軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第五百八十六話 鎖男を見よう

「さってーとぉ」

サンダーチャリオットトレインがトルダ温泉町に着いた翌朝。街の近隣の開けた場所では風音たち白き一団とレイブンソウル、シールドバースと風の使いの四つのパーティが並び立っていた。

「一応の顔合わせは昨日したとして、今回は実際の戦闘に向けての作戦会議とその能力の確認ってところだね」

「まだレイブンソウルと白き一団は互いの能力も把握できてはいないしな」

風音の言葉にはオロチが頷いた。

シールドバースと風の使いについては風音もある程度の実力の把握はできている。シールドバースは盾士ハン・モックを中心とした盾を使った戦術メインで、風の使いは風術士同士による協力魔術を中心としたパーティだ。

「ところでカールがいないようだが、どうしたんだ?」

昨日から引っかかっていたことをハン・モックが尋ねる。

「あれはゴルディオスの街で少しはしゃぎ過ぎたようでな。まあ、今回は不参加だ」

そのオロチの言葉には弓花が少しばかり申し訳なさそうな顔をしたが、幸いなことにハン・モックは特には気付いてはいないようだった。

「ま、俺の実力は白き一団以外は知らないだろうし、ここで見せておいた方がいいだろうな。何せ期待のルーキーだからな」

親指をグッと突き立て自己主張をする仮面の槍使いライノー。この男はどうやら本格的に冒険者デビューする気のようである。

それにはジンライとライルが頭の痛そうな顔をして、エミリィが苦笑いをしていた。直樹にしても三年ほどハイヴァーンで生活してきたのだ。生ける伝説として知られる猛者のその落ち着きのなさには色々とイメージが壊れているところだった。

なお、さすがに騎竜まで連れてきたらバレるということで愛竜のゴードは連れてこなかったが、槍はグングニルを見た目だけ偽装させたものである。装備は東の竜の里から適当に持ってきたものだが、そのクォリティはかなり高かった。

「さてと、ジンライ以外で俺の相手になる者はいるかな?」

そう言って周りを見回すライノーに、風音がオロチを指さした。

「ハハハハ、オロチさんなら楽勝だよ」

その風音の言葉にオロチが眉をひそめ、ライノーの目が輝いた。

「風音。さすがにそれは……」

ライノーの実力を知っている弓花の言葉にも風音は「大丈夫だから」と返してオロチを見た。もちろん風音とてオロチリスペクトが過ぎて妄言を吐いている……というわけではない。その理由は彼の腕に巻かれている黄金の鎖にあった。

「オロチさん。どうせ使うつもりなんだったらうちのメンバーにも見せてあげて欲しいんだけど、どうだろ?」

風音の言葉にはオロチは少しだけ考えた後に頷いた。

「これは一日一度の制限だが……そうだな。確かにこの場においてもっとも強者であろう男ならば不足はないが……とはいえ、俺も彼の腕は知っている」

オロチはそう言って、アイテムボックスから雷纏うトゲ鉄球の付いた鎖をふたつ取り出した。それを見ながらハン・モックが呟く。

「チェインマンのふたつ名を持つ男の闘いか。面白そうだな」

「仮面の方、ライノーと言いましたか。あちらの方も並々ならぬ強さを感じます」

ハン・モックとテラスがそう言い合う。どうにも場違いな空気のあるライノーだが、その実力の高さは確かにこの場にいる全員が感じていた。

目の前の男は間違いなく自分よりも強いだろうという確信があった。

**********

(まさか、いきなりやり合わされるとはな)

四パーティのメンバーが観客をしている中、オロチは仮面の槍使いライノーと向かい合っていた。

一対一の勝負。しかも相手は世界最高の槍使い、槍聖王だとまで呼ばれるハイヴァーンのライノクス大公その人だとオロチは理解していた。もちろん本人が名乗ったわけでも証拠があるわけでもないがオロチは害竜退治をメインとしていたこともありハイヴァーン公国でライノクスを見たこともある。たとえ顔を隠していようが、その気配は隠しきれるものではない。

