作品タイトル不明
第六百十七話 ふたりめを見よう
ジンライが冒険者たちと対峙している時、風音たちの方へと迫ってきていたのはギガントボアなる魔物。それは悪魔に操られていたウォーレンの召喚獣であった。その魔物が迫ってくる姿を見ながら風音が呟く。
「うーん。周囲には誰もいないと。あれ単独ならさっさと撃退した方が良いか」
ギガントボアの周囲にはウォーレンも悪魔の姿は見えない。このまま突っ込まれるのを待つつもりは当然風音にはないので先攻攻撃を仕掛けるのも当然の流れではある。
「そんじゃあ始めよっか。レームにタツオは前に出て構えちゃって。あの召喚獣をブッ倒しちゃおう」
「あいあいさー」
『はい。母上』
風音の指示に従ってゴレムスキャノンとクリスタルドラゴンゴーレムが歩を進めて仲間たちの前へと出ていく。
そしてタツオはメガビームの準備を、レームは 雷王砲(レールキヤノン) を 雷神砲(レールガン) モードへと可変させて構えた。そしてふたりの準備が整ったところで、
「そんじゃあ、撃てぇええッ!」
風音の合図と同時にレームの 雷神砲(レールガン) とタツオの『メガビーム』が放たれた。
『必中です!』
「おりゃあああ」
そしてふたりの叫びと共にメガビームとアダマンチウム弾が巨大イノシシへと突き進む。狙いは正確。このまま行けば確実に必中の軌道。しかし次の瞬間には風音の目が驚きに染まった。
「なっ!?」
状況は一瞬。タツオのメガビームがギガントボアに到達しようというわずかなところで防壁が現れたのだ。そしてメガビームの光がその場で『反射』され、その過程で 雷神砲(レールガン) の弾丸は掠めて逸らされる。
『うわぁっ!?』
突然のことにタツオがくわーっと叫ぶ。
もっとも反射して返ってきたメガビームがタツオに直撃することはなかった。クリスタルドラゴンゴーレムの咥えていた光輪にメガビームは吸収されたのだ。反射対策として風音がタツオに持たせていた光輪が想定通りに役に立ったのであった。
「危ないわねえ」
エミリィが冷や汗をかいて呟く。もっとも事態はそれだけでは終わらない。
「風音、続けて来るよッ!」
それをスキル『直感』で感知した弓花が叫ぶ。それには風音も頷いた。風音も同じく『直感』で気付いていたのだ。
「わーってる。みんな、私のそばに」
その風音からの指示が発せられた直後、ギガントボアからエネルギー波が放たれた。
(頭部、誰かいる!)
メガビームを反射された瞬間に風音は急にギガントボアの頭部に誰かが乗っていたことに気付いたのだ。隠れていたわけではない。風音たちの視界には入っていたはずなのに、風音たちは気付けなかった。反射を行った瞬間に気付けた状況から、風音はそれが『インビジブル』と同じ力がかかっていたのだろうと把握する。
もっともその思考は一瞬のこと。風音の意識は放たれたエネルギー波へと向けられる。もっとも今の風音はそれに対処する必要はない。
「かーみーかーーーぜーーー」
特に意味もなくそう口にした風音の周囲から強力な魔力の風が発生する。その暴風の障壁によってエネルギー波は遮られ、右へと逸れて風音たちの背後の大地を削っていった。
「チッ、凍り付いてやがる」
「今のが『暴風の加護』の防御壁かよ。ベヒモスが手強いわけだな」
ライルと直樹がそれぞれそう口にした。放たれたのは冷凍系のエネルギー波だった。また、それを防御したのは風音がベヒモスから手に入れたスキル『暴風の加護』である。それは魔術などを含む遠距離攻撃のほとんどを無効化するパッシブスキルであった。
「それで、どうすんだよ姉貴?」
「どうするも何も」
直樹の問いに風音は両手をかざしながら答える。
「まずはあのイノシシを止めないとね。スキル・戦艦トンファー」
その風音の声と共に上空に魔法陣が出現し、そこから二十メートルの戦艦が二隻召喚される。
「ブモォォオオオオオッ」
それに気付いたギガントボアが叫び声をあげるが、勢いづいた己の加速をギガントボアは止められず、落下する戦艦の直撃を受ける。
「そんじゃあ、もう一丁」
同時に風音が魔力を込めて指示を送り、その場で戦艦を爆破させた。次の瞬間には自爆という男の浪漫が爆炎となってその場を覆い尽くし、ギガントボアは燃えあがりながら吹き飛んでいった。
「よっしゃあ」
ライルが声をあげるが、しかし風音と弓花の視線は別のところへと向けられていた。その様子にライルが慌てて上空を見ると、巨大な剣を持った大柄な青い鎧が宙を舞っていた。それは吹き飛んだギガントボアの頭の上に乗っていた者だった。
「やって黒ミノくん」
