軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第五百八十八話 発見をしよう

「よーし。そんじゃ、準備も整ったしレッツゴーだよジンライさん!」

「いよぉぉおし、飛ばすぞぉぉお!」

「いや、風音に師匠。今回は一応偵察なんですから静かに行きましょう。静かに」

ノリノリの風音とジンライを弓花がたしなめながらタツヨシくんケイローンが走り出し、サンダーチャリオットトレインが牽かれていく。

そうしてレイブンソウルやシールドバース、風の使いたちが見送る中、白き一団は一足先にトルダ温泉街を去っていったのである。それは白き一団の移動速度を見込んで、先行で偵察を行うためであった。

◎ユイヘサルの森への道

「ふぅ、ここまでくればもう大丈夫だろうな」

街を出てからすばらくするとサンダーチャリオットトレインの中でライノーが立ち上がり、そう呟いた。そして何事かと見ている風音たちの前で、己の被っていた仮面をゆっくりと外したのであった。

「すまない。突然こんな仮面の男が参加となって驚いただろう。実は仮面の槍使いの正体は俺だったんだ」

そう言って仮面の下から現れた素顔の男が少しばかり照れくさそうに笑った。その男の言葉に風音も弓花も、他の白き一団のメンバーも言葉が出ない。風音たちはその顔をよく知っていた。謎の槍使いの正体はハイヴァーン公国の大公であるライノクスであったのだ。もちろん知ってた。

「ここまで正体を隠していて悪かったな。さすがの俺も立場ある身だ。人目のある場所ではこのような仮面を使って己の身分を隠さざるを得なかったわけだ」

風音たちは続くライノクスの言葉にも驚かずにはいられなかった。まさか、ライノクスが自分の正体はバレていないなどと本気で考えているとは風音たちは夢にも思っていなかった。そもそも正体ありきの会話すらしていたはずなのに、当の本人はそこら辺完全にスルーしているようでもあった。

「え、うん……そう」

ライノクスが照れながら言い訳をする前で、顔をひきつらせた風音が当たり障りのない言葉を無難に返した。どうも冗談を言っているようにも見えなかったし、あまりのことに風音はこの天然男をどう扱って良いものか分からなかったのだ。

「ごめんね。ウチの孫、箱入りで」

その風音にルイーズが後ろから恥ずかしそうに謝っていた。

(箱入り……ああ、そう言えばこの人ってハイヴァーンのお偉いさんだったっけ)

風音もようやくライノクスのアンバランスさの意味を悟った。この現大公様は今までの人生をずっとハイソサエティな世界で生きてきた男だ。ジンライと親友であったり、ネギが刺さったり、九十で童帝だったりと色々と癖のある男ではある。しかし槍の使い手としては世界最高峰で大公としてはベテランでも、世間慣れしていない、どうにも擦れてない部分を持った 純粋(ピュア) な心の持ち主でもあったのだ。

「ところでよー。誰なんだ、このおっさん?」

そんな中でライノクスの顔を知らないレームが首を傾げながら質問をした。

「ああ、そういえば言ってなかったっけ」

レームの反応に風音が思い出したように言葉を返す。実は仮面を付けたライノクスが直樹の転移でやってきたとき、風音たちは当然のようにライノクスの正体については気付いていたし何をしてるんだろう……とは思ってもいたのだが『仮面の槍使いライノーだ』と自己紹介してきたので、誰もその正体には触れる気がなくなっていたのである。結果としてレームもライノクスを『仮面の槍使いライノー』だと知ることはできていても、その正体までは聞く機会がなかったのだ。

「えーとね、この人は」

風音が改めてライノクスを紹介しようとすると、それを手をあげてライノクスが制する。

「いや、ここからは俺が話そう」

そう言ってライノクスがレームの前に立った。

なお、ライノクスは白き一団の情報を逐一得ていたのでレームの正体も当然知っていた。一国一城の主としてのライノクスは大変に優秀で、そうしたことについても抜かりなどなかったのである。

「レーム女王。俺はハイヴァーン公国の大公ライノクスというものだ。公ではない場での顔合わせとなるが、この場に置いては我々の立場を考えるのは無粋と言うもの。仮面の槍使いライノーとゴーレム使いレームとして接していただけるとありがたい」

そう言って頭を下げるライノクスに「お、おう。分かったぜ。よろしくな」とレームは右手を挙げて答えた。それはトゥーレ王国女王とハイヴァーン公国大公の初の素顔での対面であった。なお……

「で、本当にあいつ。あの生きる伝説とか言われてるヤツなのか?」

と、レームがこっそりと風音に再確認をしていたのは仕方のないことだろう。世間慣れしていないライノクスの行動がレームの目にも若干奇異に見えたとしても、それはそれで仕方のないことなのだ。原因が世間慣れしていないせいだけなのか否かについてもこの際ノーコメントである。