(まあ、いい。それだけの実力者であれば風音の言う通りのデモンストレーションにもなるだろうしな)

オロチはそう思い直し、改めて構えた。

雷神の双鉄球。それがオロチの持つ武器の名である。鎖の長さが装備者の意思によって伸縮し、鉄球を振るえば付与魔術が疑似的な雷雲を発生させる。そしてフィールドそのものを己の 領域(テリトリー) へと変えていくのだ。

それはオロチが身につけている雷竜の 全身甲冑(フルプレートメイル) を活性化させ、ミナカの雷神化とも相性の良い武器であった。

「奥の手を使わずに直接挑む気か。舐められたものだな」

そう挑発するタチの悪いライノーにオロチは「フッ」と笑う。オロチとてプレイヤーのひとりだ。レベル67に到達していて、見た目の変化こそそれほど大きくはないが種族は 巨人(ティタノ) 族という神の血を引く存在に、職業はハイチェインマスターにスペリオル化もしている。

己の実力はこの世界の達人が相手でも決して引けを取るものではないと自負もしていた。

「では舐められたと思ったまま勝ちをとらせていだこう」

そう言いながらオロチが右手をクンッと動かしたかと思うと、右手から繋がっていた鎖の先の鉄球が浮き上がり、

「速いッ!?」

呟いた弓花の言葉と共に、つい今までライノーがいた場所にその鉄球が一瞬で振り下ろされた。

その動きを捉えられた者はこの場においてもごくわずかであっただろう。少なくとも前衛職についていない者にはまったく把握できないほどの速度だった。

「なんだ、ありゃ? 変な黒い雲を出して、雷を発しながら加速してたぞ?」

鷲の目のネックレスの『イーグルアイ』の力で辛うじて目で追えていたレームがそう口にする。タツオが『そうなのですか?』とくわーっと鳴いているので、タツオには見えなかったようである。

「んー、シップーの移動と同じ感じっぽいね。雷属性の力で鉄球の速度をあげている」

風音もスキル『イーグルアイ』によってその動きは大体見えていた。

雷属性は加速系統の魔術が多い。あの大きな鉄球に付与魔術によってそうした機能が備わっているようである。のみならず、危険なのは鉄球そのものだけではなかった。鉄球と繋がっている鎖もその場を高速で動き、ライノーを追っていた。

「ふっ、ほっ」

対するライノーはほとんど分身のような速度で鉄球と鎖を次々とかわしていく。チェインマンのふたつ名に違わぬ鎖捌きをオロチは見せるが、対するライノーには掠りもしていない。

「もう一丁ッ」

さらにはオロチがもう片方の手からも鉄球を放ち、ダブルでの鉄球と鎖の猛攻をかける。

(なんという体捌き。しかしッ)

オロチは驚愕するが、出し惜しみは無用とスキル『コンセントレーション』を発動させる。それはハイチェインマスターとなったオロチですらも未だ届かぬ領域へ届けるための補助スキル。ここよりオロチが見せるのは己の名を関するハイチェインマスターの奥義。

「ぬっ」

そしてライノーの目が細まった。オロチから発せられる気の変化を感じとったのだ。その先の次元の違う何かをライノーははっきりと把握し身構えた。その危機感知能力こそがライノーが常に頂点でいる理由でもあった。

「縛鎖術奥義『オロチ』ッ!」

「分かれただとッ?」

次の瞬間に起こったことを見て叫んだのはジンライだ。ライノーを襲う鉄球が空中分解したのだ。分かれたソレはもはや鉄球ではなかった。鉄球に見えていたものの正体は組み合わさった四つのトゲ付きの輪っかであったのだ。

「なるほど、これを操るか」

さしものライノーも額から冷や汗が垂れる。ふたつの鉄球から分かれた計八つの鋼鉄の輪と、そこから繋がった鎖が縦横無尽にその場の空間を駆け巡り、接触した大地を抉っていく。それはまるでその場に出現した巨大なミキサーのようなものだった。

