軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第五百九十八話 提案をしよう

風音の言葉に対してクロフェが肯定の鳴き声をあげるとユッコネエが風音の背後に回って「ふーー」と警戒感を露わにし、ユッコネエの頭にしがみついているタツオも『ダメです』とクロフェを睨みつけていた。

「ま、待つのじゃー」

その様子にはさすがのクロフェも少しばかり悲しそうな顔をしながら両手を前に出して待ったをかけた。

「第一志望はそうなのじゃが、ワシも少し考えを改めたのじゃー」

その言葉に風音とユッコネエ、タツオが訝しげな視線を送るとクロフェはコホンと咳払いをしてから口を開いた。

「確かにワシはユッコネエを里に連れて帰りたいとは今でも思っているのじゃー。けれどワシも少しは譲歩せんといかんとも思っているのじゃー。つまりは二号さんでも我慢しようかという譲歩案を持ってきたのじゃー」

「ふぅむ?」

風音は眉をひそめながらクロフェを見る。

風音としても当然ユッコネエをこの幼女の皮を被ったジジイドラゴンに渡す気などないが、目の前のクロフェは見た目こそ幼女だが権力と腕力と財力を兼ね備えた存在でもある。

「うーん。とりあえず話だけなら聞くけど」

風音の返答にクロフェがのじゃーと鳴いた。

「でもそののじゃーっての……さっきまで普通に喋ってたよね」

ドラゴン時には普通のジジィ言葉だったはずである。その風音の指摘にクロフェが「ふうむ」と唸る。

「あれはあの身体だからで、今は今なのじゃー。きゃらづくりという厳しい制約があるのじゃー」

風音は何か聞き慣れた言葉が聞こえた気がしたが、続けての厳しい制約と聞いてはそれ以上口に出すのは躊躇われた。

巨大な肉体を維持するために半魔力体とも言える造りになっているドラゴンという種にとって、契約や制約というものはアストラル体ほどではないが重要な要素ともなるのだ。気安く触れて良いものではなかった。

「はぁ、分かった。そんじゃあ話を聞くから中に入ろっか」

「のじゃー」

止むなしと風音が折れて、クロフェがのじゃーと鳴いた。

それから風音たちはその場で解散となったのである。

オロチたちレイブンソウルは一度冒険者ギルドに、続けて槍使いのカールに会いにいくということで、それにはルイーズと弓花が付き添うことになった。

ルイーズも放任主義だがそれなりに子煩悩でもあり、近くにいる場合には子供にベタベタとする主義らしい。弓花はカールへのお見舞いを兼ねてである。

「はははは、クロフェ様のご歓待はやはり王族であるカザネ様にお任せした方がよろしいかと存じます。私では役不足ではないかと思いますので……」

またエンジョイしているようだった領主はそう言って去っていった。それから温泉にも通わせてくださいとも口にしていた。ここしばらくはストレスでベッドに寝たきりだったらしく、クロフェの薦めで炭酸温泉に入ってリフレッシュしたことでようやく少しは回復したらしい。

(領主ってのは色々大変なんだねえ)

と風音が思ったが、なぜ大変なのかについてまでは理解が及んでいなかった。

また領主は帰りの途中に先ほどの自分の言葉を思い返し、完全に不敬を働いていることに気付いて、またブッ倒れた。言葉の誤用とは恐ろしいものであったのだ。

◎ゴルディオスの街 白の館 客室

「ああ、タイガーショップの羊羹ももうそろそろなくなるなあ」

そう言いながら風音が自ら出した羊羹をパクパクと食べている。王室御用達の羊羹である。きめ細やかに潰された上質の小豆の餡が口の中で溶けるように崩れ、風音の舌を唸らせていた。

「旨かったのじゃー。おかわり」

「ないよ。子供か」

「精神が肉体に引っ張られている面もあるのじゃー。仕方のないことなのじゃー」

風音の言葉にのじゃーのじゃー鳴く幼女がいたが中身はドラゴンとしても高齢の老竜である。そんな大人げないと口にするのもはばかられる存在は今、白の館の客室で風音たちと向かい合っていた。

またその場にいるのは風音とクロフェ、それにユッコネエとタツオにジンライとライノー改め仮面を脱いだライノクスである。

「お変わりないようですねクロフェ様」

「ふむ。お前も変わらんようじゃのー」

ライノクスの言葉にクロフェが軽く返す。どうやらオロチと同様にこちらも知り合いであるようだった。そうした軽い会話も弾んだ後、風音が本題を切り出した。

「それで先ほどの話だけど、結局はユッコネエを連れて行くのはあきらめるってことで良いの?」

その言葉にはクロフェも渋々頷く。

「ひとまずはそうなのじゃー。子供さえできれば、まあワシもここに住み込んで育てれば結局は夫婦円満とも言えるのではないかーと思ったのじゃー」

居座る気満々であった。もっともパーティ『オーリング』もここには寝泊まりをしているし、カルラ王もバトロイ工房の面々も風呂に入りにも来ている。部屋は余っているのでクロフェを住まわせる分にも問題はなかった。

