作品タイトル不明
第六百四話 隠し魔物を倒そう
「この野郎ッ!」
目の前の魔物の挑発めいた笑いに直樹は怒りの言葉を吐く。もっとも思考停止はしない。怒りはそのままに、しかし思考を止めることはしなかった。
(空を飛ぶタイプなら)
直樹は敵の状況を見ながら声をあげる。
「フォロー頼む!」
その言葉にエミリィが手早く反応し矢を射る。黒ミノくんとロクテンくんも剣の魔物に対して飛びかかった。
「ガカカカカカッ」
もっとも剣の魔物の速度は速く、エミリィの矢が辛うじて当たっただけで、風音の 僕(しもべ) たちの攻撃はまったく掠りもしない。
知性の金属(インテリジェンスメタル) 持ちのケイローンならいざ知らず、こうした反射速度の遅さはゴーレム等の共通の弱点でもあった。
もっとも直樹が欲しいのは時間稼ぎだったので、彼らの行動は十分に役割を果たしていた。
エミリィたちが攻撃しているのと同時に直樹はすでに握っている竜炎の魔剣と腰に下げていた水晶竜の魔剣を抜いて地面に突き刺すと、アイテムボックスから操者の魔剣『エクス』と夜王の剣を取り出した。
「いくぞスキル『魔剣解放』!」
それから直樹のスキル発動と共に突き刺さった魔剣が輝き、飛竜形態となって飛び出していく。
「ガカッ!?」
その唐突な飛竜たちの接近に剣の魔物も少しだけ慌てた素振りを見せたが、やはりその速度は飛竜たちよりも速いようで、すぐさま攻撃を避けられてしまう。
もっとも直樹にとっては当たらずとも問題はなかった。直樹にとっては剣の魔物に対して飛竜が当たらずとも近付いてくれれば良かったのだから。
「ォォオオッ!」
そして避けた剣の魔物に夜王の剣の一撃が見舞われた。
「ガカカカッ!」
攻撃の反動でその場から弾かれる剣の魔物だが、その思考は疑問に満ちていたことだろう。正面にいたはずの直樹が突然背後から斬り掛かってきたのだ。もっとも直樹はそんな剣の魔物の戸惑いなど気にせず攻撃を仕掛ける。
「いけ、飛竜!」
さらに再び迫る飛竜たちに剣の魔物は、続いては距離をとって避けていった。
(対応が速いっ!?)
種まで知られたのかは不明だが、距離を離されては転移しても届かない上に俯瞰されている状態では何が起きているのかも確実に知られてしまう。だが剣の魔物が離れた場所には、ロクテンくんが待ち構えていた。
「ロクテンくんっ!」
直樹の言葉にロクテンくんが反応し大剣を振り下ろす。それは当然避けられるが、
「エミリィ」
「任せてッ!」
その避けたところにエミリィが矢を放つ。振動破壊が込められた矢は剣の魔物へと激突して弾き飛ばし、そこに直樹が操作した飛竜が突撃していく。
(タイミングはジャスト。これならやれる!)
そう直樹が確信し、飛竜へ送る魔力を増大させる。そのまま飛竜をぶつけようと考えるが、
「ガッカカカッ!」
しかし剣の魔物から強烈な気配が発生しその場を支配した。その威圧にエミリィが膝をつき、直樹も目を見開かせる。
「これは『魔王の威圧』!?」
そして飛竜たちが突然落下したのだ。
それは風音のスキル『魔王の威圧』と同じ物理域にまで影響を及ぼすほどのプレッシャーである。それが飛竜たちを地面に押し潰したのが直樹には分かった。だが問題なのは今の状況だ。
「エミリィ、避けろっ!」
ロクテンくんは攻撃を空振りし、飛竜たちは動きがとれない。であれば、近くにいるエミリィに剣の魔物が反応しないわけがない。黒ミノくんが急ぎその両腕斧を振り下ろすが、全くの余裕でかわされた。
「えいっ!」
だが今回はそれで十分だ。すでに剣の魔物の突き進む先にエミリィはいない。
「ふぅっ!」
とっさに竜人化したエミリィが向上した身体能力によりダッシュで待避したのだ。
「兄さん、ありがとうっ!」
そのエミリィの言葉に、離れた位置で戦っているライルがグッとサムズアップをする。どうやら竜人化はエミリィの判断ではなく、ライルから竜気を送った結果のようである。
『よそ見するなライル』
「すんません」
とはいえライルに余裕があるわけではなくジン・バハルに叱られていた。
もっとも直樹たちにとっては今がチャンスであった。突然の目標の豹変に動揺した剣の魔物にエミリィは竜気を込めた一撃を放つ。それは先ほど放った矢よりも数段重く威力のあるもので、
「ガッ!?」
不意を突かれた剣の魔物は弾き飛ばされて岩へと突き刺さる。今度こそはチャンスだと直樹は考え、声を張り上げた。
「やれ飛竜ッ!」
そして突き刺さった剣の魔物に竜炎の魔剣と水晶竜の魔剣の飛竜が突撃する。
「ガッガカカカァア!?」