「やはり化け物か」

しかしそんな言葉を放ったのはオロチの方だった。

オロチの放つ攻撃、それは八つの鉄輪だけではない。繋がれた鎖に接触するだけでも大きなダメージは免れないはずだった。しかもそれは雷神の双鉄球と呼ばれる武器。鉄輪と鎖から発せられる雷雲による放電効果もライノーを襲うはずだった。

「はっはー。やるなお前」

「ぬぅうう」

ライノーの褒め言葉にオロチが唸る。

確かにオロチの攻撃は凄まじく、或いは他の人間であれば一瞬で細切れにもなりかねない攻撃だ。しかしライノーは己の槍を回転させて雷雲を払いながら、驚異的な体捌きで振るわれるすべての攻撃を避けていた。

鉄輪と鎖を避け続けながら、要所要所に槍で打ち払い、軌道を反らした鉄輪同士をぶつけ合わせて、鎖同士をも絡ませようと動いている。それはすべての動きをコントロールしようとしているオロチの思考を乱す。スキル『コンセントレーション』で極限まで高めた集中力が崩されていく。

(クッ、限界が近い)

気を張りつめすぎて、毛細血管が切れて鼻血が零れ落ちる。それはオロチの実力では本来は未だに到達できない技なのだ。そもそも『オロチ』という奥義は長時間可能なものでもない。

(仕方あるまい)

そしてオロチは最後の大技に出る。

「むっ?」

それに気付いたライノーの眉間にしわが寄る。

(本当によく分かるものだ)

一瞬の機微を察知されたオロチが感心してライノーを見る。オロチはプレイヤーがどれほど現地人に比べて優遇された存在なのかを知っている。自分たちがこの地に祝福された存在であることを理解している。しかし、時折いるのだ。そんな差を理不尽なまでの圧倒的な力で覆す化け物のような存在が。

「オロチの 終(つい) 『クサナギ』」

そしてオロチが叫び、最後の技を発動させる。八つの鉄輪すべてによる全方位からの同時攻撃。それがライノーへと高速で向かい、

「ならばッ」

ライノーが声をあげると槍を構え、迫る鉄輪すべてを上回る速度でその包囲を抜けた。

「なっ!?」

そして瞬きする間もなく、オロチの首へとグングニルが突きつけられていた。

「圧倒的か」

「槍術『彗閃』と言う。俺に『技を出させた』んだ。誇って良いぞ」

オロチの言葉にライノーがそう返す。事実としてライノーは、最後以外は槍術を使用していなかった。ただの基本的な動きのみでオロチの攻撃をすべて避けきっていたのだ。それ故にオロチも素直に負けを認められた。オロチはライノーよりも弱い。それがきっぱりと理解できた。もっとも、この勝負の目的はライノーが恐るべき実力を以てオロチを圧倒する……ということではない。だからオロチは少しだけ罪悪感を持ちながら肩をすくめてこう口にした。

「ま、勝負は俺の勝ちだがな」

「ッ!?」

ライノーが目を見開いた。恐らくはそれこそが正真正銘の本気の動きだったのだろう。目にも止まらぬ速度でライノーは背後へと飛び下がり、

「 制約の黄金鎖(ギアス・ゴルディチェーン) 。この鎖に縛れぬ者など存在しない」

「バカなぁああああッ」

しかし、わずか数歩飛び下がったところで黄金の鎖がライノーの全身を拘束し、まるで悪役のような叫び声をライノーがあげた。アーティファクトは神の域の業のもの。数歩といえど避けられたことこそが奇跡のようなものだった。

「これが俺の奥の手。対ベヒモス戦の切り札というところだな。と、おい?」

オロチの目の前で避けた勢いのまま鎖に絡まれてスッ転び、ゴロゴロと大地に転がっていくライノーがいた。余りにも勢いがあったのだろう。その勢いは留まることを知らず

「あ……」

呆気にとられるオロチの前で近くに流れていた川へと勢いよく落ちて下流へと流されていったのである。