「にゃーにゃにゃー」

そのクロフェの提案にユッコネエが鳴いた。

「ふむ。なんと言っているのじゃー?」

クロフェが少しだけ期待感を膨らませながら風音に尋ねる。

「えっとねー。ユッコネエとしては協力だけならしてもいいって。私の従僕として立派に育てるって言ってる」

「いやいや、ワシの後継にするのじゃー。さすがに神竜皇后の 僕(しもべ) なんぞ無理なのじゃー」

クロフェがぐわーっと威圧をあげて言い、ユッコネエが全身の毛を逆立てて「ふーっ」と鳴いた。どうやら両親の教育方針には大きな隔たりがあるようだった。

「まあ私としても人様の子をどうこうしたいとは思わないけどね」

「にゃー」

風音の言葉にユッコネエが残念そうな顔をする。親子仲良く風音と旅をできればとユッコネエは期待していたようである。

「まあ 金剛竜妃(ユッコネエ) は後々説得するとしてなのじゃー」

また、いつの間にかユッコネエにたいそうな名が与えられていた。

「とりあえずは既成事実だけでも造っておきたいのじゃー」

「軽いなあ」

風音がそう言うが、結局のところ雌雄交尾ではない転生竜の儀式によって産む子供である。術を行使するクロフェとは違い、ユッコネエは自分の竜気を譲渡するだけの、いわば雌の魚が産卵した後のブッカケ役の雄みたいな簡単なお仕事であった。

『ということは、ユッコネエは出て行かないのですね』

「にゃーにゃー」

タツオの問いにはユッコネエが当たり前だと鳴いて頷く。横で黙って聞いているジンライとシップーも胸をなで下ろしているようだった。

「でもクロフェさん。里を出たままで大丈夫なの?」

子作りOK、クロフェ住み込みもとりあえずはOK……とはいえクロフェは仮にも西の竜の里ラグナの長である。長期の外出が大丈夫だとは風音には思えなかったが、それに対してクロフェが軽く答える。

「そろそろ神竜帝のところも落ち着いてきておるし、アオを戻せばたぶん全部やってくれるのじゃー。世継ぎのためだと言えばなんとかしてくれるのじゃー」

どうやらクロフェはアオに頼りきりのようであった。対して風音は渋い顔だ。

「えー、旦那様とのメールがやりとりできなくなるのは困るなあ」

こちらもアオに頼りきりであった。現在も一日置きぐらいにアオを通して風音はナーガとメールでやりとりをしているのである。東の竜の里ゼーガンにはプレイヤーはアオしかいないので、アオがいなくなればリアルタイムでのやりとりはできなくなる。

「メール? 手紙のことなのじゃー?」

クロフェの問いに風音がコクリと頷いた。

それはタツオ育児中である風音にとっては結構な痛手でもあった。

「ふーむ。であればこれをくれてやるのじゃー」

クロフェは少し考え込んでから、懐からポンといる丸いモノを取り出した。それは若干放電していて、鶏のものよりも大きな卵のようであった。それをクロフェは風音の手のひらに置いた。

「なにこれ?」

手渡された風音が首を傾げながら、その卵を見る。

「サンダーバードの卵なのじゃー。こいつならば旨く育てれば最速半日程度で手紙を送れるのじゃー」

「あー、これが」

風音がゲーム知識からその正体を把握する。サンダーバードとはクチバシと蹴爪以外は雷でできている雷の聖霊である。ゼクシアハーツ時代にも 魔物調教師(テイマー) は直接魔物を従える以外に、こうして卵化した魔物を育てることもあった。

「うーん。メールの方がやっぱり便利そうだけどなぁ」

「それがあればプレイヤー同士以外でも連絡が取れるのじゃーぞ? 素晴らしかろうなのじゃー」

その言葉には風音も頷かざるを得ない。プレイヤーの数は限られ、直樹の転移座標も制限が十という制約がある。各地方にいる知り合いと連絡が取れるのであれば、それはそれでありがたいことでもあった。

「んー。じゃあ、それで手を打つ。ユッコネエもそれでいい?」

「にゃー」

尋ねる風音にユッコネエがすり寄って鳴いた。OKらしい。それを見てクロフェがぐぬぬ顔となっていたが、ユッコネエの幸せそうな顔を見て肩を落としながら呟いた。

「むう、他の者ならばいざ知らず、主たる風音ならば致し方なしか……」

その言葉に先ほどからほとんど黙っていたライノクスがビクッとなっていた。

(まさか俺が金翼竜妃クロフェ様の 番(つがい) に乗っていただと……バカな)

ライノクスは己が自国を危機に陥れていたことに、たった今気が付いたのだった。