軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第六百十一話 状況整理をしよう

◎ゴルディオスの街 ???

ガシャンと金属同士がぶつかり合う鳴る音がした。

そこはどこぞかも分からぬ暗闇の中。わずかに射す日の光に照らされたそこには巨大な三体の鎧たちが並んでいた。

『どうした?』

突然震えた金の鎧に、青い鎧が尋ねる。

『 某(それがし) の腕が奪われた』

そう返した金の鎧の右腕は存在していなかった。また右腕の付け根から見える鎧の中身も存在しなかった。つまりは鎧だけが起立して動いていた。

『やったのは……誰であろうか?』

兜の目に当たる部分から輝く魔力光を輝かせて問う赤い鎧に、金の鎧が内側から声を響かせた。

『白き一団の鬼殺し姫カザネと 血塗れの狂戦士(ブラッディベルセルク) ユミカ。プレイヤーたちだ』

金の鎧の答えに赤と青の鎧が『ホォ』と同時に声があがる。

『もう一匹紛れ込んでいたが、そちらは知らぬ顔であったな』

金の鎧の言葉に赤の鎧が一歩前に出て尋ねる。

『で、アレを鬼殺し姫は持っていたのか?』

『腹に収まった繭から発せられた、あの尋常ではない濃い力の塊は間違いなく』

『なるほど……』

青の鎧から呟かれた声には歓喜にも似たものが宿っていた。

『あれだけのものならば、今進めているあのゲンとかいうドラゴンの『竜の心臓』よりも確実に目的に達せられるであろう』

続く金の鎧の言葉に赤の鎧が一歩踏み出して声を張り上げる。

『であればウーミンでの屈辱をはらす意味も込めて、ひとつ挑ませてもらおうか』

それに金の鎧が力強く頷き、声を返す。

『されど忘れるな。我らの目的はひとつ』

続けて青の鎧が言葉を紡ぐ。

『金翼竜妃の子の繭の奪取なり』

そして三つの鎧の声が揃う。

『『『我らは七つの大罪がひとり、憤怒イラのジルベール。我らが目的のため、我らは我らが宿敵を滅ぼそう』』』

その言葉の後、金の鎧は己の存在しない右腕を見て呟いた。

『そのためにもアレは返してもらわねば……な』

◎ゴルディオスの街 ドカザ酒場前

「そんじゃー結果分かったら報告するっすー」

そう言ってイリアはブンブンと確保した金の篭手を振りながら、人が集まる前にその場を去っていった。もちろんそれはイリアが暗部に生きる者で人の注目を受けることを許されない者だからであり、決して面倒ごとを風音たちに押し付けるためにひとり去ったわけではない。押し付けられて良かったという思いはあったかどうかは分からないが。

そして風音と弓花にはその後に面倒ごとが待っていた。騒ぎを聞きつけた警護兵が慌てて仲間を呼びに行き、警護団長を呼んできたのだ。またイリアから連絡のいったらしい冒険者ギルドマスターのルネイも酒場の前に姿を現していた。

そして警護団や冒険者ギルドの職員等の現場検証も終わり、警護団長とルネイがその場で待っていた風音と弓花の元へとやってきて、まずは警護団長からの話が始まった。

「酒場の店主はクロだが、ウォーレッドは微妙だな。リーダーのウォーレン以外は下の荷のことは知らないようだ」

「クロ? 微妙?」

風音の問いに警護団長は頷く。

「ここの店主は悪魔信奉者だ。警護団と冒険者ギルドのリストにはなかったが、奥の部屋で信奉者のものらしき魔法具を発見した」

続いてルネイが口を開く。

「ウォーレンの方は精神汚染の疑いがあります」

「それはやっぱり悪魔とブラックポーションの?」

風音の問いにルネイが「ええ、恐らくは」と言葉を返す。

「ウォーレンは現在拘束して封印処理をしています。外部から操られないようにして、王都で浄化処理を行うつもりです」

ルネイの説明を聞いて弓花が一歩前に出て頭を下げた。

「お願いします。あの人もかなりの使い手でした。処刑とかになるには惜しい人ですし、治療をお願いします」

その弓花にルネイが「大丈夫でしょう」と声をかける。

「長期の汚染であれば思考そのものを塗り替えられる可能性もありましたが、今回は短期のようですから。怖いのは今回のブラックポーションの件がこの街にどの程度浸透しているのか……ということですね」

