軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第五百九十九話 出産祝い(予定)を送ろう

◎ゴルディオスの街 忍の隠れ家

「クロフェ様は昨日に領主様のお屋敷から、白の館へと居を移すことにしたようです」

ゴルディオスの街の中のどこかにある忍たちの隠れ家。そこはユウコ女王配下の忍者だけが使用するセーフハウスであり、今はイリアが部下の忍者からその場所で報告を受けていた。

「なるほどっすね。クロフェ様とユッコネエが御子を授かるのは確定と……ま、どうせカザネっちがメールってヤツで女王陛下には伝えちゃってるんでしょうが、お仕事っすからねえ」

部下の報告を聞きながらイリアはスラスラと巻物に聞いた内容を書き込んでいく。

ゴルディオスの街で起きたこと、中でも白き一団を取り巻く状況についての報告は第一優先としてユウコ女王から指示されているために、イリアは毎日のように受けた報告をこのように書き込んでいる。

後ほど、その巻物は彼女の召喚獣ヤタガラスによって直接ユウコ女王へと飛ばされることとなるのである。

「それにしてもカザネっちはサンダーバードをもらったんすか。羨ましいっす」

風音がクロフェより譲渡されたサンダーバードとは諜報を行う者にとっては垂涎ものの召喚獣でもあった。

イリアの持つ召喚獣ヤタガラスも飛行速度はあるのだが、雷の速さとまで言われるサンダーバードには適わない。もっともその分隠密性には優れているという利点もあるので、一概にはどちらが優れているかとも言えないのだが。

「まったく騒動の絶えない方々っすねー」

ドッサリとイリアはその場に腰を下ろす。毎度毎度頭の痛い話が転がり込んでくる。問答無用で次々と問題が降って湧いて出てくるのだ。

中でも金翼竜妃が単独でお忍びで来ていると知ったときにはさすがのイリアも肝が冷えたが、現時点においては周囲に特に目立った動きもないようだった。

「それと先日の件ですが」

「何か分かったっすか?」

続いての報告にイリアが眉をひそめながら尋ねる。頭を悩ませているのは風音たちの件だけに限らない。現時点においてはもっと重い案件も存在していた。

「直接的なことは分かりませんが、あの荷の経由はやはりソルダードである可能性が高いとのことでした」

その言葉にはイリアが目を細め、ギリッと歯軋りする。

「狙いはポータルか、カザネっちか、トゥーレの女王様か……つか、多すぎて困るっすね」

怒りをにじませてはいるものの口調だけはおどけた感じでイリアが自分の頭をかいた。ここ数週間の間にどこかの手の者が何名もゴルディオスの街に侵入しているのが確認されているのだ。それだけならば珍しいわけではないが、その全員が姿を眩まし、イリアたちによる必死の探索でも見つけられなかったのは大きな失態であった。

併せて謎の荷物が街の中に送られているという目撃報告もあった。その荷物のひとつを接収したイリアの部下が惨殺死体となって発見されていたのが昨日のこと。

「荷の中身は『鎧の一部』だったんすよね」

それが死んだ忍者の残したダイイングメッセージである。荷はすでに奪い返されてしまったようだが、それが知れたこと自体は大きい。

「昨晩の 魔力の川(ナーガライン) の異常もあるいは関連があるかもしれないっすね」

「はい。今も全力で調査を行っていますが、街の地下に大量に 自然魔力(マナ) が送り込まれたこと以外は何も分かっておりません」

同時に起きた 魔力の川(ナーガライン) の異常。立て続けに起こる問題にはイリアも頭が痛いが、だがともあれ自分たちは自分たちの役割をこなすしかないと割り切ってもいる。

「まあいいっす。引き続き警戒を怠らないようにするっすよ。場合によっては応援を呼ぶっすからね」

「はっ」

「じゃあ下がれっす」

そのイリアの言葉に忍が姿を消す。

「ふむ。ややこしいことになってるっすねえ」

静かになった部屋の中でイリアがひとり呟く。天井を見ながらも考えを巡らせるも現時点において彼女が分かることは少なかった。

(最悪、カザネっちの鼻に頼ってでも見つけないとあかんっすね)

護衛対象に頼るというのも情けない話ではあるが、風音の能力はイリアにとっても非常に有効なものだ。また、それに頼る選択を考える必要に迫られるほどにイリアも次第に追いつめられつつあるのも確かな事実。