そんな、遅蒔きなライノクスこと仮面の槍使いライノーの挨拶も終え、サンダーチャリオットトレインの進行は続いていく。

また、ユイヘサルの森近くまで来るとさしものジンライもタツヨシくんケイローンのペースを落とし、慎重に進むようになっていた。併せて風音と直樹も互いの魔法具の遠隔視を使って周囲の警戒と探索をしながら標的を探していく。

そして、サンダーチャリオットトレインが森に入ってから数時間後のことである。何体か襲ってきた魔物を退けながらタツヨシくんケイローンが先へと進んでいくと地震のような振動が前方よりわずかに響き渡ってきたのである。

「いたよっ」「いたぜ姉貴」

それと同時に風音と直樹の声が馬車の中で響いた。ジンライもその言葉を聞きながらタツヨシくんケイローンを止める。それから目を細めつつ、振動のする方角へと視線を向けた。ジンライの卓越した戦闘勘がその先にいる獰猛な何かを感知していた。

「ここから北東にいるみたいだな。姉貴の方はどうだ?」

直樹の言葉に風音が唸る。確かに見えてはいるが、まだ距離はあるようだった。

「うーん、確認はできる……けどちょっと遠いかな。まあここまで離れればバレないとは思うけど……直樹、イヤリングつけて魔剣を飛ばしてもっと観察してくれる? 私はスキル『情報連携』を使ってみんなに視覚を繋いでおくから」

「了解。それじゃ、ちょっと飛ばしてくるぜ」

風音の指示に従って直樹は右の遠見のイヤリングを外すと、腰に下げていた水晶竜の魔剣の柄へとそれをはめ込んだ。それから水晶竜の魔剣をアイテムボックスから出した繰者の魔剣『エクス』の能力で魔剣をベヒモスたちのいる地域へと飛ばしたのである。

「見つからないように高めに飛ばしてね」

「了解だ姉貴」

風音の言葉に直木は頷きながら、宙を飛ぶ水晶竜の魔剣をさらに上昇させる。

なお直樹の装備している遠見のイヤリングは左と右のそれぞれの水晶眼を共鳴させて遠隔視した映像を受け取ることが出来る。それ故に魔剣にはめ込んだ左の遠見のイヤリングの遠隔視の映像を右のイヤリングで受け取ることによって、直樹は叡智のサークレットのものよりも長距離の遠隔視を行うことができるのである。

「なんか怖い気配があるのは分かるけど、ここから結構離れてるの?」

「5キロか6キロくらいかな。動いていないから食事中かも」

弓花の問いに風音はそう答えた。そんな話をしている間にも直樹の魔剣は森の上を通過して目的の場所へと近付いていく。

「よし、見えた。姉貴良いぜ」

「ほい、きた。スキル・情報連携」

直樹の言葉に風音がスキル『情報連携』を発動させてパーティ全体に直樹の視覚を共有させると、その場の全員の視覚に空から俯瞰した光景が入ってきた。

それは直樹の魔剣が目的地の上空で制止して見下ろしている映像だ。そこには全長10メートル以上はある巨大な角が生えたカバのような魔物たちが映し出されたのだ。

「でけえ」

レームが眉をひそめてそう口にする。また相手は事前の情報通りに三体いるようだった。

『確かに大きいかもしれません。でも父上ほどではありません』

「いやまあ、そりゃあそうなんだけどよ」

タツオが対抗心を燃やして言った台詞にレームも同意はするものの、だからといって目に映った魔物がどうなるわけでもなかった。

「うーん。食べてるのはブルートゥザかな。異常種の変化はブルートゥザの因子が活性化したものかもしれないね」

風音の言葉に一同の顔に緊張が走る。三体の内一体だけ一回り大きく、分厚い壁のような皮膚を纏った姿をしていたのだ。

「この皮膚を破壊するのは骨が折れそうだな」

「なるほど。確かに俺でもこいつは短期間で倒すのは難しいな」

ジンライの言葉にライノクスもそう口にした。

ともあれ討伐対象を発見するというミッションは無事完了した。そしてその日はベヒモスたちがこの場を離れてもすぐに追えるように、少し離れた位置で風音たちは野営をすることとなった。トゥーレの監獄都市の時のように風音コテージを埋めて身を隠しながら彼らはじっと監視を続けたのである。

それから二日経ち、メールと共有マップを使いながらオロチが誘導することで後続の三パーティも無事白き一団と合流することとなる。

ベヒモスたちに大きな動きはまだなく、風音たちはその日は早めに休息をとり、翌日に討伐を開始することを決めたのだった。