それは間違いなく直撃だった。その場の岩を砕きながら炎と七色の閃光の爆発が起きる。
「それじゃあトドメだッ」
もっとも直樹に油断はない。ここで勝負だと考え、スキル『狂戦士』によって 狂戦士(バーサーク) 化し、操者の魔剣『エクス』と夜王の剣から巨大な魔力の刃を発生させて走り出す。
「うぉぉおおお」
そのまま両腕の剣から発した黒いと無色の魔力光がそれぞれ交差し十字を描く。
それは風音直伝『口伝オダノブナガ流バツの字斬り』。重なり合う魔法刃によりその威力が相乗効果を及ぼしていく。
「ガッカカカカカッカ」
「何ッ!?」
だが振り下ろす前に爆炎の中から剣の魔物が飛び出してきた。
「チィッ!」
一瞬の状況。剣の魔物に対し、 狂戦士(バーサーク) 化した直樹はとっさにバツの字切りを解き、攻撃から防御へと切り替えた。
「うぉっ!?」
剣の魔物の激突にどうにか双剣での防御に成功した直樹だが、その勢い間では殺せない。そのまま剣の魔物に弾き飛ばされ、夜王の剣は飛ばされて離れた地面に突き刺さった。そして操者の魔剣『エクス』は……
「くっ、何を……」
ゴロゴロと転がりながらも直樹はどうにか態勢を建て直し、敵に視線を送った。そこで見たのだ。相棒が敵に捕らわれている姿を。
「お前、俺のエクスを!?」
夜王の剣は地面に突き刺さった。しかしもうひとつ、操者の魔剣『エクス』は剣の魔物が咥えていたのである。
「ガカカカカカッ」
そしてそのまま一気に操者の魔剣『エクス』を飲み込んだのだ。
「エクスを返しなさいッ」
エミリィが連続で矢を放つが剣の魔物はそれをすべて避けながらそのままエクスを咀嚼していく。
「くっそぉ」
直樹の顔が歪む。操者の魔剣『エクス』なしでは魔剣を飛ばせない。己の最大の武器を奪われながらも直樹は走って砕けた岩のそばに転がっている竜炎の魔剣と水晶竜の魔剣を拾い、Uターンして走り出した。
(出し惜しみしている場合じゃなかったか)
どこの段階か、せめて『魔王の威圧』を放った段階で悟るべきだったと直樹は悔やんだ。だが状況はすでに動いている。過去は取り戻せない。そして直樹はその指にはめている指輪をかざした。
「こいっフーネ」
そして指輪から放たれた光の中から純白の天使が舞い降りる。それは愛くるしいチンチクリンフェイスでありながら、ポヨンポヨンの巨大なる乳を持つロリ巨乳。エロさと幼さを合わせ持つ純真なる天使少女、英霊フーネであった。
「直樹、お久しぶり!」
笑顔でフーネが告げるが、直樹はその笑みに見とれている余裕はない。
遠隔操作ができなければ魔剣解放も使えない。操者の魔剣『エクス』につけている 帰還の楔(リターナーズ・ステイカー) もなしでは転移もできない。ここまでの直樹の頼みの綱が奪われたのだ。
「フーネ、スローフィールドにバインドを頼む」
「うん、任せてよ」
そう言ってフーネが魔術を唱えると周囲に薄く白い霧ができた。
「ガカッ?」
剣の魔物がその霧の中を跳びながら焦った声をあげる。動きが鈍くなったのだ。霧に接触すると途端に動きが阻害されたのだ。さらには続けて放たれた魔術によって剣の魔物が白い光に包まれる。
「かかったな!」
直樹がしてやったりと笑う。
それには剣の魔物も白い光が己の動きを鈍くしているものだと気付いた。
この英霊フーネが唱えたスローフィールドは入った者の動きを阻害し、バインドは対象の動きを阻害する。英霊フーネは素早い剣の魔物を回避し辛いようにしてから、二段構えに単体用の速度阻害魔術を掛けてきたのだ。
「ガカカカカカカ」
だが剣の魔物もすぐさま行動を切り替える。地面に突き刺さった夜王の剣が唐突に浮かび上がり、そして回転し始めた。それは操者の魔剣『エクス』の能力のようであった。
「喰って、力を奪ったのか?」
直樹が声をあげる。あの魔物の内部のエクスが無事なのか、直樹の心に動揺が走るが今はそれを押し殺す。まずは目の前の敵が重要だ。それに操者の魔剣『エクス』の力ならば、剣の魔物ほどの速度ではあり得ない。
「させないっ!」
エミリィは直樹へと突撃する夜王の剣に矢を放ち、弾いて軌道をそらす。
「ナイスだエミリィ。それじゃあフーネ、頼んだ」
「スペル・グラビティドーンッ!」
直樹の指示で英霊フーネが魔術を放ち、夜王の剣は重力によって押し潰されて地面に叩きつけられる。
「ガカッ」
「うぉぉおおおおっ!」
そして直樹が剣の魔物に飛びかかった。それに危機感を感じた剣の魔物は『魔王の威圧』を放つが直樹には効かない。風音との特訓で『威圧』への耐性ができていたのが功を奏したのだ。そのまま直樹は己の魔剣を手放し、
