作品タイトル不明
第五百八十五話 仮面の男を見よう
竜素材から造られた装備には魔物除けの効果があるのはよく知られていることである。武器でなくとも鱗一枚でも馬車に下げておけば効果はあると言われており、商人たちの間ではランクの高いドラゴンの鱗は高値で取引されていたりもするのだ。
これは魔物がドラゴンの臭いのするものを忌避する習性があるためだが、それはつまり魔物にとっても竜種とは特別な存在であるということでもある。ドラゴンはこの地上の生命の中でもっとも強き存在。そう神より定められた種なのだ。それが魔物の本能にしっかりと刻まれているのである。
しかし、その常識が通じない魔物も少数ではあるが存在する。何かしらの生物的な習性により恐怖を感じず突撃してくるような魔物がいるのだ。そして、そうした魔物の一種であるウィングスネークの群れが森の道を走るサンダーチャリオットトレインに向かって空から近付いてきていた。
「うーむ、命知らずなバカ野郎たちがやってきたね」
サンダーチャリオットトレインの御者席に座っている風音が、迫り来る敵を見ながらそう呟いた。
ウィングスネークはゼクシアハーツのときでも面倒な相手ではあった。カンストレベルのキャラにも逃げずにまとわりつき、魔物除けも効果を持たない。かといって放置するとわずかなダメージと共に毒の状態異常も仕掛けてくるのだ。倒すにしても数が多いので手間が掛かり、かと言って放っておくのにも害がある。まさしく面倒な相手であった。
またサンダーチャリオットトレインは時速百キロは出ているはずだが、ウィングスネークは正面から迫ってきており、風音たちは一本道を爆走中であるため逸れて避けることもできない。もっとも風音も慌てず、後ろに視線を送って声をかける。
「つーわけで頼んだよレーム」
「おう。任せろっ」
仲間たちの待機する客席よりも後方、開いた扉の先にいるゴレムスキャノンの中からレームが言葉を返した。そしてレームのゴレムスキャノンは所定の台の上に立ち「行けるぜッ」と声をあげる。
『はい。それじゃぁポチッと行きますよレーム』
レームのそばにいたタツオが台の横の壁に設置してあるボタンをその爪で押すと、ゴレムスキャノンの乗っている台がガコンガコンとせり上がっていく。
「うーん。なんか大仰な仕掛けだな」
そう言うレームの頭上の天井が左右に開き、そのまま上半身だけをサンダーチャリオットトレインの上部から覗かせる形でゴレムスキャノンを乗せた台は止まった。それからレームが敵に視線を向けようとするが、目の前では二匹の猛獣たちがレームに視線を送っていた。
「おっと、昼寝の邪魔したか?」
「にゃー」「がぉう」
レームの言葉には屋根の上にいるユッコネエとタケチカが「やっちまえ」とでも言うかのように鳴き、レームも「任せろ」とゴレムスキャノンの腕で器用にサムズアップをする。
そして、ゴレムスキャノンの背後にあるバックパックから延びている二門の 雷王砲(レールキヤノン) の砲身が正面のウィングスネークへと向けられた。
「よーし」
鷲の目のネックレスによって視覚を増幅されたレームが 雷王砲(レールキャノン) の狙いを定めると、
「ファイアーー!」
躊躇なく鋼鉄の弾丸を撃ち放った。それはドラゴンイーターマザー戦で使用した鋼鉄弾の残りであった。
「おりゃりゃりゃりゃ!!」
ユッコネエとタケチカが前足で耳を押さえている前で鋼鉄の弾丸がレームの意志に従って左右交互に撃ち放ち続ける。
また風音が用意した設置型追加弾倉によりゴレムスキャノンはその場にいる限りは休みを入れることなく連射できるのだ。それはウィングスネークの群れへと突撃し撃墜していく。その攻撃によってウィングスネークたちは半数ほど駆逐され、残り半分もパニックになってバラバラに散っていく。その光景を見ながら風音が声をあげた。
「レームのターンは終了。続いてティアラ、お爺ちゃん、ルイーズさんにオーボエさんの出番だよッ」
「分かりましたわ」『行くかの』「はいはい、任せなさい」「了解した」
馬車内の魔術師たちが次々と返事をしながら一斉に召喚を開始し、 炎の鷲獅子騎士団(フレイムグリフォンナイツ) が、ライトリングスフィアが、そしてオーボエの呼び出した風の精霊がサンダーチャリオットの上空に出現し散ったウィングスネークに向かって攻撃を仕掛けていく。
ウィングスネークは固まってさえいなければまるで怖くもない低級の魔物である。なので、それから僅か五分と経たずにウィングスネークの群れはその多くが倒され、残りも潰走を開始し始めた。
「なるほどな」
その戦闘を馬車内から見ていたオロチが頷いている。確かに白き一団の戦闘力は一級品であることをここで認識したのだ。またその中でも恐るべきは馬車の後部に今も待機しているゴレムスキャノンだろうとオロチは考えていた。ゴレムスキャノンがあれば、レームという戦いには不慣れそうな少女ですらもあの戦闘力を誇るのだ。
それに見た目や操作、運用方法もほとんど未来兵器的なロボットのソレである。後方からあの弾幕の嵐を食らえば、中級程度の魔物など一瞬で全滅だろうとオロチは推測する。何とも恐ろしい兵器であった。
それからオロチは、御者席に座りながらオロチに対して笑顔を振りまいている風音を見て、愛想笑いをしながら手を振った。それに対して風音は「くぅうう」と、ビールを飲み干した親父のような笑顔をして再び前へと向き直すと再び馬車の操作に戻っていったのである。
「……ハァ」
