軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第五百九十二話 二倍以上でいこう

「グロォオオオオンッ!?」

ベヒモスたちが叫ぶ。

暴風の加護の消失によって魔術が、投擲攻撃が、矢がベヒモスたちを襲ったのだ。特に竜気のタップリと込められた竜の牙でできた矢の一撃は、ベヒモスの瞳を貫き、彼らに悲鳴をあげさせた。そして一斉攻撃直後の今、上空にいる風音は黄金の翼を広げた。

(オロチさんの限界もあるし一撃で決める)

風音はそう判断し、それからスキル『イーグルアイ』で下方のベヒモスたちの一方へと目標を定めるとスキル『カルラ炎』を発動させながら一気に降下した。

「久々にぶっ放すよッ」

風音はスキル『ビースティング』を足へと発動させる。それは一度発動すると次の攻撃まで待機する攻撃強化スキル。さらに風音はスキル『ブースト』とドラグホーントンファーからはスペル『ファイアブースト』を仕掛けて高速回転しながら加速し、最後に、

「スキル・キリングレェエエエッグ!!」

もっとも信頼する強力無比なスキルを発動させた。

「グォオオオオオオオオオオオオッ」

同時に戦場にいた狂い鬼が叫び声をあげて自ら召喚解除し、併せて竜喰らいし鬼軍の鎧を通して風音の中から再出現する。そして黄金の翼と白き翼、少女と黒鬼が重なり合う。そのまま風音と狂い鬼は共に高速回転をしながら一筋の流星のごとく突き進んでいく。

それこそは『カザネバズーカ・ゴッドスレイヤー』。

ただでさえ強力なカザネバズーカに狂い鬼のパワーが相乗される驚異の必殺技。地球を砕き、地獄を貫き、さらに一撃はもはや神をも殺すだろうと己に言い聞かせたほどのもの。

「いっけぇええええ!」

「グォォオオオオンッ!!」

その神をも殺す(自称)一撃が、風音と狂い鬼のダブルキックがベヒモスの頭部へと激突する。

「グロッ!?」

ベヒモスが悲鳴をあげる……が、それも一瞬のこと。回転しながらの風音と狂い鬼の蹴りの威力は瞬間的にベヒモスの頭部を粉砕し、その悲鳴をも消し去り、代わって轟音と振動がその場に響き渡った。頭部を貫通したカザネバズーカ・ゴッドスレイヤーは大地へと突き刺さり、巨大なクレーターを生み出していったのだ。

「……すっげええ」

レイブンソウルのロイがその光景に呆気にとられながら声をあげた。なにしろ風音と狂い鬼の同時蹴りである。その威力は通常の二倍以上のものと思われた。それほどの威力だ。故にロイの言葉は白き一団を含めたその場にいる全員の心の声の代弁でもあった。

そしてベヒモスの頭部を貫通させたカザネバズーカ・ゴッドスレイヤーが生み出したクレーターは土塊を周囲に飛び散らせ、横にいたもう一体のベヒモスをも余波で吹き飛ばして、ゴロゴロと転がしていった。

「グロロロォォオオンッ」

メキメキと木々を折り砕きながら、ベヒモスの回転が止まった。それからゆっくりと立ち上がる。一体めは無事倒せたものの、もう一体のベヒモスはまだやる気であった。

「お、『暴風の加護』手に入った」

対して土煙舞うクレーターの中心では、風音がベヒモスを倒したことで己のスキルリストに追加されたスキルを見ていた。

『暴風の加護』とは物理・魔術問わずの中遠距離用自動防御。ここ最近得た能力では恐らくもっとも強力な防御スキルであった。

「ま、今ここでは使えないけどね」

ベヒモスの攻撃は近接戦のみである。そして風音は、スキル『犬の嗅覚』を使って土煙の中でも正確にもう一体のベヒモスの位置を割り出していた。

(怒ってるみたいだけど……こっちの姿が見えないから警戒してるか)

風音はそう判断しながら横に転がっている黒い鬼の巨人を見る。

「狂い鬼は……と、やっぱりダメか」

叡智のサークレットは回転酔いも解除してくれる便利なアイテムなので風音には特に影響はないのだが、本来あそこまでの高速回転に普通は耐えきれるものではない。それは狂い鬼も同様で、今狂い鬼は目をグルグルにしてその場で倒れていた。立ち上がろうにも世界がグラグラし過ぎて立てないのである。