ルネイの言葉に警護団長もため息をはいた。

「確か、荷物が来たのはここ数週間なんだよね?」

「む、それをどこで?」

風音の言葉に警護団長が顔を上げて詰め寄ろうとしたが、それはルネイが手で止めた。

「彼女らは私の依頼で動いていたのです。情報を渡しているのは当然でしょう」

「む、そうか」

ルネイがやれやれという顔をして風音を見て、風音が「あちゃー」という顔をしていた。イリアからもたらされた情報である。当然、警護団長の知るものではなかったので、これは風音のミスであった。

「一通り、調べ上げる必要はあるでしょうね。まだ重度の中毒者が出る段階ではないとは思いますが、あの丸薬ひとつ飲めば抵抗力のある者でも悪魔のいいなりになりかねません」

「ウーミンの街ではスラム街に出回ってえらいことになってたしね。気をつけないと」

「そういうことです」

そもそものウーミンの街の件はギルドの依頼でもあったのだから、その詳細についてはルネイも共有していた。また冒険者ギルド自体が竜船経由やソルダード王国、リンドー王国経由の密輸の捜査に国と一緒に動いていた。

「それにしてもやってくれましたねえ」

ともあれ一通りの話が終わると、ルネイは周囲を見回しながら呟いた。

「店の中だけではなく、巨大イノシシと巨大オオカミが町中で大暴れ……と今も街中で話が回っているようですよ。建造物の修理もバカになりません」

「うーごめんなさい。修理には私も参加するから」

「すみません。本当に」

風音と弓花が頭を下げる。それに警護団長が「まったく」とため息をついたが、それにはルネイからの冷たい視線が突き刺さった。

「まったくではありませんよ。元々これは街の警備の問題です。『我々が依頼を請け負った』のもそちらの対処能力の問題があったからだということをお忘れなく」

その指摘には警護団長が呻く。今回の件では風音たちはギルドの指示によって動いていたという体裁を取ることになっていたようだった。ルネイにしてみれば迷惑極まりないが、それは目の前の警護団や暗部のイリアたちがこの事態を防ぎきれなかったことにも一因がある。

「本来であればあなたの首が飛ぶ問題です」

鋭い言葉と視線に警護団長の顔が青くなるが、それを見てルネイは少しだけ笑って話を続ける。

「ですが一介の街だけで対処するには大きすぎる問題であるのも事実。おそらく領主様からお話があるでしょうが、周辺の兵も集めて街中の捜索が行われることとなるでしょう」

「む、その際は全力を尽くさせていただく思います」

ギルドマスターは警護団長の主ではないが、相応の敬意が払われる存在ではある。場合によっては国内の権限においても領主よりも大きいこともある。警護団長が畏まるのも当然の相手ではあった。

「カザネさん方も自重はしてくださいね。まあ、取り逃がすよりはマシですが、本当にマシという程度ですが……その、身重なのですからね」

風音が「分かったよ」といってポコリンとお腹の卵を叩いた。ちなみに警護団長はこのやりとりで普通に懐妊だと思った。

「そういや、その中身はどんな感じなのよ」

その世巣を見ていた弓花が風音に尋ねる。

「もうちょいってところだね。アオさんが言うには普通とはちょっと違う形で生まれるかも……って言ってた」

「まあ、そうでしょうね」

風音の言葉に弓花の口元が若干ひきつっている。近くにいるだけでもその卵から発せられる力を感じるのだ。尋常ではない存在が生まれる予感がした。

そんなやりとりをしているふたりにルネイが声をかけた。

「それではおふたりとも、もう行ってもよろしいですよ。また後ほど声がかかることもあるかもしれませんが」

警備団長も特には何も言わないので、無罪放免ということらしかった。

「うん。そういえばルネイさんはこれから顔は見せてくれるの?」

「この件があるので長時間は無理でしょうが、顔見せぐらいはいたしますよ」

その風音とルネイのやり取りに横で聞いていた弓花が首を傾げる。

「ん、なんかやるの?」

「ああ、そうういえば弓花たちが戻ってきたら話そうと思ってたんだけど忘れてたな。レアアイテムとこの件もあったし」

風音が「そーだったーそーだったー」と言いながら笑った。そして風音は弓花にこう言ったのである。

「今日はね。私がこの世界に来てから一年が経った日なんだよ」