明する。

「あの頃からジョーンズくんの腕はたしかなモノだったからねえ。あの人に報告しただけよ、あたしは」

あの人とやらは今はルイーズの腕の中でじっとしている。そして親方は顔をキリッと変えてルイーズに向き合う。今更ながら言うべき言葉を申し遅れていたことに気づいたからだ。

「この度はメフィルス王に致しましては大変残念です。あの方にも目をかけてもらわなければ今の俺もなかったでしょうに」

「気にしないで。あの人もきっとそう思ってるはずだしね」

そうルイーズはちびグリフォンの頭をなでる。気持ちよさそうにクロロとうなった。

「ところでさっきから抱き抱えてるそれはなんです?」

まあ気にはなるだろう。よくよく見れば息もしてるし普通に生きている。召喚獣だが。

「あたしの今のいい人よ。気にしないで」

「そうですか」

そう言われれば引き下がるしかない。ちょっと気になっただけなのだし。

「風音、弓花の姿がねえようだが」

「弓花はジンライさんと朝稽古。シルキーを見てもらうって言ってたから後で来ると思うよ」

「そうか。あれからどの程度使うようになったのか見せてもらうのが楽しみだな」

そう言って笑う親方に風音が尋ねる。

「それと親方、例のヤツなんだけど」

「例の? ああ、とりあえず完成はしてるぜ。おめえがいないから試運転もできてねえがな」

「例のヤツってなんですの?」

そのティアラの質問に風音が親方を見る。

「もう動かせるの?」

「試験場でならいいぜ。ここじゃあアブねえ」

「了解。そんじゃあティアラ、なんなのかは実際に見てもらうことにするよ」

◎ウィンラードの街 バトロア工房 多目的試験場

バトロア工房 多目的試験場。それは工房の中庭にある研究開発した武器などの性能を確かめるためやエンチャント武器の慣らしなどに使用される試験場である。

「よし、これな」

親方は専用の不思議な袋から中華鍋のような、或いは兜のようなものを取り出した。

「? 頭にかぶりますの?」

「部位的には頭にならあな」

親方の言葉にティアラはさらに混乱する。

「中身は頼んでたとおりのモノで?」

「まあな。おめえの指定通りには仕上げたぜ。マジリア魔具工房から融通してもらったもんだが竜葬土とマジッククレイの混合率6対4で混ぜ合わせてある。伸縮性能についてはお墨付きだ」

そう言った後、親方は渋い顔をして風音を見る。

「しかしおめえさんよ、どこでこんな知識身につけたんだ?」

竜葬土は竜の肉を腐らせ土に変えたもので、マジッククレイはチルチルヒなどのミミズ系魔物の中枢部分に存在している粘土質の物体である。これらは風音の指定した割合で混ぜ合わせると強度と伸縮率が変動する特殊で魔力を多量に含むことができる土に変わる。ゼクシアハーツでは賢者の石シリーズの『マッスルクレイ』と呼ばれていたシロモノで竜船の稼働翼にも使われている。本来であれば人形遣いの秘中の秘である特殊素材だった。

「ゴーレム使いの秘密だよ」

出任せだが嘘でもない。

「一応、俺の方で口止めはしといたが、マジリア魔具工房が食いついてきてな。しゃーねえんでおめえさんの名前で技術的な特許登録をさせてもらったぜ」

「そんなものがあるんだねえ」

と、風音は驚く。特許などという言葉がここで出てくるとは思わなかったのである。

「使用に関しちゃおめえの許諾がいることになってる。あくまで建前は、だがな」

黙って使われる可能性も高いと暗に親方が言う。だが風音にはあれはゴーレム使いの系統の人間以外にはまともに使える代物ではないという知識があるのでそれほど重要視する必要はないと考えた。

「まあいいよ。それよりも実際に試してみても良い?」

「ああ、俺もどういうものか見てみてえからな。さっさとやっちまいな」

そう言われて風音は杖『白炎』を取り出し、その兜もどきにつける。

「スキル・ゴーレムメーカー・タツヨシくん」

風音のスキルが発動しガタンと兜もどきが動いた。

「なんですの?」

兜の中から何かがガシャガシャと音を立てて組み上がってくる。何層にも組み上げられた蛇腹状の鋼が形を現し、次第に手が、足が、指がと人型に変わっていく。そして組み上げられたそれは風音よりも一回り小さい鋼の人形となった。