カザネバズーカ・ゴッドスレイヤーの弱点。それは使用後に狂い鬼がしばらく戦闘不能に陥ることだった。

「ええい。ならひとりで行くまでだよ!」

暴風の加護が復活する前にケリをつけたい。そう考えた風音は再度ブーストとファイアブーストで加速しながら、再度のカザネバズーカ・インフェルノダウンを放った。

「ありゃーーー!?」

しかし、風音の思惑は失敗する。ベヒモスに当たる直前に強力な風が舞い、カザネバズーカをベヒモスから逸らされた。

「ああああーーーーーー」

暴風の加護はすでに復活していた。風音は勢いに流されて、あらぬ方向へと飛んでいく。

「チッ、もう復活しおったか」

ジンライがその様子に目を細める。ベヒモスの周囲に再び魔力が満ち、暴風の加護が復活したのがジンライにも分かった。アダマンチウムの槍で再度雷神槍を撃とうとしたがどうやら遅かったようである。ジンライを乗せているシップーも「なー」と鳴いて警戒する。

「もっとも一体のみなら、そこまでの強敵ではなさそうだがな」

そのジンライとシップーの横をライノーが通り過ぎ、グングニルを握って駆け出した。他のメンバーも生き残っているベヒモスへと走り出す。目の前のベヒモスは、続けてのアーマードベヒモスの封印が解ける前に一刻も早く片付けておきたい相手だった。

もっともベヒモスもただ黙ってやられてくれるほど、甘い相手ではない。

「グロロロロロロオオォオオオン」

ここまでにない大きな叫び声をあげて、ベヒモスは迫るライノーたちへと突進してくる。

「風よ、我が前に何者をも通さぬ大気の壁をッ!」

そこにパーティ風の使いが一斉に防壁魔術を放つ。しかし、ベヒモスのここまでにない強力な突進の前に魔術自体が破壊され風使いのメンバーが悲鳴をあげながら弾き飛ばされた。

『にゃーーーーー!』

そこにユッコネエドラゴンとタツヨシくんケイローンたち風音の 僕(しもべ) が立ちふさがり、正面から受け止めた。

『にゃっにゃーーッ』

ユッコネエドラゴンが足を大地に埋め込まれながらも必死に受け止め、その場でガッシリと抑えてベヒモスをその場に止めた。

「チャンスだぞシップー」

「なー」

その状況に勝機を見いだしたジンライがシップーを走らせる。そして横のわき腹を一気に切り裂いた。だが放った槍は弾かれる。

「チッ、浅いか」

もう少し深く切りつける予定であったジンライが眉をひそめる。ブルートゥザを主食としていたためであろうか。形こそ変化はしていないが、普通のベヒモスよりもその皮膚は硬いようだった。

「いいや、ナイスだ」

「なんだと?」

その言葉にジンライが後ろを向いた。そしてジンライの瞳に白い光が見えたのだ。仮面の槍使いライノーが白く輝く竜気を纏っていたのである。そしてライノーの髪が白く染まり、その肉体もわずかばかり盛り上がって、口からは牙が生えてくる。

「竜人化か!」

「え、なんでですか?」

弓花の戸惑いの声にはライノーが笑う。その意味を一番知っているはずの人物が疑問を口にしたからだ。だから、ライノーは裾をまくって身につけている竜結の腕輪を見せた。

「そもそも竜結の腕輪ってのは竜騎士のものだろうが?」

そうライノーは言いながら竜人化した状態でベヒモスへと突撃していく。それはまるで閃光のようだった。

「ははははっ、ユッコネエ抑えておけよ。喰らえぇええいっ!」

「グロロォォオンッ!?」

それはライルの『竜閃』ほどの竜気のほとばしりはないが、遙かに研ぎ澄まされた一撃だった。その光の如き一撃は、ジンライが切りつけたわき腹の傷へと入り込み、ベヒモスの体内を突き抜け、逆側のわき腹へと貫通した。

「すげえッ!?」

ライルが声をあげる。己よりも少ない竜気で、己よりも遙かに強力な一撃を放ったライノーをライルは素直に賞賛する。

「決まったか?」

そして地面へと降りたったライノーは己が突き抜けたベヒモスへと振り向く。すでにライノーの竜人化は解かれていた。ライノーの持つ竜結の腕輪はシンディの腕輪とは違う。愛竜ゴードの竜気しか受け付けず、保有できる竜気の量も少ないために竜人化できるのはたった一撃のみであった。

そして二体目のベヒモスが崩れ落ちるのと同時に、パッキーンと金属音が戦場に木霊した。それは黄金の鎖が切れた音だった。

オロチの限界がついに訪れたのだ。