軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第六百八話 丸薬を見つけよう

◎ゴルディオスの街 ドカザ酒場

「臭いの元はここまでは来たっぽい」

風音がアストラル体の臭いを追って進んだ先にあったのは街外れの酒場であった。

「魂の臭いまで辿れるとか。さすがカザネっち。もう人間じゃねーっすね」

「なんかひっかかるね」

風音が「ムー」という顔でイリアを睨んでいると、弓花が首を傾げながらその酒場を見ていた。

「どしたの?」

「行きつけのバーだったりするっすか?」

その様子に風音とイリアが揃って尋ねる。

「いや……ここ一度だけ来たことあるのよ。ほら私に『ファンクラブ』ができたじゃない。いや、私も参ってはいるんだけどさ。アイドルとかガラじゃないし、ねえ?」

そう言ってドヤ顔になっている弓花にイリアがたいそう腹立たしげな顔で舌打ちをする。

「チッ、リアル見せてやりてえっす」

「駄目だよ、弓花は豆腐メンタルなんだから……現実を知ったら使い物にならなくなっちゃう」

もちろんイリアは正確な情報を掴んでいる。暴力こそが人の本道と公然してはばからない連中が街に一大勢力を生みつつあることを。その中心人物の指示で住人への暴力こそ振るわれないが、天使教やアウターファミリーと併せて厄介な存在になりつつあることまで調べがついていた。

「ま、まあ……ごめんね。ちょっと自慢みたいな風に聞こえちゃったかな。うん、そういうんじゃないから」

ボソボソと話すイリアと風音に何を勘違いしたのか申し訳なさそうな顔をしつつ、少しだけ自慢げな感じで弓花が言う。その反応にイリアが「カーーー、ペッ」と痰を吐き、風音が「もういいから続きを」と弓花に促した。

「そお。まあ、そうね。そこの酒場は『ファンクラブ』の人たちの溜まり場だったんだけど」

『ファンクラブ』の人たちの溜まり場。どう見てもナイフを舐めて汚物を消毒するモヒカンしかいなさそうな酒場である。ツッコみたい気分を振り払って、ふたりは弓花の話を聞き続けた。

「少し前に新しく来たガラの悪い連中が溜まるようになって集会場を代えたんだって。困っちゃったって言ってた」

「つまりあの中にいるのは街に最近来た連中ってことだね」

「ふーむ。ちょっと待つっす」

イリアが懐から巻物を取り出して広げると、その巻物に書かれた文字がギュルギュルと変化していった。そしてその動きが止まるとそこにはドカザ酒場の名と、その酒場に対する情報が表示されていたのである。

その文字を見ながらイリアが口を開いた。

「その新しい連中ってのはパーティ『ウォーレッド』っすね。ランクBパーティっすが素行に問題なければAでもおかしくない連中のようっす」

「ソルダードの人?」

風音の問いにイリアが首を横に振る。

「いんや。ヌマの連中っすね。そんで、目的地はあそこなんすよね」

「そうだね。でも、どうしようか。目的は地下だよ。店の中に入っても良いし、隠れて直接入るなら方法もあるけど」

風音がそう言って酒場の地面の方を見た。その言葉でイリアにも大体の予想が付いたのか、少しだけ迷った後に口を開いた。

「この際、いいっす。カザネっちの方法で隠れて入るっすよ」

◎ゴルディオスの街 ドカザ酒場地下倉庫

酒場の地下。そこにある倉庫の壁の一部がバキバキと形を変えていく。そしてわずかな間に石壁が変形し、立派そうな形をした扉ができあがった。

それからしばらくしてキィーと扉が開くと、女子三人組が中に出てきたのである。

「お邪魔しまーす」

「おぅ、ゴーレム魔術って便利っすねえ。今度あっしも覚えてみたいっす」

「グリモアならゆっこ姉が増産中じゃなかったっけ?」

そんなことを小声で言い合いながら三人が酒場の地下倉庫の中を進んでいく。

風音たちは酒場の裏手へと回り、こっそりとゴーレム魔術で通路を造って倉庫へと直接繋げて侵入したのであった。

「しっかし、こういう風に地下から侵入されちゃうんじゃあ城の防備も考え直さないといけないっすねえ」

「魔術的な防御がされてると結構簡単に防がれちゃうけどねえ」

風音の言葉を聞いてからイリアが何かを思い出して口を開いた。

「ああ、そういや地下っていやぁ、ちょっと前に変な動きがあったのを知ってるっすか?」

「さあ?」

風音が首を傾げるとイリアが言葉を続けた。

「 魔力の川(ナーガライン) から直接この街に 自然魔力(マナ) が流れ込んできたみたいなんす。ウチのヤツが死んだ日の夜に起こったんで関連性が気になってたんすが」