「握ったッ!」
剣の魔物の柄を両手で掴んだのだ。
「ガカカカッ!?」
剣の魔物が叫んだ。何かが進入してくる感じがあったのだ。それは直樹のスキル『魔剣の支配者』によるもの。その剣の魔物の慌てように直樹が口元を釣り上げて笑う。
「はは、お前は『魔』物の『剣』だろ。つまりは『魔剣』ってことだよな。だったらさ」
直樹はさらに魔力を込めて剣の魔物を支配し始める。
「俺のスキルで支配してやるよッ! この駄剣がぁあああッ!」
剣の魔物が叫び、周囲に無数の剣を出現させて直樹へと放つが、その前にフーネが「スペル・ダイアアーマー」と魔術を発動させており、直樹の身体に当たったところで完全に弾かれた。 狂戦士(バーサーク) 化とダイアアーマーのふたつにより、今の直樹の身体に物理ダメージはほとんど効果がない状態となっている。
そもそも英霊フーネは回復系統と共にバフ、デバフ系魔術を得意としていた。もちろんそれは姉の操作していた戦士系統のキャラであるジークと一緒に戦うことを前提に成長させていたためだ。それはつまり、魔法剣士である直樹とは非常に相性の良いキャラということでもあった。
「ガッカカカカァアアアアアアッ!」
そして断末魔のような剣の魔物の悲鳴が響き渡り、やがてその声も静かになったのである。
**********
「ふぅ、無事倒せたようだな」
戦闘後、ジンライは周囲を見回しながらそう口にした。戦闘結果としては直樹とエミリィは無事勝利。ジンライも危なげなく勝ち、ライルとジン・バハルについては最終的にジンライが途中参戦して倒していた。
なお「主殿が来なくても勝てたのに」と若干ツンデレっぽい捨て台詞を吐いてジン・バハルは槍の中へと帰っていったのが印象的ではあった。そしてジンライが横にいるライルを睨んで、荒げた声を出した。
「ライル、お前には後ほどたっぷりと説教がある。覚えておけよ」
「うう、すまんかった爺さん」
「なーなー」
ライルが肩を落とす。シップーもお怒りのようである。
つまりは初っぱなに大失態を演じたライルにはお説教タイムフラグが発生したということであった。
「ま、まあ、それはそれとしてだ。それで隠し部屋の中はどうなんだよナオキ?」
ライルが冷や汗をかきながら、つい今隠し部屋から出てきた直樹に尋ねる。
「おう、これがあったぜ。鞘みたいだな」
「ガカカカカカッ」
直樹が鞘をライルに見せると空中に浮かんでいた剣の魔物が突然動き出してその鞘の中に入っていった。
「なっ!?」
驚きの顔の周囲を前に鞘の方もそれまでの姿を崩し剣の魔物に会わせて形を変えていく。どうやら手に入れた鞘は魔法具のようであった。
「あ、入っちまった。しかもなんか眠りに入ったな」
「おい。マジかよ」
呆気にとられながらも『魔剣の支配者』スキルで状況を解析する直樹の言葉にライルが目を丸くする。
「ふむ。守護していた分、その鞘とは相性が良いのかもしれんな。或いは引き寄せられたからそいつらがいたのかもしれん」
ジンライがそう言って鞘に収まった剣の魔物を見る。それは直樹がスキル『魔剣の支配者』でテイムした先ほどの魔物であった。
「その鞘はしばらく使わせてやれ。うるさくて敵わんからな」
ジンライの言葉通り、先ほどから直樹のテイムした剣の魔物はガカカカカカッとずっと笑っていた。さすがにその場の全員、頭が痛くなってきた頃だったのだ。
「了解。エクスはそのままにしておきます」
直樹はそう言ってその鞘を腰に下げた。
結局テイムした魔物からは操者の魔剣『エクス』は戻らなかった。返ってきたのはゲップだけですでに吸収されてしまったようである。もはや直樹はその剣の魔物を操者の魔剣として使うしか手がなかったのである。
「しかし『魔王の威圧』を放ったとな。その魔物もワシは今まで見たこともないし鞘の方も気になるな」
ジンライの言葉に直樹も唸る。隠し部屋の魔物はその階層よりも高いレベルのモノも出現するとは以前に教えられたことがあったし、風音たちも実際に出会っているとも聞いていた。
「うーん。戻ったら姉貴に聞いてみますよ。こういうの詳しいだろうから」
「それがよかろう」
ひとまず姉に投げることに決めた直樹の言葉にジンライも頷く。
それから休憩を少し取った後に彼らはまた先へと進むこととなった。想定外の強敵との出会いもあったが今日一日と明日の昼間ではダンジョン探索をする予定である。
そうして彼らはまた一歩ずつ、ダンジョンの先へと進んでいくのであった。