軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第六百九話 人間退治を行おう

◎ゴルディオスの街 ドカザ酒場

パーティ『ウォーレッド』のリーダー、ウォーレン・ザキルは慌てていた。

指示通りに荷を運び終えた。ダンジョン 金翅鳥(こんじちょう) 神殿へもすでに二度潜り、いずれも無事帰還し、それなりの成果もあげていた。ポータルと呼ばれる装置の利便性も理解できた。あれが広まればダンジョン攻略は今以上に進むことになるだろうとも思えた。

そして街に戻って酒場で気持ちよく一杯を飲んでいると『己の主』から唐突に警告が発せられたのだ。

「クソッタレ。どうやって潜り込んだんだ」

「リーダー、本当に誰か入り込んでるのかよ?」

疑問の声の仲間にウォーレンはギロッと睨んで「いいから降りるぞ」とだけ答えた。ウォーレンにも詳細は分からぬのだ。ただ『己の主』がそう言っているのだからソレは事実だろうというだけのこと。

そしてウォーレン率いるパーティ『ウォーレッド』は二十二名からなるヌマ共和国のアウターあがりの集団であった。リーダーであるウォーレンに従い彼らは地下へと降りようとしていた。

だから気付くのが遅れてしまった。酒場の奥に進む彼らの背後、ホールの中心の床がメキメキと音を立てて破壊され、その中から巨大な銀色の狼が飛び出してきたことへの対処ができなかった。

「な、なんだぁ?」

突然のことに仲間たちが叫び声をあげる。もっともウォーレンはその姿を見て、ある冒険者のふたつ名が浮かび上がっていた。

「あれは……まさか、 血塗れの狂戦士(ブラッディベルセルク) か」

それはこの街で知らぬ者はいない暴力の化身の代名詞。人も魔物もかまわず襲いかかり食らい殺す、狂った魔獣。

最近では人間社会に慣れてきたのか殺しまではしないとも聞いていたが、それでも若い男を月にひとりは血祭りにあげて、その血を飲まねばその暴力性を抑えられないようだとも聞いていた。

もちろんウォーレンはそんな与太を信じてはいなかった。ただの箔付けの冗談のようなものだと思っていた。冒険者という職業は舐められてはやっていけない。例えフカシであろうとも名が売れれば勝ちという面もある。

しかしウォーレンは目の前に現れた銀狼の姿を見て、その認識を改める。噂を裏付けるに十分なほどの凶暴な闘気を放っていることを素直に認めた。

(そんなのが何故……いや、あのときの報復か)

そしてウォーレンはこの酒場に来たときの一件を思い出す。それはパーティ『ドドリアン』のリーダーを殴り飛ばして追い出した時のことだった。

あのときは『派手な騒ぎになるとあのお方の迷惑になる』などと言い訳をして逃げたと思っていたのだが、これが『あのお方』を頼っての報復措置であると考えれば納得もいく。

「なるほどねえ。殴られて悔しいからってテメエのボスを呼んだってぇわけだ。情けねえ連中だな。つくづく」

ウォーレンの言葉に地上にあがった 血塗れの狂戦士(ブラッディベルセルク) は唸るだけで言葉を発しない。話に聞いていた通りの恐ろしいまでの銀光を放つ槍と、同じように銀に輝く鎧に包まれた銀毛の狼。対峙するだけで冷や汗が出るようなプレッシャーにウォーレンが唾をゴクリと飲み込んでから、にたりと笑った。

「野郎共。どんだけおっかなかろうが、ありゃあ魔物と同じだ。冒険者として本当の暴力ってヤツをそのワンコロに教えてやれッ」

「おぉぉおおっ!」

ウォーレンの言葉に力強く吠えて武器を構えるウォーレッドのメンバーたち。元々地下の侵入者を始末しようとしていたのだ。戦闘の準備は整っていた。そして彼らが足を踏み出そうとした瞬間、

「ウォォオオオオン!」

銀狼からの響き渡る叫び声に彼らの足は止められてしまう。狼としての野生の本能が彼らの気勢を一気に挫くタイミングで吠えたのだ。

「ちぃっ」

だがリーダーであるウォーレンは違った。怯えの混じった顔の仲間も見ずに歯ぎしりをしながらたったひとりで飛び出していく。

「人間様を舐めてんじゃねえぞぉおお」

ウォーレンは棍使いだ。獣を叩き伏せることには慣れている。 血塗れの狂戦士(ブラッディベルセルク) の威圧をはねのけてそのまま突撃し、アダマンチウム製の棍で 血塗れの狂戦士(ブラッディベルセルク) へと振り下ろす。

『速いッ!?』

それを 血塗れの狂戦士(ブラッディベルセルク) が槍で受け止めた。銀の闘気と赤い闘気が交差し、魔力光の火花を散らす。

「ちっ、やるじゃねえか犬コロ」

獰猛な笑みを見せるウォーレンに、まるで喰らわんばかりに 血塗れの狂戦士(ブラッディベルセルク) が睨み付ける。並の胆力の持ち主であれば、その場で気を失うほどの威圧だがウォーレンはそれに抗せるほどの男であった。そもそも狼となった 血塗れの狂戦士(ブラッディベルセルク) の攻撃を受けきれるなど、闘気で底上げしているとは言え人とはとうてい思えないほどの膂力でもある。