その言葉を聞いて弓花が風音にジッと視線を向けた。

「ふむ。大変だったね。もしかすると連中のリビングアーマーを呼び起こしたのかもしれない」

しかし風音は弓花の視線にもその話の真相にも気付いていないようだった。

「相当強力なエネルギーが流れたっすから、油断はできないっすね」

イリアも普段はしないクソ真面目な顔で返答し、弓花は所在なさげに、ひとまずはこの話題に触れるのを止めることにした。こんな隠密行動中に混乱を引き起こす真似はしたくなかったのだ。

それから風音たちは話も止めて周囲を眺める。そして、そこそこに広い倉庫の端に新しく積み上げられた荷物があることに気付いたのである。

「ああ、これっす。この木箱っす」

イリアがそう言いながら木箱の方へと歩いていく。

(酒蔵……とは別の倉庫か。かび臭くはあるけど、入り口なんかには最近人が出入りした跡があるね)

イリアの後に続きながら風音は周囲を観察し、再び木箱の方に顔を向けて眉をひそめた。

「けど、この木箱……妙に懐かしい臭いだね」

「懐かしい?」

弓花の問いに風音は答えず、一歩前に出てその木箱に視線を集中させる。どうにも風音の鼻が何かに反応しているようだった。

「イリアさん。中を開けてみても良い?」

「どうぞっす」

イリアとしても確認するつもりであったので素直に頷く。

「そんじゃ狂い鬼、お願い」

風音が腕に向かってそう声をかけると、風音の両腕の篭手から巨大な黒い腕が出現した。竜喰らいし鬼軍の鎧を通して狂い鬼が部分召喚されたのだ。ちなみに今の風音はお腹の部分だけ外して卵を固定している姿である。

「なんでもありっすね。ホント」

「最近は狂い鬼もデレ期だから」

そんな外野の言葉も気にせず、狂い鬼の腕は特に苦もなく木箱の木の蓋を、打ち付けられた釘を引き抜きつつ強引に開けた。

「狂い鬼、あんがとね」

「ぐがぁ」

風音の言葉に狂い鬼の声が小さく返ってきてその腕も消滅する。そして問題である木箱の中身へと風音は目を向けた。

「ふーむ」

「こりゃあ封呪布っすね」

その中身を見て風音が唸り、風音の横ではイリアが眉をひそめていた。封呪布とは魔力反応を封じる布である。それは魔法具などの封印や悪魔を封印するために使用されるもので、魔力を発するアイテムの密輸にも使われることがある。

「これって……確か竜船の時に見たヤツじゃないの?」

その弓花の指摘に風音も頷く。

目の前の光景はハイヴァーン公国からミンシアナ王国に戻る際に竜船の内部で見たブラックポーションを運んでいた状況に酷似していた。

「となるとオチが見えたよね」

風音が少しだけ苦く笑いながら、封呪布を破ってその中身を確認する。

「なんすか。こりゃあ?」

イリアが首を傾げる。その中身はといえば瓶であった。風音がそのひとつを手にとって蓋を開け、中身を取り出す。

「黒いあめ玉? いや……」

風音が指でそれを割ってみた。すると中から嗅ぎ覚えのある嫌な臭いが漂ってきたのだ。

「妙な臭いっすね。あっしの鼻も反応してるっす」

イリアの鼻は毒を嗅ぎ分けられる。そのイリアの反応には風音も頷く。予想していたものが出てきたのだ。

「こりゃ、ブラックポーションと同じ臭いだよ。それも何かしらで臭いが出ないようにコーティングまでしてあるね」

「つまり、それって?」

弓花の驚きの顔に風音が頷く。

「ウーミンの街と同じことを起こそうとしている連中がいる。ここまで対策されたんじゃあ獣人の鼻でも嗅ぎ分けられないよ」

風音の言葉を聞いて弓花の脳裏にウーミンでの惨状が思い起こされた。

スラム街に大量にバラまかれたブラックポーションによって多くの犠牲者が出た。直樹の英霊フーネに救われた者もいたが、救われなかった者も大勢いたのだ。

それを再び繰り返そうという者がいるというだけで弓花の怒りは膨れ上がる。

一方で風音は冷静にイリアに尋ねた。

「イリアさん。今ブラックポーションの扱いってどうなってるんだっけ?」

「流通させた者は死罪っす」

風音が倉庫の天井の方を見ながら「そっか」と呟く。

「バレたらしいね。あいつら、近付いてくるみたいだよ」

わずかに足音が聞こえ始めた。

「風音ッ」

弓花の言葉に風音が頷く。

「うん。やっちゃって弓花」

「了解ッ」

風音の言葉を聞いて弓花が飛び上がりながら 神狼の腕輪(フェンリルリング) を発動させる。そして巨大な銀の狼が天井を突き破って、酒場の中へと出現したのであった。