「ほぉ、ちゃんと形になりやがった」

「うん。良くできてる」

親方は感心し、風音は目を輝かせてソレを見る。

「顔はないのね」

ルイーズがそう呟いた。タツヨシくんの顔に当たる部分はのっぺらぼうだった。

「ゴーレムは独自のセンサーで周囲を感知するからね。でも愛嬌がないからなんか付けよっかな」

タツヨシくんの似顔絵とかいいかな……と風音は考えた。

「それでカザネ、これはなんなんですの?」

ティアラが恐る恐る尋ねる。鋼でできたその人形は落ち武者のような見た目で今にもこちらに襲ってきそうな、そんな雰囲気を醸し出していたのだ。

「人工筋肉内蔵人形だよ。ゴーレム使いの上位職に当たる人形遣いが使う上級人形」

風音が力強く拳を振りかざす。人形遣いが最高の人形をと追究した結果生まれたという人工筋肉を搭載した人形である。そして、これに限っては内部がゴーレムと同じ土属性であるマッスルクレイであるため人形遣いのスキルを持たないゴーレム使いでも操ることが可能だった。

「人形遣いの技術は何百年も前に廃れたって聞いていたがな。知ってるヤツは知ってるってえわけか」

親方がおそらく勘違いした方向のことを考えながら納得している。

「そういうことだねえ。さてタツヨシくんの試運転を始めるけどいいかな?」

風音がそう言い、親方が「やっちまいな」と頷いた。

「動かすよ。まずは走るところから」

そう風音は言い「ダッシュ」と指示をする。

風音の言葉にタツヨシくんはクラウチングスタートを用いて、勢いに任せて恐ろしい速度で正面を走り出した。というよりも足の強靱さからわずか三歩跳んだだけで、中庭を通り越し、壁に激突した。本当に一瞬のことだった。

「な……!?」

そのあまりの速度に風音を含む全員が呆気にとられた。

「おい。いきなり壊す気か」

親方が辛うじてそう口にすると「あれえ?」と風音は言ってウィンドウを開いた。パペットステータスというウィンドウが立ち上がっている。

(あー出力が6倍増しになってる。これ、ゴーレムの反応速度が追い付いてないわ)

どうも計算を甘く見積もっていたらしい。ゲームで得た知識で自力で作製したものだったからまったくバランス調整がされていないのだ。

(パワー重視で速度を遅くすればゴーレムの動作でもちゃんと動いてくれるかな。でも移動用は移動用で組んだ方がいいか)

風音は唸った。かなり調整に手を入れる必要がありそうだと分かったからだ。

「どうだ。もしかして失敗か?」

難しそうな顔をする風音に不安になった親方は尋ねた。

「人形遣いの動作パターンを自作したんだけど付け焼き刃だったみたいだねえ。専用のパターンは持ってないから人形遣い的な扱いは難しいと思う」

その言葉の意味は親方には分からないが、失敗だったということは理解できた。本来人形遣いの操る人形は 猿(マシラ) の如き機動力を以って敵を圧倒すると親方も聞いている。既に技術が失われて久しいとはいえ、その恐るべき存在の伝承までは失われていないのだ。

若干沈んだ顔をする親方に、だが風音は明るい声でこう言った。

「でもナイトーさんをベースにゴーレムの動きで調整し直せばちゃんと動くはずだよ」

「ナイトーさん? あの騎士型ゴーレムかい」

それはキンバリーを打ち破ったときに使用したゴーレムで親方の記憶にもあった。最近の戦闘では戦力も増えたし移動力を奪うテバサキさんしか使っていないのだがナイトーさんが使えないわけでもないのだ。

「うん。機動力をギリギリまで上げたとしても、この体躯でかなりのパワーは出せると思う。まあ楽しみにしててよ。なかなか楽しいモノに出来上がるだろうから」

そう口にした風音の顔を見たとき、親方はそれが技術者によくある憑かれたときの顔だと気付いた。風音が『こちら側』の人間だと親方はここで初めて理解したのであった。