そして風音が指示を出したのはマッスルクレイで造られてレヴィアタンの心臓を動力とし、黒炎装備で武装をした黒ミノくん。全身マッスルクレイの巨体を一気に飛び上がらせ、両腕の斧で青い鎧を斬り裂こうとするが、
『ふん。木偶がッ』
青い鎧は構わず大剣を振り下ろし、黒ミノくんの腕の斧を斬り、そのまま肩から斜めに斬り裂いて黒ミノくんの身体を分断した。
「ええ、黒ミノくんがっ!?」
「つぇえいっ」
風音が悲鳴をあげる。さらにそこに間髪入れずに攻撃を仕掛けたのは弓花だった。それには青い鎧も大剣を構えて防御に入り、ぶつかり合った刃が火花を散らす。
『やるな槍使い』
「あんた、何?」
弓花が問うが、青い鎧はフッと笑うだけだった。そのまま両者は空中でもう一度打ち合い、その勢いでそれぞれ離れた場所に飛び下がって着地する。そして風音が地面に降り立った青い鎧を見ながら口を開く。
「弓花、そいつは多分、 憤怒(イラ) のジルベールとか言うヤツ。悪魔だよ」
その名を聞いて弓花が目を細めて青い鎧を見る。七つの大罪のひとり、 憤怒(イラ) のジルベール。それはウーミンの街で襲ってきた悪魔のひとりだ。
「じゃあ手加減は必要ないよね」
弓花が目の前の相手を睨みつける。そのまま腕にはめた 神狼の腕輪(フェンリルリング) を発動させると、銀の輝きを放ちながら弓花は巨大な狼へと変わっていく。併せて槍の鎖が黒から銀へと変化し光を放ち始め、身につけた銀の鎧も大きくなった体躯に合わせて変化していったのだ。
『そなたは 血塗れの狂戦士(ブラッディベルセルク) か。なるほど、噂に違わぬ化け物のようだが、果たして 某(それがし) だけに構っていられるかな』
『ッアレは!?』
ジルベールの言葉と共に弓花の驚きの声があがる。それには弓花だけではなく、白き一団全員が驚愕した顔で見ていた。さきほど吹き飛ばしたギガントボアが黒く変化していったのだ。
「ギガントボアが……変質していく?」
直樹が呟く。そしてギガントボアは黒く染まり始めながら、その背中から黒い巨人の上半身を生やし始めた。わずかにタールのような黒い何かから複数人の腕や顔が見えた。
『あれってウォーレンさん!?』
弓花の指摘にジルベールが笑う。
『ウォーレンと言ったか。あの冒険者とチャイルドストーンをブラックポーションで繋いで、コアとしたのよ。今のヤツは手強いぞ』
その言葉と同時に黒いギガントボアが完全に起き上がる。その背から白い仮面を被った巨大な男の上半身が突き出て、巨大な棍を構えた。
(アストラル体? ブラックポーション? それよりも今ウォーレンさん以外にも誰かいたけど……考えてる余裕もないか)
そして眉をひそめながら風音が指示の声をあげる。
「直樹、あっちは任せたよ。弓花と私以外は直樹の指示で動いて」
「チッ、分かったぜ姉貴。みんな、行くぞ」
そして直樹を筆頭として、ライル、タツオのクリスタルドラゴンゴーレム、シップーが突撃して、それにタツヨシくんケイローンとホリースカルレギオンが追随する。
さらにはわずかに遅れてレームとエミリィも後方支援として走り出した。
『ふむ。 某(それがし) の相手は 血塗れの狂戦士(ブラッディベルセルク) と鬼殺し姫というわけか』
その状況にジルベールがそう尋ねた。完全神狼化した弓花を前に風音が頷いて答える。
「まあ、そうだよ。といっても私は身重だからね」
風音が膨れたおなかをポンと叩くと、ロクテンくんが風音の後ろに回り、膝を地面について腰を落とした。
「前にもあんたをボッコボコにしたこいつで挑ませてもらうよ」
そして風音が飛び上がって乗り込むと、ロクテンくんは変形し、六本腕の黄金巨人となって立ち上がったのだ。それを見てジルベールが肩を震わせる。それは怒りではなく歓喜。再び相まみえ、雪辱を晴らせるという喜びがそこにはあった。
『ははは、それは怖いな。であれば……』
『 某(それがし) も相手をしようか』
同じ声がもうひとつ上空から響き渡った。それには風音と弓花の双方が顔をあげた。
『上からッ!?』
上を見た風音の視界に上空から黒い東洋竜が突撃してくるのが見えたのだ。
『くくくく、なぶってやるっすよ。そして休暇をもらってあっしは海でバカンスするっすぅぅうう』
「その声はイリアさんッ、なんで!?」
東洋竜の口からはイリアの声が発せられ、その背には金の鎧が乗っている。夜帝の剣によって操られたイリアと金の鎧のジルベールがこの場に追いついたのだ。同時に青い鎧のジルベールも走り出した。
『風音ッ!?』
『ええい、やるっきゃないか』
そして再び悪魔たちとの戦いが始まったのだった。