そうウォーレンは強かった。それが 血塗れの狂戦士(ブラッディベルセルク) にも分かったのだろう。そして 血塗れの狂戦士(ブラッディベルセルク) はウォーレンを睨み付けながら口を開いた。

『あんたがブラックポーションを街に入れたんだよね?』

その言葉にウォーレンが眉をひそめてから、笑って尋ね返す。

「へっ、因縁を付けるにしてももう少し捻れやワン公?」

『ふざけるなッ』

「はは。てめえら、潰すぞッ」

ウォーレンの言葉にウォーレッドのメンバーたちが一斉に 血塗れの狂戦士(ブラッディベルセルク) に対して構えを取った。ウォーレンが抗してみせたことで彼らの中にあった恐怖も消えていた。戦って倒せる相手だと気付いた。

『クロマルッ!』

しかし、そんな彼らの頭上に突如として三つ首の巨大な銀狼が出現する。

「ウォォオオンッ!」

「何ッ?」

「銀色の三つ首だと!」

叫び声があがり、何人かが飛び降りてきたソレによって弾き飛ばされるが、そこはさすがに魔物に手慣れたパーティであった。酒場という限定された空間の中でも彼らはすぐさま体勢を立て直して、クロマルへと向かい合ったのだ。

『チッ』

血塗れの狂戦士(ブラッディベルセルク) の舌打ちにウォーレンが笑みを浮かべる。目の前の化け物にも余裕がそれほどあるわけではないことに気が付いたのだ。そしてウォーレンは懐からチャイルドストーンを取り出した。あの三つ首の銀狼に対抗するための手段を喚んだ。

「こいっ、ギガントボア『アルビム』」

ウォーレンの言葉に従って魔力が集まり、その場に巨大なイノシシの化け物が顕現していく。

『あんた、こんな街中でそんなでかいのを』

「お前の言えたことかッ!」

反論の余地のない言葉をウォーレンが返す。ギリギリと 血塗れの狂戦士(ブラッディベルセルク) が歯ぎしりするが、それはただ言い返せなくて苛立っているだけであった。

ともあれ、 血塗れの狂戦士(ブラッディベルセルク) にしてもクロマルにしても現状では多勢に無勢。やはり推定Aランクパーティの実力は伊達ではないと 血塗れの狂戦士(ブラッディベルセルク) が考え、それと同時にウォーレッドが一斉に動き出そうとした瞬間である。

「グォォオオン」「ォォオオッ」「グガァアアアアッ」

酒場の中に巨大な黒いオーガが次々と出現したのだ。それは二十三体の、黒岩竜の因子を持つダークオーガ軍団。彼らは一斉に動き出して周囲のウォーレッドのメンバーに対して突撃していく。

「アォォォオオオンッ」

さらにダークオーガたちの出現に一瞬気に取られたギガントボアに三つ首の銀狼が体当たりして噛みついた。

「ブモォォオッ!」

「ウォンッ!」

そして二頭の巨大な獣たちはそのまま絡み合いながら酒場の外へと壁を崩しながら飛び出していった。この狭い場所では戦えないと両者が判断した結果である。

酒場の中ではウォーレッドのメンバーもダークオーガ軍団が戦闘に入っていた。普段は盾役に近い扱いであるダークオーガたちも人間相手ならばそう引けを取らない。

「チッ、化け物どもがぁ」

『失礼なことを言うなッ』

ウォーレンが悪態づく 血塗れの狂戦士(ブラッディベルセルク) へと走り、アダマンチウム製の棍を振り上げた。

「燃え盛れ、我が闘気!」

そして棍に纏わせた闘気をウォーレンは炎の塊へと変換する。それは『雷神槍』などと同じ闘気を纏った棍術の奥義。

その一撃が 血塗れの狂戦士(ブラッディベルセルク) へと振り下ろされる。

「 殺(と) ったッ」

ウォーレンが勝利の笑みを浮かべた。ウォーレンのその攻撃は例え下位竜とて容易に粉砕するほどの力を秘めている。

『ヒノカグツチッ』

だが直後に 血塗れの狂戦士(ブラッディベルセルク) が吠え、その身から白い炎に包まれた刃を生み出すと、一瞬の隙を突いてアダマンチウムの棍の付け根を切り裂いたのだ。

「なっ」

ウォーレンの顔が驚愕に染まり、棍の先が宙を舞う。

『炎ならこちらのヒノカグツチの方が何段も上だったみたいね。残念だけど』

そして瞬間的に踏み出した弓花は柄を絡ませてその場で槍術『転』によってウォーレンを床に叩きつけた。

『これで終いだよ』

それは切り裂かれた棍が地面に落ちたのと同時であった。