それを見てからオロチがため息をついた。懐かれてる……のは良いのだが、妙に風音の尊敬を集めているようでオロチは非常に肩身が狭かった。
『いやー、このケイローンもオロチさんがいなければ造れなかったものだからねえ』
などの爆弾発言も風音の口から飛び出していて、白き一団の他のメンバーからの尊敬の目も痛かった。どうやら風音はゼクシアハーツをプレイしていた友人から『ひめ蛇子のダンシングオール攻略イェーイェー(正式名称)』のサイトを紹介され、かなり助けになっていたらしいのである。
実際にマッスルクレイの素材の配分などを覚えていたのはそのオロチのサイトを見て暗記していたためであるので、風音の言葉も間違いではなかったりもする。
「ええと、ごめんなさい。あの子も悪気はないんです」
「ああ、分かってるさ」
申し訳なさそうな顔の弓花の慰めの言葉に、オロチも苦い笑いで頷いた。そう、悪気はないのだ。あの太陽のような愛らしい笑顔は本物なのだ。風音の中での有名人に出会ったことで浮かれているだけなのだ。
そして、タツヨシくんケイローンに牽かれたサンダーチャリオットトレインは先へと進んでいく。目的地であるユイサヘルの森に近い街、ルイーズのホテルのあるトルダ温泉街まではもう一日というところであった。
◎ツヴァーラ王国 トルダ温泉街 冒険者ギルド事務所
「久しぶりだな、カザネ」
「うん。やっぱりハンさんたちだったんだね。まあ、この付近でランクAってことはそうだろうなって思ってたけどさ」
ウィングスネークを倒した翌日。昼を過ぎたくらいにトルダ温泉街に辿り着いた風音たちを待っていたのは、盾士ハン・モックがリーダーのランクAパーティ『シールドバース』と、風術士テラスがリーダーのランクAパーティ『風の使い』であった。いずれもブルートゥザ討伐の際に共に戦ったパーティでありレイブンソウルもベヒモス討伐で共闘しているため、気心も知れているだろうとこの編成となったようである。
「こっちは変わりなくってところだけど、そちらはメンバーが三人ほど増えてるようだな」
ハン・モックが白き一団の集まりを見る。そこには風音に負けず劣らずのチンチクリンなレームと、2Pカラーみたいになったライルと、謎の仮面の槍使いがいた。
「三人? あ、ライルは前からいたよ。イメチェンしたけど」
「いめちぇ……」
イメチェンの一言で軽く流されたことにライルがショックを受けていたがあまり気にしてはいけない。それよりも問題は東の竜の里から帰還したジンライの横に並んでいる仮面の男の方であった。
「よう。俺の名はライノー。仮面の槍使いライノーだ。よろしく頼む」
グッと親指を立てる陽気そうな男がそこにいた。
「ライノー?」
「いや、さすがにありゃあないよね」
弓花と風音がボソボソと言い合う。
それが誰だかは一目瞭然であった。もっとも実際に会って接したことのある人間ならば分かるだろうが、現役の他国のトップがこんなところで油を売っているとは誰も思わないはずなので、大丈夫だろうというのが仮面の男の主張である。
確かにここはハイヴァーンからは遙かに離れた異国の地だ。そこにこの男がいるという状況はまさしくあり得ないはずのものであった。
「いや、俺もジンライが羨ましくなってな。ライルという後継者候補もできたことだし、いっそさっさと引退してジンライと共に旅でも出ようかと思っていたのさ」
「怖いこといわないでくださいよ」
ライノーの言葉にライルが心底イヤそうな顔で返す。
「あまりはしゃぐなよ。ただでさえお前は微妙な立ち位置にいるのだからな」
そういうジンライの言葉にもライノーは「ふふふーん」と鼻歌で笑って無視した。それを見ながら風音はそばにいる直樹を見た。
「直樹、なんで連れて来ちゃったの?」
「あの大公様……なんか躁鬱が激しくてさあ。面倒だから連れてけってアオさんに言われて。まあ、偉い人だし逆らえなくて」
そう言う直樹は風音の横にぴっとりと寄り添っていた。久方ぶりの姉パワーを吸収中なのである。反対側にはティアラがぴったりと風音に寄り添っていた。対抗してチンチクリンパワーを吸収中なのである。
また、どうでも良い話だが、ティアラと直樹のフラグはティアラが直樹を同好の士として認識してからはいつの間にか折れていたようである。まことにどうでも良い話だがいつの間にかエミリィのライバルは弓花だけとなっていた。気がつけばエミリィは勝利していた。敗北が知りたい。
「 帰還の楔(リターナーズ・ステイカー) の転移の刻印も刻まさせられたんだよ。ダンジョン攻略にも時々参加したいって言ってる。 帰還の楔(リターナーズ・ステイカー) のチェックポイントは10個しか設定できないのになぁ」
直樹がトホホとため息をついた。姉貴慰めてーという顔をしていたが、風音はスルーしてハンとテラス、そしてオロチの方へと視線を向けた。どうやらハンとテラスは気付いていないようだが、
「あれは……まさかライ……ス大……さまか?」
オロチが信じられないという顔でライノーを見てボソボソと何かを言っている。どうやらオロチにはさっそくバレたらしかった。
「メッキが剥がれるの早いなー」
風音が棒読みでそう言ってから肩をすくめる。もう、どうとでもなれである。
ともあれ、こうしてベヒモス討伐メンバーはひとまずは揃った。白き一団とレイブンソウルの予定よりも遙かに早い到着には冒険者ギルドも驚愕しつつも歓迎し、その日の夜にはパーティ同士の親睦会が開かれたのであった。