今、ゴルディオスの街に不穏な空気が流れてつつあった。

◎ゴルディオスの街 西地区 白の館 中庭

「なるほど。大体の事情は理解いたしました」

クロフェが白の館に住み込むことになった翌日の夕方。イリアが人知れぬ場所で報告を受けたときよりも少し経った時間のことである。

前日、直樹はライノクスを送るために東の竜の里へと転移し、戻ってくるついでにアオを連れてきていた。そして、アオはクロフェからの言葉によってすべての状況を把握する。

「確かに大体のことはすでにスザに引き継いでおりますし、私がいなくとも東の竜の里について今は問題ありません」

すでにメールでもやり取りをしていたこともあり、おおよその状況整理が付いていたアオにとっては西の竜の里ラグナに戻ることについては問題ないと頷いたのだった。

「うむ。それではワシはユッコネエと子を産むが良いな?」

「それ自体は喜ばしいことでしょう。里についてはひとまずはギルヴァラを代理としておきますので、憂いなく御子をお育てください」

「ギルヴァラ?」

その場に共にいる風音がアオの口から告げられた知らぬ名を聞いて首を傾げた。

「剣虎竜ギルヴァラ。我が里の中でも戦闘力だけならば随一の戦士です」

「腕っ節だけで言えばワシよりも強いのじゃー」

アオの言葉にクロフェが続く。総合力では劣るものの、物理戦闘能力だけで見た場合ギルヴァラは金翼竜妃や神竜帝をも勝るとも言われているドラゴンであった。

「とはいえ、脳筋のアカとは違い、彼は思慮深さも持っておりますから、クロフェ様よりも上手く取りまとめてくれるでしょうね」

「くっ、相変わらずキツい男なのじゃー」

アオの言葉にクロフェがのじゃーと鳴く。

「あー、アカお兄ちゃんともご無沙汰だなあ」

風音は風音で、名前の出たアカを思い出しながらその名を呟いた。

「お兄ちゃん……だと?」

さらに後ろにいる直樹が妙なショックを受けていた。

「ライル、姉貴がお兄ちゃんって……やばいかもしれないぜ。俺も呼ばれてぇ」

「そういうのを俺に振るなよ。止めろよ、マジで」

扱いに困るリアルお兄ちゃんが困った顔をしているが、直樹がそうした話題に出せる相手はライルしかいないので仕方がない。またそうしたおふざけの中にも直樹はアカに対する警戒心だけはバッチリ刻んでいた。姉に近寄る男はすべて死ねばいい。それが直樹の正義であった。

「それで儀式を行うにもどこで行うのですか。さすがにここでパーッというわけにも行きませんし、日を置いて大竜御殿に一度転移しますか?」

そのアオの言葉はもっともなものではあったが、風音は自信満々という顔で「用意はしてあるよ。こっちこっち」と言って歩き出した。そしてクロフェ、ユッコネエも「ふふん」というドヤ顔で風音の後に続き、アオもよくは分からぬがそれに付いていくことにしたのである。

◎ゴルディオスの街 ユッコネエグレートキャットカテドラル 胎盤の間

「これは……」

そしてアオが連れて行かれた先、そこには絶句するような光景が広がっていた。

まず風音が最初に向かったのは白の館の玄関だった。そこには風音ドラゴンを模した水晶竜の噴水があり、風音がその横にあるスイッチを押すとゴゴゴゴゴと水が排水されてやがて水の底から階段が現れたのである。

その無駄な仕掛けに呆気にとられているアオの前で風音たちはそのまま下に降りていく。

アオが続いて入っていくと中は意外と明るいようだった。それは不滅の水晶灯をミラー反射させて、構造物の内部すべてに光が届くように設計されているためである。

また内部の壁は鏡面加工の上に水晶の板が張られており、鏡に近いものになっていることにもアオは気が付いた。

それに意味があるのかは謎だが、壁の強度そのものがかなり高そうであるのはアオにも分かった。さらにいくつかの部屋や通路を越え、翼を広げた原寸大の風音ドラゴンの水晶竜像がある大聖堂のような場所へとアオが入っていくと、ここで転生竜の儀式を行うのだと風音が言ってきたのである。

そこは水晶造りのとてつもない構造の部屋だった。全体が水晶と鏡面加工によって造られており、中央天井に設置された不滅の水晶灯から発せられる光が反射によって、まるで光のシャワーのようになって降り注ぎアオを出迎えていた。

また風音ドラゴン像の真下には謎の水晶加工のパイプオルガンが設置されていた。実際に使用できるものなのかどうかはよく分からないが格好は良かった。

「というか、なんですかこれ? まさかこんな神殿がこの街に存在していたなんて私は知らないのですが……」

成竜たちが十体は入ってきても余裕がありそうな部屋の内部を見ながらアオは驚きの声を上げていた。アオの記憶ではこの地域にこんな巨大な建造物があるとは聞いたこともない。

「昨日造った」

対して風音の返答はシンプルなものである。

「造ったって……」

さらに呆けた顔をするアオだが、種明かしをすれば昨晩の内にスキル『見習い解除』を行い、竜と獣統べる天魔之王の能力で 魔力の川(ナーガライン) の 自然魔力(マナ) を使って造り出したのである。

アウディーンの塔やクリスタルレームシティよりもその規模こそ小さいが、壁ひとつひとつへの魔力を大量に込めて、その強度を限界にまで上げてある。

入り口を塞げば、恐らくはこの周辺においてもっとも強固な護りに固められた場所となるのは間違いなかった。

またかつてブルーリフォン要塞で破壊したベビーコアの欠片をコアとしたお掃除ゴーレムたちが動いているために常時メンテナンスも完璧である。

さらに言えば、まだ準備はできていないが農作物を育てるエリアもあり、これに水珠と不滅の水晶灯を合わせることで内部だけで居住環境が完結する人工のバイオスフィアとしても機能するのである。

「ユッコネエにとっては初子だからね。私も気合いを入れたんだよー」

「にゃーーー」

風音の言葉にユッコネエが嬉しそうに鳴いた。

「いや、やり過ぎなのでは……」

アオがその光景を見て恐る恐る口にしたがすべては過ぎた話である。

ともあれ、転生竜の儀式を行うのに十分な環境がその場には用意されていたのであった。